子どものころに何度も読んでもらった絵本の内容は、大人になってもなんとなく記憶に残っていませんか。
それくらい、絵本に描かれている言葉や絵には力があるのだと思います。
そこで今回は、オリジナル絵本の寄贈を通して、人々の心が通い合う豊かな社会の実現に向けた活動をおこなっている特定非営利活動法人「クロスワイズ」理事長の横井麻里さんにお話を伺いました。
同団体は、「HEART」という言葉からの気づきのメッセージや、「ハートをつなぐ生き方」の大切さを世界の子どもたちに伝えています。
オリジナル絵本の内容や、豊かな社会の実現に向けての活動にご興味ある方は、ぜひご一読ください。
人々の心が通い合う豊かな社会の実現に向けて
ー特定非営利活動法人「クロスワイズ 」の概要についてお聞かせください。
横井 麻里さん(以下、横井):私たち「クロスワイズ」は、「言葉の力」を核とした社会貢献活動をおこなう団体です。
クロスワイズは、「docomo」「au」「りそな銀行」「エアリズム(ユニクロ)」など、数々のネーミングを生み出してきた、株式会社ジザイズ(ZYXYZ)の創設者である横井惠子によって、2012年に設立されました。
現在は、横井惠子の志を引き継ぎ、私、横井麻里が理事長として活動しています。
当法人名のXYZ(クロスワイズ)という名前は、このネーミング会社ZYXYZの最後の三文字から成り立っており、「言葉の力」をブランド名開発のみならず、社会貢献の場にも活かしていきたいという創設者の想いが込められています。
また、X、Y、Zの文字は、いずれも未知数を表しており、限りない可能性を秘めた未来に向けて、多くの叡智(wise)が掛け合わされる(cross)ことにより、一人の力では成し遂げられないことも実現していきたいという願いも含まれています。
当法人の設立のきっかけは、2011年3月11日の東日本大震災です。
大震災で大きな被害を受けた日本に対し、世界中の国々から温かい支援や励ましの言葉が届けられたのは、今でも多くの方が覚えていることと思います。
これらの支援に込められた大きな「HEART」。「HEART(心)」と「HEART(心)」をつなげて描くと、その真ん中には「EARTH(地球)」が存在します。
これは、私たちがともに生きる地球が「HEART」のつながりで支えられている、ということだと思うのです。
この「HEARTHEART」の精神を、一人でも多くの方に共感していただき、人々の心が通い合う豊かな社会の実現に向けて、日々活動を続けています。
地球は心と心のつながりで支えられている
ー
国内外問わずおこなっている絵本を核とした活動について教えてください。
横井:絵本を核とした活動の中心は、設立当初からおこなっている、オリジナル絵本「You are the only one, but never a lonely one~ひとりぼっちじゃないんだよ」の寄贈です。
この絵本は、「東日本大震災の際に世界中から寄せられた温かな支援や激励に対して感謝の気持ちを届けたい」という想いで、横井惠子がストーリーを考え、そこに温かいイラストを描きました。
1匹の蟻がさまざまな動物との出会いによって、お互いがかけがえのない唯一無二の存在であることを理解し合い、地球に生きる仲間として受け入れ合い、支え合って生きていくことの大切さに気づくという物語です。
「HEARTHEART・地球は心と心のつながりで支えられている」ということ、また私たちの身近にいる人たちとの関係においても、お互いに支え合うことの大切さに気づいてほしいという想いを込めて、子どもたちにも分かりやすい絵本の形で広めています。
2012年の設立以来、南アフリカの移動図書館車への寄贈を皮切りに、海外では13か国の小学校や孤児院といった子どもたちのための施設に寄贈してきました。
海外への寄贈は、外務省の後援事業として認定いただくことが多く、2020年4月には「JAPAN
GOV」(日本政府・総理官邸が国際広報を目的として発信しているSNS)でも私たちの活動内容が紹介されました。
海外で寄贈する際には、寄贈先の国の言語だけではなく、日本語と英語も含めた三言語で、文章や動物たちの名前を表記しています。
これには、イラストと単語を照らし合わせ、想像力を膨らませながら読み進めていくなかで、今までまったく知らなかった新しい言葉の世界に興味を持ち、他言語の学びへの動機づけになってほしいという意図もあります。
実際に寄贈した国のなかには、経済的な事情で教科書すら入手困難な地域もあり、子どもたちの教育支援の一環として喜んでいただいていますね。
日本国内では全都道府県の公立図書館や各地の小学校などを対象として寄贈しています。
国内外を問わず、寄贈先からは子どもたちが描いたかわいらしいイラスト入りの感想をいただくこともあるんです。
また、寄贈先の学校の先生が絵本のストーリーを気に入ってくださり、クラスのみんなで紙芝居を作ったり、生徒たちが動物に扮して劇の発表会をおこなったという報告を受けています。
そういった展開をお知らせいただくと、私たちの想いが子どもたちの心に届いて、さらにHEARTHEARTの精神が広がっているように感じ、私たちの活動の励みとなっています。
HEARTHEARTの精神が生き続けることを願って
ー今までおこなってきた活動や、今後おこなう予定の活動についてご紹介ください。
横井:2020年からは、新型コロナウイルスの世界的な流行の影響により、海外への絵本寄贈が困難となり、国内の子どもたちに向けた活動をおこなってきました。
具体的には、東京都の多くの小学校のほか、国内の児童福祉施設や小児病棟へ絵本を寄贈しました。
また、ある小学校の司書の方からは、在校しているアジアの国の生徒に自分の国の言語でも絵本を読ませてあげたいとご連絡をいただき、その言語に翻訳された絵本をお贈りしたこともあります。
そういった先生の温かな心遣いに、私たちの活動のテーマでもあるHEARTHEARTの精神を実感しましたね。
このように国内にたくさん絵本を届ける活動を地道に続け、お礼のお手紙などもいただいてきました。
しかし、絵本を手に取った子どもたちの反応を直接感じ取ることは難しく、私たちの想いが一方通行になってしまっているのではないかという懸念はずっとありました。
そして、想定以上に長引くコロナ禍で、どうすれば私たちの想いを届けることができるのかを模索するなかで、オンラインでこの絵本の読み聞かせをできないかと考えたんです。
ただ読み聞かせるだけではなく、子どもたちの気持ちを引き付けられるよう、絵本に登場する動物や景色が動くアニメーション動画を作成し、動物が走る音や風で葉っぱが揺れる音など、それぞれのシーンにふさわしい効果音なども付けました。
子どもたちの反応は想像以上で、新しい動物が登場するたびに歓声を上げて絵本の世界に入り込んでくれていましたね。
さまざまな行動が制限されている子どもたちに、明るく温かな気持ちを届けられたこと、またその反応を目にすることができ、私たちにとっても嬉しいひとときでした。
2022年の夏には、感染対策を十分におこなったうえで、児童福祉施設などに伺い、対面での読み聞かせイベントを実施しました。
さまざまな事情で、自分はほかの友だちとは違うという孤独な想いを抱いている子どもたちが、このストーリーを聞いて少しでも心が軽く温かくなってくれていればいいなと思います。
また、その子どもたちが成長しても、心のなかでHEARTHEARTの精神が生き続けてくれることを願っています。
ここ数年は、国内の活動が中心となっておりましたが、今後は状況を見て、海外への絵本寄贈の活動を再開できればと思っております。
ー最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
横井:「You are the only one, but never a lonely one~ひとりぼっちじゃないんだよ」は、全国の図書館に寄贈しています。
お近くの図書館に立ち寄った際には、ぜひ手に取って、読んでいただければ嬉しいです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:特定非営利活動法人 クロスワイズ