読書好きな子に育てたいけれど、手に取るのはゲーム機ばかり。本をプレゼントしたものの、子どもの反応はいまいち。そんな経験をされたことのある方は多いのではないでしょうか。
その原因はもしかしたら、子どもがタイミングよくその子に合った本と出会えていないことにあるかもしれません。
今回は、子どもの本の専門家を育てているNPO法人「山梨子ども図書館」を取材。代表の宮崎 さなゑさんにお話を伺いました。
図書館にあまり行かないという方から、日々読み聞かせに奮闘している方まで、子どもの本がもつ力について気になる方は、ぜひご一読ください。
日々成長する子どもたちに適切な本を与えたい
ー本日はよろしくお願いいたします。まず初めに「山梨子ども図書館」の概要について教えてください。
宮崎 さなゑさん(以下、宮崎):私たちは「山梨子ども図書館」という名前ですが、建物があるわけではありません。
子どもの本についての知識や技術を伝えたり、児童書に関する専門家を養成したりすることを目標に活動しているNPO法人です。
2005年3月の設立以来、山梨県で「“子どもの本の専門家”養成講座」を中心に、児童文学講座の開催や保護者啓発事業、講師派遣事業などに取り組んでいます。
「養成講座」は設立当時よりおこなっている活動ですね。このコロナ禍で2020年、2021年は残念ながら中止となってしまいましたが、毎年企画をし、そして実施してきました。
子どもの本について、私たち大人は「子ども向けだからかわいいのがいいかな」「ひらがなで書かれているやさしい本ならいいかな」と考えるかもしれません。
しかし、子どもたちはオギャーと生まれたときからどんどん成長していきますよね。その成長のなかで子どもが面白いと思える本はいったいどんな本なのだろうかと考えたことはありますか?
私たちが今までの経験や先達に学んできたところによると、どうやら子ども自身が面白いと思う本と、大人が面白いだろうと考えて子どもに与える本とでは、少し差があることがわかりました。
その差について、児童文学作家や児童文学の研究者、実際に現場で児童文学に触れている図書館司書の方などをお迎えしてきちんと学ぼう、というのがこの「養成講座」です。
「養成講座」のカリキュラムには、子どもの本について考える大人を養成する、という一貫した柱があります。
なかなかここは大人の皆さんに理解されないこともありますが、子どもたちに手渡す本を選ぶことの大切さという部分を少しでも皆さんにお伝えしていけたらな、と思っています。
なにより、“子どもと本”というのは親にとっても素晴らしい時間になるんですよ。このことも合わせてお伝えしていきたいと考えています。
言葉との出会いが豊かな暮らしにつながる
ー「養成講座」の受講者にはどのような方がいるのでしょうか?
宮崎:「養成講座」の受講資格はただひとつ、子どもの本に関心がある、ということです。
司書や教諭の皆さんはもちろん、過去には「どんな本を子どもに読んだらよいかわからない」というお父様や子育てまっただなかのお母様、孫が生まれたのでどんな本があるのか知りたいというご祖母様の参加もありました。
今年度は今年の9月から来年の2月まで、半年にわたって全6回の講座を予定しています。定員は20名。コロナの状況にもよりますが、会場の制限が緩和されればもう少し人数を増やせるかもしれません。
基本的には6回受けていただく連続講座なのですが、ご連絡をいただいて席に余裕があれば一般の方でも1講座のみ受講することが可能です。
今年は残念なことに開催中止となりましたが、半日から1日で完結する「児童文学講座」という企画も年に2回ほどおこなっているので、連続受講が難しい方の場合、こちらもご検討いただけると嬉しいですね。
また「子どもの保護者への啓発事業」 では、園や学校、PTAが主催する研修会や講習会に講師を派遣することもできます。そこで保護者の方へ本の選び方を伝えたり、読み聞かせの実技指導をおこなったりしています。
ー年齢に合った本を選ぶということが、子育てにおいてどのような意味があるのか教えてください。
宮崎:今、日本では3000~4000タイトルくらいの絵本が出されています。
大人が泣ける絵本として出されたものや、昔の児童書を少し大きい子ども向けに絵本として再編したものなど、ひとくちに絵本といっても幅広いんですよ。
そんななか、年齢に合った本選びというのは難しさを増しているわけです。
絵本をひらくとそこには、日常の言葉とは違った、少し別の言葉があります。
幼いころからすこしずつ本に親しんでいただくと、本のなかにあるこの“見事な言葉”がすこしずつ心のなかに重なっていき、それが言葉の豊かさを支えることになるんですね。
言葉が豊かになるということは、自分で選べるということ、自分で選択する道が少し豊かになるということにつながっていきます。
本を読む皆さんだったらわかると思うのですが、目に見えないことなので、読書活動、読書推進法ができたりしてもそこがなかなか進まない。小さいころは絵本を読んでも、そのあとの段階になるといい本との出会いもなかなかない。
そんなときに「こんな本があるんだけどどうかしらね」とすすめてくれる大人がそばにいたら、読んでみようかな、ということになるじゃないですか。そこで“見事な言葉”と出会うことができる。
こうした経験を重ねていくことが子育ての最終的な目標、子どもたちの自立、そこにつながっていくということなんだと思います。
日本は各地に公共の図書館がありますね。そして図書館にでかけさえすれば、無料で本を借りることができるのです。
今、いろいろな格差が社会問題となっていますが、本に関しては図書館に行けば誰でも手に取ることができる。そこから子どもたちは無意識のうちに学んでいける。
そういう意味でも本を近くに置くということは、豊かな暮らしにつながるのではないかと思っています。
新旧編集者による対談イベントを開催
ー今後、開催を予定しているイベントがあれば教えてください。
宮崎:11月12日(土)に、子どもの本の編集者を2名お招きして子どもの本について大いに語っていただく、という対談を予定しています。
ひとりは福音館書店の元編集長、斎藤惇夫さん。児童文学者としてご高名な方で、子どもの本についての講演を全国各地でされています。また、幼稚園の園長先生でもあります。
斎藤さんは「ガンバとカワウソの冒険」「グリックの冒険」など、ご自分でも児童書を出しているのですが、本が豊かな日本、その基を築いた福音館書店のある意味黄金期を築かれたという名編集長でいらっしゃいます。
「養成講座」でもずっとお世話になっていて、今年の講座でも9月3日の第1回目にご登壇いただく予定なんですよ。
もうひとりは新潮社の現役編集者の方ですね。今、新潮社はいろんな子どもの本について出版されているので、新旧の編集者が子どもの本の魅力を探る、という企画になります。
イベントのタイトルが確定次第、公式ホームページで詳細をお知らせする予定です。
楽しい読み聞かせは魅力的な本選びから
ー最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いいたします。
宮崎:読み聞かせは、どう読むかではなくてどう選ぶかです。
子どもたちは耳で聞いている、そのことを私たち大人は忘れてしまいがちかもしれません。子どもたちが聞きながらなにが書いてあるのか理解できる、そういう文章を選ばないと。それができなかったら、その本がおもしろいはずはないじゃないですか。
日本語として整っているというだけではなくて、子どもたちが耳で聞いてなんのストレスもなく情景を思い浮かべられるような文章、その文章を物語る絵もついた絵本、そういったものはとても魅力的ですね。
そういう本を選ぶことによって、保護者の皆さんとお子さんにとって読み聞かせの時間がかけがえのない楽しみの時間になっていくのです。
もし絵本選びに迷ったときは、近くの図書館へ足を運びましょう。そこで児童担当の方はどなたですかと聞いて、うちの子どもはなん歳でなにが好きなのですがおすすめの本を紹介してください、と、尋ねてみてください。
自分の土地のところにあるたからもの、文化のたからものである図書館を、そうやって活用していただけたらと思います。
また、私たちの「養成講座」もご興味の赴くままに受けていただければ。なにも難しいことはありませんので、ぜひ、お待ちしています。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:山梨子ども図書館