近年、親元を離れ、寮で生活しながら学校へ通う全寮制の高校が増えているそう。
規則正しい生活習慣、自立心を養う環境、仲間との共同生活などから、不登校の中学生や高校生、そして保護者の方からも注目されています。
愛知県新城市黄柳野にある「つげの高等学校」も、入学する生徒の7割が不登校経験者。そこで今回は、教務部長の伊藤 彰先生と、グレートアース担当職員の成瀬 陽一先生に、豊かな自然環境を活かした授業や取り組みについてお話を伺いました。
人間性を高め、成長につながる寮生活は、一般的な学校生活では経験することができないものです。
不登校生を全力で応援したい。その想いを、ぜひご一読ください。
不登校を克服しながら仲間とともに成長する全寮制の学校
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、「つげの高等学校」がどのような学校なのか、概要や特色を教えてください。
伊藤 彰先生(以下、伊藤):全寮制の「つげの高等学校」は、成長している自分に気付き、自分をまるごと好きになれる、全日制普通科の学校です。
本校では、学校に通えなくなった不登校の中学生や高校生の支援に力を入れています。そのため、入学する生徒のおよそ7割が不登校経験者ですが、卒業時にはほとんどの生徒が進路を決めて卒業します。
豊かな自然に囲まれた奥三河から、日本全国の自然と遊び、生きる喜び、生きる力を実感してほしく、さまざまな授業や取り組みをおこなっていることが特色です。
ー実際にどのような授業や取り組みをおこなっているのでしょうか?
伊藤:まずは、総合的な探究の時間(総合探究)の授業の一環として、「プロジェクト T2.0」を2013年から本格的に開始しました。
総合探究では、SDGs(※)の17の目標を柱に5つのチームに分かれ、各チームで課題を設定して解決するなど、主体的に考えて行動できる人物の育成を目指しています。
近年はこのようにSDGsをモデルケースにして取り組んでいますが、当初から本校が大切にしていたのは、経済産業省が提唱する「前に踏み出す力・考え抜く力・チームで働く力」といった社会人基礎力です。
座学では習得が難しいこの3つの力を、プロジェクト T2.0で身につけようと挑戦しており、これを実現するために積極的に学校外での活動に取り組んでいます。
具体的には、地域の企業とタイアップした活動をおこなったり、年に1回全校インターンシップ(仕事体験)を実施したりすることで、生徒が自分自身の強みや弱みを知り、卒業後のキャリア(進路)を考えるきっかけになっていると思います。
自分たちが座学で学んできた知識をこの活動でしっかり活かしていると感じますね。
また、この活動は学年ごとに区切っているわけではなく、1年生から3年生までが希望のコースを選択しています。したがって授業では、学年の枠を超えたさまざまな生徒たちが関わることも特徴です。
(※)SDGs(持続可能な開発目標)とは、「Sustainable Development Goals」の略。2030年までによりよい世界を目指す国際目標。
豊かな自然に挑む体験で「生きる力、生き抜く力」を育てる
ープロジェクト T2.0での活動を詳しく教えてください。
伊藤:たとえば、「福祉と平和」の授業では、国内外の貧困、紛争、差別、ジェンダー問題から生み出される諸問題、少子高齢化や福祉分野が抱える課題に取り組み、みんなが暮らしやすい社会をつくり上げていくためになにができるかを考えていきます。
昨年度は、ネパールが抱える貧困問題を取り扱った授業を10時間かけておこない、実際に地元のネパール料理店を訪問し、料理を楽しみ、店長とも交流をおこないました。
さらに、課題解決に向けて、日本でネパールを支援している団体と現地のコーヒー農園で働くスタッフを学校に招待して議論をおこなったんです。直接交流することで、遠い国の課題を、他人事ではなく、自分事として考える機会になったと思いますね。
それから、「6次産業と経営」の授業では、自然豊かな黄柳野の地を活かしながら畜産と農業をおこない、環境に配慮した持続可能な生産方法と、安心安全な食を意識した栽培・生産・加工・流通の6次産業に取り組んでいます。
本校では、敷地内にあるふたつの鶏舎を利用して、毎日の鶏の世話と採卵をおこなっているほか、畑では野菜を育て、卵とともに地元の直売所や道の駅で販売し、収益化しています。
鶏の餌も野菜も、自然と人に優しい無農薬用法で育て、持続可能な取り組みをおこななっているんですよ。卵を産み終え、役目を終えた鶏も最後まで命を大切にいただく。こうした命の大切さと向き合うための食育にも取り組んでいます。
そのほか、学校設定科目の自己探究として、興味関心のある分野において生徒一人ひとりがスキルアップを目指す講座を実施しています。
総合探究が“チームで取り組む活動”に対し、自己探究は“一人ひとりの能力をスキルアップするための活動”です。
2023年度は、バドミントン、労働体験、パソコン検定、資格取得、キックボクシング、書道、ダンス、クリエイティブスキル(アート分野の情報発信)、well-being(幸福や健康)の9講座を開講しています。
いずれもそれぞれの分野に専門的な知識を備えた教員が授業をおこなうことで、生徒自身もより深い学びを体験することができます。
総合探究と同様に、1年生から3年生までが一緒に講座に参加するため、学年の枠を超えた関係を深めることができているのではないでしょうか。
ー大自然で育むゼミ型のオリジナル授業「グレートアース地球体感チャレンジ」についてもお聞かせください。
成瀬 陽一先生(以下、成瀬):本校では、2015年から「グレートアース地球体感チャレンジ」という、フィールドワークを越えた取り組みを始めました。
この授業は、年間7つのテーマのなかから興味のあるものを選び、テーマごとに事前学習から体験発表まで責任をもって取り組むというもの。
専門家によるキノコ狩り入門、青木ヶ原樹海の洞窟探検、四国最果ての地でサバイバルキャンプなど、山岳ガイドの資格取得経験者が付き添うことで、安全に十分配慮しながらもダイナミックな体験が可能です。
私たちは、地元愛知県東三河から日本全国へと足を広げ、人間によって管理されていない、むき出しの自然のなかで、ホンモノの自然体験を目指してきました。
ときには知床半島でヒグマと対峙したり、ときには未記録の巨大な屋久杉を原生林のなかで発見したり…。その体験をとおして、真に生きる力を獲得し、自分自身の感性を磨いてほしいと思い、活動してきました。
そして人の気配がない銀世界に行った際、雪が積もらない地域で生まれ育った生徒たちが雪に埋もれて思いっきり遊ぶ姿を見て、私は“遊びのなかから出てきた答えこそが重みを持つ”のだと思いました。
教科書でも先生でも親でもない。自分自身の感性で現実を見つめ、判断していってほしい。野生生物を守れ!とか、環境破壊!とか、押し付けるつもりはありません。
ただ、健全に育った感性は間違った選択をしないと私は信じているんです。だからこそ、老若男女問わず、人はもっと大自然の懐で遊ばなければならない。
私は、人間の未来、生物の未来、地球の未来を信じています。すべてはつながっているものなのだから。私はこの授業をとおして、若い世代に豊かな暮らしの向こうで起こっている現実を、目をそらさずに見つめてほしいと思っています。
未来を自分でつかみ取る!将来の可能性を広げる出会いを
ーオープンキャンパスやイベントなどの告知があればご紹介ください。
伊藤:本校では、全寮制高校の生活を知っていただくために、日帰り体験と宿泊体験の2種類のオープンキャンパスを実施しています。保護者の方だけの参加も大歓迎です。
日帰り体験では、学校説明から始まり、施設見学、ホームルーム体験活動、体験授業、学食での食事などをおこない、全寮制高校について知ってもらいます。
一方、宿泊体験では、1日目に寮スタッフによる特別講座、施設見学、寮生活体験(宿泊、食事、入浴、起床など)、2日目はフィールドワークまたは授業を受けてもらい、実際に日常生活を体験してもらうんですよ。
見学は随時可能です。平日だけでなく、週末も見学ができるので、事前にご相談ください。
ー最後に、入学を検討している読者にメッセージをお願いします。
伊藤:全寮制の高校と聞くとハードルが高いと感じるかもしれませんが、本校の生徒はほとんどが不登校や昼夜逆転の生活を送っていた子どもたちです。
そういった子どもたちに対しては、強制的に生活改善をおこなうのではなく、仲間と楽しく安心して過ごすことで規則正しい生活を身につけてもらいます。
スマートフォンやゲーム依存の強いお子さんでも楽しみながら改善できるように、居室は持ち込み自由でWi-Fiもつながっています。ところが、リアルなコミュニケーションを増やすことで、徐々に依存するものに支配される時間が短くなるんです。
学校生活に不安のある方は、まずはオープンキャンパスや学校見学で、つげの高校を体験してみてください。
学校における生活全般のこと、授業、友人関係、先生など、あなたが持っている学校のイメージが180度変わるかもしれません。そして、きっと「自分でもやれそうだ」と思ってもらえるはずです。
3年間の高校生活は、社会に出る前の大切な期間。そんな大切な期間を、本校で伸び伸びと過ごしてもらえたら嬉しいです。
新たな環境で再チャレンジしたいと考えている方は、ぜひお待ちしております。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:つげの高等学校