以前から家に帰りづらいと感じる子どもは多くいましたが、コロナ禍による休校や施設閉鎖の影響で、そのような子どもの居場所がさらに減っているといいます。
「ダイバーシティ工房」はそんな子どもたちの居場所を作ることを含め、子どもや家族が暮らしやすい環境を作るための活動をしているNPO法人です。
今回はダイバーシティ工房代表理事の不破 牧子さん、およびスタッフの佐藤 佑紀さんと宮坂 奏子さんに活動についてお話を伺いました。
子どもたちを含む、すべての家庭が安心して暮らせる社会の実現に興味がある方は、ぜひご覧ください。
子どもや家族が地域で暮らしやすい環境を作る
ー本日はよろしくお願いいたします。まずは「ダイバーシティ工房」の概要について教えてください。
佐藤 佑紀さん(以下、佐藤):ダイバーシティ工房は千葉県市川市を中心に活動しているNPO法人です。
立ち上げは2012年ですが、母体となった自在塾という学習塾が始まったのは40年以上前です。
代表である不破の父親が経営していたこの学習塾は、学校の授業に苦手意識がある子どもや、家庭環境が複雑な子どもなど、家族全体をサポートする必要がある子も学びに来ていました。
そのような子どもたちに何かできないかと考えたことがきっかけで、ダイバーシティ工房を立ち上げています。
ダイバーシティ工房の掲げるミッションは、すべての家庭が安心して暮らせる社会の実現。
主に子どもと家族、子育てをしている家庭を対象に、0歳から20歳の子どもが地域で過ごしやすく暮らしやすい環境を作るための活動をしています。
ー主な活動内容について教えてください。
佐藤:活動内容としてはLINEを使った無料相談の「むすびめ」、自立援助ホームの「Le port(ルポール)」、地域の学び舎「プラット」などがあります。
むすびめは2020年8月にコロナ禍をきっかけに立ち上げました。
私たちが今まで関わってきた子どもや家族のなかには、行政などによる支援を受けることに抵抗を感じる方も多くいました。
さらにコロナ禍で外出自粛が叫ばれ、今まで困りごとがなかったごく普通の人たちもが自宅ですごさざるをえなくなり、気軽に相談できる場所がないことで、ちょっとした問題が深刻な課題になってしまうことが起きていました。
そこで、SNSを使うことでそういった方々ともやりとりができるのではないかと考え、多くの方々にとって身近であり利用のハードルが低いLINEを使った無料相談サービス「むすびめ」を始めたのです。
現在では日本全国で2,000名から3,000名近くの方々にご登録いただき、さまざまな悩みが寄せられています。
利用いただいている年齢層は幅広く、学生も多いですが40代から50代の方々からの相談も多くなってきています。
むすびめで相談を受けるスタッフは全部で20名ほどで、元教員や児童相談所・児童養護施設で勤務経験がある職員、社会福祉士、看護師、保育士といった資格を持っているスタッフが多く携わっています。
このなかで常時2、3人ほどが対応に当たっています。
ールポールはどのような活動でしょうか。
不破 牧子さん(以下、不破):ルポールは私が元々住んでいた千葉県市川市の自宅を使って活動している自立援助ホームです。
入居できる定員は6名で、現在は4名の女の子が入居しています。
24時間体制で職員を配置しなくてはいけないのですが、元々2世帯住宅だった1階に私の両親が住んでおり、夜間や緊急時は両親が対応。職員は朝の7時から夜の11時半くらいまで配置しています。
ルポール立ち上げへの想いは、両親がやっていたことがきっかけとなっています。
私の父が学習塾をやっていたとき、家庭環境が複雑な子どもには無料で教えたり、家出した私の友だちを1週間くらい泊めたりしていました。
家に帰りたくないという友達が、私のいないときに家に来て父親とお汁粉を食べていたなんてこともありました。
そうやって両親は、自分の家に居場所がないと感じる子どもたちを当たり前のように受け入れていたのです。
私も自在塾を引き継いでからは、「家に帰りたくない」という生徒を家に泊めることもありましたが、活動の拡大とともに どこまで利用者を家に泊めてよいのだろうとか、セキュリティを充実させないととか、自分以外にも対応できる人が必要などと思うようになりました。
そこで20020年、私が塾を立ち上げたときの生徒だった子が職員となり、その後ホーム長になって自立援助ホームルポールを始めました。
自立援助ホームは、なんらかの理由で家庭にいられなくなった15歳から20歳前後の子どもたちが暮らす施設です。
入居する子どもたちは、児童養護施設の出身だったり、家庭で虐待をされていたりする場合が多いのですが、児童相談所では年齢が高いと乳幼児と比べて緊急性が低くなり、優先度が下がってしまいます。
ルポールなどの自立支援ホームに入る子どもたちは、児童養護施設の出身だったり、家庭で虐待に近い対応をされていたりする子どもがすごく多いのですが、児童相談所では年齢が高いから見切れないとか、乳幼児に比べて緊急性が低く扱われてしまいます。
安心安全な居場所を提供するだけではなく、自立援助ホームでの生活を通じて、信頼できる大人と出会い、適切に人を頼りながら生きていく経験を子どもたちにしてもらいたいと思っています。
ー「プラット」についても教えてください。
宮坂 泰子さん(以下、宮坂):プラットは3種類の事業をおこなっています。
ひとつ目は法人の母体となった学習塾。ふたつ目が不登校の子を主な対象にした放課後等デイサービス。そしてみっつ目が無料の食事付き学習教室です。
利用しているのは小学校高学年から高校生で、中学生がメインの利用層ですね。
これらの活動の利用者はコロナ禍によって大きく増えました。
たとえば無料の食事付き学習教室は、もともと家に居づらい子どもたちが来ていたのですが、コロナ禍による休校や各種施設の閉鎖によって、気軽に行ける場所が少なくなり、より多くの子どもが来るようになったんです。
放課後デイサービスについても、元々学校に行きづらかった子どもがコロナ禍で学校に行けなくなってしまったという相談が増えていますね。
地域や社会と協力しながら活動していく
ー子どもと接する際に心がけていることはありますか。
宮坂:子どもたちとは、ゆっくり時間をかけて信頼関係をつくるため、最初から立ち入った話をしないようにしています。
ダイバーシティ工房のサービスを利用する前に保護者の方やお子さんに来ていただき、どのようなお子さんなのか話を伺うのですが、家族の話や学校の話などは子どもから話が出ない限りこちらから聞かないようにしています。
ボランティアの方々にもこの点は説明するようにしていますね。
ー活動にはやはり寄付が重要でしょうか。
佐藤:食事つきの学習教室やLINE相談の活動は利用者から費用はいただかず、無料で運営しています。
また食事に困っている近隣の高校生へ無料で食料品を配る活動などもおこなっています。
しかしながら、たとえば無料の食事つき学習教室では弁当の材料費や会場費、ボランティアさんを集めて運営するための資金が欠かせません。
このため、より活動を充実させるためにも、地域のみなさんや企業などからのご協力をいただきたいと考えています。
私たちの活動に賛同していただけるかたは、ぜひ寄付という形で応援していただけると幸いです。
何かあったときにいつでも話せる場所として
ー最後に読者の方へメッセージをお願いします。
不破:「人に頼る」という行為には頼るスキルが必要で、頼っていいといわれても頼れない方が多いです。
また、人に頼るにはエネルギーも必要で、自分が困り切っているときには助けてと言うことすらできません。
このため、元気なときから自分の好きなコミュニティを作ったり、探したりしておくことをおすすめします。
私自身、苦しいときに助けてというのが難しかった経験もあり…、ダイバーシティ工房を立ち上げて2年で、1人目の子を出産したのですが、経営しながら出産をするという同じ境遇の友だちがいなくて苦労しました。
自分と相性のいいコミュニティや人を普段から探しておくと、苦しくなったときに元気づけてくれる人を見つけることができますよ。
佐藤:私たちは何か悩みを抱えていたり、話しづらいことを持っていたりするときに、気軽に話せる存在でありたいと思っています。
何かあったらいつでも気軽に来てほしいということをお伝えしたいです。
悩み相談を気軽にしていただける関係になれればと思っていますので、少しでも興味を持っていただきましたら、ぜひ「むすびめ」にお越しください。
宮坂:以前もそうでしたが、コロナ禍になって、より子どもが気軽に立ち寄れる場所が減ってきていると感じます。
プラットでは子どもだけで来られる場所を用意して待っていますので、気軽に利用してください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:ダイバーシティ工房