大学を選ぶとき、入ってから何を学ぶかや将来にどうつなげるかまでは考えず、大学に入ってからその必要性を痛感する人は多いでしょう。
そうはいっても高校生だった当時には、大学や学部に関する情報は少なく、判断材料が十分にあったとはいえないのではないでしょうか。
今回は「一般社団法人Fora」が取り組む、高校生へのキャリア教育事業「キャリアゼミ」について、代表理事の藤村 琢己(ふじむら たくみ)さんにお話を伺いました。
偏差値やイメージで大学を決めようとしている、気になる大学や学部はあるが迷っている、そんな高校生やその保護者の方はぜひご一読ください。
進路選びのミスマッチを防ぐ高校生のキャリア教育
ー本日はよろしくお願いします。まず「キャリアゼミ」の概要や活動の経緯を教えてください。
藤村 琢己さん(以下、藤村):「一般社団法人Fora」の主要事業である「キャリアゼミ」は、高校生に対するキャリア教育として学問の魅力を伝える取り組みです。
大学生たちが「ファシリテーター」となって、高校で出張授業を実施し、ワークショップ形式で大学の魅力や、何が学べるかなどを具体的に伝えています。
当事業は、2015年に当時大学生だった私を含むメンバーの有志によりスタートし、2016年に一般社団法人化し、その後も事業として継続しています。
活動を始めたきっかけは、高校生が大学を選択する際に生じるミスマッチに問題意識をもっていたことです。
高校生の多くは、大学や学部についてよく知らず、将来したいことも定まらないまま進路を決定しています。ですから、なんとなく大学や学部を選んでしまったことを後悔する学生も結構いるんですよね。
もちろん、各大学のオープンキャンパスや資料などから情報を収集することはできますが、高校生たちは実際に何を学べるかや、各学部の違いなど、さまざまな疑問を抱いています。
そんな高校生たちに、将来を考えるきっかけをもって、自分に合った大学を選んでもらうことが当事業のねらいです。
授業を担うファシリテーターには、教育学部をはじめ、さまざまな学部の大学生がいます。現在9つほどの学問のワークショップを提供しており、たくさんの大学生たちが活動しています。
ーキャリアゼミがどういった高校でおこなわれているか、また実施形式についても教えてください。
藤村:キャリアゼミは、現状では普通科高校で実施する機会が多いですね。
普通科高校では、生徒が文系・理系のさまざまな進路を選択しますが、教師が全生徒の志望校に関して「〇〇大学の△△学部では〜〜が学べる」と詳細に教えることは容易ではありません。
そういった部分を補完するという意味でも、普通科高校からの需要が多いのだと思います。
実施にあたっては、2時間は確保していただくことを推奨していますが、授業の1コマでも実施可能です。
高校で取り入れられている「進路の時間」の一環として、キャンパスツアーとワークショップをおこなう、2日間のプログラムなどもあります。修学旅行の行程として実施したこともありますね。
料金は基本的に学校からいただくのですが、企業からのスポンサー協力による無償実施などの場合もあります。
学部について理解し大学生から実態を聞ける授業
ー授業内容についてお聞かせください。
藤村:授業は「スタートダッシュ授業」「学部お試し授業」「ストーリーテリング授業」の3つから選択できます。
「スタートダッシュ授業」は、まず浅く広くいろいろな学問を知り、触れてみるプログラムです。
体育館などを利用して、壁に貼られたクイズを解いていくと文字が浮かび上がってくる、といったアクティビティに取り組みながら、各学問のことを知ることができるワークショップです。
高校生のなかには、なんとなくのイメージで学部の“食わず嫌い”をしている生徒もいるため、スタートダッシュ授業に参加してから、興味・関心の幅が広がったという声も多くあがりますね。
「学部お試し授業」は、各学問についてより深く学んでいくことを目的としたプログラムです。
さまざまな学問のワークショップを同時開催し、生徒は希望を出した3つのうちの2つに参加できます。
これによって、たとえば理学と工学の違いがわからず進路を迷っている生徒なら、それぞれを比較して自分に合う学部を見つけやすくなります。
興味のある学問についての理解を深め、もっと追求したいと感じる生徒も多いですよ。
「ストーリーテリング授業」は、大学生から実際の体験談や本音を聞けるプログラムです。
進路選択をするうえで迷った点や最終的な決め手、今大学で学んでいることや、それを今後どう深めたり活かしたりしていきたいのかなどについて、大学生が自分自身の経験を等身大のストーリーとして語ります。
経験者である大学生の話を聞くことで、高校生たちも先輩のように頑張ってみたいというモチベーションを抱くきっかけにもなるようです。
ーファシリテーターにはどういった方がいらっしゃいますか?
藤村:ファシリテーターにはさまざまな大学・学部に在籍する学生がいますが、全員に共通しているのは、多かれ少なかれ学校教育に対する問題意識をもっている点です。
当キャリアゼミは、高校生が進路選択を考える教育であると同時に、ファシリテーターの視野も広げられる活動です。
学校の授業時間分の教壇を預かるので、どのファシリテーターも責任を感じながら、試行錯誤してよい授業をつくることに努めています。
複数の学校で授業をおこなえるので、教職課程の教育実習とは異なる実践の機会があることに、やりがいを見出している学生もいますね。
また最近では、社会人の方に登壇をお願いすることもあり、より幅広い学びのある授業を実現しています。
将来への意欲を高める楽しく真剣なプログラム
ー新たな取り組みや告知などがあればご紹介ください。
藤村:2020年以降は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で活動の中止や延期も多かったため、「オンラインキャリアゼミ」を実施しています。
オンライン開催は、ファシリテーターが地方や海外などさまざまな場所から参加するので、対面のワークショップとはまた違う魅力があります。
キャリアゼミに興味はあるものの、コロナ禍によって条件が整わないという場合には、ぜひオンラインでのプログラムも検討していただきたいですね。
ー最後に読者へメッセージをお願いします。
藤村:当団体ではこれまで約50校の高校・3万人以上の生徒にキャリアゼミを届けてきました。
学びの方法にはいろいろありますが、私たちがキーワードとして掲げているのは「楽しく、かつ真剣な」場づくりをすることです。
「将来のことを考えよう」と促すことは、一歩間違えると一方的な説教のようにもなりかねません。
ですから、生徒が受け身になりすぎないよう、ワークショップ形式の楽しく学べるプログラムをつくり、彼らの将来に対する意識を引き出すことを大切にしています。
また、キャリアゼミが学習塾と異なる点は、学校授業の一環として全生徒に学びを提供していることです。
学習塾に来る生徒は、学習や進路に対して既に高い意欲をもっています。けれども私たちは、学校のなかでもまだ進路に対して強い関心を持てていない生徒たちにこそ、キャリア教育が必要だと思っているんですよね。
最初は教室の後ろのほうでつまらなそうにしていた生徒たちが、実際にワークショップで手を動かしてみることを通して少しずつ気づきをえて、意欲的になっていく。
私たちは多くの高校生にそんな瞬間が生まれることを願って、取り組みを続けています。
また、当団体ではこれまでに、300名以上の大学生に協力してもらい、さまざまな授業を提供してきました。
キャリアゼミを通して、高校生と大学生が相互に学び、成長できる場を学校教育に取り入れられたことは、非常に有意義なことだと感じています。
当団体にかかわるすべての人たちにとって学びとなる機会をこれからもつくっていきたいと思っています。当事業に興味をもってくださった方は、ぜひご参加ください。
ー本日は興味深いお話をありがとうございました。
■取材協力:一般社団法人Fora