2020年に発表された若年層の死因…そのトップが「自殺」。これは先進国(G7)では、唯一日本のみ。出生数が減少しているにも関わらず、依然として小中高生の自殺者数は過去最悪の水準が続いています。
この異常な事態を「社会問題」として提起し、「望まない孤独」で苦しんでいる人たちに寄り添いたいと立ち上がったのがNPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さん。
「あなたのいばしょ」は、24時間365日、年齢や性別を問わず誰でも無料・匿名で利用できるチャット相談窓口。大空さんは、慶應義塾大学3年生のときにこの事業を立ち上げ、現在、内閣官房孤独・孤立の実態把握に関する研究会構成員なども務めています。
しかし、著書『望まない孤独』(扶桑社)でも語っているように、大空さん自身も複雑な家庭環境で育ち、高校時代には生活が困窮、生きる意味を見失っていたと言います。
そんな大空さんがたどり着いた「夢も目標もいらない」と語る言葉の真意とは。また、8月30日に発売する最新刊『「死んでもいいけど、死んじゃだめ」と僕が言い続ける理由 あなたのいばしょは、必ずあるから』(河出書房新社)に込めた思いについても語っていただきました。
「“生きているっていうことを目的にする”くらいでいい」
―大空さんは、高校生のときにすでにこの事業を立ち上げようと考えて、大学に進学されたそうですね。
大空幸星:僕自身が、家庭のことや学校のことで生きる理由を見失っていたときに、高校で信頼できる先生に出会ったことで救われました。でも、そういう“頼れる人”に出会えるかどうかっていうのは非常に奇跡的なことですよね。ただ、頼れる人に出会うということを、奇跡や運、偶然性に頼っていてはいけない。そこに確実性の要素を入れていきたい、という思いから設立しました。
しかし、始めは大学に行くつもりはなかったんです。でも、頼れる人に確実にアクセスできる場所をつくるっていう思いがあり、でもどうやってその場所をつくったらいいかわからない、それなら大学へ行こうと決めました。
孤独、チャットやSNS、社会的関係の強化とかその辺りっていうのは、僕が大学のなかでずっと勉強してきたことなんですよね。大学で学んだことのすべてが今繋がっています。
そもそも、勉強しなきゃよかったなって思うことはあまりないわけですよね、基本的に。勉強する必要なかったな、時間のムダだったなと思うことはあまりない。だから勉強は大事なんですね。
―ただ、大空さんの場合は勉強した先の目標がありましたが、子どもはなかなか勉強と目標が結びつかないですよね。
大空:そうですね、強制的に勉強をしていくのはすごくしんどいと思いますよ。今の受験生たちのなかにもそういう人はいると思います。
でも、だからと言って目標を無理に見つける必要はないと思います。僕は「夢も目標もいらない」って言っているんで。夢も生きる目的なんかも必要ないと。
小学校の卒業式などで、ひとりずつ将来の夢を言わせたりしていますよね、僕の小学校がそうだったんですけど。「お花屋さんになりたい」とか「サッカー選手になりたい」とか。でも、叶う人なんて1割もいませんから。99%の夢は叶わないんです。
でも、叶わない夢とかあるはずのない生きる目標みたいなのを、大人がずっと追い求め続けさせて、それが叶わなかったときにその子の人生挫折しているんですよ。そこの反動が我々の窓口にいっぱい来るんです。
受験は一番代表的な例ですね。保護者のなかには、「いい学校に入ることこそがあなたの人生の目標であり、私にとっても夢だ」と言い、子どもは「私はいい学校に行かなきゃいけないんだ」と思う。そうして親子ですべてを捧げ、叶わなかったときのその反動といったら…本当に大きく、命を奪うこともあるわけです。
―受験に関わらず、いつの間にか保護者の夢や目標などを子どもに押し付けてしまっていることって少なからずあるかもしれません。
大空:もちろん、目標がある子はいいんですよ。僕が言いたいのは「ないのに無理につくる必要はまったくない」ということ。夢なんか考えなくていいし、何になりたいとか全然なくていい。「生きる目的がわかりません」と言う人は、老若男女問わず多いのですが、生きる目的なんていうのはなくていいんです。あえて言うなら“生きているっていうことを目的にする”くらいのことでいいのかなと思います。
だから、みんなが大学に行かなきゃいけないっていうこともないですよね。ただそれは大学に行っている人が言えば、強者の理論だから、あまり言いたくないですが…、ただ行きたくもないのに無理に行く必要もないです。
とは言え、社会では大卒のほうが給料が高いわけですから、それを是正しない限りはただのきれいごとだし、これも強者の理論になっちゃうので、僕はそこを取っ払っていくっていうのが正しいのかなと思います。
「親に心配かけたくない」と語る子どもたち…“頼れる親”とは?
―著書に、2020年の小中高生の自殺理由や原因でもっとも多かったのが「その他進路に関する悩み」と書かれていました。相談に訪れる子どもはどのような世代が多いのでしょうか。
大空:小学生もいますよ、もちろん、低学年の子もいます。ただ、自殺というのは原因が複合的になって生じているので、相談の内容については本当にさまざまなんです。
悩みの発端は勉強のことかも知れないけれども、それを誰かに話せない、頼れないっていうことでまた1つ苦しみを抱えていく、こんな感じでどんどん連鎖してしまうわけですよ。
子どもたちからの相談を見ていくと、虐待などは別として、今の子どもたちは優しくて、親に心配も掛けたくないし迷惑も掛けたくないと言っているわけですね。頼れないわけですよ、優しい親に対して。
―でも、保護者は子どもが悩んでいるなら相談してほしい。そのように思っている人が多いと思います。相談できる親子関係ってどのようなものだと考えますか。
大空:僕も親ではありませんので、あくまでひとつの考え方ですが…保護者の方向けの講演などで僕は、「子どもとの間に薄い線を引いてみてほしい」と、お伝えしています。これはボランティア相談員の方々にもお話ししている「本気の他人事」というスタンスと同じです。他人だけれども本気でやるんです。
彼らが一番何を気にしているかって「自分の相談がほかの人にバレますか?」ということです。つまり、今の子どもたちは本当にすごく親密な人よりも、ちょっと他人のほうが相談しやすいわけですね。そういうのを考えていくと、子どもとの間に“薄い線を引く”ことは必ずしも悪いことではないと思います。
“すべてを犠牲にして子どもを愛する”っていうのは親のマインドとして当然のことだと思うし、“自分よりも子どもを優先する”ことを否定するわけではありません。
でも、今の子どもはそれでは親に頼れないわけですよ。だから“薄い線を引いていく”ということは、ある種どこかで子どもたちにとっても少し頼りやすい存在を作っていくことに繋がるのではないでしょうか。
―薄い線を引くとは具体的にどのようなものだと考えていますか?
大空:つまり、他者として子どもと接するということ、つまり子どもの“主体性を奪い過ぎない”ということですね。
“主体性を奪い過ぎない”ということは、自分が接している子どもであったとしても“他人とみなす”ということ。でも他人とみなしても家族としては機能していくわけですよね。
今は親が自らの人生に干渉し過ぎていることで悩んでいる子どもの方が圧倒的に多く、それは、いつの間にか子どもがこれから歩んでいくものがすべて親の人生に置き換わっていってしまっているんですよね、愛情とは別のところで。
子どもを生んだら、保護者は0から100まで子どもに人生を捧げないといけない、というようなことはないと思うんです。それこそ、僕の親は99.9くらいまで僕以外のことに費やしていました。僕はほとんど親からの教育も受けてこず、放置されてきましたが、僕はこうやって生きているわけですから。子どもに人生を捧げないといけないとか別にそういうことでもないわけですよね。
もちろん、だから「手を放して自由にさせろ」ということではなく、他者として子どもと接するということがあってもいいのではないかな、と僕は思うんです。子どもも自らの決断の連続で人生を歩んでいく存在なんだという、その認識が必要なのではないでしょうか。
―その人生の過程で、子どもが悩みに直面したときに親はどのように接してあげたらよいと思いますか。
大空:大切なのは、受け止める力、傾聴(けいちょう)ですね。
傾聴とは僕たちの窓口では「受容」、「共感」、「肯定」そして「承認」という4つのプロセスから成り立っていますが、特に「肯定」と「承認」は日本人とってすごく難しいんです。“今”の行動に対して「よくできたね」はすぐできるかも知れませんが、特に“過去”の行動に対してが難しい。過去のことに対しても「よく頑張ってきたね」と口に出して伝えていくことがすごく大切なんです。
僕は「子どもに怒るな」と言っているわけではなくて、「求められていないアドバイスはしないほうがいい」ということなんです。
たとえば子どもに、「これとこれどっちがいいかな?」と聞かれ「こっちが私はいいと思うよ」って、これは求められているアドバイスだからOKなんです。でも、子どもが「学校しんどくて行きたくない」と言ったときに、「なんで行きたくないの?」「嫌なことがあったから…」「それはあなたも悪いんだから、友だちに謝って明日から行きなさい」って、これは求められていないアドバイスなわけですよね。
そうではない「肯定」と「承認」を含めた傾聴を家庭でもおこなっていただくと、「何かあったら親に頼れる」、「親に話せる」そのような感覚を持つ子が増えるのではと思います。
ただ、勘違いしてはいけないのは、人間は悩みを取り払うことはできないということ。一時的に取り払うことはできたとしても生きている限り必ず悩みを抱え、壁に直面します。
それを取り払うことはできないからこそ、何か起きたときに誰かに繋がっていく、誰かに頼れる環境をなるべく作っていきたい、と僕たちは活動しているんです。それが家庭のなかで機能するならそれは素晴らしいことですよね。
―ただ、「受け止める力」をもつためには、親自身にも余裕が必要ですよね。
大空:そうなんです。だから、僕たちのボランティア活動でも「自分の人生を大事に生きつつ、そこの余裕でボランティア活動をしましょう」と伝えています。
でも、親が自分のことを優先したことによって、親に頼る機会を失う子どもが出てくる可能性も、当然あります。ただ、それを穴埋めするために僕たちの活動があり、僕たちとしてもそれが間違った窓口の使い方だとはまったく思わないです。相談できる場所の選択肢を増やすことにも繋がるので、ぜひ活用してほしいです。
―では、我が子ではなく、子どもの友人、はたまた自身の友人など身近に悩んでいる人がいたら、私たちはどのように接したらよいでしょうか。
大空:まずは仲良くなることです。実はそこをすっ飛ばしちゃう人が結構いて、「どうやって声を掛けるのが正解なんだろう」とか、「自分が何ができるのかな」とか。でも、その前に「どうやって仲良くなろうかな」っていうのが一番っていうのが正しいと思います。
ラポール形成というのですが、信頼関係を築いていくことが第一なんですよね。もちろん、今、まさに橋の上で命を絶つことを考えているような人は別ですよ。でもそうでない場合は、まずは好きな歌手の話をしたり…そうした雑談は、虐待で非常に危険な状態にある子でも話してくれるんです。
ボランティアの教育プログラムのなかでは、イエス、ノーで答えられないようなクローズドクエスチョンではなく、オープンクエスチョンで聞きましょうねと話します。質問の仕方ひとつにしても「元気?」と聞くと「元気」としか返せないし、「最近、映画観て面白かったものある?」とかっていうと続いていく。まずは会話を続けて信頼関係を築くことから始めていってほしいですね。
「死ぬことは出口だけど、死なない方法もある」と伝えたい
―ここまで保護者が悩みを抱える子どもとどのように向き合ったらよいかお聞きしましたが、8月30日発売の新刊は、悩みを抱える子ども自身に向けて書かれたものだそうですね。ご自身のSNSでも、「多くの子どもに手に取ってもらいたい本です」と話していらっしゃいました。
大空:もちろん大人の方々にも読んでいただきたいのですが、生きることがなんなのか迷っている子、死にたいと思っている子、将来のために読んでおこうかなっていう子、あらゆる子どもたちに「そういう考え方もあるよ」って知ってもらいたいという思いを込めました。
夏休み明けが子どもの自殺って1年で一番増えるんですよね。だから、その前に発売したいと発売日も調整していただきました。
―『死んでもいいけど 死んじゃダメ』という題名にはどのような思いが込められているのでしょうか。
大空:「自殺は絶対にダメ」「何があっても死ぬことだけは許されない」「死んじゃダメ」というのは、絶望のなかにいる人たちをさらに追い込んでしまう、非常に乱暴というか絶望の言葉なんです。
死ぬことは出口ですから。自殺することによって苦しみから逃れられるという出口なので、その出口を塞いじゃいけないんですよ。でも、僕たちは死んで欲しくない。死ぬことは確かに出口だと、僕もそれはよくわかる。ただ、死なない方法もあるということも書いているんです。
「あなたのいばしょ」を設立して2年経ち、計40万人以上の方々が相談に来てくれていますが、出口を選んだ人もいると思います、うちに来たあとに…。それは間違いなくいると思う。でもそれと同時に相談に来てくれたことによって、今生きている人たちもその数以上いると思うんです。ですから「死なない選択肢もあるよ」という気持ちで書いていますので、多くの子どもたちに手に取ってもらいたいですね。
―子どもだけではなく、大人にとっても響く内容になりそうですね。
大空:悩みって子どもと大人で何か違うものがあるかっていうとそういうこともなく、基本的に構造は一緒なので。大人も含めてそうだし、まさに悩んでいる子にどう接しようかって悩んでいる人、保護者の方にもぜひ手に取っていただきたいです。
『「死んでもいいけど、死んじゃだめ」と僕が言い続ける理由 あなたのいばしょは、必ずあるから』大空幸星 著
取材協力:大空幸星
公式Twitter:@ozorakoki
公式Instagram:ozora_koki
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