近年、競技としてのゲームを楽しむeスポーツが注目されていることから、eスポーツ部を創部する学校も増え、高校生対象の全国大会が開かれています。
埼玉県上尾市にある「秀明英光高等学校」でも、昨年からeスポーツ部が誕生し、本格的に活動を開始しました。
そこで今回はeスポーツ部顧問の鹿山英寛教諭に、創部の経緯や活動内容、今後の展望についてお話をうかがいました。
eスポーツに興味があり、埼玉県在住の方は必見です!
パソコン部からeスポーツ部への転換
一本日はよろしくお願いします。はじめに「秀明英光高等学校eスポーツ部創部から現在に至るまでの経緯」をお聞かせください。
鹿山英寛教諭(以下、鹿山):eスポーツ部の前身は、パソコン部でした。
ゲームやドローン、プロジェクションマッピングなど、生徒たちが興味をもちそうなさまざまなデジタルコンテンツを提供し、どちらかというとこじんまりとした部室で、それぞれが好きなことを楽しんでいるような部活動でした。
しかし、近年にわかにeスポーツという言葉が認知され始め、生徒たちもその分野に意欲が高まりだしたことを機に、eスポーツ部への転身を決意したんです。
生徒たちのやる気を育てるには、現状の設備では不十分と判断し、部室を拡張、さらに24台のゲーミングPCとゲームチェアをセットで導入し、こちらの本気度を示しました。
昨年は6月、8月、11月の大会に参加し、ゲームを仲間うちでプレイしていたパソコン部のころとは大きく変わり、部員たちはeスポーツ部としての自覚も芽生えてきています。
また、その活動を耳にした新入生もぞくぞくと集まっています。
新たな仲間を得て、今年挑むのは全国高校生対抗eスポーツ大会「STAGE:0」と、全国高校eスポーツ選手権です。日本最大の高校eスポーツの祭典に本校も出場します。
両大会ともチーム戦となるため、競技タイトルごとに分かれて各グループで練習する必要があるのですが、ここで本校の強みが発揮されます。
24台のゲーミングPCという恵まれた環境を活かして、一人ひとりが日々練習に励めるわけです。部員が多いのも利点のひとつです。
全員で練習できるときはチーム戦をおこない、連係プレイを磨きます。
また、個人の腕を磨きたいという場合は、オンライン上のランク戦(ランクマッチ)を活用して、全国のプレイヤーと腕試しをすることもできます。
個々のスキルアップをチーム力に還元し、一丸となって勝利をつかむ。これが本校eスポーツ部の方針です。
一丸となって、まずは「1勝」
ー部活動の方針が示されたところで、顧問として指導上、意識されていることをお聞かせください。
鹿山:私もSONYのPlayStationや任天堂のゲーム機で育ってきた世代ですから、その経験を活かせると顧問に就任したものの、eスポーツの競技となっているゲームはオンラインが中心なので、実は部員から教わることのほうが多いかもしれません。
自分自身でもプレイしてみて、「ゲーム」という一言でくくることができないと痛感しました。
個人の技術力を高めてステージをクリアしていくのがオフラインであるとすれば、オンラインはそこにチームワークが必要となってくる。だからこそ、「スポーツ」を冠することができるのだと理解しました。
部として重視しているのは、大会に出ること。創部からの経緯でもお話ししましたが、部員同士の仲間でこじんまり楽しむのではない、部として全国と競うのだという気概をもたせたいと考えています。
そして、目標は「1勝」です。本音をいえば「優勝」と大上段に掲げたいところですが、実力はまだまだですから、高い目標よりも目の前の目標をクリアしていくほうが、生徒たちのモチベーションにもつながるはずと考えています。
最初からラスボスとは戦えない、経験値をためてレベルを上げることが優先、これもゲームが教えてくれることです。
小さな目標ではありますが、全国大会ともなると壁は高く、初戦敗退という辛酸をなめることになりました。自分の未熟さを部員全員がかみしめた瞬間です。
大事なのはメンタル。技術はもちろんなのですが、向上心を失っては、ゲームはコンテニューできません。
私の高校時代、ゲームに対する風当たりはまだ強く、「HP(エイチピー)がなくなってもコンテニューできることに慣れた子どもたちは、命を希薄にとらえている」などと、まことしやかに語られていたものです。
でも、それってどうなのでしょう。HPとはヒットポイントやヘルスポイントの略語で、攻撃からの耐性を数値化したものです。
HPがなくなる状態は死ではなく、行動不能を意味するのだとすれば、困難にめげず、コンテニューボタンを押すチャレンジ精神さえあれば、何度でもやり直しはできるのだとゲームは教えてくれたのではないでしょうか。
漫画のSLAM DANK(スラムダンク)のセリフ「諦めたら試合終了だよ…」のように、自分の弱さを認めて一歩ずつ前へ進んでいこうと、生徒のやる気を鼓舞しながら、モチベーションを高めています。
活動は放課後、16時から18時半までの2時間半が主な活動時間になります。本校は週5日制なので、土曜日に3~4時間ほどの練習を追加する場合もありますね。
土曜日の午前中には土曜講習という学習活動があり、この実施日を利用して午後に活動することが多いです。
保護者の方から「楽しそうですね」というお言葉はいただくのですが、その口調には「高校生がゲームばかりしていて大丈夫なの」というニュアンスを感じることもあります。
ご心配はごもっとも、私も教員ですので高校生としての本分は忘れてはいけないと心得ています。
先ほどの土曜日の件でもご理解いただけたと思いますが、講習で勉強したあとに部活動でゲームという流れを意図しているわけです。
勉強とゲーム、これを対極と従来は考えられてきましたが、実は間違っているのではないかと最近思い始めました。
努力してテストで高得点を取ることができれば嬉しいし、ゲームでハイスコアを記録することもうれしい。両方とも達成感を刺激するという意味で根幹は共通しています。
そして自己ベストをたたき出すために、集中力と練習が必要なことも同じです。
昨年度から高校でも実施されている新学習指導要領には、「児童生徒の資質・能力の育成に向けて、ICTを最大限活用し、これまで以上に[個別最適な学び]と[協働的な学び]を一体的に充実し、[主体的・対話的で深い学び]の実現」と記載されています。
eスポーツにぴったりだと思いませんか。
「文武両道」という言葉を部員が実践し、保護者の方にも納得していただけたら、教員として、またeスポーツ部顧問として、これ以上に嬉しいことはありません。
eスポーツを本気でやりたい人は集まれ!
ー今後の展望について教えてください。
鹿山:まずは悲願の「1勝」です。次に2勝、3勝とつなげ、ゆくゆくは優勝をねらいたいですね。
何よりも最優先したいのは楽しさ。「好きこそものの上手なれ」といいますが、楽しいからこそやる気が出てきます。
高校の学習も実は同じですよね。文系・理系に分かれるのも、個性を活かすため。
得意なものから自己肯定感を高めれば、きっとメンタルも強くなるはずです。
先日、このことわざを具現化したような吉報が届きました。本校の卒業生からの電話だったのですが、プロゲーマーになって大会で優勝、全国1位になったと嬉しそうに報告してくれました。
こうした先輩の活躍を励みに切磋琢磨し、高校生活の3年間を充実させ、部員同士の絆を深めてくれたらと願っています。
ー最後に、読者の方へ向けてのメッセージをお願いいたします。
鹿山:eスポーツはゲームである以上、楽しいのは当然です。しかし、それだけでは終わらせない。
本校のeスポーツ部には「楽しい」に「本気」が加わっています。これだけ恵まれた設備を提供している学校を、私は知りません。
「余暇の遊び」から「青春の1ページ」にレベルアップさせられる本校に、ぜひ入学してもらえたらと心から願っています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:秀明英光高等学校