2012年東京都青少年治安対策本部より、青少年の健全育成に有益な作品として、東京都推奨演劇の認定を受けたミュージカル。
今回は、東京都推奨演劇ミュージカル the NEW KID-転校生-を、学校などで数々公演してきたNPO法人「JOY Kids’ Theater(ジョイキッズシアター)」代表理事の夏海 清加さんと、プログラムのメンバー 石井 ゆりあさんにお話を伺いました。
同世代の子どもたちが訴えかけるメッセージは、同世代の児童・生徒たちの心に響き、大人をも魅了させます。
ぜひ作品に込められた大切なメッセージを受け取ってください。
道徳問題をテーマに“子どもから子どもへ伝える”ミュージカル
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、NPO法人 JOY Kids’ Theaterがおこなう道徳教育活動「東京都推奨演劇 the NEW KID-転校生-」について教えてください。
夏海 清加さん(以下、夏海):「東京都推奨演劇 the NEW KID-転校生-」は、多様性を受け容れることの大切さと、いじめ撲滅という道徳問題をテーマとした、子どもから子どもへ伝えるノンフィクションミュージカルです。
もともとは1990年代にアメリカで生まれた作品で、ニューヨーク州やニュージャージー州では、道徳教育の教材としてこのミュージカルを学校の授業でおこなっていました。
私たちが小さいころの道徳の時間というと、教科書を読むだけのつまらないイメージがあり、私自身アメリカの授業を目の当たりにした際、こんな教育があるのか、これこそが道徳の本質だと感じましたね。
そこから2011年にこの作品を輸入し、日本の学校教育に合わせた翻訳などをおこない、2012年東京都青少年治安対策本部より、青少年の健全育成に有益な作品として、東京都推奨演劇の認定を受けました。
これまで関東圏を中心に10,000人を超える生徒児童・教員関係者・地域の方々の前で公演を実施してきました。
たとえば、小学校や中学校に同世代のJOY Kids’ Theaterの活動メンバーが伺い、授業の時間を借りて、目を背けがちな道徳テーマのミュージカルを繰り広げます。
普段は大人から受けている道徳の授業も、同世代の子どもたちが一生懸命演じるミュージカルのパフォーマンスだと集中して取り組んでいただけるんですよね。
上演後は、質疑応答タイムやワークショップなどをおこなわせていただくこともあります。
ほかには学芸会や文化祭、学校の周年行事、PTAの行事などに呼んでいただき、同世代同士の交流を含め、イベントが充実するよう取り組んでいます。
ミュージカルが学校生活の問題と向き合うきっかけに…
ー道徳教育活動を通じて子どもたちの成長につながることはありますか?
夏海:このミュージカルは、大人から教わる授業や芸術鑑賞会などとは違い、子どもたちだけで全部つくりあげているのが特徴です。
子どもたちが一生懸命発信するため、リアリティがあり、観客である同世代の生徒たちも興味を持ちやすく、親近感が沸きやすいんですよ。
たとえば、今いじめられているお子さんが観劇した場合、そこに共感が生まれて学校の先生や親にもいえなかったことをポロッと発言することもありますね。
また、その後のワークショップでミュージカルを実際にやって疑似体験した際、いじめている子、いじめられている子、いじめを傍観している子、それぞれの気持ちやさまざまな感情を体感する。
このようにミュージカル作品をとおして知ることにより、意見を出し合って改善策を考え、自らの学校生活での問題に向き合うきっかけになるのです。
こういった学校生活での一歩を踏み出す勇気こそが、一番成長につながる部分ではないでしょうか。
ー石井さんは小学4年生からメンバーとして参加しているそうですが、参加のきっかけや体験した感想をお聞かせください。
石井 ゆりあさん(以下、石井):参加したきっかけは、JOY Kids’ Theaterの先生の勧めと、当時私と一緒にミュージカルプログラムを受講していた年上のお姉さんやお兄さんたちが、the NEW KID-転校生-に参加していてとてもかっこよかったからです。
この作品を観たとき、学校が抱えている問題を作品をとおして訴えかけていることに幼いながらも感動し、私も活動メンバーになりたいと思い参加を決めました。
公演が終わったあと、小中学校の生徒の方が泣いて「ありがとうございました」と感謝の言葉をかけてくださったときに、この作品には大きな意義があると感じましたね。
私自身も、演じることで学ばせてもらうことがとてもたくさんありました。
この作品には、“いじめる役・いじめられる役・どちらにも属さない役”、そのすべての役に意味があって、それぞれの役の気持ちに立って演じるといろいろなことを考えさせられます。
この作品に参加することで、学校で起きた問題に対処できるようになるのはもちろんですが、そもそもそういった問題に関して真摯に向き合っているメンバーが多いんです。
私は、この活動をとおして、さまざまな学校を回り、児童・生徒の方が抱えるリアルな悩みや想いを知ることができました。
また、今後学校現場の課題をどのように解決すればよいか、私たちが伝えられるメッセージとは何かなど、メンバーと話し合いを重ねるなかで、教育者になりたいと思うようになりました。
この活動で得たものはたくさんありますが、自分の夢を見つけられたことが私にとって一番大きな収穫だと思っています。
作品に込めた大切なメッセージをたくさんの子どもたちへ!
ー今後の展開やイベントの開催予定、寄付の呼びかけがあれば教えてください。
夏海:このミュージカルは、大人も含めて15名程度のメンバーで学校にお伺いして上演するのですが、昨今のコロナ禍で3年間ほぼ活動ができず、予約が入っていてもキャンセルになってしまう状況でした。
最近ようやくコロナとの付き合い方も世の中で浸透してきたので、2023年度に向けて新たにもう一度アフターコロナを見据えた指導を新メンバーを入れておこなっています。
学校以外に地域や企業のイベントなどにも呼んでいただければ、私たちはどこまででも飛んでいきます。
また、道徳教育活動は寄付金で成り立っている活動になっておりますので、一校でも多く公演できるよう、ぜひこの活動にご賛同くださる方々にご支援いただければ嬉しいです。
ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
夏海:東京都推奨演劇は、ミュージカルで歌ったり踊ったりすることで、道徳だけではなく、子どもの倫理観や価値観形成を楽しく学べるプログラムです。
不登校の子どもがとても増えているこのご時世において、当ミュージカルのメンバーにも不登校の子がいます。
不登校はネガティブなことではなく、行きたくないという自分の心の声をダイレクトに表現して、行かない選択を取っていることだと思っています。
もし、そういった不登校で悩まれている親御さんやご本人、または学校でいじめられていたりいじめっ子になっていたり、心に葛藤を持っている方こそ、ぜひこの作品に触れていただきたいですね。
上演のご希望があれば伺いますので、ぜひお声がけください。
石井:コロナ禍で行動が制限されるなどして、子どもたちはストレスを感じやすく、大変なことも多いかと思います。
こういったときこそ、私たちが伝えられるものは大きいのではと感じているので、多くの子どもたちにメッセージを届けたいというのが私たちの願いです。
さまざまな場所で公演することで、少しでも多くの子どもたちの気持ちが楽になり、考える機会になってくれたらいいなと思っています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:NPO法人 JOY Kids’ Theater