世界には学校へ通いたくても通うことができない子どもたちが大勢います。
そういった国々では識字率が低く、文字を読めないことから危険な目に遭ったり、命を落としてしまったりすることもあります…。
今回は、アジアのなかでも貧しい国のひとつであるバングラデシュで、すべての子どもたちが教育をうけられるよう支援活動をおこなう「アジアキリスト教教育基金」事務局長の柳原 さつきさんにお話を伺いました。
国際協力や教育に関心がある方は、ぜひご一読ください!
バングラデシュの子どもたちに教育の機会を!
ー本日はよろしくお願いいたします。まず、「アジアキリスト教教育基金」の概要についてお聞かせください。
柳原さん:ACEF(The Asia Christian Education Fundの頭文字を取って通称「エイセフ」)は、1990年にキリスト教精神に基づき、バングラデシュの子どもたちの初等教育の支援協力をおこなうために設立された団体です。
当時のバングラデシュは識字率が約30%で、文字の読み書きできないために、土地の権利を取り上げられる村人がいたり、母親が農薬を薬と誤って子どもに与えて命を落としたりするような悲劇が起きていました。
そういった背景から、教育がすべての基(もとい)であるということで、バングラデシュの民間団体と日本側ではACEFが同時に発足して「バングラデシュに寺子屋を送ろう」という運動が始まったんです。
特に女子に対する教育は軽視されがちであったため、できるだけ教員には中学校を卒業したばかり、あるいは高校で勉強を続けている若い女性を採用。給与によって彼女たちが勉強を継続できるようにしました。現在も大半の教員が女性です。
当時、ダッカのスラムから始まった青空教室のような識字教育活動も、現在では全国5県6地区に43ものレンガ作り校舎の小学校を支援。就学前クラスから5年生までの約4,000人の生徒が学んでいます。
この活動では「一人ひとりの尊厳が大切にされて、生きる喜びを感じられる社会を目指します」というACEFのビジョンのもと、次の3つのミッションを掲げています。
①アジアの人々とのパートナーシップ・共働から、共に生きることの実践を模索する。
②未来の共生社会をつくりだす子ども・若者の可能性を開くための教育活動を支援する。
③バングラデシュと日本とが学びあい、大人と子ども・若者がともに育つ場をつくる。
たとえば、支援しているバングラデシュの小学校の子どもたちに将来の夢を聞くと、「学校の先生」「お医者さん」「警察官」「軍人さん」など、いろいろな夢を答えてくれます。
そのような夢を叶えるには、義務教育である小学校はせめて卒業しなければ次の段階に進むことができません。
しかし、貧しい家庭の子どもたちのなかには勉強をあきらめて働かざるをえない子どももいます。
現在、バングラデシュでの小学校入学率は100%と言われていますが、卒業できるのは8割ほど。さらに中学校に進学するのは7割程度です。
進学したい子どもは中等・高等教育も、国や地域、性別などとは関係なく受けられるような社会を築いていきたい。このような教育に関する現実を変えていきたいと思います。
また、地方の小さい村にはまだ公立の学校が近隣になく、小さい1年生には通学が難しいところもあります。
加えて、女の子の独り歩きを警戒する地域もあり、まだまだ私たちが支援するような民間団体が運営する小さな学校が必要な地域もあるのが現状です。
コロナ禍によってバングラデシュの小学校は2年近くも休校していたのですが、その間にもマスクや石けんの配布、手洗い施設の建設の支援をおこないました。
学校が再開されてからは、コロナ禍による経済的理由によって中学校に進学が難しくなった子どもたち80人に奨学金を給付しました。
また、バングラデシュでは学校に図書館が無く、教科書以外に本を読むことがほとんどありません。
そこで子どもたちに本を読む楽しさを知ってもらうため、図書室を設置して本を送る活動もおこないました。
小学校以外にも、電気製品を修理したり、家やビルの電気工事をしたりできるようになるための電気科、オートバイの修理や自動車の運転ができるようになるための自動車科、そして、女性にも人気のコンピューターや縫製の職業訓練コースをパートナー団体が運営し、支援しているんですよ。
また、女性の自立を支援するためのマイクロファイナンスというグループ単位で貯金や小口のローンを貸し出す活動も始めています。
延べ800人が参加した「スタディツアー」
ー「スタディツアー」について詳しく教えてください。
柳原:ACEFではバングラデシュに対する支援だけでなく、バングラデシュをはじめとした世界の現状に関心を持つ日本国内の人材(特に若者)の育成にも力を入れており、ワークショップ、セミナー、年1、2回のスタディツアーも開催しています。
バングラデシュ・スタディツアーは、治安の悪化やコロナ禍の影響で最近は不定期の開催ですが、今までは春夏1回ずつ開催してきました。
これまでに延べ約800人の高校生、大学生と社会人が参加しています。
ツアーでは、私たちが支援している小学校を訪問し、子どもたちと歌や踊り、折り紙やお手紙の交換などさまざまな方法で交流を深めます。
バングラデシュは踊りと歌が大好きな方が多いので、参加者も日本語とベンガル語で歌えるように準備していくんですよ。
学校訪問のほかにも、少数民族のコミュニティ、障がい者のコミュニティへの訪問など、バングラデシュ社会について多くの学びの機会を提供。
滞在中は、エアコンのない部屋で寝泊まりし、タライに水を溜めて水を浴び、食事はみんなでカレーを手で食べます。
このように、参加者は日本とはまったく異なる環境で10日間余りを過ごします。
正直心身共にきついこともありますが、参加者はバングラデシュの人たちの温かさに触れ、子どもたちの生き生きした表情を見て、夕暮れのなんとも言えないきれいな景色を目にして、多くを学ぶようです。
現地では、ACEFの支援を受けて小学校を無事卒業した卒業生たちにも話を聞く機会を得ました。
中学校に進学した子どもたちからは、家のお手伝いをしながら楽しく中学校に通っている話を聞くことができました。
もちろん、そのように進学できる子どもたちばかりではないのも事実です。
しかし、先日訪問したダッカのスラムにある支援先の小学校の若い先生が私に、「私はこの学校の卒業生で、大学まで進学することができ、母校の教師になりました」と話してくれたんです。とてもうれしい出会いでしたね。
スタディツアーに参加した学生たちのなかには、卒業後の進路に国際協力を選ぶ人も少なくありません。
また教員になって、自分の生徒たちにスタディツアーを勧める元参加者もいます。
社会人参加者にはリピーターになる人も多くいて、その後ACEFを支える会員となり、バングラデシュの手工芸品をチャリティ・バザーで販売するなど、さまざまな形でバングラデシュに関わり続けてくれています。
さまざまなSNSを活用し、情報を発信中
ー今後、開催予定のイベントや告知があれば、お願いいたします。
柳原:10月6日が「国際協力の日」ということもあって、毎年10月最初の週末にグローバルフェスタ Japanという日本で最大の国際協力フェスティバルが開催されます。
今年は10月1・2日にオンラインと会場でのハイブリッドで開催され、ACEFは10月1日(土)14:30~15:30のオンラインイベントでバングラデシュ・スタディツアーの魅力をお伝えします。
どなたでも無料でご参加いただけます。詳細はACEFのホームページかグローバルフェスタのホームページでご確認ください。
また、パートナー団体のバングラデシュ人スタッフが研修のために来日する予定で、そのスタッフから直接バングラデシュの話を聞く機会を12月に計画中です。
こちらも、ACEFのホームページやメールマガジンで詳細をお知らせします。
最後に、バングラデシュの4,000人の子どもたちの学びは、すべて日本の支援者の皆さまからの寄付によって支えられています。
子どもたちの学びの継続のために、ぜひ支援の輪に加わっていただければと思います。
古本チャリティや古着、お宝エイドといった現金以外での寄付も受け付けていますので、ホームページをご覧ください。
ー最後に、読者の方へ向けてのメッセージをお願いいたします。
柳原:「SDGs時代の国際協力~アジアで共に学校をつくる~」という本を紹介させてください。
著者の3人は、いずれも現在ACEFの理事で、先ほども述べたスタディツアーでバングラデシュに魅了された人たちです。
3人のうち2人は、大学卒業後国際協力の現場で働き、今は大学の教員・研究者となっています。もう1人は、すでに50回以上バングラデシュに行き、ACEFのなかでもバングラデシュの生き字引のような人です。
そんな著者らが実際に見聞きしてきたバングラデシュをもとに、バングラデシュの国、文化、人々などを紹介。
また、バングラデシュの教育支援、自らが強い影響を受けたACEFスタディツアー、そこから今後の国際協力の在り方についての考えがつづられています。
そのなかには、ACEFのビジョン・ミッションに掲げられている、「一人ひとりの尊厳が大切にされ」「共に生きる」「共に育つ」ことを目指すという、ACEF流の国際協力の在り方も書かれています。
バングラデシュに興味がある方、これから国際協力の仕事を目指そうという方、異文化交流に関心がある方、いろいろな方に読んでいただきたい本です。
そして、ぜひACEFについても知っていただきたいと思います!
Facebook・Instagram・Twitter・ホームページをご覧ください。バングラデシュの日常風景や、ACEFの国内外の活動について幅広いコンテンツをタイムリーにお届けします。
―本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:アジアキリスト教教育ACEF