勉強よりも大事なことはなんでしょうか。それを知るには、学ぶことで自分の引き出しを増やすことが大事だといいます。
そこで今回は、テストや受験のためだけではない学習サポートをおこなう、「きずなプラス」塾長の鈴木 優子さんにお話を伺いました。
鈴木さんは、メイクアップアーティストを目指し東京に上京、美容の仕事や留学を経て、塾をオープンさせた異色の経歴の持ち主。
子どもたちへの熱い想いが印象的だった今回の取材。大人も心に響くメッセージを、ぜひご一読ください。
机のうえだけで学ばない「学習塾コミュニティー」とは
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、「きずなプラス」がどのような塾なのか、概要を教えてください。
鈴木 優子さん(以下、鈴木):「きずなプラス」は、“机のうえだけで学ばない学習塾コミュニティー”をテーマに運営しています。
もちろん本来の机上の学習がメインにはなってきますが、当塾には、幼児・小学生コース、中学生コース、高校生コースに加え、大人の学びコースや音楽レッスン、英会話、カメラ講座なども用意しています。
このように、さまざまな角度から生徒それぞれの個性を生かせるよう、机のうえだけにとどまらない、“学ぶ喜びやわかる楽しさを表現できる場所”としてサポートしていることが特徴です。
ーどのような経緯から各コースをつくったのですか?
鈴木:学習塾はどうしても卒業があるものですよね。卒塾生が自習室に通ってくれることもありますが、私はもっと生徒たちと長く付き合いたいと思っていたんです。
困ったときに飛び込める環境だったり、私も困ったときに声をかけることができたり、子どもから大人まで年齢に関係なく、ずっとつながっていける場所が欲しかったんですよ。
私はベビーマッサージの資格も持っているので、生まれたばかりの赤ちゃんから対応可能で、上はご年配の方まで来ていただけます。
実際に、お孫さんと一緒にレッスンに通われている70歳の方もいて、このように生涯を通じて通える場をつくりたくていろいろな講座を取り入れました。
現在、音楽レッスンに通ってくれている子たちのほとんどは卒塾生です。もちろん学習コースと並行して通っている生徒もいます。
音楽レッスンでは、ギター、ウクレレ、ピアノ、ボーカルレッスンが選べて、男の子たちにはギターが人気です。
当塾では「〇〇ちゃん、今日は国語の前にピアノだよ」とか、「〇〇くん、算数終わったらギターだよ、鉛筆をピックに持ち替えてね」などといった言葉が飛び交っています。
こういった習い事ってなかなか近隣にないことも多く、あってもレッスン時間が決まっていてスケジュールがあわせにくい子だと通うことが難しいんですよね。
当塾の場合は、基本的に塾の前後に30分程度のレッスンとなっているので個別に時間が組みやすく、さらに塾とレッスンを一気におこなえるため、学童のように数時間ずっと預けっぱなしにできます。
保護者の方からしたら、ひとつの場所で習い事が完結すると、送迎や月謝・曜日の管理などもすごく楽になるほか、月謝袋もひとつで済むので煩わしさがなくなります。
そういったところに頭を働かせていた時間を、子どもたちと向き合うことに使えるようにと各コースをつくったのも、きっかけのひとつですね。
また、一般的な塾は時間制が多いのですが、当塾は何時間いても料金は一緒です。正直、時間制にしたほうが塾としては儲かりますが、私は利益を追っていません。
みんなにとって居心地のよい場所を、みんなのアイデアでつくりあげた、そんなさまざまな願いがカタチになった塾なのです。
留学で気づいた“教育における課題”を胸に塾をオープン
ーメイクアップアーティストや留学を経て今に至るまでの、鈴木さんのご経歴をご紹介ください。
鈴木:私は、石川県加賀市の山中温泉の地で生まれ育ちました。
私が学生のときに勉強した理由は、自由に生きたかったから。テストでよい点数を取りたいとか、よい高校に行きたいとかよりも、とにかく大人に文句をいわれたくなかったからなんです。
学校って、スカートの丈やソックスの長さ、色など、理不尽な校則も多くて、こういった日本の横並びの教育が昔からあまり好きではありませんでした。
個性を認めてもらうためには、圧倒的な結果を出す必要がある。450点を超えろといわれたら、480点取ればいい。それをしたうえで、不満があれば伝える。
好きなことをやっていても、きちんとやることをやっていれば認めてもらえることを実体験として学ぶなかで、点数はどんどん伸びていきましたね。
そしてこれだけの点数が取れるならばと、地元の進学校 小松高校に行くことになりました。
小松高校の生徒のほとんどが国公立大学や有名私立大学を目指すのですが、大学受験や将来の夢のために勉強しているみんなと比べて、私は大学に行きたかったわけではないので目的を失ってしまいました。
進路指導でも先生に「どこでもいいから大学に行ってくれ。そうしないとお前のせいで“その他”の欄ができてしまう。」と言われたのですが、私は「その他って実は一番トップじゃないか?」と思って。
〇〇大学とかでなくて、“その他”のほうが無限の可能性を秘めている。「私、その他になろう!」とそこで決断しました。
ところが、せっかく進学校に通っているのだから、よい大学よい企業に入りなさいと、先生も親も大反対。
だからといって私は大学を適当に決めるのは嫌。むしろ私のせいでできてしまうといわれた“その他”という生き方を、どの生き方より輝かせていこうと思いました。
その後、ヘアメイクの世界に興味があり東京の専門学校に行き、卒業後は美容系の仕事に就くのですが、外国のモデルさんなどと関わるなかで、技術だけでは通用しない世界を痛感しました。
もともと日本人気質ではないことや、都会暮らしに少し疲れていたこともあって、語学勉強を兼ねてオーストラリアにワーキングホリデー制度を利用して留学へ。そこで挫折を味わいます。
中学校から英語を習い、進学校にも通って、なにも困らないだろうと思っていたのに…。
文法や単語もいっぱい知っている、ハイレベルな電子辞書やテキストも持っている、いい筆記用具を持っている、それなのに先生に質問されても日本人は誰も手を挙げない。間違えるのが嫌で誰かが答えてくれるのをみんな待っているんです。
その一方、お金はないけれど本当に学びたいと思って来ている他国の生徒は、ボロボロの教科書を使い、競うように先生に一生懸命質問をするんですよ。
どれだけいいアイテムを取り入れても、教科書やオンラインシステムが進化しても、メンタルの部分が変わらない限り、 決して変わることのない、日本の英語教育の問題点を身をもって感じました。
知識はあるのに、自分がやってきた英語が通じず、熱い想いを表現する力がなくて、毎日泣きながら学校に行っていましたね。
そして帰国したら、私のこの経験に基づいた学びを与えられる環境を地元につくりたいと強く思い、海外で児童英語の資格などをとったあと、地元に戻ってきたんです。
最初は学研教室をオープンし、15年間経験を積み、2020年3月「きずなプラス 山中教室」をオープンしました。また2021年4月には小松市に、第二教室となる「きずなプラス 小松教室」を新設しています。
塾名の「きずなプラス」には、心(メンタル)のきずなに、学習や音楽、遊び、海外の経験などをつける、「メンタルプラスアイテム(きずなにいろいろな要素をプラスする)」という意味があります。
先にアイテムから入らないという、私の経験が名前に込められているんです。
ちなみに、高校時代にできた“その他”の欄のなかには私を含めて数人いたのですが、全員起業しています。
のちに当時の高校の先生に会った際、「あのときは馬鹿にしてごめん。なにをいっているんだと思っていたけれど、本当に“その他”をトップに持ってきて、すごい生徒たちだ!」って謝られました。(笑)
セブ島のオンライン英会話で“人とのつながりから生まれる学習”を
ー他社にはない「きずなプラス」の強みについて具体的に教えてください。
鈴木:たくさんありますが、やはり一昨年から始めたセブ島とのオンライン英会話は強みのひとつです。
私が実際に1、2週間留学して、当塾の生徒に関わってほしいと思った先生がいる学校のみ直接交渉しています。そのため現在オンラインレッスンをおこなっている先生は、全員直接会ったことがある方たちです。
テストのためだけにレッスンするわけでなく、先生と仲よくなって会ったときに、一緒に観光したりお互いの街を紹介したりなど、お互いにコミュニケーションをとれることを大事にしています。
たとえば、来年の桜の季節に町を案内すると約束した場合、仲よくなった素敵な先生を案内するために町の歴史を勉強しなければなりません。
このように、正しい日本語を話せるように国語の勉強をしよう、手紙を書きたいからきれいな字をかけるようになろうなど、人とのつながりから生まれた学習に重きをおいています。
また、ニュースで聞く話も、実際に友だちが関係していれば見方が変わってきます。
アメリカにいる友だちと話すことで、物価は上がってきているけれど、給料自体が上がっているからそこまで生活に困っているわけではないとか、リアルな社会の状況を知ることができる。それも大事な公民の勉強なのではないでしょうか。
私はそういった学びのほうが豊かになると思っているので、当塾は点数だけにこだわっていません。
偏差値だけにとらわれない環境だからこそ羽ばたいていけることもあります。
生徒たちには、こういったことを何十年後でもいいので、生涯を通じてわかってくれたらいいなと思っていますね。
勉強を頑張ることで勉強よりも大事なことを知ってほしい
ー今後の展開や体験授業などについてご紹介ください。
鈴木:来年度ぐらいから、親子留学のプランを実現させようと計画中です。
ほかにも、卒塾生たちが自分の得意分野を活かして、新しい講座をつくっていってほしいと考えています。
現在は、学習塾、音楽レッスン、カメラ講座、英会話の講座がメインですが、そこにたとえば習字コースなどができてもいいわけです。
習字が得意な卒塾生が、会社が休みの土日だけ教えることもできます。
新しいことをやるときは仕事を辞めなくてはいけない、大人になったらやりたいことを全部我慢しないといけないと思っている方が多いですが、それは違うよっていいたいんですよ。
得意なことを趣味だけで終わらせず、やりたいと思ったことはやったらいいと思っています。そしてそれを必要な人たちに届けていく…。
そこでさっそく春から、不登校の子やコロナの影響で学校に行きたくても行けない子など、さまざまな理由で悩んでいる子たちをサポートする「ホームスクーラーサポートコース」ができます。
不登校を経験して、高卒認定試験に合格した卒塾生が、自分の経験を活かして同じような境遇にある子を支えたいと、自分から志願してくれました。
今後もたくさんの人たちがきずなプラスという場所を利用して、自分を輝かせて活躍してくれたらいいなと思っています。
また、体験学習や体験レッスンは随時無料で受け付けておりますので、ぜひお越しください。
ー最後に、読者の方へ一言メッセージをお願いします。
鈴木:私の好きな言葉に「優れるな、異なれ!」という名言があります。
近年、日本教育も少しずつ変わってきましたが、人よりよい点数を取って、よい偏差値の高校に行って、お給料のよい会社に就職して、なるべくはみ出さずに生きていくことが美徳とされていたところがあるかと思います。
人ってどうしても他人を羨んだり、背中を追っかけたりすることで劣等感を抱きがちですが、それって結局他人と同じように走ったとしてもずっと平行線なんですよ。
私は生徒に、誰かより優れた人間になることよりも、違った道を選んでいける、いっぱい引き出しを持った子たちになってほしいと思っていて、それがこの「優れるな、異なれ」という言葉の意味に通じているんです。
異なるためには引き出しがたくさん必要で、この引き出しがたくさんあれば、いろいろな人生の組み合わせができるようになっていくんですね。
学ぶということは、自分の引き出しをたくさんつくっていくこと。きずなプラスでは、勉強を通じて世の中には勉強よりも大事なことがたくさんあることを知ってほしいんです。
でも、なにもしていない人がそれをいってもなんの説得力もない。テストで20点の子にいわれるより、常に100点の子に「これがすべてじゃないよ。」っていわれるほうが説得力がありませんか。
勉強を頑張ることによって、勉強以外の大事なことにたくさんたくさん気づいて表現していってほしいと思っています。
当塾を選んでくれた生徒と保護者の方たちとは、一緒に学び、一緒に成長させていただいています。なにより、きずなプラスという場所に一番助けられているのは自分自身なのです。
たとえば、あのままヘアメイクの道に突き進んでいたら苦しかったと思いますし、大学に行っていたとしても苦しかったと思う。でも、あのとき異なる道を選ばせてくれたのは、やっぱり勉強を頑張っていたからなんです。
少し遠回りはしたかもしれません。でも、自分が納得する理由で精一杯勉強をしていたことにより、異なる道をたくさん選べたのでとても救われました。今でも日々勉強しているので、困ったらいつでも選べます。
そういった経験を一緒にできる場所がきずなプラスであり、みんなにとって一生を通じて学び合える場所を一緒につくっていけたらいいなと思っています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:きずなプラス