中学校を卒業した方を対象に5年間一貫教育をおこなっている高等専門学校(高専)は、専門知識を学ぶことができる高等教育機関です。
高専は、工業や商船などの印象が強く、機械に触れて技術を身につけるイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
しかし近年では、時代の変化とともに、ITなどの情報系の学科も増加。高専も多様なニーズに対応して教育体制を整えているようです。
そこで今回は、世界レベルのエンジニアを育成する「北九州工業高等専門学校(※)」を取材。生産デザイン工学科の特任教授 浜松 弘先生に、北九州高専の魅力などについて伺いました。
各コンテストへの参加にも力を入れている同校。高校生ビジネスプラン・グランプリをはじめとした、受賞実績は必見です!
(※)略称は北九州高専。
世界レベルで活躍できるエンジニアを育成する「北九州高専」
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、「北九州工業高等専門学校」がどのような学校なのか、概要を教えてください。
浜松 弘先生(以下、浜松):「北九州工業高等専門学校」は、高等教育機関のひとつとして、工業に関する専門教育を授け、産業の興隆および文化の発展に貢献し得る有能な技術者を育成するため、昭和40年4月に工業都市の北九州に創設されました。
本校の理念は、「明るい未来を創造する開拓型エンジニアの育成」です。早期から学生に理工系教育をおこなうことで、エンジニアとしての資質を伸ばしています。
また、実験・実習を重視したカリキュラムを通じて、社会・産業界に貢献できる実践的かつ開拓型のエンジニアの育成をおこなっています。
創設時から時代とともに産業構造が大きく変化するなか、工学基礎力を高め、複合融合分野に対応するため、平成27年には従来の5学科(※)から「生産デザイン工学科」1学科5コース制に改組しました。
本校では、学生の主体性を重視し、人間力を高めるため、課外活動やロボットコンテストに代表される各大会の参加を推奨するとともに、海外交流を通じてグローバル人材の育成にも力を入れています。
(※)機械工学科、電気電子工学科、電子制御工学科、制御情報工学科、物質化学工学科
高校生ビジネスプラン・グランプリでベスト100を受賞!
ー北九州高専が参加している「創造力、無限大∞高校生ビジネスプラン・グランプリ」について詳しくお聞かせください。
浜松:「高校生ビジネスプラン・グランプリ」は、高校生が考えたビジネスプランを競う全国規模の大会です。
将来を担う若者の創業マインド向上を目的に、全国の高校生および高専生(1~3年生)を対象に、日本政策金融公庫が開催しています。
もともと高校生のみが対象でしたが、北九州市と日本政策金融公庫と本校が連携協定を締結した2019年に高専生(1〜3年生)も応募対象となり、参加できるようになりました。
連携内容としては、ビジネスプラン・グランプリの応募に際しての指導、あとは3年生を対象とした、北九州市内の企業の一日就労体験です。これらは学生のキャリア教育の一環となるほか、北九州市内の企業PRにもなると考えています。
基本的に4年生になると、企業へのインターンシップがありますが、一日就労体験は、その入門として3年生におこなうこととし、2019年には15名が参加しました。
しかし、2020年からコロナ禍の影響により一日就労体験を中断してしまっているので、今年度は復活させたいと思っています。
また、ビジネスプラン・グランプリの応募にあたって、金融の専門家である日本政策金融公庫の職員の方に、毎年出張授業をおこなってもらっています。
いきなりビジネスプランを考えるのは難しいので、アイデアの発想法などから、収支計画のつくり方まで、ビジネスプランの作成方法をアドバイスしてもらっているんですよ。興味のある学生は、まず授業を受けて検討してから応募していますね。
ー実際に学生の方が応募して、選考の結果はどうでしたか?
浜松:2019年は、出張授業を社会科の授業に取り入れたこともあり、3年生全員(200名)が応募して、学校賞を受賞しました。
残念ながら2020年はコロナ禍でグランプリ自体が中止になり、2021年は応募者が出ませんでしたが、2022年は本校から2名が応募し、そのうちのひとつがベスト100に選ばれました。
応募した2名はものづくりが好きな学生で、「ロボットデザイン研究会」というクラブでも活動しており、ほかにもトマトロボットコンテスト ジュニア部門で準優勝、ロボットアイデア甲子園全国大会で安川電機 みらいロボット賞を受賞しています。
そして今年は、知能ロボットシステムコースの3年生が応募したプラン「毎日の感謝を伝えるギフトアプリ」がベスト100に選ばれました。
このプランは、たとえばお母さんに感謝を伝えるときなどに、ギフトを選んで贈ることができるアプリです。
今回は、全国455校から4,996件という過去最多の応募数となっており、ベスト100は全体の2%、福岡県での受賞は2校のみだったんですよ。
ビジネスプラン・グランプリは、まず最初にベスト100が選ばれ、そこからグランプリ1組、準グランプリ1組、審査員特別賞3組、優秀賞5組が全国最終審査会で決まります。
このように学生にとって表彰されることは、モチベーションの向上に加え、未来につながるきっかけになると考えています。
「ものづくり×ビジネス」これからの時代を支える大きな戦力に
ービジネスプラン・グランプリを通じて得られる学び、教育的効果などがあれば教えてください。
浜松:本校にはものづくりが好きな学生が多くいますが、それをビジネスに結びつけるという意識はあまりなく、教員もビジネスを教えることはなかなか難しいのが現状です。
そこでそういった部分を日本政策金融公庫の方が、ビジネスプラン・グランプリをとおして、ビジネスマインドやノウハウをサポートしてくれ、ものづくりがビジネスに結びつくヒントを与えてくれるんです。
それだけでなく、北九州市の産業経済局にはスタートアップ推進課があり、ビジネスプラン・グランプリ以外の関連イベントの紹介もあり、学生が活躍しています。
課題解決能力を備えた学生を育てることが本校の目標なのですが、こうした経験を積むことで、出された課題に対して目的を理解し、解がたくさんあるなかで、その目的に沿った最適解を求めることができる。
また、ビジネスを勉強することにより、世の中のどんなところに課題があるのかを考え、課題を設定することができるようになります。
さらに、課題設定能力が身についた学生は、日本社会の大きな戦力にもなります。
実際に起業するかどうかは別として、ビジネスプランを考えることは、課題設定能力までを備えた学生が育成できるということなんです。
さまざまなコンテストに応募することによって、こういったスキルが身についていくところが教育的効果であり、魅力だと思っていますね。
それから、今年度2023年に「高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業」が、令和4年度文部科学省第2次補正予算によって、各高等専門学校に約1億円が配分され、起業家工房を整備することになっています。
この起業家工房は、アイデアを出すだけのコンテストではなく、アイデアを実現させることができ、起業家候補をつくるというものです。
全学生がアイデアを形にできる工房になる予定なので、学生のモチベーションもアップするでしょう。
自分の可能性に挑戦!仲間と一緒に夢中になれる“未来”を
ーオープンスクールやイベントなどの告知があればご紹介ください。
浜松:オープンキャンパスは、8月と10月に実施しています。
小学生や中学生をはじめ、中学校の先生や保護者の方もたくさん来られて、毎回800~1,000名ほど参加していただいているんです。
オープンキャンパスでは、北九州高専の特色、ほかの高専との違い、卒業後の進路、入学試験のこと、研究室の紹介など、みなさんが知りたい北九州高専について紹介しています。
11月には、高専祭という文化祭を開催していて、その際も外部の方がたくさんいらっしゃいます。本校の自由な雰囲気を体験できて、中学生にもご好評いただいていますね。
ちなみに、中学生の対応は本校の学生がしてくれているんですよ。本校に通っている学生と直接交流することで、優しい先輩がいるんだと感じて安心して受験してくれているようです。
オープンキャンパスや高専祭の実施日時は、下記のとおりです。詳しい内容は、本校の公式ホームページをご覧ください。
ー最後に、入学を検討している読者にメッセージをお願いします。
浜松:本校では、地域と連携してさまざまな教育研究活動をおこなっています。
北九州高専技術コンソーシアムという組織もそのひとつで、平成30年7月に北九州高専と地域産業界および自治体との連携・交流を深め、地域産業の発展に寄与するとともに、北九州高専の教育研究の振興を図ることを目的に設立しました。
学生にとっては、北九州市内の就職の情報を得られたり、企業のテーマを研究で使えたり、さまざまなメリットがある会です。
また、私は3月まで産学官連携担当の副校長を務めていたので、外部とのつながりを持ちやすいのも本校の特徴かなと思っています。
高専は、好きなこと、興味のあることを15歳から学修でき、自分の才能を見つけ、その能力を最大限伸ばすことが可能な環境です。
さらに本校は、5年間で、ロボットやAI、IoTなどを学び、デジタルものづくりのできる「人財」を育てている学校です。
アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト(高専ロボコン)などの部活動も充実しているほか、たくさんの学生が仲間と一緒にさまざまなコンテストに出場し、いつも新しいことに挑戦しています。
あなたも北九州高専で夢中になれることを見つけ、自分の可能性を引き出してみませんか。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:北九州工業高等専門学校