大学固有の教育研究施設をもたず、市町村の有する施設を活用して授業をおこなう大学キャンパスがあることをご存じでしょうか?
今回は自然豊かな山形県で、地域と協働し、町全体をキャンパスとした「山形大学エリアキャンパスもがみ」を取材。山形大学学士課程基盤教育機構の阿部 宇洋先生にお話を伺いました。
この大学と地域の新しい連携モデルによる取り組みに興味のある方は、ぜひご一読ください!
大学と地域が協働し、地域全体をキャンパスに!
ー本日はよろしくお願いいたします。はじめに、「山形大学エリアキャンパスもがみ」の概要についてお聞かせください。
阿部 宇洋さん(以下、阿部):「山形大学エリアキャンパスもがみ」がある山形県最上地域は、南西に最上川が流れ、一部盆地を含む大部分が山岳・丘陵地帯の自然豊かで市町村ごとに独自の文化を有する農山村地帯です。
一方で、最上8市町村のうち7町村が、「過疎地域自立促進特別措置法」に基づく過疎地域に指定されている状況(2022年4月1日時点)にあり、以前は県内で唯一、大学・短大が一つもない地域でもありました。
そこで、2004年に山形大学は最上地域の8市町村と包括協定を締結し、地域全体をキャンパスとする「山形大学エリアキャンパスもがみ」を設立し、総合大学として組織的な地域貢献の挑戦を開始しました。
当キャンパスでは、おもに次の2点を目標に掲げ活動をおこなっています。
1点目は「大学生に対する教育」
過疎化、少子高齢化、環境など、現代社会が直面する課題発見・探求・解決能力、社会性、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力を向上させることを目標としています。
2点目は「最上地域の人材育成と活性化」
具体的には、未来遺産の共有・活用・発展を図ることや、情報発信力を向上すること。子どもたちに地域の自然や文化を伝え、地元に対する誇りを抱かせることです。
これらの活動を通じて、豊かな地域社会の建設に関わる人材を輩出することに力をいれています。
豊かな自然のなかでおこなわれる独自プログラム
ー「フィールドラーニング―共生の森もがみ」について詳しく教えてください。
阿部:「フィールドラーニング―共生の森もがみ(以下FLもがみ)」は、山形大学基盤共通教育で実施される講義の一つです。
本学では、1年生全員が受講する基盤共通教育において「山形から考える」という基幹科目を選択必修としています。
「山形を考える」のではなく「山形から考える」ところに重点があり、山形県を基準軸として、他地域、他国と比較検討のできるような、しっかりと地に足をつけた多角的な視野を展開できるようなカリキュラムだといえるでしょう。
近年アクティブラーニングが盛んに実施されますが、大学の学びには必ず評価がつきまといます。
ただなんとなく、地域に行って、活動して評価をもらうという講義は学生の成長にはつながりません。
確かに地域で学ぶことは、高校を卒業したばかりの学生には刺激的で、実りは多いかもしれません。
しかし、大学はしっかりと学びが定着しているか、単位を取るにふさわしい学びをおこなったかを確認する必要があります。
“フィールドラーニング(以下FL)”は聞きなれない言葉かもしれません。これは山形大学で定義された初年次教育用語です。
普段聞きなれているフィールドワーク(以下FW)は学術的には、調査設計、計画からデータ分析までのすべてを学生自身がおこなう高度なアクティブラーニングとされます。
もちろん分野で若干の違いがありますが、FWは何か課題をもって野外調査、地域調査に向かいますが、FLは学ぶ材料のみ地域の先生方から提供され、それによって学生が自らの学びを深める初歩的なアクティブラーニングといえるでしょう。
大学の初年次教育では、みずから課題を発見し、探求するというアカデミックスキルの練習を始めたばかりです。
今までは、いきなりFWをさせることは難しいとされてきました。そのため、FLという仕組みを整理し、FW入門という位置づけも含め、山形大学ではこの教育スタイルを運用しています。
このFLもがみは前期期間で、最上8市町村に1泊2日を2回実施。現地では、教育委員会の皆さんと地元の皆さんで練っていただいた教育プログラムが展開されます。
プログラムは、地域振興・環境保全・農業・地域観光・児童教育など多ジャンルに展開。学生たちは興味のあるプログラムに参加できるようになっており、毎年、講義を受講したい学生が多く、抽選となっています。
そのほかに、大学では資料、文献調査を中心とした事前、中間、事後学修や講義の最後におこなわれる、地元の皆さんを前にした活動報告会の発表練習や最終レポート作成を実施しています。
1年生前期のFLの活動を通じて、その後の学生生活でのボランティア活動やサークル活動といった課外活動にも参加しやすい環境になるようです。
また、活動報告会で報告した、企画内容を講義終了後に実際に実施するなど、アクティブな活動もおこなわれていますよ。
地域と一緒に山形大学生を大学生の 「新米(一人前)」にするそんな講義だといえるでしょう。
ー実際にFLもがみに参加した学生からはどのような感想があるのでしょうか?
阿部:たとえば、金山町での取り組みに参加した学生からは、次のような感想をもらいました。
私が受講させていただいた金山町は素晴らしい自然に溢れており、その自然を活かしたさまざまな取り組みがおこなわれています。 |
参加した学生たちからの評価も高い取り組み
―最後に、読者の方へ向けてのメッセージをお願いいたします。
阿部:教育は学校や大学だけでおこなわれるものではありません。
社会活動の一環として、一人ひとりが後世を育成する必要があるでしょう。しかし、なんでもかんでも教えればよいというものでもありません。
最上地域では、大学の初年次教育に関係をもち学生に接することによって、知らずに教育方法や地域での教育の匙加減を習得し、達人講師として教育スキルやコミュニケーションスキルを磨いています。
この講義は学生だけでなく、地域の方々の教育への関与、関心を広げ、結果として社会で学生を育てる土壌を毎年耕すことができています。
地域の方へのご負担もありますが、長年、学生たちへのアンケート結果をみていると、毎年95%以上が感動と、達成感をもって講義を終えており、教育効果も申し分のない講義に成長しました。
地域と大学の連携は無理のない範囲で継続、実施することが肝心です。
地域と大学双方が一人の人間の成長に関与し、育っていった学生が、講義でかかわった地域に何らかの循環をもたらしていることを期待しています。
私たちの取り組みに少しでも興味をもってくださった方は、ぜひホームページをご覧ください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:山形大学エリアキャンパスもがみ