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「先生、お金払えなくてごめん…」教育系YouTuber・葉一が目の当たりにした“教育格差”

「先生、お金払えなくてごめん…」教育系YouTuber・葉一が目の当たりにした“教育格差”の画像

いつの時代も何か新しいことに挑戦する人の前に立ちはだかる「批判」。小学生~高校生までの授業動画を配信するYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」でお馴染みの葉一さんも例外ではありませんでした。

今年で10周年を迎えた同チャンネルは、登録者数183万人、総視聴回数は6億回以上(2022年10月31日時点)、小中高生から圧倒的支持を得ています。

しかし、始めた当初はいわゆる“最先端”。“動画を見ながら勉強”に対して、後ろ向きに考える教育者や保護者が多く、批判的なメッセージが連日寄せられました。「激励のメッセージはまったくなかった」と当時を振り返る葉一さん。それでも続けられた理由とは?

また、いつしか子どもたちがいじめや家庭の悩みを打ち明ける場にもなっていった同チャンネル。葉一さんのどのような姿に子どもたちは信頼を寄せているのでしょうか。その魅力を探ります。

「仕方ないで済ませたくない」YouTube動画に込められた“教育”への思い

教育系YouTuber・葉一

2022年は配信開始から10周年ですね、おめでとうございます。現在は“教育系YouTuber”として確固たる地位を築いていらっしゃいますが、始めた当初はそもそもYouTube内に“勉強コンテンツ”はほとんどなかったと思います。動画が人気を集めるという確信はあったのでしょうか?

葉一:無料で勉強ができる場が必要になる、その確信はありましたね。

動画を配信する前は塾講師をしていたのですが、そのときに所得格差と教育がダイレクトに結びついていることを目の当たりにしました。私は個別指導塾の講師だったのですが、担当していた生徒に母子家庭が多く、皆さん一生懸命働かれているなかから月謝を捻出してくださっていました。

でも、夏期講習などがあったときにそれが出せなかったりとか…お母さまが実際に預金通帳を持ってきて「先生、お金払えなくてごめん…」と言われたこともあります。

「所得格差ってしょうがないもの」、確かにそうではありますけれど、それを「仕方ない」で済ませたら一生何も変わらないじゃないですか。

子どもたちの将来を無碍にするのは国の衰退に直結すると思っていて、だからこそ子どもたちが無料で学べる場は絶対必要で、それをちゃんと整えたときには多くの方の選択肢には入るだろうなとは思ったんですよね。

―実際に配信をスタートされてみていかがでしたか?

葉一:始めた当初は誹謗中傷がたくさん寄せられましたね。激励はほぼ皆無で、送られてくるのは長文の叱咤と悪口。ダメージも大きかったです。

正直言えば辞めようと思ったことも何度もありましたし、「自分がやっていることが間違っているのかな」って思わざるをえない状況が続いていました

でも、自分が届けたいのは“子どもたち”なんですよね。だから、私の活動の良し悪しをジャッジするのは“あなた”じゃないと思っていました。

始めた当時はまだ子どもたちに届いていなかった時代ですから「まずは届くようになるまでは続けよう」、そう思いながら動画を投稿し続けていました

―それが今では登録者183万人!この数年は勉強だけでなく、子どもの悩み相談などにものっていますよね。

葉一:“無料で勉強を教えてくれる”となると“聖人君子”みたいに見られがちなんですね。でもそんなことはぜんぜんなくて。それなら素の“葉一”を伝えるようにしようと、「だらだラジオ」っていうしゃべるトーク中心の動画を始めたんです。

そこで、「葉一ってこういうことを考えているんだ」というのが伝わり始めると、子どもたちが相談をしてくれるようになってました。「じゃあこれは自分が生きてきて感じたこととかを全部伝えていこう」ってそれがきっかけですね。

―その中ではご自身のいじめ体験などについてもお話しされています。

葉一:そうですね。ただ、自分のことを話すときのルールを決めています。それは“ネガティブな話も絶対にポジティブで終わる”こと

私は中学時代にいじめを受けていたのですが、いじめを受けたことは本当に苦しかったけれども、でも自分は受けてきたからこそ、今こうやって子どもたちの気持ちがちょっとはわかるようになっている。「自分の中で意味合いを変えてポジティブに前に進めているよ」っていうふうに必ずしています。もちろんいじめは正当化されるものではありませんが。

―相談にのったなかで、どのようなことが印象に残っていますか?

葉一:印象的だったのは、活動初期のころに「死にたい」ってメールを頻繁に私に送ってきていた子がいたんですよ。お母さまとの間に問題を抱えていました。当時は視聴者がまだ多くなかったので、メールで毎回励まして、そうすると元気になるんだけれどもまた3日後にまた「死にたい」がくる。

しばらく連絡が途絶えて心配していたんですが、数年前久しぶりにメールが来て「仕事の研修でそちらに行くのでご飯行けませんか」って。そしたらものすごく元気に夢に向かって頑張っていて。当時苦しかったこととかもちょっと笑いながら話してくれていたんですよ。

その姿を見て「自分が続けてきた活動の先に、この子がこうやって笑って振り返る未来があったんだな」と思ったときには「やっていてよかった」と、思わせてもらいました

―葉一さんが先生のようですね。チャンネルのコメント欄を拝見しても「受験生の皆さん一緒に勉強頑張りましょう」なんて視聴者の子たちがお互い書き合っていて、ひとつの学校のようになっていますよね。

葉一:YouTuberって人気商売の方が多いのでわりと“広く浅く”なんですけれど、私の場合は“狭く深く”でいたいなってすごく思っています。うちのチャンネルに来てくれる子たちはあったかい子が多いな、と思います。そこはすごく自慢ですね、自分のチャンネルの。

障がいある妹、家族の期待…「僕が“しっかりしなきゃ”」

教育系YouTuber・葉一

―葉一さんご自身はどのようなお子さんだったのでしょうか。

葉一:わりと“ちゃんとした子”だった気がします。勉強をするのは嫌いではなくて、宿題も先にやってちゃんと遊びに行く、多分小学生のときにテストなどで苦戦したことはほとんどないと思います。実は、妹が障がい者ということや、当時は父が多忙で家にいなかったこともあり、母からすごく頼られていることが幼心にわかっていました。「しっかりしていなきゃな」っていうふうにずっと思いながら生きていましたね

―それは大きなプレッシャーではなかったでしょうか。

葉一:そうですね…ほかの家での当たり前が当たり前じゃない葛藤っていうのはものすごく感じていました。妹のことがあるから、たとえば土日に父親が仕事で、母親がパートだったら妹の面倒を見るために外に遊びに行くことはできないですし、そういうことはありましたが、でも「仕方ないよね」っていうところに自分は着地させていた気がしますね。

それより、自分がいい子に振る舞うことによって家族のバランスをとる、みたいなそういう立ち位置になっていたことのほうがしんどかったかもしれないですね。

もちろん両親のことは好きでしたし、たくさん甘やかしてもらっていましたが「自分がこの家族の潤滑油になんなきゃな」と思っていた時期がありました…そこは結構気を張っていることが多かった気がします。

―勉強についても「しっかりしなきゃ」という気持ちからされていたんですか?

葉一:子どもがイメージする“しっかりしている子”って宿題をちゃんとやって、ってなるじゃないですか。そのイメージ像に近づくような生き方をしているという感じですよね、ずっと。

ただ、高校生のときに恩師に出会ってから、まったく意図もしなかった教育に興味を持ち、シフトチェンジをしたんです。それまでは大学進学も考えていなかったので、模試をやっても偏差値が20も足りず。予備校は金銭的に無理なので1年間死に物狂いで勉強しました。

とかいいながら普通に恋愛もしていましたよ。ただ、飴と鞭の順番だけは必ず守っていて。「飴をもらったらがんばる」じゃなくて、「がんばったご褒美に飴をもらう」っという順番はけっこう徹底していた気がします。

―徹底できるってすごいですね!

葉一:ぜんぜん、ぜんぜん。もう、自分に甘々ですから。めちゃくちゃ甘々ですよ(笑)

でも、自分で決めたルールをやぶると自己嫌悪になったり凹んだりすることってあるじゃないですか。自分は人よりもそのダメージが大きい自覚があるんです。だから1回落ち込んでから戻るのにエネルギーを使うのが大変なので、だったら落ちないようにしたほうが得じゃない?っていうだけです(笑)

―お話しを聞くと自分のことを冷静に分析できていたんですね。

葉一:自分の説明書は心得ているタイプだと思います。多分ですけれど中学生のときのいじめの経験がすごく大きかったと私は思っています。

いじめられているときって嫌われていることがわかっている時期ですよね。なんのために生きているかがとにかくわからないんですよ。存在価値もわからない。

それってすごく苦しいんですけれど、ずっと自分の内面と向き合って自分を探している。「じゃあ自分ってなんなんだろう」って問いかけて生きていくと、「こういうふうにやると自分は落ち込む」とか、「こういうふうにやると自分に喜びを感じる」とかっていうのが、わかるようになっていったんですよね。

今の子どもはSNSなどの発達によって情報過多になっていると思っています。悪いことじゃないんですけど、知らない分野の情報をいっぱい得てもどれが正しいかもわからないし、情報がありすぎると頭がパンクするんですよね。パンクしちゃって身動きとれない子どもが多くなっちゃっている。

でも“自分”というのがわかっていると「これは要らないもの」、「これは自分にとって必要なもの」っていう“情報のセレクト”ができるようになる。子どもたちができるようになったらいいなと思うところです。

「理由を聞かずに休ませてくれた」親から学んだちょうどよい子どもとの“距離感”

―それこそ、葉一さんは現在ふたりのお子さんがいらっしゃいますが何か子育てのモットーなどありますか?“優しいお父さん”のようなイメージがあります。

葉一:皆さん私のことを“優しそう”って言ってくださるんですが、まったくそんなことないですからね(笑)普通に子どもにも怒りますよ~。

でも、子どもたちに接しているときは決めつけるんじゃなくて“選択肢を見せるのが仕事”っていうのは思っていますね。たとえば勉強するときでも、「算数やりなさい」とは言わず「算数と国語どっちがいい?」って必ず聞くようにしています。選ばせて自分で決めたものをちゃんと達成させていくっていうことを大事にしていますね。

また、息子に対してあまり口出しをしないようにもしていますね。だから自分から「勉強を教えるよ」って言ったことはほぼないです。でもいつも「もし聞きたいなと思ったらいつでもおいで。必ず力になるから」って話しています

頼られたときには絶対に力になるけど、自分からちょっかい出すことはあまりしないようにする、この立ち位置は、多分思春期に近づくほど有効だと思います。

―ご自身もご両親からそのように育てられたのでしょうか。

葉一:そうですね、今でも自分のなかでものすごく感謝していることがあって…いじめを受けているときにしんどくなって学校を休みたいって言ったことがあるんです。でも母は理由も聞かずに休ませてくれたんですよね。しかも母が休みのときなら「ご飯食べに行く?」って、回転寿司に連れて行ってくれたこともあります。

あの“理由を聞かないでくれたこと”、そこは感謝してもしきれないですね。母親はいじめのことは知らなかったんですよ。YouTubeを始めてから知らせちゃったので申し訳なかったんですけど…。その距離感が好きだったんで、今、自分の息子にもそういう距離感を大切にしています。

―でもその距離感…親の我慢が試されますよね。

葉一:本当に。でもそこは大事なところです。

塾講師のときから感じていたのですが、ひとつの“言ってはいけないワード”を言ってしまうだけでも親子関係が崩れ去るパターンって多いんですよね。

今SNSが発達したので子どもたちの人間関係って保護者の方が把握できないじゃないですか。でも、どんなに人間関係が多岐にわたっても、一番言葉の力を持っているのは親です、間違いなく。

保護者が自身の言葉の力に対して自信がなくなっちゃうと、自分の言葉を軽視してしまいます。だからそこは忘れないでほしいんですよね。どこまでいっても親は親なので。唯一無二の存在ですからね。

子どもが思春期になって、なにか励まそうと思って言葉をかけても、すごく冷たい反応が返ってくることもありますよね。ですけど、本当はすごく喜んでいますから。塾に来て「今日親がさ~」と嬉しそうに話してくるんですよ。そういう場面を何度もみています。

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「“学校の先生<保護者”の関係性を変えたい」今後チャレンジしたいことは?

教育系YouTuber・葉一

―最後に、現在は子どもの先生YouTuberとして定着していると思いますが、今後何か目標にしていることとか新たにしていきたいことなどがあればぜひ教えてください。

葉一:まだ絵空事なんですけれど…学校の先生の魅力を世のなかに発信したいと思っています。講演会やイベントで先生とお会いする機会が多いのですが、情熱もある素晴らしい先生が多いんです。

でも、先生という職業はブラックなイメージが定着してしまいましたよね、実際激務だと思います。それに、保護者の方と学校の先生の関係って、保護者の方の立場が上なんですよね、今。保護者の方の機嫌をとるために仕事をしなきゃいけなくなっちゃっていて。それは絶対間違っている、と思っています

でも学校の先生の仕事や魅力を外に公開できるところがない。授業参観だって、保護者はもちろん我が子を見に来ているので。

だから、学校の先生の魅力を世のなかに発信したくて。それを自分のチャンネルとかでできたらいいなって思っています。

―具体的にはどのようなことを考えていますか?

葉一:先生の授業のこだわりや素晴らしさも掘り下げたいですし、先生の人となりを伝えていきたいんですよね。

ゲームが大好きな先生もいるし、アニメに詳しい方だっている。先生の多面性をナチュラルに見せていけたら、子どもたちの中での先生との距離感が変わると思うんです。

子どもたち全員、保護者全員がそうなるなんて思っていませんが、ひとつでもそんな距離感のご家庭が増えたら、先生にとっても子どもたちにとってもプラスだと思っています

それは多分自分みたいな教育だけど外でやっている人間じゃないとできないと思うんです。まだ机上の空論なんですけれど、これからのチャレンジのところですね。

取材協力:葉一
YouTubeチャンネル:「とある男が授業をしてみた」
Twitter:@haichi_toaru

ひらおか ましお
この記事を執筆した執筆者
ひらおか ましお

Ameba塾探し 執筆者

大学で入部したスポーツ新聞部をきっかけに、大学卒業後から本格的にライター業に従事。主にスポーツ雑誌を中心に活動していましたが、結婚と出産を機にwebや地元の情報誌などに活動拠点を移しました。子どもの成長と共に教育関連に興味をもち、2021年11月より「Ameba塾探し」で執筆を担当する二児の母。インタビューを通して得た情報を皆さまにシェアする気持ちで執筆しています。