近年、若者の社会課題への意識や関心が高まっているといいます。
しかし、ジェンダー平等、環境問題、戦争や紛争、貧困問題など、深刻な課題を知ってはいても、どのように取り組むべきか、自分たちにできることはあるのか、一歩踏み出せずにいる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、学校の授業をきっかけに“捜真SDGs実行会”を立ち上げた「捜真女学校 中学部・高等学部」を取材。家庭科主任の千葉 眞智子先生に、実際におこなっている、SDGs(※)の取り組みについてお話を伺いました。
「私たちには知った責任がある。」これは世界の児童労働の現状を知った生徒から出た言葉です。みなさんも、これを機に世界に目を向け、行動を起こしてみませんか。
(※)SDGs(持続可能な開発目標)とは、「Sustainable Development Goals」の略。2030年までによりよい世界を目指す国際目標。
キリスト教教育による豊かな「ことば」体験で心を育む
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、「捜真女学校 中学部・高等学部」がどのような学校なのか、概要や特色を教えてください。
千葉 眞智子先生(以下、千葉):横浜市神奈川区に校舎を構える「捜真女学校」は、中高一貫のミッションスクールです。自分らしく世界に貢献できる人材の育成を目指し、キリスト教教育に大変力を入れています。
一般的な学校との違いは、やはり礼拝や聖書の授業をおこなっていることでしょうか。チャペルやクラスでおこなう礼拝は毎日あり、聞くだけではなく、生徒自身も礼拝(生徒礼拝)をするんです。
学校生活のなかにおいても、自分のことを話したり、他者の話を聞いたりする機会が非常に多く、毎日シャワーのように聖書の言葉を浴び、それを自分のなかに取り込み、言葉として発信する。
こうした豊かな“ことば”体験を日常的にしているからこそ、本校の生徒たちは言葉に強いと感じますね。
また、本校は、生徒と教員の距離がとても近いんですよ。それは見学で訪れた保護者の方が驚くほど。普段からキリスト教をとおして言葉のやり取りをおこなっているからこそだと思っています。
キリスト教教育としては、自然教室を、毎年全学年2泊3日で実施しています。自然教室といっても、キャンプやハイキングをするのではなく、テレビや携帯がない環境のなかで聖書を学ぶんです。
神様や自分、友だち、生き方などを見つめ直すプログラムになっていて、講演を聴き、友と語らい、自分と向き合うことで、生徒たちを一段と成長させる行事になっています。
ほかにも、海外研修やアメリカ短期研修、年間留学など、実際に世界を知り、異文化を体験するグローバルな教育が充実していて、本校が設立に関わった小学校を訪問するカンボジア研修もあります。
さらに、クラブ活動が充実していることも本校の特色のひとつです。文化部門は17、体育部門は13、全部で30のクラブがあるため、一人ひとり自分にあった活動を見つけることができます。
中高一貫校ということもあり、高校生と中学生が一緒に活動をおこなっているので、ほとんどの生徒が6年間同じクラブに所属していることが多いですね。
中学1年生にとって高校2、3年生はすごい歳の離れた先輩にも感じるけれど、憧れを持ったり刺激を受けたりしやすく、最適なロールモデルになります。
5年先輩に教わり、5年後輩を導く経験は、生徒の成長に必ずつながるでしょう。
「私たちには知った責任がある」SDGsで世界の未来を変えたい
ー捜真女学校で取り組んでいる有志活動のひとつ「捜真SDGs実行会」について、誕生したきっかけをお聞かせください。
千葉:初めは、高校2年生が家庭総合の消費者の授業で、カカオ農場で働く児童労働について学んだことがきっかけです。
そのなかで、いつも手にしている商品は一体どこからきているのかというところから、商品の裏側にあるグローバル経済の実情を知りました。
チョコレートも知らず、一生カカオ農園で働き続ける兄弟の動画を視聴しながら、私たちが普段買っている安いチョコレートは、遠い国で起きている児童労働によって成り立っているのだと、生徒は学んだんですね。
すると生徒から、「知っただけで終わらせてはいけない、私たちには知った責任がある。その責任を果たしたい。」という言葉が出てきたんです。私は本当に感動しました。
そこでまず生徒たちが考えたのは、校内でのフェアートレードのチョコレート販売と、献金活動。その売り上げを、児童労働の撤廃と予防に取り組むACE(エース / 国際協力NGO)に寄付することでした。
ちょうどバレンタインの時期で友人同士チョコを贈り合うケースが流行っていたこともあり、生徒が「もうチョコを配りまくるのはやめませんか?本当に渡したい人に本当に愛のあるチョコレートを」というキャッチコピーを考え、呼びかけました。
そして翌年の高校2年生も、家庭総合の授業「持続可能な社会をめざして」の分野でSDGsについて学び、授業を受けた学年だけでなく、学校全体でSDGsの活動に取り組みたいといった声が上がり、「捜真SDGs実行会」を立ち上げたんですよ。
現在の部員数は、中学1年生から高校2年生までの47名が一緒に活動しています。
大規模なイベントも開催!SDGs実行会のさまざまな取り組み
ーSDGs実行会では、具体的にどのような取り組みをおこなっているのでしょうか?
千葉:SDGs実行会を立ち上げた生徒たちが最初に取り組んだのは、文化祭でのタピオカドリンクの販売でした。
当時、若者に人気だったタピオカドリンクですが、まずは海洋汚染になるプラスチックごみ問題を考えてストローを金属にして、茶葉はフェアトレードのもの、容器は土に還るものを使用し、SDGsタピオカとして販売したんです。
その活動を通じて、学校内でもSDGs実行会が知れ渡りましたが、次は校内だけに留まらず、もっとたくさんの人にSDGsを知ってもらいたいと、湘南学園中学校高等学校の方々と一緒にみなとみらいでイベントを開催しようと企画を立てました。
ところが企画を立てたものの、クイーンズスクエアのイベントスペースを借りると、どうしても多額の費用がかかる。それならばと、生徒たちが今度はクラウドファンディング(※)を見つけてきました。
当時はクラウドファンディングが今ほど世間に浸透していなかったのですが、プロジェクトを立ち上げ、目標額65万円を達成し、無事イベントを開催することができたんです。
イベントでは、ゲームやクイズ、古本市などのブースで啓蒙活動をおこなったり、チョコレートや洗剤など、フェアトレード商品の販売をしたり、さまざまな催しをおこないました。
NHKからも取材が入り、この活動を知った多くの生徒たちがSDGs実行会に参加してくれるようになりましたね。
SDGs実行会では、自分たちでなにをやりたいかを考え、いくつかのチームに分かれてそれぞれの活動をおこなってもらいます。
たとえば、TFT(Table For Two)チームでは、校内カフェテリアのランチを私たちが食べることで、1食につき20円がアフリカの給食の1食分として寄付される取り組みをおこなっています。
学食に入っている業者さんと学校の管理職に掛け合い、普段のランチの量を20円分少なくして、その20円を寄付したいと交渉した結果、了承を得ることができました。月に一度ではありますが、多くの生徒たちがランチを食べに来てくれましたね。
実は、新型コロナウイルス感染症の影響でこの活動は休止していましたが、最近やっとカフェテリアが再開したので復活させたいなと思っています。
あとは、どんどん進化しているチョコプロジェクトのチーム。本校では毎年クリスマスになると自分たちでステンドグラスをつくる伝統があるのですが、そのステンドグラスのデザインが描かれたパッケージのチョコレートを販売しています。
パッケージごとにさまざまなSDGsの取り組み内容が書いてあって、持続可能な開発目標のどれに該当するかがわかるんですよ。
また、障がい者雇用の給料が月に一万円程度だと知り、生徒たちがチョコレートをつくるお店を探してきて、横浜の障害者施設の方にパッケージのシール貼りをお願いしています。
販売している小さいチョコレートは1個400円するのですが、きちんと適正な賃金をお支払いするためには少し割高になってしまうんです。しかし、それを理解して買っていただくことが重要だと考え、活動しています。
ほかにも、カラープロジェクトチームでは、印刷室で出たシュレッダーゴミをリサイクルするため、紙粘土にしてからメモスタンドをつくり、それを文化祭で販売して、その利益でSDGsの17の目標を紹介する絵本をつくっています。
SDGs実行会には、このほかにもいろいろなチームがあって、今までたくさんの活動をおこなってきました。
そこで感じるのは、知った責任を果たしたい、人のためになにかしたい、困っている人を見ると放っておけない、などといった生徒たちの強い想い。キリスト教の教えが根底にあり、心の教育に深くつながっていると本当に感じます。
(※)クラウドファンディングは、インターネット上で、不特定多数の人から、購入・寄付・金融の提供や協力で資金調達する仕組みのこと。
行動を起こすことでしか得られないもの…すべての経験は財産に
ーSDGsの活動を通じて得られる学び、教育的効果などがあれば教えてください。
千葉:たとえば、安いチョコレートの裏には世界で起きている深刻な課題があること。そのことを知って、なにか活動しようと考える。知ることで気づき、気づくことで、生徒が自ら行動するようになります。
本校は、海外研修やクラブ活動はもちろんのこと、貧困によって学校へ通えない子どもを支援する「フィリピン里親献金」、児童虐待防止を目指す「オレンジリボン運動」など、さまざまな活動によって“知る”機会が多いんです。
そのため、そういった体験をとおして得た学びから、“自分ごと”として受け止められるようになっていると思います。
私が授業とクラブ活動を通じて日ごろから伝えているのは、「SDGs含め、これからの住みよい社会をつくるのは大人ではなく、あなたたち世代」だということ。
だから、次世代の未来をつくり出すのは大人ではなく自分たちなんだと、生徒たちは社会の一員として自覚が芽生えていると感じますね。
こうしたSDGsの活動が社会に出たときに活かされたらいいなと思っています。
ー最後に、学校説明会やイベントなどの告知と、入学を検討している読者にメッセージをお願いします。
千葉:毎月一回実施している「捜真クルーズ」は、少人数グループで校内を見学できる40分の説明会です。ご案内は在校生がおこなうため、実際の学校生活についてなど、気になることをなんでも聞くことができ、人気のプログラムになっています。
また、8月19日(土)には、カフェテリアや図書館、大きなパイプオルガンのあるチャペルなど、本校の教育環境を見学できる「夏の学校見学会」が実施されます。
すべての説明会でご予約が必要なため、開催スケジュールは、中学部と高等学部の学校説明会日程をご覧ください。
本校には、授業をはじめ、クラブ活動、留学、ボランティア活動、委員会など、さまざまな学びの場とチャンスがあり、きっとあなたがやりたいと思うものが必ず見つかるはずです。
それらすべての知識や体験、捜真女学校で過ごす6年間は、自分の財産になります。
体験的な学びができる本校で、将来なりたい自分を探し、“最善の社会をつくり出す力”を持って、社会に飛び立ってください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:捜真女学校 中学部・高等学部