地理で習う「リアス海岸」といえば、のこぎりの歯のように入り組んだ複雑な海岸地形のこと。
今回紹介する「国立若狭湾青少年自然の家」は、日本の代表的なリアス海岸の一つ、福井県の若狭湾にあります。
地盤の沈降によってできた湾は、ダイナミックな海岸の美しさが特徴です。
目の前に海、背後に森林を控えた豊かな環境の中で、どのような自然体験ができるのでしょうか。
「国立若狭湾青少年自然の家」次長の渡邊 剛志(わたなべ たけし)さん、主任企画指導専門職の小川 慎司(おがわ しんじ)さん、事務係員の小谷田 裕美子(こやた ゆみこ)さんに、若狭湾ならではの体験プログラムについて、お話を伺いました。
恵まれた自然環境を活かした体験活動を提供
ー本日はよろしくお願いします。まずは「国立若狭湾青少年自然の家」が設立された経緯と、活動内容をお聞かせください。
渡邊 剛志さん(以下、渡邊):国立青少年教育振興機構は、「体験活動を通した青少年の自立」をスローガンに、青少年の健全育成に取り組む日本全国に複数ある教育施設です。
私どもの「国立若狭湾青少年自然の家」は、当時の文部省の学制百年記念事業の一環として、昭和59年(1984年)に設立されました。
平成18年(2006年)に、独立行政法人国立青少年教育振興機構という組織に統合されましたが、設立当初から数えれば、もうすぐ40周年ということになります。
施設は若狭湾国定公園に突き出た田烏半島(黒崎半島)の海浜に位置し、すぐ目の前が海、そして背後には標高300メートルの森林が広がっています。
湾内のため海は穏やかで水が非常にきれいで、森林には山桜やツツジなどの木々や、シカやサルなどの野生動物が暮らしていますよ。
「国立若狭湾青少年自然の家」では、このような恵まれた自然環境のなかで宿泊や体験活動を提供しており、宿泊場所と海がこれほど近い施設はなかなかありません。
ー「国立若狭湾青少年自然の家」の施設をご紹介ください。
小谷田 裕美子さん(以下、小谷田):まず宿泊施設についてですが、「宿泊棟」は6棟あります。定員はおよそ300名ですが、コロナ禍の現在は約半数の170名と制限をしています。
室内で活動できる場所としては、「生活研修棟」があり、「研修室」や「食堂」、レクリエーションができる「プレイホール」、山側には「トビーホール」という体育館があります。
また、海で採取した生き物を顕微鏡で観察したり、実験したりできるのが「海の学習棟(海学棟)」という建物です。
イメージとしては、理科室兼、家庭科室のようなところで、料理体験もここでおこなっています。このほか、アウトドアクッキングができる「野外炊事場」が2カ所ありますね。
そして、これは海沿いの青少年自然の家ならではの施設だと思いますが、「カッター挺庫」という舟の倉庫をもっています。
「カッター」とは、全長9メートル、重さ約1.5トン、最大24人で漕ぐ舟です。艇庫にはカッター8艇のほか、救助に使用する「わかさ」なども収納されているんですよ。
海へ漕ぎ出し森に分け入る冒険プログラムが満載
ー「国立若狭湾青少年自然の家」の体験プログラムについて、詳しく教えてください。
小川 慎司さん(以下、小川):団体向けに提供しているプログラムは、「カッター」がメインです。乗組員全員でオール(櫂)を使って、「全力・協力・最後まで」を合言葉に、大海原に漕ぎ出していきます。
イルカの群れや、トビウオが跳ねているところに出会えることもありますよ。
また、ぜひ体験してほしいのは、「スノーケリング」です。若狭湾にはリアス海岸沿いの手つかずの山から、沢を通って栄養をたくわえた水が流れ込んでいます。
海の中を覗くと、豊かな海藻と、そこを住み家にする魚や生き物たちがたくさん見られ、手にとってみることもできますよ。
ほかにも「シーカヤック」や「サップ」に乗って、海の散歩を楽しむことができるのも魅力です。
これらの海の活動は、職員が安全を第一に指導をおこなっています。
森をフィールドとした活動も人気があり、初心者向けの自然歩道や、山の尾根を歩くコース、樹木を観察しながら歩く「グリーンウォッチング」など、さまざまなプログラムも用意しています。
「トビーの森探検隊」というプログラムでは、聴診器やメジャーなどを利用して、五感を使って森の豊かさや森と海とのつながりについて感じられるストーリーになっていますよ。
これらのプログラムは、宿泊学習などで利用される団体に提供しているものです。
そのほかにも幼児向けの、海で泳いだり、磯観察をして生き物に触れたりするプログラムを用意して、周辺の幼稚園の年長児に体験してもらったりと、当施設が主催する事業を年間30本ほど企画していますね。
秋は「森の声」を聞きながら、環境について考えみよう
ー今後、開催予定のイベントなどがあれば教えてください。
小川:夏は2泊3日で主にシーカヤックで移動し、無人島で宿泊する「若狭湾海冒険」、ほかにもSDGs目標15「海の豊かさを守ろう」を意識した事業を、各発達段階に応じて開催しています。
また、親子が対象の「ファミリーチャレンジ祭」や「わかさde海活」というイベントもありますね。
小谷田:10月には小学校1年生から3年生の子どもを含むご家族を対象として「森の声キャンプ」を1泊2日で予定しており、紅葉のすすむ秋の森でレクリエーションをしたり、ダッチオーブンを使った料理体験を予定しています。
この企画で意識したのは、SDGs(エスディージーズ)の目標15番「陸の豊かさも守ろう」というテーマです。
森でゆったりした過ごしながら、「人と森の関わりを体感し、持続的可能な森づくりのためにできること」を考えるきっかけになるようなイベントにしたいと考えています。
小川:11月には、若狭地域の伝統的な食に触れる「食文化体験」があるんです。
サバを塩と糠に1年間漬け込んだ「へしこ」に米麴を詰め込んで発酵させる保存食の「なれずし」を作る予定ですね。この「なれずし」は食の世界遺産「味の箱舟」に認定された郷土料理なんですよ。
来年3月には、地元の小浜市と連携して、近年、全国的に頻発している災害について考える「防災キャンプ」も企画していますよ。
日常の中で生きてくる体験を届けたい
ー今後の展望をお聞かせください。
渡邊:今後、重点的に取り組んでいきたいと思っていることは2つあります。
1つ目は、「海の環境教育」です。せっかく「国立若狭湾青少年自然の家」のような恵まれた施設があるのですから、海のことを、ぜひここで学んでもらいたいと思っていますね。
学びのアプローチは子どもの発達段階によって異なりますので、幼児、小学生、中学生、高校生と、それぞれに合わせたプログラムを考えているところです。
2つ目は、「SDGs」です。「SDGs」は今、学校でも取り組みが多くなっていますし、ご家庭でもいろいろなメディアから耳にする機会が増えていますよね。
私たちの施設での体験を通して、より深く「SDGs」について学んでもらうことで、子どもたちの心に深く根ざし、そこから環境への興味・関心が湧いてくると思うのです。
「わかった」「楽しかった」だけで終わるのではなく、家に帰ってからも、その後の日常に活かせるような体験を、提供できればいいなと思っています。
ー最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
小川:コロナ禍で自粛生活が続き、体を動かすことや自然に触れる機会が少なくなっているのではないでしょうか。
「国立若狭湾青少年自然の家」で自然体験活動をすることで、親子ともに、心と体をリフレッシュしていただきたいですね。
若狭湾のキャッチフレーズは「つながろう そこにあるのは 海と山」です。自然とつながり、仲間とつながり、そして自分とつながる。
海と山での自然の体験が、子どもたちを大きく成長させるきっかけになればと思います。
小谷田:
ダイナミックな自然環境の中で過ごすと、自分自身も、仲間も、日常とは別の姿として見えてきます。
その体験は、子どものさまざまな変容につながるはずです。
コロナ禍ではありますが、「国立若狭湾青少年自然の家」では、できる形で、自然体験の機会を提供し続けていきたいと思っています。家族で過ごす時間の一つの選択肢として、お越しいただければ嬉しいです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:国立若狭湾青少年自然の家