日本はインフラが整っているものの、家庭によって子どもの教育レベルに差が生まれてしまうという社会課題を抱えています。子どもの教育に不安を感じている方は多いのではないでしょうか。
福岡天神に本校がある無料の学習室「学術の森」では、中学生・高校生の子どもたちに無料で勉強を教えています。
今回は運営母体となる日本学術講師会の代表取締役を務める中村 信ニさんにお話を伺いました。
中村信二さんは長年の教育ボランティア・社会的貢献活動が認められて東京2020の聖火ランナーにも選ばれました。
子どもの教育に不安を抱えている方や教育ボランティアに興味がある方はぜひご覧ください。
教育を通して子どもたちに希望を与える無料の学習室
ー本日はよろしくお願いいたします。まずは無料の学習室「学術の森」がどのような組織なのか概要を教えてください。
中村 信ニさん(以下、中村):「学術の森」は、地元企業様や個人様から全面的にバックアップしていただいて運営している無料の学習室です。
先生を常駐させて子どもたちがいつでも質問できる体制、本人が自ら来て勉強できる体制をとっていてコピー機の無料利用、参考書や問題集なども無料で貸し出ししております。
福岡天神にある本校のほかに大野城でも運営していて、日曜祝日以外の朝10時から夜9時まで、毎日無料で利用可能です。
もともとは母子家庭、父子家庭といった環境にある子どもたちの勉強を見ようということで始めましたが、現在は中学生・高校生なら誰でも関係なく利用できます。
ただ、人数がいっぱいになったら経済的に厳しい子たちをなるべく優先させて入れさせていただきますというやりかたで運営しています。
ー無料の学習室「学術の森」を始めたきっかけを教えてください。
中村:実は、私が当時大学生のとき家庭教師をやっていたのですが、家庭教師は大学生やプロ講師を派遣しますので、どうしてもお金がかかりますよね。
そこで母子家庭や父子家庭の子どもたちのなかには、勉強をしたいけれど塾や家庭教師を利用できないケースがあることに注目しました。
実際、日本は家庭によって子どもの教育レベルに差が生まれてしまうという社会課題を抱えています。
それならということで、いわゆる寺子屋のような環境をつくり、無料で勉強を教えてあげたいと考えたのが最初のきっかけです。
ただ、無料で勉強を教えるというのは費用がかかります。そこで私はずっとボランティアをやっていたんですよね。
例えば平成2年に島原の普賢岳が噴火したときは、夏休みに160人の先生を現地へ連れていって無料で勉強を教えさせていただきました。
ほかにもフィリピンのゴミ山で生活している子どもたちのニュースを見て、ノートと鉛筆200キロを現地に持っていき直接学校を回って配らせていただき、カンボジアにもノートと鉛筆を送りました。
東北で震災が発生した際にも350キロのノートと鉛筆を全国から集め、仮設住宅の子どもたちに直接配っています。
そのような活動をしているなかで、外国や他県でボランティアしているのになぜ福岡でしないのかと私の知り合いに訊かれました。
そして福岡で寺子屋のようなものを、どうせやるなら天神のど真ん中でやろうと思い切って決断したんです。
これまで、塾とか家庭教師のもとで勉強できない子どもたちや経済的に厳しい子たちというのは、学校に残って勉強したり、図書館に行って勉強したりしていました。
ただ、最近は防犯上の都合で学校が早く閉まるので放課後に残るのは難しいです。
そうはいっても塾にも行けないし家庭教師も雇えない、カフェは子ども一人だと入りにくしお金を使わないといけない。
もちろん、それだったら家で勉強すればいいんじゃないかと思うかもしれませんが、テレビを見たりベッドでごろごろしたりして、家ではなかなか集中できない子もいるんです。
私の場合は図書館に行っていましたが、最近の図書館では勉強をすると嫌がられることもありますよね。
このような実態があり、子どもたちが勉強できる環境というのは限られています。
それなら勉強に集中できる場所を、私たちが無料で提供しようと「学術の森」を一般社団法人化して、いつでも勉強しに来てもらえるように体制を整えました。
「学術の森」から広がる教育ボランティアの輪
ー「学術の森」で勉強する生徒の様子や保護者からの感想を教えてください。
中村:学術の森に勉強しに来る子は、友達と複数で来ることもあります。最初は軽い感覚で来ていても、周囲の生徒が本当にしゃべらないでもくもくと勉強をしているので、雰囲気的にはすごくいいんです。
保護者の感想としては、子どもが実際に学術の森に行ったかを確認できるので安心できるという声をいただいております。
学術の森は、nanaco(ナナコ)やSUGOCA(スゴカ)のようなICチップの入っているカードを機械にかざすと、リアルタイムで親御さんに「今入室しました」と連絡が届けられるシステムを導入しているんです。
帰るときも「今退出しました」というメッセージが親御さんに送られるので、親としても安心して子どもを学術の森に行かせられるという状況になりました。
ほかにも日曜祝日以外は毎日、朝10時から夜9時まで無料で利用できることが喜ばれていますよ。
学術の森に通っている子たちのなかには、塾や習い事などに通っている子もいるんです。今日は塾が休みだから学術の森に来て勉強するというケースもあります。
もしくはスポーツのクラブチームに入っていて、普通の塾ではなかなか都合が合わない子が休みの日に学術の森に来るというように、誰でも利用しやすく勉強しやすい学習室です。
気軽に自由に来ていただいて、わからないところは常駐している先生が教えてくれます。無料でコピー機を利用できますし、参考書なども無料貸し出しをしているので子どもたちにとって本当にいいスペースであると自負しております。
中高生が同じ空間で勉強しているので、中学生は高校生が頑張って勉強する姿を目の前で見ています。
そのおかげなのか、何か勉強するのが当たり前という雰囲気になっていますね。
実際に、学術の森で勉強している子のほとんどが成績を伸ばしているんですよ。受験生は、学校の先生や親御さんからいわれているランクよりも、2ランクや3ランク上を目指して通っている子がいっぱいいます。
そんな学術の森は今年8年目を迎え、3,000人を超える卒業生を輩出しました。その卒業生のなかには志望校に合格してそこに通っている人もたくさんいますよ。
実は、地元福岡の大学に入学した子のなかには、今度は自分達が教える側になりたい、ボランティアで教えたいという子たちもいてとても嬉しいです。
勉強を教えたいといってくれる学生には「まだボランティアはしなくていい」と伝え、教えたい方には時給も払うようにしています。
ただ、社会人になったときにまた来てくれるなら、そのときはぜひ教育ボランティアとして教えてほしいという話をさせていただいております。
実際に社会人として働き始めた子が、学術の森の中学生・高校生に勉強を教えてくれていますよ。
教育ボランティア活動を全国にもっと広めたい
ー今後開催予定のイベントや何か告知があれば教えてください。
中村:イベントは今のところ予定しておりません。ただ、地元のプロレスラーをお呼びして、護身術をちょっとやっていただいたり、もしくはちょっとした何かの企業の体験みたいなことを話させていただいたりというのは過去にはやっています。
今後新しい情報が出てきたら定期的に発信させていただく予定です。
ー最後に読者の方へメッセージをお願いいたします。
中村:私たちは発信という面ではまだまだ厳しいところがありますし、この無料学習室は営利目的全くゼロでマイナスからスタートしていますので、なかなか広告宣伝費を出すことができません。
本当はもう少しいいパソコンを買ってあげたり、机や椅子もなるべく長時間勉強しやすいものを用意したりできればと思っていますが、いまはまだそこまでできていません。
それでも学術の森のように、子どもたちに勉強を教えてあげられる環境は、福岡もしくは全国にもっともっと広げていきたいなというのが私の考えです。
私のような会社でもできるということは、他のところでもたくさんできるのではないかと思います。例えば会議室が夕方から空きスペースになるのであればそこを利用していただくとか。
もしも、この記事を見た方で「自分のところでもできるかもしれない」と思う方がいましたら、情報やノウハウは全部提供させていただきたいと思っています。
ー本日は、貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:無料の学習室「学術の森」