地球温暖化や森林破壊、大気汚染や海洋汚染など、地球を取り巻く問題は数多くありますが、それを身近に感じられる人は多くありません。
しかし、地球規模の問題と向き合うこれからの社会では、自然を身近に感じる能力が大事です。
今回は、「ネイチャーゲーム」を通して人が自然と共生するための活動をおこなう「公益社団法人 日本シェアリングネイチャー協会」の佐々木 香織さんにお話を伺いました。
五感で自然とふれあい楽しめる自然体験活動「ネイチャーゲーム」の魅力、地球規模の課題への取り組みなどについてたっぷりと語っていただきました!
人と自然が共生する社会づくりのために
ー本日はよろしくお願いいたします。まず、「公益社団法人 日本シェアリングネイチャー協会」とはどのようなことを目的とした団体なのでしょうか。
佐々木 香織さん(以下、佐々木):私たちの活動の始まりは、ネイチャーゲームを広く普及していくことでした。しかし時代が変わり、現在では「人と自然が共生していく社会をつくる」ことを目標として活動の幅を広げています。
ー公益社団法人 日本シェアリングネイチャー協会の設立に至った経緯をお聞かせください。
佐々木:公益社団法人 日本シェアリングネイチャー協会は、今年でちょうど35周年になります。
当時、自然観察会のリーダーとして子どもたちに自然や森についてつたえていました。
若者たちが、アメリカのナチュラリストであるジョセフ・コーネル氏の著書『Sharing Nature with Children(シェアリング ネイチャー ウィズ チルドレン)』に出会ったことからすべてが始まります。
本には、若者たちがおこなっていた“大人が自然の知識を子どもに教える”のではなく、“子どもたちが一人ひとり持っている五感を使い、そこにある自然と直接ふれあう”ことについてのさまざまな手法が書かれているんです。
タイトルの “Sharing Nature with Children”という言葉は、「子どもたちと一緒に自然を分かち合おう」という意味あいのもの。
若者たちは、「自分たちが本来やりたかったことはこういうことだ」と気づき、『Sharing Nature with Children』の原書を翻訳することになります。
35年前は、まだ「シェアリング」という言葉が一般的ではありませんでした。
そこで、ジョセフ・コーネル氏が呼んでいた「Sharing Nature」という言葉を「ネイチャーゲーム」という造語に置き換えています。
ー現在おこなっている取り組みについて教えてください。
佐々木:メインになる活動は、団体の原点であるネイチャーゲームを伝え、指導できるネイチャー指導員を養成する「ネイチャーリーダー養成講座」の実施です。
現在、協会に登録している公認リーダーは約8,000人いますが、この講座が始まってから30年の間に累計4万人以上の方が受講しました。
そして、その方々がさまざまな現場でネイチャーゲームを展開しています。このように活動をしてくれる人材の育成というのが大きな事業のひとつですね。
全国47都道府県には、リーダーになった方々のつくったボランティアベースの協会が各都道府県に設立され全国規模で活動しています。
私たちは、全国でネイチャーゲームを展開する仲間たちの活動をサポートする研修事業や、ネイチャーゲームをおこなうために必要な教材・グッズの企画販売事業など、さまざまな取り組みをしています。
ー全国各地にいらっしゃるリーダーの方たちは、それぞれどのような施設で活動しているのですか?
佐々木:例えば神奈川シェアリングネイチャー協会や、栃木県シェアリングネイチャー協会というように、各47都道府県にボランティアベースの協会があります。
それぞれが身近な公園やキャンプ場、森林公園などを拠点とし、各地でネイチャーゲームを体験できる親子イベントを開催するなどの活動をしています。
ーボーイスカウトや保育園、小学校などでも活動されているそうですね。
佐々木:はい。ネイチャーゲームリーダー養成講座を受けてリーダーの資格登録をしていただく方は、すでに自分の活動のベースとなるような現場を持っていることが多いです。
仰るとおり、ボーイスカウトやガールスカウトといった野外活動をしている方々もいます。
今の教育では、自主的に調査や発見をして学ぶための学習法「アクティブラーニング」が重要視されていますが、これは自らが自然を体験するということをベースとしたネイチャーゲームの活動との親和性が高いんですね。
保育園や幼稚園の先生方がネイチャーゲームリーダーの資格を取り園のなかで子どもとネイチャーゲームをしたり、小学校の先生方が授業のなかでネイチャーゲームの手法を取り入れたりしています。
本当にさまざまな現場でネイチャーゲームが活用されていますね。
五感を使って自然とふれあうプログラム「ネイチャーゲーム」
ー取り組みのメインとなるネイチャーゲームは、どのようなプログラムなのでしょうか。
佐々木:ネイチャーゲームは、五感を使って直接自然を体験することを大切にしたプログラムです。
何かの知識を習得するというものではなく、五感を駆使して一人ひとりが持っている感性や感覚を活かして自然と直接ふれあい、さまざまな発見をする、そこからその人なりの「自然の気づき」を得るということを活動の大きな目的としています。
例えば、“いい匂いのもの”を探そうという場合、人によっていい匂いだと感じるのもの、嫌な匂いと感じるものは違いますよね。
そういう一人ひとり違う感じ方がある、ということを、自然のなかにある匂いの多様性に気づかせながら、私たち人間も多様なんだということを体験を通して気づくことができます。
誰かに教えてもらってわかるというものでなく、自らがいろいろなことに気づける自然体験活動ですね。
ー正解は1つでなく、一人ひとりにあるということですね。
佐々木:そうですね。リーダーの方たちは、グループで活動していても「一人ひとり感じ方が違う」ということを子どもたちや参加する方たちに伝えています。
正しい答えを出さなければならないという縛りはなく、自分の感じたそのままをみんなにシェアすればいいので、誰でも参加できるハードルが低い自然体験活動がネイチャーゲームです。
ーネイチャーゲームにはたくさんのアクティビティがあるそうですが、おすすめ・人気のアクティビティを教えてください。
佐々木:「フィールドビンゴ」という、自然のビンゴ遊びがあります。これはおそらく日本で一番多くおこなわれているネイチャーゲームでしょう。
普通のビンゴには数字が書かれていますが、フィールドビンゴのカードには「いい匂い」「チクチクするもの」「抜け殻」「卵」「カラスの声」などといった、自然のなかで見つかりそうなものの絵が描かれています。
例えば「いい匂い」なら嗅覚、「チクチクするもの」なら触覚、「抜け殻」「卵」なら視覚、「カラスの声」なら聴覚、というように五感を使ってそれぞれを見つけてくる遊びです。
これを参加した子どもや保護者の方が、自然のフィールド内で自分の感性を頼りに探して見つけてきます。見つけられたら〇を付けていきます。
普通の数字のビンゴだと早く1列揃えた人が勝ちですが、このネイチャーゲームではできるだけたくさんのビンゴをつくることが目標になっています。
簡単でかつ五感をクイックに使えるので、とてもおすすめですね。
ー自然とふれあいながら五感を使えるビンゴ。子どもたちが喜びそうですね!
佐々木:普段何気なく公園などに行ったとしても、こういう視点がなければただ漠然と自然を感じるだけになってしまうんです。
もちろんそれはそれでとてもいい体験なのですが、こういう遊びをきっかけに自然を普段とは違った見方で見ることができ、自然体験を通していろいろな気づきを得られますよね。
特にフィールドビンゴは、「今度家の近所でもやってみよう」とか「次お母さんと散歩するときに持っていこう」というように、日常につなげやすいという点でも人気です。
ー本当にいろいろな場所で活用できそうです。ほかにおすすめのアクティビティはありますか?
佐々木:このほかにおすすめなのは、「森の色あわせ」というアクティビティ。
こちらはフィールドビンゴによく似ていて、いろいろな色が印刷されたカードを手に、似ている色を自然のなかから探してみようという遊びです。
このカードを持って家の周りを散歩してみると、「空の青さが露草色だった」や「道端に咲いている花が瑠璃色だった」など、色という切り口で身近な自然を発見できるんです。
ー自然にはいろいろな色があることを知ってもらえる、そんな遊びですね!
佐々木:そうですね。今日紹介したカードには、裏柳色や露草色、瑠璃色など、あえて和の伝統色をピックアップしたものもあります。その色の由来を調べて楽しむ大人の方もいるんですよ。
例えば裏柳色は柳の葉の裏側の色らしいのですが、これを知ると柳の葉を見たときに裏側の色を見てみよう、となります。
いつもなら気にならないことに気づけるのも楽しさのひとつですね。
裏がポストカードになっているので、コロナウイルスの影響でなかなか会えない大切な人に「その場所で自然を楽しんでね」という意味を込めて送るのもいいでしょう。
ネイチャーゲームには、このようなアクティビティが合わせて170種類くらいあります。
自然体験が日常、そして未来へとつながる
ー子どもたちは、ネイチャーゲームを通してどのようなことを得られると思いますか?
佐々木:都心や住宅街のなかで育っている子どもたちには、自然に身近に接する機会が少ないです。
昔に比べると日常的な自然体験が希薄であるために、今、地球規模で取り組んでいくべきの環境問題を教科書やテレビのなかのみの事柄として捉え、自分事として考えられない傾向があると思うんです。
そしてまた、20~30代の親世代のなかにも、子どものときに豊かな自然体験をしてきていないために自然のなかで子どもとどう遊んだらよいかわからないという方は多いと聞きます。
子どものころから五感を使った自然体験をするということは非常に大切なことなんですね。
幼稚園や保育園でネイチャーゲームをすると、子どもたちは見違えるようにいろいろなものを見つけられるようになり、それが定着していきます。
子どもたちにとっては日常化しやすいのではないかと思いますね。
実際に体験をした大人の方からは、ネイチャーゲームでの体験がその後の日常につながっているというお言葉をよくいただきます。
ー身を持って体験し実感することで子どもたちの日常、そしてこれからの未来につながっていくのですね。
佐々木:私自身の子育てでも、ネイチャーゲームはとても役立ちました。
息子を保育園へ連れて行く途中、道に咲いている花たちを見て息子と一緒にしゃがんで「お花あったね」「ふわふわしてるね」と小さな気づきを一緒にシェアする楽しい時間を過ごせるようになりました。
本来ならセカセカと子どもを急がせて5分で着く距離を15~20分かけて過ごすことは、とても豊かで大切な時間になると感じましたね。
子どもを持つパパやママのなかには、自然体験や五感を使った活動をしたことで子どもとの関係性がすごくよくなったという方も多いんです。
これからパパやママになるかもしれない若い方にもぜひ知ってもらいたいですね。
時代の変化に合わせて地球規模の課題に取り組む
ー日本シェアリングネイチャー協会が今後の課題としていることはどのようなことでしょうか。
佐々木:大きな目標としては、やはり自然を尊重し共生していく社会の実現を目指しています。
もともとはネイチャーゲームを普及させるというところから出発していますが、これからの時代はSDGsや環境問題など暮らしにつながる地球規模での課題に取り組んでいかなければならないと感じています。
単にネイチャーゲームが広まればいいだとか、リーダー養成講座にたくさん人が集まればいいということでなく、地球規模の課題に対してネイチャーゲームがどう貢献できるかを考え模索していますね。
また、リアルな体験というのが私たちの活動のベースにはありましたが、コロナウイルスの影響でどうしてもこれまでのような活動ができないのが現実です。
ただ、オンライン上でネイチャーゲームをするなど、なんとか活動が続けられるよう工夫して頑張っているところですね。
ー最後に、日本シェアリングネイチャー協会の取り組みに参加したい、応援したいと考えている読者に向けてメッセージをお願いします。
佐々木:私たちのホームページでは、全国各地にあるシェアリングネイチャー会を紹介しています。
お住まいの地域でもきっと何かしらの活動をしていますので、親子で体験したいと思った方はぜひ公式ホームページをチェックしていただきたいですね。
また、ご自身の仕事や生活に自然体験活動やネイチャーゲームを取り入れたいという方は、ぜひネイチャーゲームリーダー養成講座を受講していただきたいと思っています。
創始者のコーネル氏の理念を理解を深く知るところからはじまり、ネイチャーゲームの指導ができるようになるまで学べるので参加していただけるときっと役立つと思います。
そのほか、ネイチャーゲームに関する書籍も出ていますので、読んでいただければいろいろな情報が得られると思います。
みなさんが自然に興味を持ち、ネイチャーゲームに参加してくださるのを心待ちにしています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
実際の活動の様子を知りたい方はAmeba塾探しの公式YouTubeをチェック!
公益社団法人 日本シェアリングネイチャー協会の実際の活動の様子は、Ameba塾探しの公式YouTubeでご覧いただけます。
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自然体験や環境問題に関する取り組みに興味のある方は、ぜひチェックしてみてくださいね!
■取材協力:公益社団法人 日本シェアリングネイチャー協会