田んぼだったところに大きなショッピングセンターが建ったり、山が削られて住宅団地になったりと、住み慣れた町の光景が変わっていく様子を見て、少し複雑な思いを抱いた経験はないでしょうか。
そんなさなかに、「自分たちの育った自然環境を守らなくては」と、森づくりや、環境学習の活動を始めた宮崎県の団体がありました。
今回は、志を同じくする仲間と共に、地道に活動を続けてこられた「NPO法人子どもの森」代表の横山 謙一(よこやま けんいち)さんに、お話を伺いました。
豊かな森でさまざまな体験をさせたい、自然の大切さを学ばせたい、とお考えの親御さんは、ぜひご一読ください。
恵まれた自然環境のバトンを次世代に渡したい
ー本日はよろしくお願いします。まずは「NPO法人子どもの森」が設立された経緯をお聞かせください。
横山 謙一さん(以下、横山):私たちの住む宮崎県東臼杵郡門川町は、県の北部に位置し、海と森の自然に恵まれた町です。
しかし、40年ほど前に、近くの海水浴場が埋め立てられて公園になったり、家の裏山のみかん畑が造成されて住宅街になったりして、風景がどんどん変わっていきました。
自分たちが育ってきた自然環境が次々と壊されていく…。そんな光景を目の当たりにし、次の世代が、私たちと同じような思いをしないようにするにはどうしたらいいのか、考えるようになりました。
自然環境についてみんなで考え、守っていく。そのうえで次の世代が育ち、あとに続いてきてくれればいいと思って、2003年に「NPO法人子どもの森」を設立しました。
四季をまるごと体験できる環境プログラム
ー「NPO法人子どもの森」がおこなっている活動について詳しくお聞かせください。
横山:主な活動は、森づくりと自然体験学習です。
「NPO法人子どもの森」を設立して最初に始めたのは、民有林のスギ林に、広葉樹を植える活動でした。
スギと広葉樹の混交林になることによって、森の生物の多様性が育まれます。また、伐採の時期がずれることにより、土砂の流出を防ぐ効果があるといわれています。
地元の高校の演習林で、台風で土砂崩れが起きた場所にも、高校生と先生と一緒になって、広葉樹を植えていきました。
そのような活動をしているうちに、廃校になった小学校の分校を活用できることになり、手入れをして、2008年に「森の学舎」をオープンさせて、現在の私たちの活動拠点になっています。
次に取り組んだのは、その分校の裏山にあった手入れがされず放置された竹林を広葉樹の林に再生する活動です。
竹林で分校のグランドへの日当たりも悪く災害の危険性もあったので、竹林の持ち主の方に話をして、5年間かけて竹を切り、広葉樹を植えていきました。
これまでに関わった森は、今もときどき下草を刈ったり、小枝や竹を伐採・粉砕したりして、メンテナンスをおこなっています。
次に自然体験学習についてですが、年間をとおして開催している事業としては、「ecoスクール」があります。今年で11年目になりました。
「ecoスクール」は、小学校3年生から6年生の児童と保護者が対象です。
今年度は、5月に開校し麦刈り、7月は川の生き物調査、8月はソーラークッキングと、翌年の2月まで、計8回の活動します。
さきほど紹介した廃校を再利用した「森の学舎」では、「ネイチャークラフト体験」や、「五右衛門風呂体験」ができますし、森林や環境に関する書籍や絵本をそろえた「環境文庫」も常設しています。
「森の学舎」のグランドにはビオトープを作りましたので、ホタルの幼虫やヤゴなどの水生昆虫を探して図鑑で調べる、といった生き物観察ができるようになりました。
体験学習でいちばん人気があるのは、環境問題を考えるプログラムの一環として開催している「春を楽しもう」企画です。
春の野草を摘んできて、名前の由来や、毒の有無、おいしい食べ方などを、専門家を招いて学び、みんなで調理をして頂きます。
春は、セリやコオニタビラコ、スミレ、オオバコなど、食べられる野草はたくさんありますよ。
秋には「ドングリ育て」のプログラムもあります。
ドングリクイズでドングリの知識を学び、竹で作ったポットにドングリを植えて家に持ち帰ります。そして2年後に育った苗木を「森の学舎」に持ってきて、山に植えるのです。
このような、春夏秋冬の季節に合わせた体験学習をおこなっています。
親子で同じ体験をすることが大切
ーそれぞれの活動に参加することで、どのようなことが学べるのでしょうか?
横山:森や川に入って体験することが、子どもたちのなかで「自然を大事にしよう」という気持ちが芽生えるきっかけになるのではないかと考えています。
また、私たちが開催している体験学習は、多くは親子が対象なのですが、親子で同じ体験をする、という経験も大切ではないでしょうか。
家に帰ってから、「今日はこんなことをやった」とか「楽しかった」とか、親子で共通の話をすることは、子どもの心の成長にとって、きっとプラスになるはずです。
一緒に参加された親御さんにとっても、環境問題を学び、考える機会になれば幸いです。
自然を大事にする気持ちが芽生えるきっかけに
ー今後の展望をお聞かせください。
横山:当初、私たちの活動は森づくりが100%だったのですが、今は森の管理には大分手がかからなくなってきました。
それでも、廃校だった「森の学舎」の掃除や修理だけでも大変ですので、自分たちのできる範囲で、自然を守るためにやらなきゃいけないことが新たに見つかれば、取り組んでいきたいと思っています。
今年から始めた「休耕田復活プログラム」は、“やらなきゃいけないこと”の一つです。
昔、田んぼだったけれども今は放置されている土地を、地元の農家の方と一緒になって、田んぼに復活させようと企画しました。
休耕田に背の高い雑草が繁殖してくると、景観が悪くなり、イノシシなどの害獣も出てくるようになります。
里山の美しい自然景観を復元したいと、親子の参加者を募ったところ、30名ほどの参加がありました。
もち米を田植えして、草取りをして、ちょうどこれから稲刈りです。
10月半ばに脱穀して、12月には餅つきを予定しています。
また、新たな環境学習の準備として、今、「森の学舎」近くの森を整備し、沢に下りていく道を作っている最中です。
完成したら、山と沢を一体にした環境学習を計画します。
ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
横山:参加して、体験しないとわからないことがあります。
体験することで、子どもたちの心に自然環境を大事にする気持ちが芽生えたらうれしいと思っています。
その結果、自然に興味が湧いて、将来、自然を守る職業に就いたり、ボランティア活動に参加したりするようになってくれたらいいですね。
実際に体験学習に参加しているときは、活動に夢中で、自然環境のことに考えを巡らすことができないかもしれません。
でも、そのきっかけづくりとして、「子どもの森」であそび学び体験していただければ幸いです。
「子どもの森」のイベントや活動は、ホームページや、図書館などの公共施設に置いてあるチラシをごらんください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:NPO法人子どもの森