NPO法人あした場が運営する「poco a poco(ポコ ア ポコ)」は、東京都荒川区にある児童発達支援教室。
専門的な療育を必要とする未就学児とその保護者の方に向け、さまざまな取り組みをしています。
今回は代表理事の小川 明子さんにpoco a pocoの個別療育・集団療育および音楽療法のプログラムについて教えていただきました。
荒川区近辺の療育施設を探している方、子どもの障害との付きあい方に悩んでいる方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
できることが増える個別療育・集団療育プログラム
ー本日はよろしくお願いします。まず「個別療育」について教えてください。
小川 明子さん(以下、小川):個別療育はお子さんの発達状況や特性にあわせ、先生と1対1で必要な療育にじっくりと取り組むプログラムです。
具体的に何をするかは、お子さんの抱える課題によって変わってきます。
一番多いのは「言葉が出ない」という悩みです。言葉が出ない原因はいろいろあり、たとえば口の機能が未熟な場合は、口の動かし方や発音の練習をおこないます。
吃音、いわゆる“どもり”は環境が原因になっているケースが多いので、お子さんの普段の様子のヒアリングから始めて、保護者の方と協力しながら本人にとってプレッシャーのない環境に調整します。
そもそも他人に興味がないから言葉が出ないケースも多いです。この場合、会話の必要性をお子さんが感じていないのが原因なので、言葉の練習よりも、まず人に興味をもってもらうことから目指します。
大人と1対1でじっくり深く遊びながら、自分の気持ちや要求を相手に伝える練習を重ねると、少しずつやりとりが成立するようになっていくんです。
ー「言葉が出ない」という悩みのほかに、どのような悩みが多いですか?
小川:次に多いのは「感情のコントロールが苦手」という悩みです。
この場合、目で見てわかるように絵カードを使って「始まりと終わり」の概念をお子さんに説明し、見通しを持って活動に参加してもらいます。
なかには注意がそれやすく、じっとしていられないお子さんもいるのですが、それは本人の動きたい要求がものすごく高いからです。
しっかり身体を動かして要求を満たしてあげると話を聞ける状態になるので、そこで初めて絵カードを使った説明に移っていきます。
着替えが苦手など身体をうまく使えない、箸や鉛筆をうまく使えない、という悩みも多いですね。
この場合は、自分の手足がどこにあり、どう動くのかイメージを持ってもらうため、まずは全身を使う運動から始めて、次に指先の細かい動きの練習を重ねたうえで、できることを増やしていきます。
ー「集団療育」の内容についても教えてください。
小川:集団療育ではお子さんの特性と課題に応じてクラス編成をおこない、3~5人の小集団で活動します。
訓練の内容は個別療育とそれほど変わりませんが、「順番を待つ」「友達がやっていることを応援する」など、集団ならではのルールに従いながら活動する点が個別療育との大きな違いです。
ー個別療育・集団療育を受けた保護者の方の感想はいかがですか?
小川:「できることが増えました」「椅子に座れるようになりました」「友達にちょっと興味が出てきました」「言葉が少しずつ増えてきました」という感想をいただいています。
できることが増えた分、また課題も出てくるので、家庭や保育園・幼稚園での様子を聞きながら、そのときそのときの発達に応じた課題を明確にして訓練していくよう心がけています。
演奏を通じて自己肯定感を高める音楽療法
ー音楽療法プログラムの内容を教えてください。
小川:音楽療法の目的は、音楽を楽しみながらできることを増やすことです。
音楽にはいろいろな作用があって、楽器の演奏を通じて手の操作性が高まったり、音楽にあわせて歩く練習をすると普段より頑張れたりするので、子どもの自己肯定感が上がっていきます。
また音楽を通してアイコンタクトを取れることも多く、言葉が出ないお子さんが自分の意思を相手に伝えやすくなるメリットもあります。
このように音楽療法は、成長発達に重要な「自己肯定感」や「意思疎通力」を高めるのにとても適した療法なんです。
ちなみに音楽療法に参加されるのは、個別療育に入る前段階の小さなお子さんが多いですね。
0~2歳の母子分離の経験がないお子さんに関しては、保護者の方に一緒に参加いただいたり、1人でする訓練の際も保護者の方に外で待っていただいたりと、さまざまな形態で対応しています。
ー音楽療法を受けた保護者の方の感想はいかがですか?
小川:個別療育・集団療育と似た感想が目立ちますが、「家にある楽器を自分で演奏するようになった」「名前を呼ばれると返事できるようになった」という感想もお寄せいただいています。
音楽療法では音楽にのせて返事や挨拶の練習もするので、その成果が表れた例だと思います。
コンサートや成年後見制度の勉強会を開催したい
ー今後、開催予定のイベントがありましたら教えてください。
小川:やりたいイベントはたくさんあるのですが、コロナ禍でまだ見通しが立っていないので「いつ何がある」とは断言できない状況なんです。
1つ過去のイベントを紹介すると、NPOとしての活動でクリスマスコンサートをおこないました。
医療的なケアが必要なお子さんや、座っていられなかったり急に大声を出したりするお子さんは、なかなかコンサートには行きにくいのではと思います。
でも私たちが開催するコンサートは、会場内を立ち歩いてもいいし、音が嫌になったら途中で退室してもいいというコンセプトでしたので、150人くらいの障害を持つお子さんとご家族が集まりました。
コロナ禍が収束したら、まずはこのクリスマスコンサートをやりたいと考えています。
ほかにも親亡きあとに関わる「成年後見制度」の勉強会や、障害を持つお子さんの保護者の方向けのペアレントトレーニング研修などオフラインの場で開催したいですね。
まずは障害の受容から!身近な相談先を見つけてほしい
ー最後に読者の方へ一言メッセージをお願いします。
小川:私の子どもにも障害があり、それが「児童発達支援 poco a poco」を始めるきっかけになりました。
おそらく保護者の方にとって、子どもに障害があることを知ってから療育をはじめるまでが一番つらい期間ではないでしょうか。
自分の子どもの障害を受容しないと何も始まらないのですが、そこが一番厳しいところでもあるので、まずは身近な相談先を見つけましょう。私は話しができる相手がいることで、不安で押しつぶされそうだった気持ちが、とても楽になりました。
ただ残念なことに、行政からはきめ細やかな手を差し伸べてもらえない場合が多いので、自分で相談先や支援者を探し求めなければならないのが現状です。
それでもみなさんの想像以上に支援をしてくれる方は多いです。私自身「障害を持つ子どもの療育に手を尽くしたいと考えている人はたくさんいる」と実感しています。
ですから諦めずに自分の望む療育を受けられる環境、将来のことまで相談できる相手を探していただければ、必ず見つけられると思っています。
私たちも未就学児に対する療育のほか、就学に関する相談や将来的に役立つ制度の情報提供もおこなっているんですよ。
ぜひそういった情報にアンテナを立てて、適切な支援者とつながっていただきたいなと思います。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:あした場 poco a poco