日本の子どもたちのなかには農業を体験したことがなく、「野菜や果物がどのように作られているのか」「作るためにはどのような苦労があるのか」などのことを知らない人がいるかもしれません。
NPO法人「小田原食とみどり」は、農業体験を通して農業や食の大切さについて学べるプログラムを用意している団体であり、後継者不足などの問題に苦しむ地域への貢献を目指しています。
今回は、NPO法人「小田原食とみどり」事務局長の岸 久美子(きし くみこ)さんに、活動内容や今後の展望などについてお話を伺いました。
自然と触れ合いながら、農業の楽しさを子どもたちに知ってもらいたい方は、ぜひチェックしてみてくださいね!
農業を中心とした地域づくりを目指す
―本日はよろしくお願いいたします。まずは、「小田原食とみどり」の設立経緯や活動などの概要について教えていただけますでしょうか?
岸 久美子さん(以下、岸):NPO法人「小田原食とみどり」は、生活協同組合を母体として2004年に設立されました。
当初は産直生産者と消費者との交流が目的だったのですが、設立から17年の月日を重ねてきたことで地域の農業にかかわる活動が増加し、地域貢献をおこなうNPO法人となりました。
活動では、農業を核とした地域づくりを目指し、持続可能な農業・地産地消・グリーンツーリズムの推進をおこなっています。
具体的には、「農の学校」「小田原玉ねぎを作ってみよう!」「さつまいも栽培体験」などの農業体験プログラム、特産物である「十郎梅」の普及活動、小学校での食育活動、地元生産者の広報活動支援などをおこなっています。
総合的な農業体験をおこなう「農の学校」
―活動プログラムでは、どのようなことをおこなっているのでしょうか?
岸:「たんぼの学校」「はたけの学校」「ハーブの学校」「果樹の学校」などの「小田原農の学校」では、総合的な農業体験がおこなえるのが特徴です。
一般的な農業体験といえば、稲刈り体験やお芋の収穫体験など、農業のなかに含まれる一部の作業のみを体験することが多いかもしれません。
しかし、「小田原食とみどり」のプログラムでは、「学校」と呼んでいることもあり、1年を通して農作業を続けていくカリキュラムを組んでいます。
たとえば「たんぼの学校」の場合、田植えから始めるのではなく、苗床に籾(もみ)をまいて稲苗を育てるところから始めます。
その後、小さな稲苗を手植えして、夏場に草取りをするなど、年間で11回もの活動をおこなっているんです。
―1年間を通してカリキュラムを組むのにはどのような想いがあるのでしょうか?
岸:農作業は、細かい作業の積み重ねでできている大変さを学んでいただきたいと思っています。
プログラムでは、最初に農業の大変さについてきちんと参加者の方に説明をします。
そのおかげか、参加者の方は脱落せずに1年間やり続けてくれていますね。
また、すべてのプログラムはNPO法人が管理している“耕作放棄地”を復元して使用しているので、地域の農地を維持して使い続けるという意味もあります。
―栽培では農薬を使用しているのでしょうか?
岸:「小田原食とみどり」では、お米や野菜を無農薬で栽培しています。
理由は、環境保全のためと、農業体験を通して生き物の多様性についても一緒に学んでほしいという想いがあるからです。
先日、「田んぼの草取り」と「生き物の観察」を組み合わせた活動をおこなったのですが、農薬を使った田んぼでは見ることのできないほど多種多様な水生生物が確認できました。
私たちの活動では“生物多様性の指標”を10年ほど点数をつけて記録しており、栽培方法の工夫にも活かしています。
子どもと一緒に体験できる「小田原玉ねぎ栽培」
―年間カリキュラムのほかに、気軽に農業体験ができるプログラムなどはあるのでしょうか?
岸:気軽に参加できるプログラムでは、「小田原玉ねぎを作ってみよう!」がおすすめです。
「小田原玉ねぎを作ってみよう!」は、玉ねぎ苗の植つけ・草取り・収穫の3回のプログラムを組んでいて、初めての方や子どもでも安心して参加できます。
たとえば2020年におこなったプログラムでは、11月に植つけを実施し、今年の3月に草取り、5月に収穫という日程でした。
玉ねぎ苗を植えつける際にコンパニオンプランツとしてカモミールも一緒に植えています。
コンパニオンプランツとは、一緒に植えることで虫がつきにくくなったり、味がよくなったりする植物のことですね。
玉ねぎには香りの強いハーブが合い、そのなかでもカモミールはちょうど玉ねぎの収穫の時期に花が満開になる植物なので、玉ねぎとの相性がいいです。
カモミールはお茶にして飲むことができ、ドライフラワーにして香りを楽しんだり、お風呂に入れることもできるので、参加者の方は喜んで一緒に持って帰られていますね。
―プログラムの参加費用はどれくらいなのでしょうか?
岸:今年度は120本の苗の植え付けが1区画3,500円(税込)で、10月から募集が始まります。
5月の収穫では、1区画で30kg~35kgの収穫量があり、ひとりで2区画育てた方もいました。
新たな「生きる力」を感じてほしい
―活動では新型コロナウイルスの影響はありましたか?
岸:昨年は新型コロナウイルスの影響で、プログラムの学校関連の活動がすべてお休みになってしまいました。
ただ、お休みで活動ができないときに、地域の方から「寂しいね」という声をかけていただいたのは、すごく嬉しかったですね。
私たちは、隣接している地域の方の畑に子どもたちが入り込んでしまわないかとヒヤヒヤして見守る立場なのだと思っていたのですが、隣接してご迷惑をおかけしているのにもかかわらず、周りの方々はその光景を楽しみにしていただいていたことがわかったのは、とても心強かったです。
地域貢献のための活動は、その地域にとってプラスになることなので、長く持続できる活動を目指していきたいです。
地域の生産者の方々の力になれるような団体になりたいと思っています。
また、地域では高齢化が進んでいて、農業を継ぐ人材が少ないのが実情です。
NPO法人として、できる範囲で地域の農業に貢献できるような力をつけていきたいですね。
―最後に、この記事の読者に向けてメッセージをお願いします。
岸:私たちが普段口にしている食べ物は、綺麗に形作られている工業製品とは異なり、まったく同じ質・形のものが大量に何個も作れるものではありません。
人の手を加わえて、丁寧に長い時間をかけることで収穫できるものであり、その過程を体験することで、食べ物に対する尊敬の気持ちや食べることの大切さなどを、改めて見直してもらえたらいいなと思います。
私たちのプログラムに参加している若い親子のなかには、いざ始まってみると子どもだけではなくお父さんやお母さんが夢中になってやっているというケースが非常に多いです。
子どもだけではなく保護者も一緒になって、新たな「生きる力」を感じてもらえたら嬉しいです。
これからも親子で楽しめる企画を立てていきたいと思いますので、ぜひ体験しにきてください。
―本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました!
■ 取材協力:NPO法人 小田原食とみどり