子どもには自然のなかで思いっきり遊んで欲しいと願う方は多いでしょう。
ところが、なかなか手つかずの自然のなかで遊ぶ機会はありません。
今回は、そんな子どもたちが自由に思いっきり遊べる場所を提供したいと、2500坪もの森を購入した「NPO法人ARTKIDS.JP」理事長の屋嘉部 正人さんにお話を伺いました。
自然のなかで思いっきり自由に子どもを遊ばせたいと考えている方は、ぜひご一読ください!
子どもたちのために2500坪の森を購入!
―本日はよろしくお願いいたします。まず、「ARTKIDS.JP」がどのような団体なのか、教えてください。
屋嘉部 正人さん(以下、屋嘉部):私がGMを務めている「芸術による教育の会」で、2005年に子どもたちの展覧会「1000メートル絵画」を開催しました。
上野公園の森の中に幅1メートルほどの布を1000メートル張り巡らせて、子どもたちに自由に絵を描いてもらうというものだったのですが、当初、展覧会を企画したものの営利団体では難しい点もありまして…。そこで、立ち上げたのがNPO法人ARTKIDS.JPです。
NPO法人であることで、なかなかビジネスにはならないけれど、子どもたちや保護者の皆さまにとって、普段は気づかない隠れたニーズが見つけられるような活動や、社会に対してインパクトのあることができるのではないかと思っています。
具体的にはどういうことかというと、まず山を買おうとしました。なぜかというと、もともと夏に子どもたちを200人くらいずつキャンプへ連れて行っていたんですね。
自然いっぱいの場所にある宿を探して行くので、建物自体は確かに自然のなかにありますが、敷地内は綺麗に整備されています。
ところが、本来の山は自然がいっぱいで整っていません。動物も危ないですし怪我もするでしょう。どういうハプニングがあるかわからないなかでの、学びはとても大きいですよね。
子どもたちに山を「自由に使っていいよ!」というには、自分たちで所有するしかありません。山で自然の強さを体感してもらいながら、またその自然を整えていくという、とても面倒くさい作業をおこなう場所を提供したい。だから、山を買おうと思ったんです。
どんどん便利になっていって、便利が当たり前の世の中だからこそ、これからは「面倒くさいことをすること」が大事になる時代となっていくでしょう。
草刈りだって多くの子どもはやったことがないですよね。そうやって、多くの人にとって非日常になってしまった面倒くさいと思うような活動を通して、達成感や充実感を家族と一緒に味わえる場所を提供したいと思っていました。
ところが、周囲からの反対もあって…。山ではなく、埼玉県鴻巣市に2500坪の森を買いました。
コロナ禍で思うように進んでいませんが、アフターコロナを見据えて「鴻巣アートの森」でワークショップを定期的に開催しながら、自然の中での「自然×アート×共育」の場を整えております。
つくられたものではなく、本物の自然に触れて欲しい
ー「鴻巣アートの森」では、どのような活動ができるのでしょうか?
屋嘉部:コロナでいろいろと中断してしまっていますが、コロナ前には森の好きなもので打楽器を製作し、プロのミュージシャンを呼んで演奏会をおこなったこともあるんですよ。
森には竹がたくさん生えているので、竹で植木鉢をつくったり、タケノコを採って、竹でタケノコご飯を炊いたり。
腰より低い背丈のものは何を持って帰ってもよいことになっているので、花が咲いていたら花を摘んで持って帰る子もいますし、森のやっと生えてきた木を持ち帰る子もいます。
夏は畑で子どもたちが遊びながら水を撒いて、泥んこ泳ぎをすることも。
鴻巣の森のコンセプトは、“子どもたちに整った場所ではなく、自然の危険との距離感を掴ませる”です。
ご参加いただく前に、親御さんには、森で何かをするということは「自己責任」であること。生傷を嫌がるようでは冒険はできないので、生傷くらいは許してくださいとご説明しています。
もちろん、大怪我になりそうなときはこれは大人たちの責任なので、大声を出して止めてくださいともお伝えします。
それから、鴻巣アートの森には、建設中の「ツリーハウス」があります。
私たちのツリーハウスは子どもが誰にも内緒でつくるようなもので、言ってみれば“秘密基地”のようなもの。
プロの木こりさんに来ていただいて子どもたちと一緒に木を切り、その木でアスレチックを作りたい、梯子を渡して遊びたいなど子どもたちの意見を尊重しながらつくっています。
どういったものを製作しているかは、ぜひYouTubeをご覧ください。
今後は人と人を繋ぐ役割も担っていきたい
―今後の展望についてお聞かせください。
屋嘉部:やはりいつかは山を買いたいと思っていますが、今は価値ある「鴻巣の森」を活用する方法を積極的に考えていきたいですね。
「鴻巣の森」の周りには、古くから地元に暮らしている方だけではなく、新興住宅地の若い世代の方がいます。
ただ、それぞれの繋がりがほとんどない状態なんですね。私たちは両方の方々と繋がっていますから、今後は私たちがパイプ役となって、「鴻巣アートの森が昔からの住民の方々と新しい住民の方々が集う」交流の場にしていきたいですね。
たとえば、畑を持っているけれど、高齢で自分たちだけで管理していくのは大変というケースも、若い世代の人たちからすると、ほんの1坪、2坪だったら野菜を育ててみたいという人たちが結構いいるんですよ。
若い世代の人に畑を提供して、一緒に遊ぶことができたらお互いにとってメリットとなるでしょう。そういう機会を積極的に提供していきたいと思っています。
それから、100歳の素敵な古民家があるので、ゆくゆくは泊まれるようにして、子どもたちが親元から離れて自然のなかでちょっとしたサバイバル生活ができる場所にもしたいですね。
ー最後に読者の方へ向けてのメッセージをお願いします。
屋嘉部:「鴻巣の森」は、関わる仲間たちの想いやアイデアを共有しながら大切に活動していきます。まだ一度もいらっしゃったことがない皆さんもぜひまずはノープランで遊びにお越しください。
古民家で昼寝するもよし、お茶するもよし、森で子どもたちと一緒に散策するもよし。
どんな時間の過ごし方もできますので、いつもとは違う時間を過ごしに来てくださいね。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:NPO法人ARTKIDS.JP