障害を持つ方々は就労などの面でハンディキャップがあり、自立して生活するのに苦労されています。
成人してからの支援ではなく、子どものうちから将来を見据えて自力で生活することができるよう支援することが大切になってきます。
鹿児島県姶良(あいら)市にあるNPO法人「サポートロコペリ」では、障害を持つ方に対して年少からの療育事業をおこなってます。
今回は代表の伊集院 麻子さんに、「サポートロコペリ」の具体的な活動やプログラムについて詳しくお話を伺いました。
障害を持つ子どもが将来自活するための支援を
―本日はよろしくお願いします。まずは、「サポートロコペリ」を立ち上げたきっかけを教えてください。
伊集院 麻子さん(以下、伊集院):この法人を立ち上げたのは、障害を持つ子どもたちが将来自力で生活できるようになるための支援をおこないたいと思ったことがきっかけです。
私はもともと精神科の看護師をしていたのですが、障害を持つ成人の就労は難しく、成人になってからの支援に限界を感じていました。
なるべく早期に、年少から療養事業をおこないたいと思うようになり、NPO法人「サポートロコペリ」を立ち上げたのです。
―具体的にはどのような療養事業をおこなっているのでしょうか?
伊集院:発達障害を持つ子どもたちに対する療養の支援としては、2歳から6歳の就学前のお子さんに関しては「児童発達支援」を、6歳から18歳までのお子さんには「放課後等デイサービス」での支援をおこなっています。
また、ご家庭や保育園、学校への療育の情報提供もしています。
それぞれのお子さんの特性や、関わり方のアセスメント(評価)をおこない、障害を持つ子どもたちを取り巻く方々への理解を促すことができるような活動もおこなっています。
「好きなこと」「できること」「うれしいこと」を1つでも増やす
―先ほどお話に挙がった「児童発達支援」の活動について詳しく教えてください。
伊集院:「児童発達支援」では、子どもの発達には個人差があることを念頭に、遊びのなかで好きなことを見つけて個性を育むことを目指しています。
将来の自立には「好きなこと」や「できること」、「うれしいこと」を1つでも多く増やすことが重要です。
それらを遊び・運動・習い事など、さまざまな体験を通して見つけようとしています。
また、日常生活における基本動作の指導、知識や技能の習得、集団生活への適応訓練も重要です。
これらの訓練や習得のために、保育園や幼稚園と連携をとりながら、支援をおこなっています。
―「放課後等デイサービス」の活動についても教えてください。
伊集院:「放課後等デイサービス」では、「できる」という体験を重ねることで社会的自立を目指しています。
イベントを通して地域の人と関わりを持ったり、施設外活動を繰り返しながら社会の仕組みを理解するような活動から、就労につながる具体的な取り組みができるようサポートするのが目的です。
たとえば、夏祭りのイベント開催を計画すると、子どもたちはどんな店を出すのか?名前は?値段は?といったことを考えます。
あるいは、調理実習なら、なぜ人は食事をするのか?から考え、必要な材料をピックアップして皆で買い物に出かけます。
こういった一つひとつの成功体験が子どもたちの活力になると考えています。
もちろん、子どもたちは一人ひとり個性が違いますので、「好きなこと」や「できることは」異なります。
できることで貢献し、できないことは助け合い、皆で力を合わせて日々チャレンジしています。
一人ひとりに合わせたオリジナルプログラムで支援
―各支援にはどんなプログラムがありますか?
伊集院:まず前提として、お子さんは一人ひとり個性や発達の状況が異なります。
言語療法・心理療法など専門家のアドバイスのもと、お子さんに合わせて、オリジナルにプログラムを作って支援をしています。
「児童発達支援」では、「就学前プログラム」を実施しています。
これは、子どもが今できていることを確認しながら、未経験な項目に関して経験を重ねて、就学前の準備をおこなうためのプログラムです。
事前に子どもがしっかり体験することで、不安なく学校に行くことができるような支援を準備しています。
また、ワーキングメモリーのトレーニングもプログラムの1つです。
ワーキングメモリーとは、短い時間に脳のなかで情報を保持し、同時に処理する能力のこと。
発達障害のお子さんはワーキングメモリーの発達が未熟で、聞いたことを記憶しておくことができず、指示に従えなかったり忘れ物をしたりと生活の場面で困ってしまう行動がみられることがあります。
そこで、最新の脳科学の研究結果に基づき、ワーキングメモリーの能力を高めるために開発されたトレーニングソフトを使い、個別で楽しくトレーニングをしています。
こう聞くと難しそうに思えるかもしれませんが、毎日たった10分程度のトレーニングです。
―「放課後等デイサービス」にもプログラムがあるのでしょうか?
伊集院:はい、「放課後等デイサービス」では、「コミュニケーションプログラム」をおこなっています。
小学生から上のお子さんの場合、学校における集団でのコミュニケーションに困るケースが多々あります。
そこで、自分がどういうコミュニケーションスタイルをしているかを、お子さんご自身と家族の両方に理解していただき、そのうえでどういう風にコミュニケーションしていったらいいかということをトレーニングします。
また、保護者のための「ペアレントトレーニング」も用意しています。
子どものほめ方についてお母さん同士がグループワークをしたり、「虹色スイッチの会」という保護者の会を月に1回開いて、困っていることに対しての情報提供や相談をおこなったりしています。
たとえば、子どもを一人で留守番させるのが心配という悩みに対しては、「お留守番プログラム」を実施。
家族と事業所と本人が留守番に関しての必要なスキルを確認し、足りないスキルを練習することで、一人で留守番できるようになる支援をおこなっています。
発達障害の子どもが地域社会で生活しやすい環境づくりを目指す
―今後の活動について、展望や目標などありましたらお聞かせください。
伊集院:個別的な支援の方法など、私たちが持つ多くの成功事例をもっとたくさんの人に知っていただきたいです。
そして今以上に、発達障害の子どもたちが地域社会で生活しやすい環境づくりを目指したいですね。
また、子育てをされている方へ、子育てに必要な情報をできるだけ多くの方に提供できるようにするのも目標です。
現在は地域を限定して支援をおこなっていますが、今年から県内外問わず、ほかの地域からもオンラインでつながり、個別の支援をする予定です。
もちろん、子育てに関わる幼稚園や保育園、学校、地域への発達障害に関する理解の啓発も重要ですので、講演会やYouTubeでの発信は今後も続けていきます。
―最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
伊集院:子育ては、障害があってもなくてもお子さん一人ひとりにあったオリジナルの子育てが必要です。
とても大変なことではありますが、親自身の成長にもつながると思っています。
そして、療育や子育ての情報をたくさん知ることで、長い人生のなかでほんの短い期間ある子育ての時間を、ちょっとでも親子で笑って過ごせるようになっていただきたいです。
子育ての情報をたくさん集めて、ぜひお子さんにあったオリジナルの子育てを楽しんでください。
―本日は貴重なお話をありがとうございました!
■ 取材協力:NPO法人サポートロコペリ