私たちが、この地球で暮らし続けていくには、「持続可能な世界」の実現が不可欠です。SDGs(持続可能な開発目標)について、お子さんと一緒に調べたことがある方も少なくないのではないでしょうか?
東京都中野区にある「学校法人 新渡戸文化学園」は、学園全体でSDGsに取り組んでいます。今回は、同学園で中学生のSDGsアクションプロジェクトを担当する高橋 伸明先生にお話を伺いました。
東京都内で学校を探している方、SDGsの取り組みに関心のある方は、ぜひご一読ください!
生徒のアイデアが“日本初”となる製品化!そして最優秀賞受賞へ
―本日はよろしくお願いいたします。はじめに、「新渡戸文化学園」がどのような学校なのか、概要をお聞かせください。
高橋 伸明先生(以下、高橋):「新渡戸文化学園」は、東京都中野区にある学校法人です。
敷地内には、子ども園・小学校・アフタースクール・中学校・高等学校・短大があり、「すべての主語を子どもたちに」を合言葉に、子どもたち主体の学校運営をしています。
本校には、特色的なカリキュラムがあります。それが、毎週水曜日におこなっている「クロスカリキュラム」と呼ばれる教科横断授業です。
各教員に対して生徒が希望するテーマに分かれてラボ活動という探究活動をしています。大学でいうゼミや研究室のようなものといったほうがイメージが伝わりやすいでしょうか。
そのなかで、私が担当しているのがSDGsに特化した「AFF(Action for Future)×SDGsプロジェクト」というラボ活動になります。
ー「AFF×SDGsプロジェクト」について、詳しく教えてください。
高橋:SDGsの目標達成が設定されている2030年というのは、ちょうど生徒たちが社会に出て1年目、2年目、3年目という、よりよい社会を実現していくためのプレイヤーになっていく年です。
そんな未来のために、今できるSDGsの活動の1歩を踏み出そうということで始まった中学生によるラボ活動です。
SDGsの17のゴールのなかでも、とくに大事にしたいのが17番目の「パートナーシップ」ですが、中学生だけでは行動に移したり、社会に対して何かインパクトを起こしたりするのが、難しいこともあります。
そこでまずは、自分たちが好きなもの、関心や興味があることをラボ内で共有し、それに関連したSDGs活動を推進している企業をリストアップ。生徒たち自らがアポイントメントを取り、取材させていただきました。
取材で自分たちがどんな行動を起こせるかをさらに考え、活動していくような形でプロジェクトを進めています。
これまでに、大人でもアポイントメントを取るのが難しいスターバックスコーヒージャパンさんや、セブンイレブンジャパンさんなど、サステナブルやエシカルをキーワードにSDGsを推進する17の企業にご協力いただいています。
そのように1年、2年とプロジェクトを続けていくなかで、自分たちの学びを、社会にインパクトを与えるものにしたいと考える生徒が一定数出てきました。
そして、きちんと管理された森林から生産された林産物を使用した製品の証である「FSC(
Forest Stewardship Council) マーク」を普及するためのアイデアコンテスト「FSCアワード」にも挑戦することにしたんです。
ー「FSCアワード」には、どのようなアイデアで臨んだのでしょうか?
高橋:生徒たちが発表したアイデアは「おりがみ」です。
FSC認証の紙で、おりがみを作り、その裏面に森林の破壊が進むことによって絶滅が危惧される動物についての説明を入れることで多くの方に現状を知っていただきたいというものでした。
はじめての出場となった前回アワードで、このアイデアでファイナリストには選んでいただきましたが、最終的に表彰には届きませんでした…。
しかし、アンバサダーという形ではなくても、自分たちの活動を実現させたいと、生徒たちの声で「NiToBe CoLoRs」という放課後プロジェクトが発足。
生徒の希望で、まずは上野動物園へ行き、絶滅が危惧されている動物について自分の目で確かめることから始めました。
LUSHさんというバスボムが有名な会社へも、生徒が自らアポイントメントを取り、伺わせていただきました。
製品開発の過程で動物実験をおこなわない会社としても知られているLUSHさんですが、期間限定でスマトラ島のオランウータン保護の現状を知ってもらうためのバスボムを作られていたんです。
また、おりがみを作る際に、誤った情報を出してはいけないので、世界最大規模の自然環境保護団体のWWF(世界自然保護基金)ジャパンさんにもご協力いただき、何度もオンラインミーティングを重ねて、動物に関する説明文を考えました。
そうやって、想いをただ発表するだけではなく、FSC認証のおりがみの商品開発に向けて、さまざまな企業を取材させていただき、プレゼンテーションやワークショップなどもおこなったんです。
そして、その努力が2年がかりでしたが実を結び、日本初のFSC認証おりがみとして製品化されることになりました。
日本製のFSC認証紙でつくられたおりがみは、日本初のものになります。
また、大変嬉しいことに、この取り組みが評価され、124組が参加した今年4月の「FSCアワード」において、中学生部門の最優秀賞を受賞しました。
最優秀賞をいただいたことは、生徒たちの自信になっていますし、今後さらにいろいろな企業の方と活動を進めていきたいと思っています。
活動を通じて目覚ましい変化が見られた生徒たち
ーこのプロジェクトを通じて、生徒の皆さんに変化はありましたか?
高橋:生徒の行動力には、目覚ましい変化があったと感じています。
おりがみは、株式会社美創さんという商業印刷やパッケージなどをおこなう会社に制作を協力していただき、実現したのですが、実はこれも、生徒が「おりがみの製作に協力してほしい」と、想いを添えたメールを送信していたことがきっかけでした。
また、4月に代々木公園で開催された「アースデイ東京2023」でのワークショップでも、私が指示をしなくても生徒たちが、来場者の方へ声を掛け、自発的にFSCの現状や、絶滅危惧種の現状を伝えていました。
大人の方にきちんと説明ができるのはもちろん、小さなお子さん向けには言葉遣いも、目線も変えて説明をしていたんです。
行動力だけではなく、まさに社会に生きていく力、さらにこれからの社会を変えていく力など、持続可能な社会を考えていくうえで基礎となる力、知識、またそれらを伝える力も身についたと感じています。
―取材先の企業の方からは、どのようななど感想があるのでしょうか?
高橋:企業の管理職の方は、50代以上の男性が多く、10代の若い生徒たちの意見は新鮮だというお声をいただきますね。
最近伺ったセブンイレブンジャパンさんでも、こんな商品・システムがあったらいいなというのは、まさにコンビニを頻繁に利用している中高生の意見がマーケティングとしても貴重だとおっしゃっていただきました。
また、環境への配慮、SDGs的視点も企業として大事にしたいということで、顧客ニーズと環境への配慮のバランスが非常に重要になってくるようです。
私たちはユーザーとしてのニーズだけではなく、環境にも配慮した取り組みをしたいということで、アポイントメントを取らせていただきました。これは企業側にとっても、インパクトがあったようでした。
開発秘話を聞くことができる!ワークショップを開催予定
ー今後ワークショップなどのご予定があれば教えてください。
高橋:年間を通じて、学校説明会での発表や、企業でのワークショップをおこなっていきたいと考えています。
実際に開発したおりがみをお見せしながら、生徒たちの口から、FSC認証がどういったものなのか、どんな思いでこの2年間活動をしてきたのか、なんのために商品開発をしてきたかをお伝えできたらいいですね。
―最後に読者の方に向けてのメッセージをお願いいたします。
高橋:活動を通して、私自身生徒たちの力に大変驚かされる部分が多く、日ごろのワークショップや発表の姿、また、お互いを鼓舞する姿には目覚ましいものがあると感じています。
また、子どもというのは、本当に大きな可能性を秘めているのだと改めて感じました。
新渡戸文化学園は、その子どもの可能性を信じ、生徒たちには、”将来、自分が社会を少しでもよくできるかもしれない”という期待感や希望をもって大人になって欲しいと願っています。
私たちの取り組みに少しでもご興味・関心をもってくださった方がいらっしゃいましたら、ぜひお問い合わせください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:新渡戸文化学園