「高校で何を学んだらいいのかわからない」「授業が楽しくない」「学校に行く意味がわからない」などと思っている学生の方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、eスポーツ部を立ち上げ新しい教育を創った学校法人 関西学園「 関西高等学校」を取材。前副校長で法人本部 広報室長の早川 治さんに、eスポーツ部発足のきっかけや学校側の想いについてお話を伺いました。
岡山県で高校を探している方、ゲームが好きな方、自分が興味あることを探求して充実した高校生活を送りたい方は、ぜひご一読ください。
自分で面白いと思って取り組んだことは結果を生む
ー本日はよろしくお願いします。はじめに「関西高等学校 eスポーツ部」についてお聞かせください。
早川 治さん(以下、早川): eスポーツ部発足のきっかけは、5年前におこなわれた「第1回 全国高校生eスポーツ大会」です。
先着100校にPCが貸与されるとのことだったので、当時の高校1年生に「全国高校生eスポーツ大会があるんだけど出たい?」と聞いたところ、「出たい!」と言ったので、「じゃあ、同好会を作ろう」となったのが始まりです。
最初はメンバーが10名ほど、コアで参加しているのは5名ほどでしたが、2年目に希望者が増えて正式な部活動として発足し、現在は部員が50名になりました。
学校としては、大会出場希望の生徒がいる場合に、エントリーフィーを部活動の費用として出すなどのサポートをしています。
好きなことをやるという目的でおこなっているので、全員同じゲームではなく、それぞれが好きなゲームをプレイしています。
「参加したい大会があれば学校でサポートするから、どんどん自分で出よう」と伝えて、生徒のやりたいものをやらせるというのが方針です。
部員のなかには、2021年にPUBGのMOBILE部門で優勝した生徒もいます。
私は、学校というのは、生徒の将来に渡っての基礎を作るものだと思っているんです。
そのためには、生徒が好きなことをやればいいと思っています。ゲームがしたいならゲームをさせたらいい。
ただ、だらだらと自分だけでやるのではなく、みんなで協力するゲームに取り組むことで、運動部の部活のように集団スポーツとして成り立つのではないかと思ったわけです。
「ゲームをしてたら成績が下がる」「ゲームすることになんの意味もない」などと大人は言いがちです。
しかし、ゲームに本気で取り組むことによって、自分の能力が発揮できるという自己肯定感が生まれる生徒を見てきていますし、それによってその先の人生を考えている生徒も何人もいます。
この経験から、学校でゲームに取り組む事によって、自己肯定感が上がるチャンスができるのではないかと思っています。
私は、授業も同じように考えており、模擬試験で偏差値を上げるためだけの授業は違うと思っています。教えている教科に興味をもっていれば、生徒は勝手に勉強するんですよね。
そのことに気づいてから、授業のやり方を180度変えました。
教科書の説明から入るのではなく、「今日はこのテーマについて考えよう」と、生徒に勉強を楽しみながら考えてもらうように授業をしていたら、県下で最高平均点が出たんです。予期せぬ驚きでした。
その経験から、生徒が自分で面白いと思って取り組んだことは結果を生むということに気づいたんです。
また、10年以上前になりますが、私が担任したクラスで、40人中9割の36人が国公立大学に現役合格した年がありました。
第一志望に受からなかった生徒には申し訳ないと思っていたのですが、卒業後に生徒が「先生の指導がありがたかった。
最終的に国立大学には合格しなかったが、とても充実した高校生活だった。」と手紙をくれたんです。
そのときに、結果がすべてじゃない、結果ではなく過程が大事だということを感じました。
当時は、勉強で生徒の自主性を伸ばしたほうがいいと思っていましたが、生徒のその後の長い人生においては、自分のやりたいことを自分のやり方で達成したほうが、今後の人生には有効なのではと思っています。
生徒や先生が興味あるものを授業で取り入れる
ードローン、VR、3Dプリンタ、ロボット、ロケット設計などの授業への取り組みをご紹介ください。
早川:以前は、普通科、商業科、電気科がありましたが、ちょうどeスポーツ部が発足した5年前に、商業科から「ITビジネス科」に、令和5年度から電気科を「EIエンジニア科」に変更しました。
商業科のころから、授業でホームページやロゴのデザインなどをおこなっていたので、ITビジネス科になってからは、それを前面に出して、さらに生徒が面白いと思うことをやろうと、「Web探求」という授業を先生方とともに作りました。
そのなかで、コンピューターや最先端の道具を使ったこともやろうということで、ドローン操縦の勉強などもしています。ITビジネス科ですから、ドローンを使ったビジネスを先生と一緒に考えています。
ドローンを授業に取り入れたのは、単純に「ドローンを飛ばしたら面白いのでは?」と思ったのが始まりで、教室で飛ばしてみせて「これ授業でやったら面白いと思わない?」と生徒に聞いたら、「絶対やりたいです」と言ってくれて。
ITビジネス科の先生に話したら「面白いですね!やりましょう!」と言ってくれたので、授業に取り入れました。
当時、ドローンが安く出始めたころで、まだドローンが何かもわからない状態だったので、みんな興味をもってくれましたね。
VRは、学校のホームページでVR動画などさまざまな面白い動画コンテンツを作成しているのですが、その中でアバターで表現するということを始めたのがきっかけです。
たまたまITビジネス科の生徒で、インスタライブをやっていた生徒がいたんです。
そのインスタライブを見せてもらうと、顔がわからないように顔の下半分を写していたんです。自分でちゃんと自分の肖像権を保護していて。
その辺りをちゃんと考える生徒がいるんだったら、アバターを作って、そのアバターでビデオを作ったら、プライバシーの保護もできて、生徒が楽しいと思うことを自由に表現できると考えて始めました。
EIエンジニア科では、電気科の頃からCADソフトを使用して3Dのモデルを作って、3Dプリンターでプラスティック部品をつくるということなどをおこなっています。
また、プログラミングの授業では、単にプログラミングの勉強だけではなくて、ロボットを動かすプログラムという目的をもってプログラミングを教えています。
普通科では、ロケットの設計もおこなっていますね。
ITビジネス科はコンピューターを使ってデザインしたり、ドローンを飛ばしたり、ぷよぷよというゲームをコーディングしたり。
プログラムなどの難しいことは置いて、面白くて実用に結び付くことをおこなっています。先生方の発案なので楽しいですよ。
EIエンジニア科はロボットを動かすことによってプログラミングを勉強したり、作ったモデルを実際にプリンターで形にしたりなど、ものを作るということに重きをおいています。
普通科では、今ないものを作る能力を育成する必要があると思っているんです。それは何かと考えたときに、宇宙だろうと思いまして。
これから面白いのは宇宙だと思うので、宇宙の学びを始めようということで、まずはロケットを作って飛ばすことから始めたらどうかなと授業に取り入れました。
生徒たちは、それぞれの科で楽しんでくれていますね。
自分の未来は自分のもの、やりたいことをやろう
ー今後の展開について教えてください。
早川:今まではどちらかというと、私が提案して新しいことを取り入れている事が多かったのですが、今は生徒や先生のなかから、やってみたいことが生まれてきています。
私は現在、学校法人に所属していますので、経営側として、生徒や先生たちが打ち込めるように環境整備などのバックアップをしていきたいです。たとえば、eスポーツルームを令和5年度に増設するのもその一環です。
また、私は、SDGs高校というSDGsの研究のオンラインセミナーを主催しており、全国の先生方、特に都会の先生方とつながっているので、地方ではなかなか手に入りづらい進んだ考え方の情報が手に入りやすいんですね。
これからの社会は、未来を見据えてというより、未来はわからないことが多いので、興味があることをどんどんやって、自分自身をアップグレードしていく必要があると思います。
eスポーツ、ドローン、VR、ロケット、ロボットなどというのは単なる素材です。素材はいろいろなところにあるので、生徒には視野を広くもってもらいたいですね。
それぞれ何か打ち込もうと思ったら基礎知識がいるので、そこはやはり勉強になりますが、興味が湧いて、目的ができれば、勉強は勝手にするようになりますよ。
ー最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
早川:
私たちは今、5年後がどうなるか分からない時代に生きています。
5年後どうなるかわからないんだったら、5年後にこうなってほしい、自分の好きなことで5年後の新しい世界を作っていきたいという生徒が育つといいなと思っています。
そのためには、自分が今興味がある楽しいと思うことをきちんと理解して、それを考えていく必要がありますね。
保護者や先生からは、「そんなものをやってどうするの?」と言われることもあると思うけど、そこを説得するぐらい好きなものをみんなには見つけてほしいです。
それぞれに必要な事は何かを考えたら、自分たちで必要な勉強をするようになると思うので、そこを大切にしていくべきかなと。
自分の未来は自分のものですから。
そのために、興味が湧いたものをやってみたらいいし、そのための環境を提供するのが学校であるべきだと思います。本校から始めて同じように考える学校が増えたらいいなと思っています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:学校法人関西学園 関西高等学校