学校や地域、社会を取り巻く課題は、時代とともにどんどん複雑化しています。
学校に子どもを通わせている保護者にとって、この世の中で子どもたちが健やかな将来を見出すことができるのかは非常に気がかりな点でしょう。
今回は文部科学省 地域学校協働活動推進室 室長の岡 貴子さんに、同省が取り組んでいる「地域と学校の連携・協働」についてお話をうかがいました。
子ども想いの価値ある取り組みに、学校や地域という場も変化していることを感じられた今回のインタビュー。
保護者のみなさんはもちろん、地域と関わる活動をしたいと考えている人もぜひご覧ください。
学校と地域の相互協働で展開する活動
ー本日はよろしくお願いします。最初に、文部科学省が進める「地域と学校の連携・協働」の取組の目的について教えてください。
岡 貴子さん(以下、岡):まず1つめに「コミュニティ・スクール」という仕組みがあります。
これは「学校運営協議会」を設置した学校で、学校と地域住民とが力を合わせて学校運営に取り組める仕組みです。
2つめが「地域学校協働活動」で、こちらは地域の方にご参画いただき、地域と学校とが連携・協働してさまざまな分野の活動をおこなう取り組みです。
文部科学省では、この「コミュニティ・スクール」と「地域学校協働活動」との一体的推進を図っており、自治体の取り組みに対する財政支援や好事例の横展開の促進をしています。
また文部科学省の「学校と地域でつくる学びの未来」というサイトでは、「地域と学校の連携・協働」における国の政策や全国の事例・成果、パンフレットなどの資料を公開して情報発信をしています。
ーありがとうございます。続いて「地域と学校の連携・協働」の取り組みに至った経緯をお聞かせください。
岡:これにはまず、学校を取り巻く環境の変化が背景にあります。
例えば、2020年度より小学校から順次進められている「新しい学習指導要領」が始まってきているということ。
「新しい学習指導要領」では、知識・技能の習得、思考力、人間性の育成を目指しており、そのためには社会と連携・協働しながら、子どもたちの資質・能力を育む「社会に開かれた教育課程」の実現が大きな要素となります。
また、1人1台の学習用端末と通信環境を整え一人ひとりの創造性を育む施策「GIGAスクール構想」や教員の働き方改革、学校では子どもの不登校やいじめなどの問題が生じ、学校を取り巻く課題は大きく変化しています。
ー学校で起きている問題も昔よりずっと複雑でデリケートになっていますね。
岡:そうですね。一方、地域のほうに目を向けると、少子高齢化や人口減少の加速に伴って地域コミュニティの維持が困難になっているなど、課題も複雑化しています。
これからの時代を生き抜くために、学校を取り巻く課題と地域を取り巻く課題、この両方について解決をしていく必要があると考えました。
子どもたちには学校だけで得られない知識や経験、能力を地域の方に支えられながら身につけること。そして、地域の方たちには主体的に地域社会をつくろうとする視点や意識を持ってもらうことが重要です。
そこで、学校と地域両方の課題を解決していこうと始動したのが「地域と学校の連携・協働」です。
これまで、国としての取り組みや全国各地での「地域と学校の連携・協働」による活動、企業による教育プログラムなど、さまざまな取り組みをおこなってきました。
保護者や地域住民の意見を取り入れるコミュニティ・スクール
ーコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)について詳しくお聞かせください。
岡:コミュニティ・スクールは、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」に基づく制度で、学校運営協議会を設置している学校のことです。
わかりやすくいうと、保護者や地域住民の方が委員となって、学校運営に関するさまざまなことを協議していく場ですね。
学校運営協議会の機能は、校長が作成した教育課程の方針などを承認するほか、学校運営に関して意見を述べる、教職員の採用・任用に関して意見を述べる、という3つの役割があります。
学校の運営と聞くと、学校内の校長先生や教職員だけであらゆることを決めているイメージを持たれている方がいるかもしれません。
しかし、この学校運営協議会を置くことで、保護者や地域の方の意見が学校運営に反映される仕組みができ、「地域とともにある学校づくり」の実現につながります。
地域と学校がパートナーとして連携する地域学校協働活動
ーでは、地域学校協働活動についても詳しくお聞かせください。
岡:地域学校協働活動は、地域と学校が相互にパートナーとして連携協働し、「学校を核とした地域づくり」を目指しておこなっている活動です。
具体的な活動としては、子どもへの学習支援や、子どもが放課後にさまざまな学習や体験・交流ができる「放課後子供教室」などがあります。
そのほか、地域で取り組む活動や家庭教育支援活動など、非常に幅広い活動をおこなっていますね。
地域学校協働本部が進めている活動で、地域の住民・団体の方たちに参画いただき、相互に連携しながら取り組んでいます。
この活動のポイントとしては、地域と学校とがきちんと目標を共有しておこなっているというところですね。
ーでは、代表的な活動である「放課後子供教室」について、具体的にお聞かせください。
岡:小学校低学年生にとっては特に、学校での授業時間よりも放課後時間のほうが長く、保護者が働いていたりするとなおさら時間を持て余してしまいますよね。
そんな放課後時間にすべての子どもたちが安心安全に楽しく過ごし、多様な体験活動をおこなえる場が「放課後子供教室」です。
2018年策定の「新・放課後子ども総合プラン」に基づいて、厚生労働省の「放課後児童クラブ」と文部科学省の「放課後子供教室」とが連携し、子どもの健やかな成長や居場所づくりを目的に実施しています。
この活動では地元企業の就業者・退職者や学生など幅広い地域の方たちが支えてくださっていて、子どもたちに学習支援やスポーツ、工作教室などさまざまな体験の場を提供しています。
ー全児童が参加できて、いろいろな体験ができるのは子どもたちにとっても非常に魅力的ですね。
岡:「放課後子供教室」での活動は実に多様です。学習支援では、学校の宿題や英語学習、いろいろな検定試験のための勉強などもサポートしています。
また、スポーツ活動としてプロ選手によるサッカー教室、文化活動として地元の伝統文化に触れる体験教室など、学校の授業ではできない経験ができる点も喜ばれています。
学校の教育課程では知識として学ぶだけのことも多いですが、放課後の縛られない自由な時間のなかで地域の方と取り組むさまざまな体験は、子どもの健やかな学びにつながると考えています。
子どもたち自身も、低学年の子の見守りを通して自分自身の成長を感じるなど、学校の教育課程のなかだけでは感じられないような体験が自由な放課後の時間で学べるのではないかと思いますね。
私自身にも小学校2年生の子どもがいますが、「放課後児童クラブ」に通ってさまざまな貴重な経験をさせていただいています。
率直に意見を出し合い“熟議”することの重要さ
ーコミュニティ・スクールと地域学校協働活動との一体的推進に取り組む意味や、そのうえで重視していることを教えてください。
岡:コミュニティ・スクールは学校運営に関して協議をする場で、地域学校協働活動は地域と学校が連携しておこなう活動です。
これらを一体的に機能させるためには、両者が子どもたちをどう育成していくかというビジョンを共有し、同じ目標に向かって協議や活動を進めることが重要となります。
そのために必要なのは、やはり関係者内で率直にいろいろな意見を出し合い“熟議”すること。
例えば、学校は今抱えている課題を情報共有し、地域の方はそれに対して当事者意識を持って解決に向けて取り組む。こういったことが、互いに充実した活動をおこなうために大切なことだと考えています。
一体的に活動をおこなうにあたり、重要な役割を担うのが「地域学校協働活動推進員」と呼ばれる方たちです。
地域学校協働活動推進員は、地域と学校をつなぐいわばコーディネーターのような役割を持っており、元教職員やPTA関係者、地域の方などいろいろな方がいらっしゃいます。
その方たちにコーディネートしていただきながら、両方を一体的に推進することが非常に重要だと思っていますね。
子どもの成長サポートが大人にとっても生きがいに
ー「地域と学校の連携・協働」の取り組みを通してどのようなことを期待していますか?
岡:今子どもを取り巻く課題がいろいろあるなかで、社会全体で子どもたちの成長を支えることが、彼らの学びや体験の充実につながると思っています。
また学校運営に関しても、学校のなかだけでは解決できない課題も多くなってきています。
保護者や地域の方たちにご理解・ご協力をいただきながら課題を解決し学校運営をおこなうことは、子どもや学校の将来のためにも非常に重要なことだと考えています。
また、保護者や地域住民の方たちには、自分自身が当事者になることによって学校運営に関心や責任感を持てるほか、積極的に子どもたちの教育に関わろうという意識も生まれます。
ひいてはそれが保護者や地域の方たちの生きがいにもつながっているんですね。
例えば、民間企業を退職された方はまだまだ活用可能な知識や技能を地域学校協働活動で活かすことができますし、保護者や地域の方たちにとっても子どもたちに教えることを通して、自身の生涯学習にもつながります。
子どもや学校、保護者や地域の方、両方にとってWIN-WINになるのだと思いますね。
ーありがとうございます。最後に「地域と学校の連携・協働」の取り組みに興味を持っている読者に向けてメッセージをお願いします。
岡:まず保護者の方には、学校でどういったことがおこなわれているのかを、家庭のなかで子どもと話していただきたいですね。
そのなかで、子どもの学校がコミュニティ・スクールであるとか、地域学校協働本部の活動をしているという話があれば、ぜひいろいろなかたちで関わってみてください。
また、中学生や高校生の方にも、もし近所の学校などで子どもの学習支援などのボランティアを募集しているところがあれば、参加していただければと思います。
学生のボランティアのなかには、自身も子どものころに地域の方といろいろな体験をしたという方も多くいるんです。
今の子どもたちが大きくなったときにも、この経験を思い出して自分もボランティアに参加する…といった好循環が生まれてくれば嬉しいですね。
ーその経験がいい思い出になっているからこそ、自分も何かやってみようと思う動機になるんですね。
岡:そうですね。学校に子どもを通わせている保護者以外の方にとっては、学校へ行って話を聞いたり活動に参加したりするのは少し敷居が高いことかもしれません。
しかし、今学校はたくさんの課題を抱えており、さまざまな場面で地域の方のサポートや参画が必要とされています。
一度学校や地域と関わりを持つと、「自分もこんなかたちで子どもと関われるんだ」と喜びを持てたり充実した生活ができるという方も多いと聞いています。
ぜひ、ひとつの関わりをつくるきっかけとして、一歩踏み出していただければと思います。
教育委員会や学校のホームページなどでも、サポートに関する募集情報の掲載などもおこなわれています。
ご興味のある方は、ぜひ情報を集めてご協力いただけるとありがたいです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:文部科学省「地域と学校の連携・協働」