体調がよくないとき、「病院にかかるべきか」「薬を飲むべきか」「どのような薬を飲むべきか」を判断するには、薬に関する知識が必要です。
その知識を学ぶことを“薬育”と言い、薬育は、自分や周りの人の健康を守る方法を知ることにつながります。
NPO法人「日本薬育研究会」は、遊びを通して、正しい薬の使い方や手の洗い方を子どもたちに教えます。
今回は、「日本薬育研究会」代表の小路 晃平さんに、活動内容について伺いました。
“コロナ禍”の今、「子ども自身で自分の身を守れる知識を身につけてほしい」とお考えの方は、ぜひご一読ください。
「セルフメディケーション」できる社会を目指して設立
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、NPO法人「日本薬育研究会」の設立経緯を教えてください。
小路 晃平さん(以下、小路):私が大阪の薬学部に通う大学生だったころ、学校祭で子どもたちのために、お薬の正しい使い方を学べる体験教室 “薬剤師体験教室”を開いたことが、NPO法人「日本薬育研究会」設立のきっかけです。
“薬剤師体験教室”のなかで子どもたちがお薬について積極的に楽しく学ぶ姿を見て、「子ども向けのお薬教室を学校祭だけで終わるのはもったいない、継続的に実施したい」と感じたのです。
それから、大学生の間はサークル活動として子ども向けのお薬教室を続けていたのですが、社会に出て薬剤師となってからも「薬の正しい使い方を広く伝えることは薬剤師として大切な活動だ」という気持ちがありました。
そこで、まずはボランティア団体として子ども向けのお薬教室の団体を設立し、2020年10月からNPO法人として「日本薬育研究会」の活動を開始しました。
ー続いて、
活動概要と目的について教えてください。
小路:「日本薬育研究会」は、お薬の適切な使用方法を子どもたちに教える“薬育”をおこないます。
たとえば、小学生を対象に「お薬教室」や「手洗い教室」を開催しています。
活動場所は、放課後児童クラブやボーイスカウトの教室、それから外部のイベントでお薬体験のブースを出展するなど、さまざまなかたちで子どもたちがお薬について学べる機会を設けています。
中学生や高校生に対しては、学校の保健体育の授業として「薬物乱用防止教室」を実施することがありますね。
なぜ私たちがこのような活動をおこなっているのかというと、「お薬を正しく使うことの大切さを子どもたちに積極的に学んでほしい」という思いがあるからです。
また、お薬について学ぶことで、一人ひとりが「正しく」「安全に」セルフメディケーションできる社会となることを目指しているんですよ。
セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度なからだの不調は自分で手当てする」ということです。
自分自身の健康に責任を持つためには、まず普段の食事や睡眠に対する意識が必要ですが、それに加えて「薬を使うべきか使わないべきか」「自分で治せるものか」「病院を受診しなくてはいけないか」といった判断をするための知識も必要ですよね。
そのセルフメディケーションの知識を子どもたちに備えるために、私たちは“薬育”をおこなっているのです。
オリジナル教材で楽しく薬の使い方を理解する
ー「日本薬育研究会」の活動内容について、具体的に教えてください。
小路:まず「お薬教室」では、依頼をもとに講師が放課後児童クラブやイベントに赴き、そこで授業や薬育活動をおこないます。
たとえば、未就学児から小学校低学年を対象とした「カラダスケール」という授業では、子どもたちに薬剤師になりきってもらうんですよ。
教材には「処方せん」「お薬」「病気の模型」「天秤」があり、まず処方せんの絵柄にあったお薬をカプセルに集めてもらいます。
ただ集めるのではなくて、病気の模型と同じ重さになるように、手で重さの感覚を確かめながら集めてもらいます。
天秤の片方に病気の模型、反対側には選んだお薬をのせて重さが釣り合うか確認することで、その病気に対する適切な量のお薬を調べることができるという仕組みですね。
病気のほうに天秤が傾けば薬が効いていないということになり、薬のほうに天秤が傾けば、効果が強すぎて薬がからだに悪さをしてしまう…いわゆる“副作用”を表します。
このように、「薬は多すぎても少なすぎてもだめ。決められた飲み方で決まった分量を飲まないと、病気が治らなかったり副作用というのが起きますよ」ということを、遊びのなかで学んでもらうのです。
また、小学生を対象とした、薬の副作用について学ぶ「クスリミックス」という授業がありますね。
「クスリミックス」では、「くまちゃんのほっぺ」と呼ばれる液体成分にいろいろな薬を投与します。
複数の薬のなかから、「元気なほっぺになる薬」「普通の薬」「副作用が出る薬」をそれぞれ探してもらいます。
副作用についてだけではなく、「副作用についてはお薬手帳に書いてあるよ」とお伝えすることで、“お薬手帳”の重要性も学んでもらうんですよ。
小学校高学年を対象とした「サワルケミカル」では、少し難易度を上げて化学反応について学びます。
薬は、空気にふれる状態で放置したり車のなかに置きっぱなしにして熱を与えたり、水気に晒すと効果が落ちるのですが、それを体験できる授業が「サワルケミカル」です。
各教室の講師やスタッフにおいては、私たち「日本薬育研究会」メンバーのほか、全国の薬剤師や教育者からの有志も募っていますね。
このように、私たちはさまざまな薬育活動をおこなっているので、「私たちの放課後児童クラブでお薬教室を開催してほしい」などのご希望があれば、ぜひ当団体のやFacebookからご依頼ください。
ー薬育に関する教材の開発もおこなっているのでしょうか?
小路: 教材開発にも積極的に取り組んでおり、現在は中学生や高校生向けの薬育教材として、「一般薬品の使い方を学ぶためのボードゲーム」を開発中です。
参加者たちで薬の添付文書を作成し、それをボードゲームで使用するため、薬の添付文書の見方を学ぶことができます。
リズムに合わせて学べる「手洗い教室」
ー今後、「日本薬育研究会」で開催予定のイベントがあれば教えてください。
小路: 最近では、新型コロナウイルスの影響もあり衛生面を気にされている方が多いため、「手洗い教室」の開催を積極的におこなっています。
手洗い教室では、「手洗い忍者」というゲーム要素を取り入れながら、正しい手の洗い方を教えます。
手を洗うときの手の合わせ方や、指の隙間の洗い方は、忍者が忍術を使う動作に少し似ていると思いませんか?
そこで、たとえば「にんにん、しゅしゅしゅ」というスライドが表示されたら、リズムに合わせて手のひらを洗い、「しゅっしゅ」と表示されたら、リズムに合わせて手の甲を洗う…といったかたちで正しい手の洗い方を学んでいきます。
あとは、消毒液の正しい使い方に関する授業もおこなっているので、こちらもおすすめですよ。
ただ、現在は新型コロナウイルスの影響により日程がなかなか定まらないため、まずはご依頼のお問い合わせをしていただければ日程の調整も可能ですので、よろしくお願いいたします。
子どもたちの衛生環境を守るサポート
ー「日本薬育研究会」の今後の展望についてお聞かせください。
小路:学校は現在、新型コロナウイルスの対応に追われ時間に余裕が持てず、授業で薬育をおこなうことはより難しくなっているのではないでしょうか。
しかし薬育は、すべての子どもの生活や健康に直結するかけがえのない学びです。
私たちは、全国各地、子どもたちが集まるところを中心に、より一層薬育を広げていきたいと考えています。
また、放課後子どもクラブや家庭で、楽しくお薬や衛生について学べる教材づくりもどんどん進めていきたいですね。
ー最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
小路:「日本薬育研究会」では、子どもの成長の早期からのお薬教育を中心に授業をおこなっています。
コロナ禍の今、学校や放課後子どもクラブの先生やスタッフの方々は、子どもたちの衛生面に関する指導にとても苦労されているのではないでしょうか。
最近では、子どもたちが消毒薬を使う機会も増えていると思いますが、消毒薬も薬のひとつなので、消毒薬の適正な使用というのも現在は重要な課題だと思っております。
そこで私たちは、子ども向けの手洗い教室を開催するなどして、先生やスタッフの方々に対する「子どもたちにとっての適切な衛生環境をつくる、保つための支援」のサポート をさせていただけないかと考えています。
子どもたちの健康と未来のため、ぜひ協力できればと思っていますので、お気軽にご相談ください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:NPO法人 日本薬育研究会