子どもたちを自然のなかで遊ばせるといっても、「うちの子楽しめるかな…」と心配になる方も多いのではないでしょうか。
2018年7月創業の「株式会社OSOTO」では、檜原村を活動拠点とする親子向けの自然体験をメインとした「ちきゅうのがっこうプロジェクト」を実施しています。
今回は、代表の渡部 由佳さん、学びの伴走者の市川 力さんにお話を伺いました。
自然体験を通して、子どもの成長を育むことに興味のある方はぜひご覧ください。
親子向け自然体験“ちきゅうのがっこう”
ー本日はよろしくお願いいたします、まず「ちきゅうのがっこう」の活動内容について教えてください。
渡部:「ちきゅうのがっこう」では、親子向けの自然体験を提供しています。
毎月、家族で檜原村のフィールドに通い、村の自然と四季に寄り添いながら活動する中で、ここをもうひとつの故郷にしてもらいたいと思っています。
また、同じメンバーと定期的に活動を共にするため、スタッフだけでなく、子ども同士や保護者同志も、とても良い関係性が構築されています。
どこに住んでいる。どんな学校に通っている。などに捉われずに、自然の中で、学び遊べる。そんな「ふたつめの学校」を目指しているんです。
ビジター向けの「ゆるさんかプラン」は、毎月参加が難しい方や、ちょっとお試しで参加してみたい。という方に選んでいただいています。
ただし、今後、「よりそいプラン」の家族が増えると、「ゆるさんかプラン」で参加できる枠が少なくなる可能性があります。
カリキュラムは四季を意識して組み立てています。
春から夏に実施される「前期」では、森林内に道をつくるプロジェクトをおこなうと共に、冷たい水の中に入り渓流の環境整備をおこないました。
ちきゅうのがっこうでは、必ず林業や自然環境整備のプロと一緒に作業を進めて行きます。
作られる道自体が、川や森の土中環境に良い作用をもたらすよう、たくさんの技術を伝授してもらい、親子みんなで泥まみれになりながら活動をしています。
また、家族が日常に戻っても四季の中にいられるよう、ホームワークとして、「家族こよみ」づくりもおこなっています。
「家族こよみ」は、日本に古くから伝わる二十四節気をベースに作成してもらいます。
1年間をゆるやかに区切り、その節目節目の四季の変化に目を配り、思い出を記録していく。そんな時間を、各家族が楽しんでいます。
参加者全員でつくる自由な空間
ー子どもたちと接するうえで大切にしていることを教えてください。
市川:初めから自己紹介できなきゃダメだとか、みんなと同じペースで動かなくちゃダメだとか、周りと違ったり、遅れたりしてしまうことに焦りを感じていらっしゃる保護者の方は多いと思います。
そこで毎回の学びはFeel度ウォークから始めます。Feel度ウォークとは、なんとなく気になるものを追い求めながらあてもなくあちこち寄り道して散策することです。
そうすると自ずと、Feel度=感度が上がるのでこう呼んでいます。
変な形の石ころとか、生き物に見える木とか、ちょっと気になったモノをなんでも追い求めながら、自分のペースで自由に歩きます。
だから、あえて当日のスケジュールは大雑把にしか組みません。だいたいお昼までにたどり着いてね!と、ゆるやかにおこなっています。
ガムテープに名前を書いて胸元に貼ってもらっているので、お互いの名前を知ることはできますが。
しかし、こうしたゆるやかな関わりを持つ余裕があれば、名前なんて名乗り合わなくても、気がついたら一緒に遊び始めているものです。
そんな温かく、優しく、無邪気な関わりが自ずと生まれるのです。こうした雰囲気が、参加されている保護者のみなさんの気持ちをゆるやかにするのです。
3歳の幼児もいれば、小学6年生もいる。異年齢の子どもたちが、自然な流れで一緒に作業したり、遊んだりします。
参加前にはわが子を心配していた保護者から不安の表情が消え、よい意味で子どもそっちのけで、自分が面白いと思うことに夢中になっていきます。
こうした場で、1ヶ月に一度の関わりを積み重ねていくうちに、子どもも大人も気がつけば成長しているんですよ。
それはまるで植物が四季を通して少しずつ花を咲かせ、実を実らせていくようなプロセスと同じです。
焦らずゆっくりと見守ることがとても大切なのだと、頭ではなく、実感として学ぶことができるのです。
先日、2泊3日のキャンプをおこない、最終日に素敵な木造校舎の廃校をリノベーションした場所で、子どもも大人も一緒になって「My図鑑づくり」をしました。
毎回、発見の記録は残していますが、今回は、3時間ほどじっくり時間をとって、檜原村を歩いたり、遊んだり、仕事をしたりしたときに発見したことをスケッチブックに描いて、自分の発見図鑑を作り上げました。
具体的な指示をしていないのに、いつまでたっても図鑑を描く手が止まりません。3時間集中!って凄いことだと思うんです。
それは子どもだけではなく保護者も同じ。他者の目など全く気にせず、自分の発見を自分のスタイルで自信を持って表現する姿に感動しました。
「ちきゅうのがっこう」では、「ゼミ生」という保護者以外の大人がたくさん参加しています。
ゼミ生は、学校の先生もいれば、この活動に興味を持って、実践を通じて学びたいと考えている方もいます。
子どもの数と同じくらいのさまざまな大人がいることで、保護者は自分の子どもを誰か別の大人に委ねて、自分の関心事に没入できます。
また、子どもも親以外の、対等な関係の多様な大人と交わることで、無理なく素の自分を出すことができるのも特徴です。
こうしてゼミ生も保護者も、子どもを見守る大人としてではなく、参加者全員がともに学ぶ仲間となって、自由に関わりあう場をつくりだしています。
子どもたちは、全力で楽しんでいる大人の姿から新しい視点を得るし、大人も、子どもと一緒に企むことで、フタをしていた好奇心が開花するのだと思います。
渡部:確かに、子どもの様子だけではなく、山の中の風の流れだったり、川が綺麗になっていく様子だったり。
普段なら目に留めなかったことに対しても捉え方が変わり、感度が上がっていくのだと思います。
「ちきゅうのがっこう」はこれまで4回実施してきましたが、活動の中で新しい視点や価値観が生まれたということを、実感値として伝えてくださる方が多いんです。
自然の中だからこそ、自然に振る舞える状態に変化していけるというのは、一番大きな魅力なのではないでしょうか。
ー今後、開催予定のイベントなどの告知があれば教えてください。
渡部:9月から檜原村の秋冬を楽しむ後期(11月~3月)参加者の募集を開始します。後期では、未知なるベンチをつくる「ベンチづくりプロジェクト」がスタートします。
前期では、森や川を整備する活動を通して、自然と一体化するプログラムが中心でした。
後期では、自分の手で0からモノを作り出し、森に設置するという創造的なプログラムに変化していきます。
もちろんFeel度ウォークや森林整備も引き続きおこなっていく予定です。
ご興味のある方は、ぜひ、公式ホームページをチェックしてみてください。
緩やかな成長のヒントを探して
ー最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
渡部:「ちきゅうのがっこう」には、アウトドア初心者の家族や未就学の兄弟姉妹連れの方など、さまざまな方が参加してくれています。
ご家族でキャンプ宿泊など、慣れてない方だとハードルが高いと思っている方も多いと思いますが、テントもこちらで用意していますし、経験のあるスタッフがサポートします。
不安を感じていたとしても、家族で飛び込めるような環境が整っていますので、ぜひ一度足を運んでいただきたいですね。
根本的に虫が苦手で…という方でも、「親子でチャレンジをしたい」という想いのある方には、フィットするんじゃないかなと思います。
まずは、大らかな自然の中に思い切って飛び込んでみることが大切です。
市川:子育てとか教育とかを頭でっかちに考えすぎていたり、子どもの特性に悩んでいたりしている人ほどぜひ飛び込んで来てほしいという風に思っています。
最初は、え?これで大丈夫?と感じる部分もあるかもしれないですが、やがて、ゆるやかに自然とともに成長していけばいいと気がつくでしょう。
子どもとともに保護者のみなさんも、自然に放たれて自分の時間を見つめ直すことができる。そんな学び場づくりをこれからも続けていきます。
大人と子どもが一緒に成長できる場ですから、安心して来てください。
ー本日は、貴重なお話をありがとうございました。
取材協力:株式会社OSOTO