国・数・理・社・英の主要5教科のなかでも、特に数学を苦手にしている子どもは少なくありません。
しかし、現在注目を集めているAIやプログラミング学習には、理数系に強い頭脳が求められています。
今回紹介する特定非営利活動法人「数学・科学技術推進協会 MathMathGood」は、子どもたちに数学や科学の大切さを伝えている団体。
数学を心から愛せる子どもの育成を目指して、自由に学習できる場を提供しています。
今回は「数学・科学技術推進協会 MathMathGood」代表の佐々木 敏雄さんと、息子さんであり副代表の佐々木 陽悠さんからお話を伺いました。
佐々木さん親子ふたりの取り組みから、子どもにとって本当に必要な数学教育が見えてきます。
沖縄の子どもたちの学力向上を目指して創設
ー本日はよろしくお願いします。まずは「数学・科学技術推進協会 MathMathGood」の設立に至った経緯を教えてください。
佐々木 敏雄さん(以下、敏雄):私は元々名古屋大学に勤めていましたが、10年前に転職して、電子顕微鏡の専門家として沖縄科学技術大学院大学に赴任しました。
そこで初めて、沖縄県の子どもたちの学習環境の実態を知ったのです。
本島と比較すると学力は若干低く、教育に携わってきた身としては、何とかしてあげたいなと感じましたね。
学力向上のためには、すべての科目の基本となる数学の勉強が有効です。
数学が得意になればおのずと他教科の成績も上がっていくのではないかと考え、当協会を設立しました。
ー中心的な活動である数学研究会についてお聞かせください。
佐々木 陽悠さん(以下、陽悠):数学研究会は私たちの協会内で最も重要なプロジェクトですね。
具体的には週に1回、宜野湾市民図書館にて授業をおこなっています。
これまで大勢の子どもたちが参加をしてくれていまして、なかには有名大学に合格した子もいました。
また、メンバーの一人は、2019年には算数オリンピックでファイナリスト認定を受けています。
参加者の年齢層は、10歳程度の小学生から66歳の年配者までと幅広いのが特徴です。
ー具体的な授業の内容を教えていただけますか?
陽悠:一般的な受験数学とは少し異なるカリキュラムを提供しています。数学オリンピックや算数オリンピックの問題から抜粋して解いてもらうことが多いですね。
数学の独創性に気づき、自分で数学を作り出す能力を引き出せるような授業をぜひ体験してもらいたいと考えています。
主役の子どもたちが自由に学べる学習プログラム
ー参加者はやはり数学が得意な人が多いのでしょうか?
敏雄:いいえ、決して数学が得意な人ばかりではありません。数学の成績が学年で最下位だった子どももいます。
しかし、数学研究会に参加してからは5年間、熱心に通ってくれて、ついには学年トップを維持できるまでに成長しました。
そのような経験もあり、私自身は学問にあまり「できる・できない」のレッテルをつけるべきではないと考えています。「数学が好き」と思う個人の感情を、成長させられる会でありたいですね。
ー数学が得意な子と苦手な子は、それぞれどのような取り組みをしていますか?
陽悠:理解力に優れた子も一人で先には進まずに、ゆっくり解いている子のサポートをしてくれていますね。
敏雄:私たちは子どもたちが自発的に数学に取り組めるように、サポーターとしてのスタンスを保っています。
当協会の主人公は子どもたちです。もちろんアドバイスやヒントを授けることはありますが、基本的には子どもたちが教え合う形式を取っていますよ。
ー数学研究会以外の活動について教えてください。
陽悠:複数種類のルービックキューブを使ったワークショップを開催しています。
原理さえわかれば誰でもできるのは、数学とルービックキューブの共通点なんですよ。
まずは簡単なものから始めて、数学の楽しさを知ってもらえるような工夫をしていますね。
しかし、それも昨年の新型コロナウイルスの流行からワークショップや数学研究会が開催できなくなりました。
これをきっかけとして、オンライン数学教室を企画し、今年の11月から開催していく予定です。
共有サーバーでみんなが数学を楽しめるようになることで、沖縄県民以外のメンバーの拡大を期待していますね。
ープログラミング教室もあるのですか?
陽悠:今年の6月に開設しました。プログラミングについてはまだ私たちも勉強中ですが、ゆくゆくは数学演習プログラムの実施を計画しています。
年齢・国籍・学歴問わずに参加できる数学研究会
ー「MathMathGood」にはどのような人が向いているのでしょうか。
敏雄:基本的には小・中・高校生におすすめしたいです。
受験勉強の助けだけではなく、数学を心から愛し、生涯学習として数学をずっと学び続けられる人材育成を視野に入れていますので。
そのため、これからたくさんのことを学ぶ小・中・高生にはぜひ入会していただきたいですね。
陽悠:学歴や国籍は、まったく関係ありません。
現在の数学研究会では、複数の国の方にも参加いただいています。
私たちは英語も話せますので、さまざまな問題を提示しつつ、わかりやすい説明を心がけています。
数学は豊かな社会生活をつくり出す学問
ー今後の展望について教えてください。
敏雄:私たち人類は、知能という素晴らしい価値を持っている存在です。
その知能を個人だけではなく、社会全体に活かすべきではないかと考えています。
何十億年もの間、生物は食物連鎖を繰り返しながら進化してきましたが、そのなかでも人間という生物は、非常に急激な進化を遂げてきました。
この進化する力を、これからの進化に活かしていくために頭脳、特に数学を使って新しい豊かな生命をつくっていけたらいいのではないでしょうか。
豊かになった現代でも、戦争や本当に苦しんでいる人々は後を絶ちません。
そういった方々を救い、素晴らしい地球や社会づくりに貢献できる人材の育成を目指したいです。
陽悠:私が5年連続でボランティア・スピリット・アワードを受賞したことで、たくさんのメディアに取り上げていただき、当協会の認知度が高まりました。
これをきっかけに協会の規模を拡大し、将来的にはオンライン数学教室が全国に広まっていくといいですね。
今後は国内外の教育機関などと一緒に、日本や海外の未来を託せるような、優秀な人材を育成できる団体をつくっていきたいです。
ー最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
陽悠:古代ギリシアの数学者・哲学者であったピタゴラスは、「万物の根源は数である」と言いました。
それぐらい、数は大切なものです。一度目を凝らして、周りを見ていただければ、身の回りに数学があることに気づくかもしれません。
子どもたちにも、ぜひ数学への興味を示してもらえたらなと思っています。
敏雄:数学はどこにでも存在していることを、みなさんにも理解していただきたいですね。
私たちが日頃使っているスマートフォンやコンピューターなどは、数学の考えを活かしてつくったものです。
それ以外の、一見まったく関係ないように見えるものにもすべて、数学の知識が集約されています。
それぐらい数学というのは尊い学問です。数学を大切にする気持ちをみなさんに伝えるべく、今後も私たちの活動を継続していきます。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:数学・科学技術推進協会 MathMathGood