グローバル化していくこれからの時代において、世界中で活躍できる人材になるためには海外で学ぶ経験が将来役に立つ可能性があります。
近年、語学学習やインターン、ボランティア活動といったさまざまな目的を持って海外留学をする高校生や大学生が増えていますが、日本では将来、世界中で活躍したいと思っている学生はいまだに多くありません。
そこで、若者のグローバル人材不足に危機感を抱き、将来を見据え世界で活躍できるような人材を育成しようと学生の海外留学を支援しているのが、文部科学省が2013年から推し進めるキャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」です。
今回は、広報担当である西川 朋子(にしかわ ともこ)さんに、「トビタテ!留学JAPAN」はどのようなキャンペーンなのか、また海外留学をすることでどのような経験が得られるのかお話を伺いました。
官民協働の留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」
西川 朋子さん(以下、西川):「トビタテ!留学JAPAN 」は、2013年に文部科学省がスタートした「高校生や大学生の海外留学を倍増させる」ことを目的とした官民協働の留学促進キャンペーンです。
2014年に主な取り組みである「日本代表プログラム」という奨学金制度をスタートしました。約1万人の日本代表を送り出そうということを計画し、民間から寄付金を集めて学生の留学を応援しています。
西川:日本の少子高齢化や産業界のグローバル化が進んでいるなかで、日本にはグローバル化対応できる若者があまりにも少ないという問題がありました。
それを解決するために、すでにグローバル人材育成をおこなっていた文部科学省が、民間企業と協働で「グローバル人材育成コミュニティ」を形成し、民間企業の感覚や考え方などのリソースを取り入れ「世界で戦える人材の育成」に力を入れようとキャンペーンがスタートしました。
西川:経団連や経済同友会のような経済会、各種の大学協会などの学校関係、そして文部科学省や独立行政法人日本学生支援機構などの行政からの参画による、産官学のメンバーが集まったコミュニティになります。
若者が将来的に世界で戦えるようになるためにも、グローバル人材育成の必要性を感じ、協力し合うことに共感した幅広いメンバーが集まっています。
西川:簡単に言えば「自分の実力をどこにいても発揮できる、どこにいても自分らしく生きていける力」を持った人です。
自分の持ち味やポテンシャルが一番生きる場所はどこかを考えることができ、自分が本当にやりたいことを追求できる可能性をもった人が世界で戦えると考えています。
(※2) 新高校1年生は2021年4月1日~4月20日の期間で募集しています。
知らない世界に飛び込むことで得る人間的成長
西川:近年は、産業界も含めて国境を越えて交流しないと成り立たないことが多い時代です。少子高齢化もますます進むばかりで、日本の内需だけを考えて仕事をしていては徐々に先細りになってしまいます。また、人がつくり出したモノを正確に大量に速くつくることは、AIやロボットがやってくれるという状況が今後も増えていきます。
決められたルールのなかで正確に動ける人材がこれまでの日本では求められており、それに合わせた教育を日本はやってきていました。しかし、今後はそれだけでは通用しない時代になると考えています。
だからこそ、必要とされるのは多様な状況のなかで最適解を見つける探求力や課題解決力です。問題に直面したときに「世界中で誰を知っていて誰と連携できるのか」「どれくらい幅広い課題を吸い上げられるのか」といったことが重要です。
日本人としか情報交換できない人材と世界中に知り合いがいて情報交換ができる人材とでは、イノベーションを産むことができるのはダイバーシティに富んだ人脈や情報データをもった人材でしょう。
これからのグローバル社会では、国際交流に抵抗感がなくグローバルな自己実現をできる人材が求められるため、そのための手段のひとつとして「留学」があると考えています。
西川:留学の大きな特徴は、今まで自分が慣れ親しんだ常識や環境から一歩外に出て、アウェイ体験や越境体験といった自分の常識が通用しない慣れない環境のなかでサバイブする経験ができます。
慣れ親しんだ環境とは違う環境に身をおくことで「なんとかして自分の居場所を見つける力」「新しく出会った価値観の違う人と仲良くする力」「違う環境への抵抗感をなくす経験」などを育んでいけます。
西川:面接でただ「留学していました」と言うだけではプラスにはなりません。留学によって「どういう経験をし、どう乗り越えて、何を得たのか」が話せることが重要です。「留学=就活に有利」ということではないです。
しかし、困難を乗り越えた経験を強みに変えている人材を求める企業は多いです。そのため、自分が留学して得た経験を明確に話すことができれば、その場合は良いアピールになる可能性はあります。
留学先で自分の殻に閉じこもり「日本人としか連絡していなかった」といった人材では、いい評価はされないでしょう。留学するからには、自分が知らないことに飛び込んでいく経験がしっかりとできるかどうかが重要です。
学生生活のなかでグローバルな人材を育成
西川:高校生にとって留学が初めての海外経験になることが多く、目的がなくてもまずは行ってみるだけでも最初のファーストステップとしていい経験になります。
日本文化と他国の文化の違いに触れることで、得るものが絶対にあります。そして、得た経験をバネに「次はどんな国に行くか、どんな目的にするか」と、ステップアップしていけるといいでしょう。
大学生では、自分のやりたいことや将来につながるようなテーマをもった留学経験ができれば理想的です。しかし、大学生になって初めて海外に行く人も多くいます。いずれにしても、行かないよりは行った方がいいので、大学生で初めて留学する人も「明確な目的がないから」といって諦めるにはもったいないです。
西川:1回の留学で人生が大きく変わる体験をする人もいれば、何回行ったとしてもあまり変わらない人もいます。しかし何回も行くことのメリットとして、さまざまな国に行けるという良さがあります。
文化の違う国をいくつも見て・知ることで、自分のなかで見えてくる正解や常識が違ってきます。また、同じ国に何回も行ったとしても、その国の社会の変化を感じることができます。そのため、留学の回数を重ねられることは非常に有効なことだと考えています。
西川:長期留学では、生活の拠点として現地でさまざまな経験をする機会が増え、深い人間関係を構築することができます。
学びの面も、現地の言葉に耳が慣れるため深い会話ができるようになり専門的な学びを深めやすいと言えます。
一方、短期留学は、初めのステップにはちょうどいいと考えています。短期留学を経験することで留学の感覚を掴むことができるため、その後の長期留学につながる人も多いです。たとえ短期間であっても、日本とは違う環境のなかで学ぶことは多くあります。
西川:まず高校生と大学生に共通していることは、語学力と費用の問題、そして、身近な人と離れてしまう不安といった悩みがあります。
次に高校生の場合は、部活を休むことによる不安の影響や受験勉強・留年への懸念など、「部活」と「受験」が留学への阻害要因としてあります。
そして大学生の場合は、就活や留年への不安が大きいです。3年生から企業が募集する日本国内でのインターンに参加している学生は、スケジュールが忙しく留学の時間を取ることが難しい場合が多いです。また、特に地方では留年や休学に対する親の抵抗感が大きい傾向があり、どうしても4年間で大学を卒業しなくてはいけないといった固定概念が留学の阻害要因として存在しています。
西川:語学力に関しては前もって最低限の勉強は必要ですが、多くの先輩が現地に行って苦労しながらもなんとかしているため、あまり心配しすぎることはないです。
トビタテ!留学JAPANでは「留学大図鑑」という1600人以上の先輩留学生が参加している体験談サイトで、効率の良い勉強法や不安の解消法などの情報提供もおこなっています。
また、お金に関する悩みに対しては、奨学金制度を用意しています。留学大図鑑には留学費用を書く欄もあり、アジアでの留学や交換留学など安価な選択肢があることも含めて情報提供をしています。
西川:留学生の絶対数が多いのはアメリカです。しかし、近年では、アジアの地域(中国、台湾、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナムなど)が伸びてきています。
背景として、これまで発展途上国として見られていた国が今では経済発展し、テクノロジー面や町のインフラの面などが整い教育レベルや生活レベルが上がってきていることもあり、大学間の協定も増えていることが考えられます。
アジアの経済成長に伴い、ますます日本のビジネスパートナーがアジアの企業になっていく可能性が高まってきています。
そこで、アジアの国々の人たちとネットワークを築くということに着目し、アジアに興味を持った学生が増えています。
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「日本代表プログラム」で実践的な学びを支援
西川:日本代表プログラムは、高校生と大学生のための返済不要の給付型奨学金制度です。大きな特徴は、選考基準として語学力と成績が不問であり、「熱意、独自性、好奇心」の3つの軸で選考をおこなっている点です。
また、日本代表プログラムでは、留学プランを学生一人ひとりが自由に設定できます。
必ず現地に法人の受け入れ先(学校、NPO、企業など)が必要になり、ただの旅行はNGです。それ以外は自由度が高いため、数ヵ国周り勉強する学生もいれば、学校ではなくボランティア活動やインターンをおこなう学生もいたりとさまざまです。
実践的な学びを応援していることが大きなポイントですね。
事前事後の研修が充実しており「世界を元気にしていくコミュニティをつくる」という目標のもと、互いに学び合う文化があります。
西川:トビタテ!留学JAPANがおこなっている日本代表プログラムの奨学金は、100パーセント原資が個人・法人といった民間からの寄付によって成り立っています。
もし奨学金の返済が必要となると、将来お金を返済することへの不安から、そもそも勇気のいる少数派の選択肢である「留学」にチャレンジしない人が多くなってしまう可能性がありました。
そうなると、本来の目的である留学の応援が達成できなくなってしまうため、奨学金を返済不要という形にしました(※)。
留学をすると、グローバルな一流企業で活躍できるチャンスが広がるという感覚を持っている日本人は多くありません。
お金を借りてでも留学に行きたいと思ってもらえることが少ないため、返済を不要にしたという要因もあります。
(※) 日本代表プログラムでは渡航先エリア、期間に応じた一定額を支給していますが、支給額を超える分は自己負担となります。
西川:大学生は2日間、高校生は1日、同期と交流しながら視野を広げ視座を高めるマインドセットの研修を大事にしています。
たとえば高校生の事前研修の場合、留学から帰ってきた先輩にモチベーションカーブ(留学中の気持ちの浮き沈みのグラフ)を発表してもらい、留学中に気持ちが落ちてしまったとしてもそれで終わるのではなく、そこからが勝負だという発想の転換法などを学びます。
大学生は、グローバルな社会課題に取り組む経営者の話を聞いて対話する時間もあります。
また、研修では学生同士の対話の時間を取り、ほかの学生のさまざまな留学目的を知る機会をつくっています。対話では、留学経験をよりよいものにするための、高い視点を持った仲間づくりが可能です。
西川:事後研修以外に「学習プラットフォーム」というオンラインによる学び場を無料で用意しています。
学習プラットフォームでは、講師をトビタテ生の先輩が担当することもあれば、講師として外部から有識者を招く場合もあります。
さらに、同窓会組織の運営サポートをしており、同窓会や勉強会など有志によるさまざまなイベントもおこなっています。
具体的には、支援企業とハッカソンを共同でおこなったり、経産省の万博チームとアイディアソンをおこなったり、JICAと一緒にイベントに参画したりと、トビタテ生のさまざまな活躍の機会をサポートしています。
コロナ禍で始まったオンラインによる学びの形
西川:まず、ほとんどの人が留学に行きたくても留学に行けないという前代未聞の状況に直面してしまいました。
そこで、せめてコロナ禍でもできることとして「オンライン留学」という形で、オンラインで授業を受けることやオンラインでのインターンシップがひとつの選択肢になりました。
オンライン留学を通じて、将来的に新型コロナウイルスが落ち着いた際に「現地に行くまでの語学力の準備」や「海外の学生同士のディスカッションに慣れるための訓練」をしている人もいるようです。
―オンライン留学とは具体的にどういうことをおこなっているのでしょうか?
西川:自宅に居ながら留学先の授業をオンラインで受講する形になります。グループワークもオンラインでおこない、インターンシップも上司からメールで課題を送ってもらいミーティングもオンライン上でおこなうなど、すべてがオンライン上でのやり取りになります。
メリットは、まず比較的お金がかからないことです。お金の問題が原因で留学に行けなかった学生も、オンライン留学なら費用を抑えてチャレンジできます。
また、さまざまな国の授業に同時に参加することも可能になります。留学で行きたい国が複数あった場合など、それぞれの国の授業に渡航費がかからず少しずつ参加することも可能です。行きたい国の現地の人と関わり合って学校の雰囲気を知れることは、オンライン留学のメリットだと考えています。
西川:留学に行くことで今まで常識だと思っていた将来のキャリアの選び方や日本社会の常識といったものを、さまざまな角度から見ること・感じることができるようになります。
そして、環境を変える経験をすることで、人生の選択肢が広がります。ぜひ、自分の世界観を変えるためにも、一歩踏み出して広い世界を見てから、自分の道を見つけてみてほしいです。
コロナ禍でも、オンラインで国境を越えて簡単に世界中とつながることができます。今だからこそ選択肢も増えているオンライン留学を、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
また、留学大図鑑はホームページだけでなくInstagramでもやっています。そこに参加することで留学している先輩の生の声も聞くことができるため、気になる方はぜひチェックしてみてください。留学に対する考え方がきっと深まると思います。
ー本日はお時間をいただきありがとうございました!
■取材協力:トビタテ!留学JAPAN
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