近年、日本でもよく名前を聞くようになったeスポーツ。市場の拡大を続け、eスポーツ人口も増加の一途をたどっています。
そして高校でも、eスポーツ部を創部する学校が増えてきています。
そこで今回は、2020年に創部した「立修館高等専修学校」のeスポーツ部を取材!eスポーツ部顧問の板垣 聡美さんに、創部の経緯や活動内容、生徒たちの変化について伺いました。
立修館高等専修学校のeスポーツ部では、eスポーツを通じて社会貢献などの新たな試みもおこなっています。
eスポーツ部にご興味がある方は、ぜひご一読ください。
eスポーツに興味がある生徒をバックアップしたのが始まり
ー「立修館高等専修学校eスポーツ部」について、設立から今に至るまでの経緯をお聞かせください。
板垣 聡美さん(以下、板垣):eスポーツ部設立のきっかけは、当校の生徒が、国体文化プログラムeスポーツ部門のウイニングイレブンの予選に出るので、学校としても応援をしてほしいと話してくれたことでした。
ちょうどそのころ、「高校eスポーツ部発足支援プログラム」というeスポーツを学校に取り入れるための支援を見つけたので、部をつくってみようかという話になったんです。
新しい部をつくるには最低5名必要だったので、話をもってきた生徒と、ほか4名の生徒が集まり、2020年2月にeスポーツ部がスタートしました。
それから1年後には、立修館高等専修学校にeスポーツ部があることが、少しずつ情報として広がり始めました。
オープンキャンパスでeスポーツ体験や部活見学会をおこない、そこに参加した中学生たちがeスポーツをやりたいと当校に入学し、今年の1年生から一気に部員が増えて、今は30名ほどいます。
ですから、eスポーツ部設立の経緯としては、eスポーツに興味があった生徒がいて、その生徒を学校としてバックアップするかたちで部活をつくったという流れになりますね。
ー「立修館高等専修学校eスポーツ部」の活動内容を教えてください。
板垣:当部活は、週3日、15時から17時までが活動時間となっており、各部門ごとのゲームタイトルに分かれて、練習をおこなっています。
年に2回、春から夏にかけて「STAGE:0」と、秋から冬にかけて「高校eスポーツ選手権」という高校生が参加できる大きな大会があるので、その大会に向けて、チームプレイの練習をしたり、さまざまな動画を見ながら勉強したりしていますね。
大会では、ゲームのタイトルが数種類ありますが、自分がどの部門に出るのかというのは個人で決めています。
日本主催の大会以外にも、アメリカの NASEF(北米教育eスポーツ連盟:North America Scholastic Esports Federationの略)主催の「Farmcraft®」というマインクラフトを使って農業をプレゼンする世界大会があり、そちらにも出場しました。
ファームクラフトは、約3か月間大会が続くのですが、そのあいだ2週間に1回課題が出題されます。
その課題に沿って農場を整え、それにあわせて英語のプレゼンのスピーチを入れた動画を2週間に1本ずつアメリカに送るという形です。
昨年、日本から初出場させていただいて、3位と4位を受賞しました。
それを見た後輩たちが、「自分もファームクラフトをやりたい」と部活に入ってくれて、憧れの先輩たちと一緒にみんなで頑張ってくれています。
また、先日はeスポーツの合宿もおこないました。
一般社団法人 全国高等学校eスポーツ連盟(略称:JHSEF)の方から、合宿に参加しませんかと声をかけていただき、生徒に話したら参加したいとのことだったので、柳井グランドホテル主催の合宿に1泊2日で参加してきました。
合宿所には午前中に到着し、そこから夜までスポーツ部並みのばりばりの合宿でしたね。
身体をつくっていかないことにはメンタルもついてこないとのことで、ご飯の量も運動部と同じ量を出していただきました。
合宿の内容としては、スポーツマンシップといって、プレイをするうえでの心掛けや相手に対する敬意を学ぶプログラムがありました。
また、実際にプレイをするうえでプロの方から指導していただいたり、身体重視のプレイを続けていくうえでの身体の仕組みについての授業などを受けさせていただき、いい経験になりました。
部活を通して自然とコミュニケーションが取れるように
ーeスポーツ部に入って生徒の変化などはいかがでしょうか。
板垣:当校は不登校経験者の子が多く、過去に学校に行けなかった時期があった生徒が多数いるのですが、自分が得意なゲームをアピールできる場があるというのが、生徒たちにとっては大きいと感じています。
ゲームというと、保護者の方は「eスポーツといってもどうせゲームでしょ」と思う方も多いですが、家でひとりでするゲームと違い、チームプレイが重要視されるタイトルが多いです。
なので、今までコミュニケーションをとることが苦手だった生徒たちも、自然とコミュニケーションをとるのが苦痛じゃなくなったり、自ら進んで声をかけて仲間を増やしたりというのができるようになっています。
もともとゲームをやっていた生徒は部員の半分ぐらいで、もう半分の部員は、eスポーツをやってみたい、部活をやってみたいと入ってきた生徒たちです。
そのほかにも、部員をサポートする仕事をしたいと入部してくれている生徒もいます。
その生徒たちは、チームのマネジメントや、チームをまとめる役目、ロゴを考えるようなデザイナー業務を担当するなど、幅広く活動してもらっています。
私はどちらかというと、技術を教えるというよりは、全体的なマネジメントをする役目として部活に関わっているような状況です。
部門ごとにリーダーがいるのですが、ほかの部員に気を配ったり、私に日々の報告をしてくれたりと、みんな主体的に頑張ってくれていますね。
ー保護者の方からは、どのような声があるのかを教えてください。
板垣:保護者の方からは、子どもが家でゲームする際に暴言が酷いので心配だという話をよく聞きますが、部活内では暴言やものにあたる行為は禁止しています。
家でひとりでゲームをしていると、わかってくれる相手が近くにいないので、暴言をいってしまうこともあると思いますが、部活動の場合は、すぐ近くに仲間がいてわかってくれるので、暴言やものに当たる行為は自然になくなっていきます。
たまにふざけて舌打ちなどルール違反なことをしてしまう生徒もいますが、その場合も「その行為はダメ」と言い合えるので、健全な場所でゲームができていますね。
家でひとりでゲームをしている子どもが、部活動としておこなうことで、それぞれの個性を発揮できる場所がeスポーツ部ではないかと考えています。
また、課金についても心配される保護者の方が多いですが、高校eスポーツの主な大会で取り上げられているタイトルは、お金をかければ強くなれるというタイトルのものはありません。
課金してもしなくても同じようにレベルが上がっていくので、お金と強さは関係がないんです。
ただ、ほかのスポーツと同じで、少しお金をかけると見た目や格好がよくなるというのはあります。それは、かっこいいスパイクを履くと気持ちが上がるというのと同じ感覚です。
なので、ゲームに高額を課金している生徒はいなく、自分の使いたい部分に少し課金する程度ですので、心配しなくて大丈夫ということをお伝えしたいですね。
さまざまな分野でeスポーツを広めていきたい
ー今後の展開について、考えていることがありましたらご紹介ください。
板垣:eスポーツ部では、さまざまな分野や仕事で活躍できる場所が広がってきています。
たとえば、高齢者の施設を訪問して、eスポーツ交流会をさせていただいたり、
地域のeスポーツイベントに参加させていただいて、小学生や中学生の方にもeスポーツを体験してもらう場所をつくって活動させていただいたり。
健康ゲーム指導士という資格があるのですが、その資格を部員に取得してもらい、認知症に効果があるeスポーツを通じて高齢者と交流をしたりなど、生徒たちと訪問先の方々お互いにいい影響を与えられていると感じています。
eスポーツが健康によい影響があることを、どのようにアピールすればわかってもらえるのかということを話し合いながら、幅広い分野で魅力や個性を発揮できる場所を今後も提供していきたいです。
ー最後に、読者の方へ向けてのメッセージをお願いいたします。
板垣:現在のeスポーツ部の部員は、長期休暇などで部活動が休みになると「 部活ができなかったから、休みが終わるのが楽しみでしょうがなかった」という発言があるほど、みんな楽しく部活に励んでくれています。
中学時代、学校に行けなかったという生徒からも、「部活があるので学校に来れるようになった」といってもらい、それだけでもeスポーツ部の存在価値があると感じました。
今は変化が早くて大きい世の中になっていると思いますが、eスポーツ部を通して、その変化に対応できる人材を育てていきたいです。
当部員たちは、ノートパソコンとプロジェクタをつなげたり、ヘッドセットを自分のパソコンにつないで自分の使いやすいようにセットしたり、いわゆるIT技術をそれぞれ勉強しながら身につけて成長していっています。
eスポーツ=ゲームと考えずに、広い目でこれからもeスポーツを広めていくことができればと考えています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:立修館高等専修学校