幼少期、料理の手伝いをした思い出がある方は多いのではないでしょうか?料理体験は食育にもなり、興味関心を育むことにも繋がります。
親になり、子どもに料理の手伝いをさせたいと思っても、キッチンは刃物など危険なものもある場所。どのように教えればよいか悩みますよね。
今回インタビューをおこなった「子育てkitchen」では、子どもが中心となり、大人がサポートをする親子料理教室を開催しています。
具体的にどのようなことをおこなっているのか、「子育てkitchen」代表の田中由美子さんに詳しくお話を伺いました。
親が「見守る加減」を見つけられる場所
ー本日はよろしくお願いします。まずは「子育てkitchen」の概要を教えてください。
田中由美子さん(以下、田中):「子育てkitchen」は、 子どもが中心となり、火や包丁を使って調理をすることを通して、親は見守る加減を、子どもはできる体験を学んでいく場所です。
スタートは、「幼児のお子さんと保護者」という親子向け教室でした。
子どもに料理のお手伝いをさせたいと思っていても、火や包丁の扱いなど、実際やろうと思うと難しいですよね。
その難しさの原因を取り除いて、「家庭でも同じようにできるようにしたい」という想いが、活動の背景です。
対象年齢は教室によって異なりますが、「親子一緒にシリーズ」が1歳半~小2の親子クラス、小学1~6年生の親子クラス、小学1〜6年生のみを対象とした「小学生kitchen」などがあります。
小さいうちから料理を体験させたいと思っていても「子どものスピードでは一緒にやっていられない」「汚されたくない」など大人のストレスポイントがいくつもあるのが現実ですが、子どもが「やりたい」と言うのは期間限定です。
2014年に、東京都23区内の乳幼児と小学生のお子さんのいる保護者の方に、「火や包丁を使う料理をさせた?料理をさせたい年齢は何歳?」というアンケートをとった結果、乳幼児の保護者のみなさんが4歳から小学1~2年生と回答する一方で、小学生の保護者のみなさんは、小学5~6年生が最も多かったんですよね。
「やらせたいけれど、時間がない」「方法がわからないからやらせられなかった」など、気持ちはあっても実現できなかったということが、ここから見えてきます。
子どもが「やりたい」と好奇心を持つことは、ごく自然なことであり、親の想いとは時間のずれがあると感じます。
実際に、早い子どもは2歳~4歳、遅くても小学3年生頃には、自分の気持ち優先で行動するようになります。
「これを、やりなさい」と言っても、「あとでね」「やりたくない」などの反応が返ってきますよね。やりたいときは上手くいかなくても問題ないのに、やらされた感を感じたた途端、上手くいかないと嫌な気持ちや苦手意識につながることが多いようです。
そうしたことが重なると、子どもは自分からやらなくなるので、子どもが「やりたい」と言う時期に、思いっきりやらせてあげることが重要なのです。
「この子はできる」と信頼するか、まだできないだろうと思うかで、子どもの成長は大きく変わります。
年齢が小さいうちから「この子はできる」と信頼していると、チャレンジする場がたくさんあるので、子どもは自らトライ&エラーをして、どんどんできるようになっていきます。
ですが、体験の場が少なければ、挑戦できるチャンスが少なく、成長具合にとても開きがでてしまいます。
本当に子どもがやりたいと思ったときにぜひやって欲しい。実は、親の意識が変わるといいなという思いもあり活動をしています。
自ら考えることで生まれる会話
ー教室の内容について、詳しく教えてください。
田中: 幼児を対象とした教室は4回セット、小学生は単発で教室を開いています。
教室では、役割分担や一緒にできるようになり、ご家庭ではお手伝いをさせるというよりも「一緒にやる」というスタンスでいると生活の仕方が変わると考えています。
やらせてあげたいけれど「テレビを見ていていいよ」とか「ゲームをやっていていいよ」と言ってしまうことに、保護者のみなさんは罪悪感を感じてしまうことも多いですよね。
でも実際にやってみると、子どもたちはさまざまなことができ、上達も早いので、最終的に保護者のみなさんの時間が増えることに繋がります。
「4回セット」の場合、初回は心配そうに見守っている保護者のみなさんも、4回目のころには「こうやってやればいいんだ」「うちの子、これぐらいできるんだ!」と分かり、ご自宅で少しずつやられているようです。
また通常、どのクラスも初対面の子どもたちがいる時には、最初に自己紹介をしてもらい、その後、調味料を含めた「食材クイズ」、食材を洗う・切る・加熱など全ての工程をおこないます。
試食というよりも、しっかりとお昼ご飯を食べる教室なので、みんなで配膳をして、食べたらごちそうさまをして流しに食器を片付けるというところまでが一連の流れです。
4回の教室は毎回すべてメニューが異なりますが、 その時々で子どもたちがやりやすく、「ご自宅で実践しやすいように」保護者のみなさんのストレスが少ない方法を一番意識しています。
包丁は1人1本ずつ渡していますが、基本的にはみんなで一緒に1つの料理を作っていき、毎回3種類ほど作ります。
みんなで作るという形式に加え、私がそれぞれの役割を決めるのではなく、できるだけ自分たちで決めさせているため、子ども同士の会話は多く生まれます。
例えば、卵が4つしかなくて6人いると、割りたいという子がたくさん出てくる。そのときに私が割る子を決めるのではなく、みんなで決めてと伝えるんです。
すると、「○○ちゃんやっていいよ」「じゃあ割らないけど、僕が混ぜてもいい?」など、子ども同士でコミュニケーションがあって、大人が入らないことで子どもたちが対等になる。
意見の強い子どもがいて、同じ子どもがずっとやろうとしている時には声がけしますが、基本的には自分たちで納得しているためトラブルは発生しないんです。
「小学生kitchen」は、子どもだけで作るのが基本、親御さんは送り迎えとお昼に食べに来ていただいています。
「いただきます」をしたら、私から今日やったことの全般や子どもが苦労したこと、子どもたちの会話などをピックアップし、子どもたちが興味を持っていたことまでをお話しします。
それをふまえて食べながら親子で会話をしてもらい、最後に保護者のみなさんからその場でひとこと感想をもらいます。
保護者のみなさんの感想がもらえると、子どもたちは誇らしげで、私も嬉しく思っています。
そして最後に、子どもたちに感想を聞くのですが、子ども同士で感想が更に引き出され、他の子どもたちの様子もわかり全体像が見えてきます。
自分がつくった料理を食べてもらうことで、苦労したことや楽しかったことは子どもたちが家に帰っても1日中話すこともあるので、会話を引き出すヒントになるのではないでしょうか。
保護者と子どものコミュニケーションのきっかけとなり、教室での出来事がご家庭での料理が取り入れられるように、この振り返りの時間を大切にしています。
料理を通して身につく“自立心”
ーこちらに通うことで、子どもたちに身につく力についてお聞かせください。
田中:「子育てkitchen」では、子どもがのびのびと成長して自然と自立心を身につけることができます。
食育の面では、食材の名前や旬を意識するので、五感ももれなく育っていきますし、台所には生きるために必要な体験がたくさんあると感じています。
料理は毎回完結するので、そのなかで子どもたちは自信や「できた」という達成感を得ます。
「おいしく食べてもらえるかな」という思いやりや、「この味とこの味を合わせたらどんな味になるだろう」と考える力。こぼさないようにする力加減や道具の使い方もそうですね。
小学生に関しては、例えば料理ならお米研ぎ、他なら洗たく物をしまう・畳む担当など家の中に自分の役割があると、お米研ぎなら、自分がやらなければその日は、ご飯はなくおかずだけの食卓になるかもしれないと考えるのではないでしょうか。
ご家庭内で「これはその子の仕事」とすることで、自分が役に立っている存在だと思うことができ、自己肯定感や自己有用感の向上にもつながります。
小さい頃「これはできないでしょ」と親に言われても、自分にもできると憤りを感じたことはありませんか?
幼少期というのは、大人に憧れている時期でもありますし、実際に子どもが全部料理をしたとなると、大人は心から驚いて「すごいね」と言ってくれるので、一緒に料理をするというだけで、このような力は自然と身についていくと考えています。
また、料理を繰り返すうちに自立していくだけでなく、3品同時に温かい状態で仕上げるにはどのように進めたらよいかという“段取り力”も身につきます。
当教室では、まず子どもが一番集中できる時間に、全ての食材を切る作業をします。それが怪我を最小限に留めることにも繋がりますね。
食材を切る順番も、どうすれば効率がよいか、まな板を洗う回数を減らせるかを考えてから始めます。
こうした経験をすると、2回目以降の子どもたちは、まず最初にどこから切ればよいか意識的に考えるようになります。それだけでも段取り力向上のスタートですよね。
「小学生kitchen」は子ども向けの教室ですので、作ったものを子どもたちだけで食べて完結してもよいのですが、保護者のみなさんからしてみれば、その瞬間を見ていないので、子どもたちがどこまでできるかわからず、ご家庭での実践につながらない。
それを解消するために、保護者のみなさんに食べに来ていただき、その日の出来事をお伝えすることが重要なのです。
出来事をきっかけに親子での会話が増え、信頼につながる。ご家庭での生活の変化に大きく影響するでしょう。
ー「やりたくない」という子どもたちには、どうアプローチしていますか?
田中:子どもはその日によって、「今日はこれをやりたい」「今日はこれをやりたくない」とムラがありますが、強制はしません。
やりたくないならそのときやりたい人がやればよいし、子どもは自分がやらなくても、人がやっているのを見ているだけで学びます。
こうやってやるんだと認識し、次にやるときにはできるスタンスで入ってきます。なので強制はしなくてよいと思っています。
基本的に、切り方は伝えますし、間違っていればこうしてほしいと言いますが、幼児だと「絶対にこれでやりたい!」と切り方を変えてくれないこともあります。そういうときは、あえてそのまま加熱調理をしてしまいます。
小さく切ってねといっても大きいのが残っていたなら、その大きいのをその子に食べてもらう。すると、なぜ小さくしてほしかったかがわかりますよね。
同じ出来栄えなるように煮るためには、大きさを揃える必要があることに本人が気づき、言われていた意味がわかれば、次からその子どもはちゃんと切ってくれます。
保護者のみなさんが一緒にいるときは、「子どもが意固地になるときのハプニングを楽しんでください」と伝えます。子どもたちがちょっと意固地になって、大きいままの食材がいくつもあれば、それをその子どもだけでなく大人も食べますよね。
すると、別のおいしさを発見することがあります。今まで小さく切ることが当たり前だったけれど、大きい食感もありだなと。新たな味の発見として、よい意味で事故を楽しもうという話もしています。
アットホームは雰囲気を体験しに来てほしい
ー今後、開催予定のイベントなどはありますか?
田中:小学生向けの教室はすべて単発開催で、小学生kitchenは主に第4の土日におこなっています。夏休みには、献立から立てる料理教室も開催します。
小学生kitchenは、1人で作り切ることを重視していますが、それとは別に「一緒につくろうシリーズ」があり、そこではあえて一緒にやる楽しさを目的にしていますね。
保護者のみなさんは「体験させたい」「やらせたい」という気持ちから、遠くから見守ることに徹しやすいですが、一緒にやる楽しさというのは全くの別物。
昨今、同じことを一緒にやって、大変なことや面白いことなどを同じように感じる機会が少ないと感じます。
だからこそ、一緒に同じ体験をすることで親子の距離が近くなるよう、目的にしているんですよね。
教室の内容として、例えば「焼き小籠包づくり」では粉を計り皮から作っていくのですが、粉を計る作業一つにしても、理科や算数に通じる勉強です。
計り方や手触りなど、親も一緒に横から見て、会話をしながらやってもらうことが目的です。
「あなたが作ったもの美味しかったね」ではなく、「一緒に作って楽しかったね」と共感する。大変なことを一緒にこなすことで、親子のきずなも構築されていくのでしょう。
月によって開かれる教室は異なります。詳しくはホームページに随時記載していますので、ぜひご覧ください。
ー最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
田中:通っているみなさんに聞くと、アットホームな場所だとよく言われます。
とてもアットホームで、その日の子どもの状況に合ったやりとりをしているので、気負わない、固くないところが当教室の魅力。
私は他の料理教室をのぞくことがないためわからないのですが、すごく子どもたちの自由度が高いので、子どもにとっても楽しいようです。
さまざまな習い事を経験されているご家庭の話を聞くと、こんな風に1~10までやらせてくれるところは少ないと言われます。
当教室では、もともと親子でやる際の特別なものではなく、日常の夕飯を一緒に作って欲しいと思い生まれた場所。
多くの夕飯でありがちな「3品」を、まるごと作るときに子どもたちにどう関わってもらえばいいか?を伝えています。
日常的に取り入れやすい体験をしたい方、子どもの料理に対する興味を伸ばしたい方は、ぜひ気軽に体験しにきてください。
ー本日は、貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:子育てkitchen