山梨県には、“建物なき寺院”というユニークな姿をもち、社会課題の解決を目的に活動している僧侶の団体があります。
それが今回インタビューをおこなった「Social Temple(ソーシャルテンプル)」です。
「Social Temple」では“共働”をテーマとし、「ゆるやかで主体的参加ができるやさしい地域社会」を目指しています。
具体的にどのような活動をしているのか、団体の代表理事・近藤 玄純さんと、理事/生涯サポート事業部長・山田 哲岳さんに伺いました。
山梨県にお住まいで、活動の内容に興味のある方はぜひご覧ください。
宗派・職業の垣根をこえた非営利の団体
ー本日はよろしくお願いします。まずは「Social Temple」がどのような団体なのか、概要を教えてください。
近藤 玄純さん(以下、近藤):私たちは、宗派の異なる複数のお坊さんたちと、さまざまな職業・職種のプロの方たちとで構成している、非営利型一般社団法人です。
「宗派をこえて、お坊さんたちで交流しよう」と声をかけたことがきっかけとなり、団体を立ち上げることとなりました。
というのも、じつは今、お寺は存続の岐路に立たされています。
人口減少がおもな要因ですが、ライフスタイルの変化による墓じまいが進んでいることもありますね。
お寺というのは檀家さんに支えられているものですから、人が減るということは、お寺を存続させるための基盤がどんどん小さくなっているということです。
そんな社会においてお寺やお坊さんはどのようにあるべきかと、意見交換をする場所をつくるために活動をスタートしました。
「全日本仏教会」という大きな組織はすでにありますが、そうではなく、もっと現場レベルの交流をしようということですね。
それで平成28年に誕生したのが「超宗派佛教徒 坊主道」という、山梨県内のお坊さんのみで構成されたグループです。
このグループがもととなり、私たちの活動を包括する団体として平成30年に「Social Temple」ができました。
その「Social Temple」で取り組んでいるプロジェクトには、いわばお寺版のこども食堂である「寺GO飯(てらごはん)」や、インターネットサイトの「お寺のじかん」などがあります。
現在、お坊さんとそれ以外の職業の方を含めて合計25名ほどが正会員として在籍し、日々活動しているところです。
食事の楽しさと命への感謝を伝える「寺GO飯」
ー「寺GO飯」の活動について、詳しく教えてください。
山田 哲岳さん(以下、山田):「寺GO飯」は“子どもも大人もお寺でご飯を食べよう”をコンセプトとした活動です。
昔はどこの家にもおじいちゃん・おばあちゃんがいて、父と母がいて、子どももいて、大勢でご飯を食べるというのが普通でした。
また法事などの行事があると、親戚が本家に集まって大勢で食事をすることもありました。
ですが、核家族化が進んだ現代では、夫婦共働きの家庭が増えています。
そうなると子どもは親がつくった食事を電子レンジでチンしてひとりで食べたり、お父さんの帰りが遅いからと、母親と子どものふたりで食べたりすることも多くなります。
このように、今と昔とでは食事の場面が変わっていると思うんです。
大人数でわいわい言いながらご飯を食べる楽しみを、今の子どもたちは知らないんですね。
実際に「寺GO飯」を開催してお寺でご飯を食べてもらうと、子どもが食事そのものを楽しんでくれたり、普段は嫌がって食べないものを食べてみてくれたりします。
また、私たちお坊さんは普段から食事の作法に気をつけているので、参加してくれる子どもたちには「いただきます」「ごちそうさまでした」をきちんと言うように教えています。
生き物の命をいただいているのですから、それに対する感謝の気持ちをもってほしいからです。
子どもたちには大勢で食べる楽しさと命に感謝する大切さを伝え、保護者の方にはストレス解消の場として利用していただいていますね。
私たちは「寺GO飯」をお寺版のこども食堂とうたっていますが、世間一般的には、こども食堂には金銭的に困窮している人が行くものというイメージがあるでしょう。
「あそこに行く子は貧しい家の子ども」のように思われてしまうと、行きづらくなってしまいますよね。
ですが私たちの「寺GO飯」は、お金に困っている人のためだとか、お父さんもお母さんもご飯をつくってくれない子どものためだとか、そういった事情とはまったく関係ありません。
また「Social Temple」には料理人もいますから、料理の質についてもご安心いただけます。
「寺GO飯」には対象年齢を設けておらず、幼児から小学生の子どもからおじいちゃん・おばあちゃんまで、どなたでも参加可能です。
それぞれの自発的な行動により達成される社会
ー今後、開催予定のイベントなどはありますか?
山田:一応、9月に「寺GO飯」を開催する予定ですが、今はまだ本当に開催するかどうかを検討している段階です。
やはり大人数で集まって食事をするイベントということもあって、昨今の状況を考慮すると、なかなか安易に開催できません…。
これから「寺GO飯」の運営陣たちとの話しあいを重ねて、従来どおりのかたちで開催するのか、あるいはなんらかの対策を講じて開催するのか、はたまた今回は中止とするのかを検討します。
あくまで状況を見ながらの判断となりますが、今のところは9月に開催できる見通しです。
「寺GO飯」を含めたイベント等の開催については、私たちが運営するインターネットサイト「お寺のじかん」での告知をご覧いただければと思います。
ー「Social Temple」のホームページでは、寄付の呼びかけもしているようですね。
近藤:はい。私たちの活動は、志のある人たちができることを考え、集まって持ち寄ることにより特定の誰かに依存せず、誰もが気軽に参加できることを目指しています。
そのために一緒に働いてくださる方を歓迎しておりますし、「参加はできないけれど、なんらかのかたちで力になりたい」と考えてくださる方からのサポートも、ありがたく頂戴しております。
そしてこのサポートに通じる話なのですが、私たちは“共働”という言葉を大切にしています。“協働”ではなく、“共働”です。
この言葉には、協力して働くのではなく、みんなが自発的に、そして共に働くという意味を込めています。
ボランティアもそうなのですが、なんらかの活動に対して自発的に参加しようとすると、周りの人から茶化されたり、同調圧力がかかって参加しづらかったりということもあるかと思います。
やりたいんだけれど、なかなか手を挙げられない状態ですね。また別の視点から見ると、“やる”か“やらない”かの2択で考えてしまう人も多いんです。
ですが私は、自分のできる範囲でやることが大切だと考えています。
たとえばボランティアとして参加できる人もいれば、それはむずかしいけれど金銭面でサポートできる人、食材の支援ができる人など、参加の方法にはさまざまなかたちがあると思います。
また、私たちの仏教も宗教のひとつですが、そもそも宗教の活動というものは、なにかを強制するものではありません。
自分ができる範囲のサポートをするために、自ら手を挙げてハードルを乗り越える。
それが私たちの目指す「ゆるやかで主体的参加ができるやさしい地域社会」につながります。
誰かを支え、誰かに支えられて心の安定が保たれる
ー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
近藤:近ごろは安倍元首相の件ですとか、ロシアによるウクライナ侵攻など、よくないニュースがメディアを通して自動的に聞かされています。
そんな状況のなかにいると、目の前の現実さえも灰色がかって見えてしまうものです。
そのようなとき、メンタルヘルスを健全に保つ方法として大きく役立つのが利他的活動。つまり誰かのために動くことです。
そこに多くの人が気づいていないように感じています。
ですから私たちの活動に参加していただくのもありがたいことですし、みなさんの身のまわりにいる人たちのためにできることを考えて行動することで、自らの不安も軽減されると思います。
山田:初めての子育てというのは、なにもかもが初体験ですし、小さな命を授かって育てていくということは非常に重大なことです。
昔は家にいるおじいちゃんやおばあちゃんが面倒を見ていましたが、核家族が多い現代ではそれもむずかしいと。
育児に関する本などを買って読んでも、なかなかうまくいかないものですよね。それで、ひとりで育児に悩んでしまっている保護者の方も多いようです。
私たちの活動には育児の悩みを共有できる、いわゆるママ友・パパ友になれる方も参加しています。
ひとりでは抱えきれない大きな悩みでも、共感してくれる人や育児の先輩がそばにいることで、解決のヒントを得られることもあるでしょう。
ですから、気軽に育児の相談ができる場所としても、私たち「Social Temple」の活動に興味をもっていただけたらと思います。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:一般社団法人 SOCIAL TEMPLE