2022年度より高校の学習指導要領が改訂され、今後どのように授業をおこなっていくべきか、頭を悩ませている学校教育関係者の方は多いのではないでしょうか。
ただ、すべてを学校現場だけで対応しようとすると、先生方の負担は増える一方です。外部からの支援を受け、効率性を高めるのもひとつの方法かもしれません。
今回は高校生向けのキャリア教育・探究学習を支援している「一般社団法人Fora」の代表理事・藤村 琢己(ふじむら たくみ)さんにお話を伺いました。
学校教育関係者の方、新しい学習指導要領への取り組み方を模索している方は、ぜひ参考にしてみてください。
高校生向けのキャリア教育・探究学習を支援
ー本日はよろしくお願いします。まず「一般社団法人Fora」がどのような団体なのか教えてください。
藤村 琢己さん(以下、藤村):一般社団法人Foraは、「学び続ける意欲と能力を育む」を教育目標として、高校向けにキャリア教育や探究学習の2軸で支援をおこなっている会社です。
2016年に活動を始め、今年で7年目を迎えました。
これまでに約50校の高校で授業を実施し、約3万人の高校生に対し将来について考える機会を届けてきました。
私たちがキャリア教育や探究学習支援をおこなうのは、AIや5G、IoTといった社会の急速な変化に伴い、生徒の身につけるべき資質能力も変化し、教育自体が大きく変化しつつあるからです。
たとえば、高校の学習指導要領は今年から改訂され「総合的な探究の時間」がスタートしましたし、文部科学省は「1人1台端末は令和の学びのスタンダード」として、GIGAスクール構想を推進し、教育業界の変化を促しているところです。
また、経済産業省も「未来の教室」事業など民間教育の活性化を掲げ政策をおこなっています。
このような流れのなかで、「探究的な学びの重視」など、学校教育の内容も高度化しており、学校の先生方はより質の高い教育を実現できるようチャレンジされています。
その一方で、先生方の「多忙化」も問題となっており、先生方の働き方改革も推進されているところですから、学校現場は「教育内容の高度化」と「教員の多忙化」のジレンマに陥っているのが現状です。
そこで私たちは、「総合的な探究の時間」の取り組みを総合的にサポートし、それを進路選択にも繋げていくことを目指すサービスを提供しようと考えました。
具体的には学校と一緒になって探究学習のカリキュラムをつくるほか、探究学習教材の開発と提供、大学生の出張授業の実施など、さまざまな事業に取り組んでいます。
新しい学習指導要領のキーワードは「探究」
ー2022年度から実施されている「学習指導要領」に対する見解を教えてください。
藤村:2022年度から学習指導要領が改訂され、「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に名称変更されました。
新しい学習指導要領においては、この「探究」が一番大きなキーワードになると考えます。
これまでの総合的な学習の時間では、与えられた課題をよりよく解決すること、つまり課題解決に焦点をあてていて、課題をどう設定するかまではあまり問われていませんでした。
それに対し、総合的な探究の時間では、そもそもの課題設定から自分自身で考えることを求められるようになったんです。
自分自身の生き方やあり方を内省し、自分の興味関心や問題意識から「問い」を設定していくことがより重要視されるようになりました。
そして、総合的な探究の時間で具体的にどのような内容を扱うかは学校に委ねられています。
そのため各学校が「生徒にこうなってほしい」という目標を定め、それにあわせたカリキュラムをつくり、その結果を評価して、PDCAを回しながら進めていきます。
このように探究学習の授業をゼロから作り上げることには時間と労力が必要なため、どうしても学校の先生方の業務負担は大きくなりがちです。
また、ノウハウがないなかで試行錯誤を続けている学校も多いので、さまざまな学校の探究学習に関わらせていただきながらノウハウを蓄積し、シェアしていけたらと思っています。
ー学校によって探究学習の内容は異なるとのことですが、いくつか事例を教えてください。
藤村:まず、1人に1つのテーマを設定するスタイルの学校もあれば、グループで1つのテーマに取り組む学校もあるといったように、人数による特徴がありますね。
前者は自分自身の問題意識を深めやすい探究と言えますし、後者は価値観の異なる他者と協働学習することの学びを得やすい探究であると言えます。
さらに、どんなテーマに取り組むかも多種多様です。
自分の生活する地域課題解決に取り組むこともあれば、宇宙、感染症の歴史など、地理や世界史の授業の一環として取り組むところや、完全にフリーでテーマを設定できるなど、学校ごとに創意工夫が見られる部分です。
私たちは各学校の想いや理想を大切にしつつ、「ああでもない、こうでもない」と一緒になって知恵を絞り、サポートさせていただいています。
ー探究学習において、個別の生徒に対してはどのように関わるのですか?
藤村:探究学習は「テーマ設定⇒仮説立案⇒傾向づくり⇒仮説検証⇒まとめ」という5ステップで進めます。
生徒一人ひとりつまずく場所が違うので、それにあわせてアドバイスをしていますね。
たとえば、テーマが漠然としている生徒なら「もう少しテーマを絞ろう」、仮説をうまくつくれない生徒なら「知識を得るためにまずは調べ学習をしてみよう」といったような感じです。
あとは、計画自体はきちんとできているのに自信がない生徒もいるので、「すごくよくできているから頑張ってやってみよう」と背中を押すこともあります。
今後の学校教育に可能性を感じてほしい
ー今後の展開について教えてください。
藤村:今後も新しいワークショップの企画や、教材のアップデートに力を入れていくつもりです。
最近は、修学旅行と探究学習を連動させる提案も推進しています。
また、まだ探究学習は始まったばかりなので、学校の先生方に取り組む意義を伝えていくことも大事だと思っています。
探究学習はやり方次第で生徒の受験勉強のやる気につながったり、将来を考えるきっかけになったりするので、その点を引き続き情報発信していきたいです。
ー最後に読者の方へ一言メッセージをお願いします。
藤村:最近の学校教育は、先生の多忙化が問題となっていたり、採用が難しかったり、多くの課題を抱えているのも事実です。
でも私は、日々学校教育に関わらせていただくなかで、学校の持つポテンシャルの高さを感じています。
中高一貫校には、6年間の探究学習プログラムを設計している学校がありますが、これを民間企業がおこなおうとすると何百万円という価格になってしまいます。ですが、通常の授業料とあわせて年間10万円ほどで受講できるんです。
また、最近では小学校と中学校を統合し、9年間で義務教育をデザインする「義務教育学校」もつくられています。
ほかにも新たに中高一貫校が開校したり、従来なかったコースを新設する学校も出てきたりしていて、新しい教育をつくる動きは加速しています。
教育業界は面白い業界です。今後も教育業界、特に学校教育業界を盛り上げていきたいと考えている方には、ぜひ積極的に関わっていただきたいですね。
読者のみなさんにも学校教育の可能性を感じていただけると嬉しいです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:一般社団法人Fora