子どもから大人まで多くの人が悩みを抱えています。しかし、自分が悩みを抱えていることにすら気づくことができない人も少なくありません。
今回は0歳から100歳まで、誰もがどこでも平等に、答えのないこころの問題に向き合うための支援活動をおこなう「エンドオブライフ・ケア協会」業務執行理事の千田 恵子さんにお話を伺いました。
大切な人や自分のこころのケアに関心がある方は、ぜひご一読ください!
コンセプトは「ユニバーサル・ホスピスマインド」
ー本日はよろしくお願いいたします。まず、エンドオブライフ・ケア協会」がどのような団体であるか教えてください。
千田 恵子さん(以下、千田):「エンドオブライフ・ケア協会」は、もともとホスピスという限られたいのちに関わる医師が、2000年から始めた活動がきっかけで設立しました。
2015年に法人化するときに、私も活動に参画するようになりました。
生きていくなかで、子どもも大人も、それと気づかず誰もが“苦しみ”を抱えています。苦しみとは、ここでは、希望と現実の開きと捉えます。
私たちは0歳から100歳まで、誰もがどこでも平等に、答えのないこころの問題に向き合えるように、「ユニバーサル・ホスピスマインド」というコンセプトを掲げ活動しています。
一部の人が一部の人にしかできない専門的なケアではなく、誰もが大切な人や自分のこころのケアができるように。
大人も子どもも、お互いを認め合い、学び合える社会を目指しています。
ホスピスの現場で培われた、解決が難しい苦しみがありながらも、自分も他者も大切に生きていくための穏やかなこころの育み方。
それを「折れない心を育てるいのちの授業」として学校、地域、企業などにお届けしています。
自分の弱さや苦しさから、自分にとって大切な「支え」の存在に気づくこと。
また、周囲で苦しむ誰かに気づき、相手にとっての「わかってくれる人」になること。
答えのないこころの問題に向き合うなかで、地域に優しさが連鎖していくことを期待します。
代表理事のホスピス医である小澤 竹俊は、2000年から一人で学校は600校近くまわっていたのですが、2019年からは全国で講師を育成することにも注力し、今では認定講師は150名になりました。最年少は中学3年生です。
その講師たちが、2019年以降、全国で延べ3万人に授業をおこなっているんですよ。
大切なのは「マイナスをプラスにする」こと
ー「折れない心を育てるいのちの授業」について、もう少し詳しく教えてください。
千田:いのちが大切であることは、子どもも先生方も、保護者の方も、誰もが当たり前に感じていることではないかと思います。
それではなぜ、頭ではわかっているのに、誰かを傷つけてしまったり、自分のことを大切にすることができないのでしょうか?
それは“苦しい”からではないからでしょうか。人は苦しくて、苦しくて仕方がないとき、頭ではわかっているのに傷つけてしまうことがあります。
その前提を踏まえた上で、苦しくても、それでも大丈夫と思える理由を見つけていくことが大切です。
苦しんでいる人が笑顔になるということは、「マイナスがプラスになること」と捉えてみてください。そのためのポイントは大きく3つあります。
1つ目は「苦しんでいる人は、自分の苦しみを、わかってくれる人がいるとうれしい」ということ。
苦しんでいる人がいるとき、そもそも気づかない人、気づいてもどうしてよいかわからない人、そしてマイナスからプラスの気持ちになってほしくて、大丈夫だよ、そんなことないよと安易な励ましやアドバイスをしようとする人は少なくありません。
もちろん、苦しんでいる人を理解しようとする気持ちは大切なことで、一番悲しいのは無視です。
目の前で苦しんでいる人がいるのに、見て見ぬふりをする。そうではなく、大丈夫?と気にかけることがすべての始まりです。
だから、理解しようとすること、これは忘れてはいけないと思うんです。
でも、苦しんでいる人の気持ちを、他人である私が100%理解することはできないですよね。その前提を押さえておきたいと思います。
ですから、「私もよくわかるよ」という共感の言葉や、「そんなことないよ」と相手のマイナスの気持ちを否定するような言葉をかけても、この気持ちは誰にもわからないと心を閉ざす人には逆効果でしょう。
大事なポイントは、主語を「私」ではなく「あなた」にして、苦しんでいる人の話を聴くこと。
“私が苦しむ相手のことを理解するために聞く”のではなく、
“苦しむ相手が私”のことを
わかってくれた”と思える聴き方をすることです。
相手がどんなにマイナスの言葉を話していても、それを否定せずに、「(あなたは)~なんだね。」と言葉にすること。それが、相手のことを認めるということにつながります。
ここではその先まで紹介しきれないのですが、主語を入れ替えるだけで、親子や先生と児童生徒、子ども同士の会話の質が変わりますよ。
「マイナスをプラスにする」ポイントの2つ目は「解決できる苦しみは解決する」。
そして3つ目は「解決できない苦しみがありながらも、その人が頑張れる理由(支え)を見つけ応援する」。
解決できることは自分で頑張るとか、人と協力しながら問題解決する。それは学校教育でも大切にしていることだと思います。
でも、どんなに頑張ってもテストの点数が伸びない、自分が試合でエラーしたことでみんなが負けてしまって責められる…。
なぜ?どうして自分だけ?といった苦しみは、誰かが答えを与えてくれるものではなく、その事実を変えることはできません。苦しみは残り続けるかもしれない。
でも、苦しみがゼロにはならなくても、その苦しみから何を学ぶのか。何に気づくのか。これを大切にしたいと思います。
自分が受験でつらいとき、友だちと励ましあった。学校にいけなくて苦しいとき、お母さんが話を聴いてくれた。
なかには、親にも先生にもわかってもらえない、いつも自分の話を聴いてくれたおばあちゃんがいた。そのおばあちゃんが亡くなって悲しかった…。だけど、
おばあちゃんはいつも自分を見守ってくれていると気づいた。
そんなふうに、苦しみから支えの存在に気づく子どもがいます。
支えは目に見え、手で触れられるものばかりとは限りません。推しの存在が大きい子もいます。
そして、その先があるんです。自分が苦しいときに支えがあったことに気づいた、だから、今度は私の番です、と言葉にしてくれる子どもが少なくありません。
助ける人と助けられる人が決まっているのではなく、こうした循環が生まれ、お互いが支えになれるコミュニティが、学校、家庭、職場、地域など、そこかしこに生まれることが、私たちが起こしたい変化です。
子どもたちや先生方、保護者、地域の人たちが、みんなでこのことを対話的に考えていけるように、面で広がることも大切にしたいと思います。
大人にもさまざまな切り口から、自分ごとになるように伝える活動をしています。たとえば、子育て、家族の介護、職場の人間関係などです。
オンラインで参加可能なトレーニングやイベントも
ー今後開催予定のイベントや告知などがあればお願いいたします。
千田:「折れない心を育てる いのちの授業」プロジェクトでは、困難のなかで生きようとする、子どもたちからの感想をたくさんいただいています。たとえば次のようのものです。
「今まで私なんて、この世にいなければいいんだ、はやく死んだほうがいいんじゃないかとずっと思っていました。でも、命の授業をして、私は生きていていいんだ、生きなきゃいけないんだと思いました」。
この授業を、もっと全国の必要とする人たち(子どもからお年寄りまで)に届けたいと願っています。
「折れない心を育てる いのちの授業」プロジェクトは、基本的には学校へは無償で出前授業をおこなっています。
コロナ禍で、子どもや関わる大人が様々な困難に直面しているいま、特に公教育の場における授業実施依頼が増えています。(大阪、沖縄、佐賀、鹿児島、岐阜ほか)
今後、より多くの場へお届けし、それが経年での取り組みとなり、さらには地域へ面で広げていきたい。
子どもも大人も誰もが、答えのないこころの問題に向き合い、互いを認め合い、ケアし合える社会を目指して、各地のみなさまと一緒に、活動を発展させていきたいと思います。
さまざまな形で活動に参画いただくことが可能です。
私たち一人ひとりにできることがあります。ぜひお力をお貸しいただけませんか。
●学校・地域・企業などでの授業/研修に講師を依頼する
●講師として、子どもからお年寄りまで自ら伝える
●持っている知識や経験を活動支援として活かす(プロボノ、ボランティア)
●ユニバーサル・ホスピスマインドを学び実践する(本、講演・講座)
●活動を見守る(会員登録、寄付)
Facebookグループでもご案内していますので、ご興味のある方はぜひ参加してみてください。登録時には2つの質問へのご回答をお願いします。
また、エンドオブライフ・ケア協会としては、年4回講師トレーニングと認定をオンラインでおこなっています。
次回は2022年10月に開催予定です。講師は知識を与える人ではなく、自分自身もひとりの弱い人間として、課題に向き合ってきたことを自己紹介でお話しますし、講師自身も学びあう過程を大切にしています。
学校や地域へ講師を呼びたい方はこちらからお問い合わせください。
また、講師になりたい方は、ぜひこちらのページをご覧ください。
ー最後に、読者の方へ向けてメッセージをお願いします。
千田:今はコロナ禍ということで、やはり多くの大人たちも苦しいんですよね。
子どもたちはその苦しい大人を見て、我慢しているんだなということを感想文からも感じているところです。
なかなか声をあげられない。そもそも傷ついている、苦しいということに気がついていない、周りにそういう子がいるということに気づけない、気づきにくい状況になっているのではないかと感じるんですよね。
実際に起きていることして、自分や誰かを傷つける行為などが見られて、先生方も戸惑っていらっしゃることをお話くださいます。リストカットのような自傷行為であったり、あるいは言葉での嫌がらせや、つい口ではなく手が出てしまったり…。
みんなが見えるところに、死にたいと書いて周囲を心配させるようなことも起きています。
コロナ禍でだいぶ、苦しいときには周囲にSOSを出していいよといった啓発や、NPOや行政の方の活動が広がってきていることは素晴らしいことです。
しかし、一方でそこに辿りつけない子どもたちがいます。
子どもたちが苦しんでいることを保護者の方や、先生が気づくことができればよいのですが、苦しいのは子どもだけではありませんからね…。
大人も誰かのSOSを受け止めることが難しかったり、大人自身がSOSを出せないということもあるかもしれません。
立場的に、大人が導かなければと、弱い自分を認められず、一人でがんばっていることもあるかもしれません。
その弱さをもお互いに認め合える、自分はここにいていいんだ、と思える関係性や場づくりを、点ではなく面で、自治体などの単位で広げていけたらと思っています。
それには、私たちだけの力ではなく、それぞれの地域で活動する、志ある方々との連携が不可欠です。
この数年で、大阪市は教育委員会と連携したり、沖縄市は自治会と連携したりするなどして、学校や地域へ面で広がりつつあります。
少しでも関心を持っていただけた方は、お声がけいただけましたらうれしく思いますし、よい形で繋がっていきたいと思っています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会