スポーツ選手の活躍を見て感動したり、励まされたりした経験はないですか?
スポーツには人々を感動させ、勇気づける力があります。
「一般社団法人You-Do協会」は、障がいがある子どもとアスリートを繋ぐ活動をおこなっています。
今回は、代表理事で現役時代はPRIDEやK-1などで活躍した元総合格闘家の大山 峻護さんと、理事で元アイドル歌手の桜華 純子さんにお話を伺いました。
スポーツが好きな方、社会福祉に少しでも興味のある方は、ぜひご一読ください!
人生を変えるアスリートの一言
―本日はよろしくお願いいたします。まず、「一般社団法人You-Do協会」がどのような団体なのか教えてください。
大山 峻護さん(以下、大山):「You-Do協会」は、障がいのある子どもとアスリートを繋ぎたいと2020年2月に設立した団体です。
中田英寿さんが発起人となり、公益財団法人日本財団が立ち上げたアスリートの社会貢献を推進するための「HEROs」というプロジェクトがあります。
毎年12月にはその授賞式「HEROs AWARD」がおこなわれ、さまざまな社会課題に取り組むアスリートや団体が表彰されています。
じつは、「You-Do協会」設立のきっかけは、2019年に参加させていただいたこの授賞式でのあるスピーチです。
授賞者のおひとりが、日本オリンピック委員会の会長であり、1984年ロサンゼルスオリンピックの金メダリストである柔道家の山下泰裕さんでした。
山下先生の、「アスリートにはすごい力がある。アスリートが社会貢献することが世界平和に繋がる」というスピーチが、僕のなかでまるで雷に打たれたような衝撃で、感動して涙が出てきたんです。
今まで自分のことしか考えずに生きていましたが、そんな僕にでもできることは何だろうと考えました。そして思い浮かんだのが「アスリートと障がいがある子どもたちを繋げる」ということでした。
その場で、友人で難病の「筋ジストロフィー」になりながらも歌手活動をされている小澤綾子さんにメールをして、率直な意見を聞いたところ、すぐに「絶対やって欲しい!」と返信がありました。
それで僕も「絶対にやる!」と一気に燃え上がり、授賞式終了後にに山下先生のところへ行きまして、「大変感動しました。僕も絶対形にします!」と伝えたんです。
すると、山下先生が握手をしてくれて、「頑張れ」と言ってくれました。その握手とたった一言の「頑張れ」という言葉に、僕はまた鳥肌が立ちまして…。
40過ぎの大人でもアスリートの握手と、たった一言の言葉でこんなに感動できるのだから、これが子どもだったら、きっと人生が変わるだろうと思ったんです。
翌日にはアスリート仲間に、「アスリートと障がい児を繋ぐイベントをする、みんな力を貸して欲しい」とメールをしたら、すぐに多くの「力になりたいです!」という返事がありました。
そのまま直感で一気に障がい児支援をしている方々とも繋がり、妻と一緒に一般社団法人を立ち上げたという流れになります。
桜華 純子さん(以下、桜華):私自身、幼い頃から一言で言えば「世界平和」に関心があって、ひとり残らずみんなが笑顔で生きていく世界にしたいなと思っていたんです。
それで、20歳の頃からボランティア活動を始めました。最初は本当に個人でできる小さなことや、いろいろな団体に属してという形でしたが、活動を続けるなかで、より幅広く活動がしたいと思っていました。
ですので、協会を立ち上げることで活動の幅が広がりますから、2年前に「一般社団法人You-Do協会」を設立できて嬉しく思っています。
You-Do協会のイベントは、コロナ禍ということもあって対面ではなくオンラインで開催しています。
オンラインでの開催に盛り上がれるのか心配されていた参加者の方も、イベント後は「こんなに笑って泣いて感動したイベントはなかったです!」と言ってくれて。毎回参加してくださる方も多いんですよ。
とくに重度の障がいがある方は、なかなか家から出ることが難しい方も少なくないですから、オンラインでの開催はメリットにもなったと感じています。
喜びの循環を生んだ「The day 出会いの日」
―「The day 出会いの日」はどういったイベントなのでしょうか?
大山:参加してくれる子どもとアスリートが、同じ目線で、同じ喜びを共有体験するような、誰にとっても素晴らしいエネルギーの循環があるようなイベントを目指してつくったのが「The day 出会いの日」です。
イベントでは、アスリートと子どもが、Zoomのブレイクアウトルームに分かれて、夢などについて語ってもらいます。
その“夢”のひとつが、9歳の上田結華ちゃんのご家族がラグビー元日本代表の大野均さんに語った「国立競技場を自分の足で歩いてみたい」というものでした。
結華ちゃんは生後1か月で発症した「STXBP遺伝子の突然変異」による難病を抱えています。これは当時、国内でもまだ20例ほどしか症例がない難病で、病名が判明するのに2年半もかかったそうなんです。
いざ病名が判明した際に、お母様の恵さんが医師から告げられたのは、「この病気で歩くことができた子はいない」ということ…。
そう告げられた恵さんでしたが、「それならば、結華が前例をつくればいい」と思ったそうです。
そして、懸命にリハビリに励んだ結華ちゃんは、5歳11か月のときに遂に自分の足を一歩前に進めることができました。
すると今度は、開催に向けて大きな盛り上がりを見せていた「東京オリンピック・パラリンピック」に、何らかな形で関わることができないかという夢が芽生えたそうです。
ちょうどそのころに、僕たちの活動のことを知って、2020年6月の出会いの日に参加してくれたんです。
出会いの日のイベントから1年半ほど経った昨年末、大野さんから突然、「僕は結華ちゃんの夢を叶えます!」と連絡が来ました。
結華ちゃんファミリーの夢を聞いた大野さんは、そのことをずっと胸に秘めいていて、なんとか実現できないかラグビー協会などに働きかけてくれていたらしいんです。
そして、2022年1月6日「国立競技場を歩きたい」という結華ちゃんファミリーの夢が叶いました。それだけでも嬉しいことなのに、続きがあるんです。
結華ちゃんのことは記事となり、話題にもなりました。
すると、記事を目にした同じ病気の子どもをもつ親御さんが「大変勇気をもらいました」と、恵さんに連絡をしてきたそうです。
恵さんは話すのが苦手でしたが、話を聞きたいという方が増えたこともあり、先日イベントでお話をしてもらったところ、「初めて勇気を持って人前で話をしました。私の人生が変わりました」と言ってくれたんです。
僕たちだけのなかで完結したわけではなく、そこからさらに波及して、いろいろな人たちの人生にも影響を与えています。
改めて国立競技場での1日は、「想像を超えた未来、景色を見せてもらった」、奇跡の1日だったと感じています。
最近では参加してくれたアスリートたちからも、社会貢献の扉が開きだしていて、それぞれが活動を始めてくれているんですよ。
子どもたちが喜んでくれて、親御さんも喜んでくれて、アスリートたちも子どもたちからパワーをもらえる。
僕が思い描いていた以上の「喜びの循環」が実現しています。
桜華:私自身20歳まで芸能界にいたのですが、団体設立のことを芸能界で活躍する方々にもお知らせしたところ、皆さん「何かあったらお声を掛けてくださいね」と言ってくださったんです。
そして実際に、眞鍋かをりさん、山田まりやさんや谷村奈南さんなどにもイベントにご参加してくださったんですよ。
―「クリスマスイベント」にも力を入れているそうですね。
桜華:はい。以前から、児童養護施設で暮らす子どもたちがハッピーになって欲しいという想いがあり、2007年頃から都内にある児童養護施設に個人でボランティアに入ったんです。
2009年に1度だけ復活ライブをチャリティーイベントとしてやらせていただき、皆さんにご協力いただいたお金で、養護施設の子どもたちに丸い大きなクリスマスケーキをプレゼントさせていただいたんです。
そうしたら、「子どもたちは大きなホールケーキを見たことがなかったから、本当に喜んでいました」という喜びの声をいただきました。
その瞬間、これはもう一生続けていこうと決意して、今年で14年目になります。
毎年協力してくださる方が増えていき、2021年のクリスマスには1,000人以上の子どもたちへプレゼントを届けることができたんですよ。
本当の願いは児童養護施設がなくなること。児童養護施設がなくても、みんなで家族のように育て合うことができることが理想です…。
おそらく昔の日本ですよね。そういう社会が理想ですけれども、現状は何万人というお子さんが児童養護施設にいます。
子どもたちが夢をワクワク見るクリスマスの日は、児童養護施設で暮らす子どもたちにも本当に楽しんでもらいたいという気持ちで、今後もクリスマスの活動は続けていきます。
人と人を繋ぐ多くのイベントを開催予定
―今後開催予定のイベントや、支援の方法についても案内いただけますでしょうか。
桜華:「出会いの日」のイベントは、協会を立ち上げてからの2年間で4回開催しています。次回の開催日はまだ決まっていませんが、今後も半年に1回くらいのペースでおこなっていきたいと思っています。
1月には大野均さんのご協力で上田結華ちゃんの夢を叶えることができましたが、それ以外にもプロゴルファーの中嶋千尋さんが、ゴルフを教えてくれたり、カーレーサーの番場琢さんが子どもたちをレーシングカートに乗せてくれたりと、アスリートと子どもたちの約束がどんどん形になっています。
「出会いの日」のイベント開催はもちろんですが、その先の子どもたちやアスリートの幸せに繋がるようなもっと小さなイベントとも企画していきたいですね。
3月13日14時から、有楽町のマルイさんで開催される「インクルージョンフェス2022春」の一環として、私たちもイベントを開催します。
時節柄Zoomでの開催となりますが、安室奈美恵さんやBTSなど名だたるアーティストのバックダンサーを務めた田中亮さん、リオパラリンピック ウィルチェアーラグビー銅メダリスト官野一彦さんにもご出演いただくんですよ。
20代で脳梗塞を発症しながらも、懸命のリハビリによって社会復帰を果たし理学療法士として活動する小林純也さんが主宰する「脳フェス」の方々ともご一緒させていただきます。
また「ロハロハちゃんねる」といって、小児がん治療中に病室で知り合った子どもたちがやっているYouTube番組ともコラボをしていまして、当日は撮影が入ることになっています。
障がいがある、ないにかかわらず、みんなで楽しく遊べるイベントになりますので、少しでもご興味のある方はぜひご参加ください。イベントの詳細はこちらからお問合せください。
今後も、私たちにできることはジャンルを問わず、子どもでも大人でも喜んでいただけるイベントを開催していきたいですね。
私たちの活動はありがたいことに、本当に多くの方にご支援いただいており活動することができていいます。
もし、ご支援いただけるという方がいらっしゃいましたら、ホームページに「支援金の寄付」を掲載しておりまので、ご覧いただけたら嬉しいです。
―最後に、読者へ向けてのメッセージをそれぞれお願いいたします。
大山:国立競技場では上田ファミリーが奇跡のような1日をつくってくれました。
医師から、「この子は一生歩けないでしょう」と言われたときに、「この子は歩けないんだ…」と恵さんの心が折れていたら、国立競技場の1日はなかったわけなんですよね。
一番身近にいる人の信じる力は本当に大きいと思います。
僕自身も現役時代、怪我をたくさんしました。勝利よりも、負けてボロボロになった回数に方が多いですが、それでも母が、「あなたは大丈夫」と言ってくれていたんですよね。
どんなときでも、「あなたは大丈夫」という、母の言葉で自分の未来を信じることができました。
身近にいる保護者の方の言葉が一番大きいと思うので、お子さんの未来のためにも、何か困難が立ちはだかっても、ぜひ大丈夫だと信じてあげてください。
桜華:障がいのことだけではなく、どんな人でも本当に笑顔で、ひとり残らず幸せに暮らせる社会の実現に向けて一歩ずつですが活動していきたいと思っています。
障がいのこともそうですが、なかなか見た目だけでは分かりませんが、今、学校でもクラスに何人かはご飯が食べられない子どもがいる。そういう貧困問題もあります。
ちょっと困ったときに、「あそこに連絡してみよう」と思っていただけるような団体に、You-Do協会がなっていければ嬉しいです。
ー本日は大変貴重なお話をありがとうございました。
取材協力:一般社団法人You-Do協会