皆さんが住む町の「郷土料理」と聞くと、何を思い浮かべますか?
日本には、各地域の風土に合った食材や調理法でつくられる、昔から伝えられてきた郷土料理がたくさんあります。
しかし近年、少子高齢化が進むにつれて、地域で継承されてきた食文化が存続の危機に瀕しています。
鹿児島県霧島市で活動するNPO法人「霧島食育研究会」は、豊かな自然のなかでの「食農体験」や「郷土料理教室」の開催を通して、子どもたちに食の大切さを伝えている団体です。
今回は、「霧島食育研究会」理事長の千葉 しのぶさんに、活動内容や開催予定のイベントについて伺いました。
子どもたちに、食や料理に対する興味をもってほしいと思っている保護者の方は、ぜひチェックしてみてください。
霧島の地で「食の大切さ」を伝えるため発足
―本日はよろしくお願いします。まず、「霧島食育研究会」の設立経緯と活動概要について教えてください。
千葉 しのぶさん(以下、千葉):NPO法人「霧島食育研究会」は、鹿児島県の北部にある霧島市霧島地区で活動している団体です。
2005年に鹿児島県の1市6町が合併し、人口約12万5,000人の霧島市が誕生したのですが、霧島地区は旧霧島町だった地域で、現在人口は5,000人ほど、高齢化率は40%を超えています。
私は、管理栄養士として鹿児島県内で活動していくなかで、霧島地区には2つの課題があると感じました。
1つ目は、親が食の大切さを子どもに伝えきれていないということ。
そして2つ目は、食べ物をつくる人(農家)が少なくなっているということです。
これら2つの課題を解決するためには、全体に“食べることの大切さ”を伝えていく必要があると思い、「霧島食育研究会」を設立したんですよ。
「霧島食育研究会」では、霧島で食の大切さを伝えるために、「食農体験プログラム」や「郷土料理の伝承活動」をおこなっています。
これまでに、主催事業を1,100回、全国各地での講演を700回ほど実施しました。
団体を発足した当時は8名ほどのメンバーでしたが、さまざまな職業や年齢の方が集まり、現在では15名のメンバーで活動しています。
農作物を育てて食べるまでの「食農体験」を実施
―「霧島食育研究会」の活動内容について教えてください。
千葉:「霧島食育研究会」では、大きく分けて2つの活動を中心におこなっています。
1つ目は、作物を育ててから食べるまでの一貫した食農体験「霧島里山自然学校」です。
「霧島里山自然学校」では、私たちが借りている畑や田んぼで、年間を通してお米や大豆を栽培する「霧島・畑んがっこ」と名付けた授業をおこなうんですね。
お米の栽培では、収穫後に脱穀したりお米を炊いて食べるという一連の作業を体験できるので、子どもたちはプログラムを通して多くのことを学ぶことができます。
たとえば、1つのおにぎりが2,000粒のお米からできているとしたら、「おにぎりをつくるのに何株の稲が必要になるのか?」「1年間に消費するお米を作るにはどれくらいの広さの田んぼが必要か?」などを考えてもらうんですよ。
お米を1から育てて食べるというのは、子どもたちにとって、一生のうちのたった1年間の体験かもしれません。
しかし、この体験を通して、お米をつくっている人(農家)がいるからこそ、おいしいごはんが食べられるということを実感してもらい、自分が親になったときに、その経験を子どもに伝えてほしいと思います。
2つ目は、単発でおこなっている食農プログラムで、子どもたちが集まり、ピザや豆腐をつくるという活動ですね。
ピザづくりは、ただ単に用意された材料や設備を使ってピザを焼くのではなく、レンガやブロックを使い、簡易的なピザ窯をつくるところから始めます。
自分たちで火をおこして、手づくりピザを焼いて食べます。
食べることの楽しさはもちろんですが、1枚のピザがどうやってできるのかを学ぶことができるんですよ。
―「郷土料理教室」も開かれているのでしょうか?
千葉:はい。「霧島食育研究会」では、4つの郷土料理教室を開講しています。
そのなかのひとつに、鹿児島の郷土料理を学んで、家庭や地域で継承できる人材を育成する「かごしま郷土料理マイスター養成講座」がありますが、こちらは料理ができる大人を対象とした講座です。
子ども向けの郷土料理教室もおこなっています。
郷土料理と言うと敷居が高く感じられるかもしれませんが、60分間のなかで、小学3、4年生の子どもたちでもつくれるようレシピを工夫して“鶏飯”や“ふくれ菓子”といった郷土料理に挑戦するんですよ。
また、高校生向けに、そばと野菜を煮込んだ「そばすい」という霧島の郷土料理をつくるイベントも実施しました。
こういったイベントの参加をきっかけに、子どもたちが、鹿児島の食文化や郷土料理に興味をもってもらえるとうれしいですね。
食文化の豊かさを実感してもらうイベントを開催
―これから開催予定のイベントがあれば教えてください。
千葉: 1年に1回「霧島・食の文化祭」というイベントを開催しています。
「霧島・食の文化祭」は、家庭料理などで、自分が好きな料理やいつも食べている料理を持ち寄って展示するという、霧島の食文化の豊かさを実感してもらうイベントですね。
参加者が、持ち寄った料理への思いを紙に書いて記録したり、ほかの料理を見て、どのような郷土料理や家庭料理があるのか学ぶことができます。
昨年度は12月に開催しましたが、今年度は2022年3月に開催を予定しています。
また、10月以降の「霧島里山自然学校」では、稲刈りや大豆の脱穀をするといったイベントを用意していますよ。
基本的に「霧島里山自然学校」は、4月から11月まで毎月1回活動をおこなっており、年間通して参加していただくものになりますが、毎年いつの時期からでも入ることが可能です。
子どもたちにさまざまな食の体験を提供したい
―今後の展望を教えてください。
千葉:今後は、食農体験と学習を組み合わせた活動を続けていきたいと思っています。
たとえば、自分でピザを焼くためには、ピザ窯をつくって火をおこす必要がありますが、「火をおこすためには何が必要か?」を考えられる子どもたちを育てていきたいのです。
また、子どもだけではなく、その保護者の方や地域社会全体に、“食べることの大切さ”を伝える活動をしていきたいですね。
―最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
千葉:子どものころに食べてきたものは、“食の思い出”として、心のなかに深く残っているものなんですよ。
多くの子どもたちに、ふるさとの味を広く伝えていくため、農作物を育てておいしく食べることはもちろん、「霧島・食の文化祭」への参加など、さまざまな食の体験をしてもらいたいと思います。
興味のある方は、ぜひ「霧島食育研究会」 の体験プログラムやイベントに参加してみてくださいね。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。
■ 取材協力:NPO法人 霧島食育研究会