世の中では保育園が足りないということがよく叫ばれていますが、保育園に入れたとしてもそのシステムは古く、送り迎えの時間などの点で保護者の働き方とあわない部分もあります。
今回は、「一時保育のクレッシュ」を運営する特定非営利活動法人フィールホーム代表理事の宮武 直也さんにお話を伺いました。
子どもの主体性を引き出し、非認知能力を育てることを保育方針とする24時間開所の保育所とはどのようなものなのでしょうか?
多様な働き方があるなかで、子育てを無理なくおこないたい保護者の方はぜひご覧ください。
24時間開所の一時保育専門施設
ー本日はよろしくお願いいたします。まずは「一時保育のクレッシュ」の概要について教えてください。
宮武 直也さん(以下、宮武):一時保育のクレッシュは、東京都渋谷区富ヶ谷にある一時保育専門施設です。
「クレッシュ」はフランス語で保育所、保育園を意味する言葉。フランスでは保育に関してしっかりと分業されているのが特徴で、栄養士、調理師、清掃員などそれぞれに役割が分かれています。
また、子育てを終えた女性が手伝いに来ることが多く、その比率は7割を超えているとも。
専門家だけではなく、いろいろな分野の方が集まって、社会全体が1人の子どものために関わり育てるという意識が素晴らしいと共感し、この名前をつけました。
一時保育のクレッシュは24時間開所しているのが特徴です。
このような施設を開いたのは、これまで私が幼稚園、認可保育園、ベビーシッターとさまざまな保育のスタイルを経験したなかで、親子にとってベストと考えたものをひとつの形にするためです。
特に最近は共働きというスタイルが当たり前になっており、専業主婦が少なくなってきていることが背景にあります。
一口に働くといってもその形はさまざま。日勤もあれば夜勤もありますし、自分で店を開いたり自営業をしていたりする方もいます。
それにもかかわらず認可保育園や幼稚園は最初に作ったときのシステムのまま、9時~5時で働くサラリーマンを対象にしたような時間配分で運用されているのが現状です。
私も現在子育て中ですが、9時に保育園に連れて行くとなるとその準備や朝の支度が必要で、保育園でも引き渡しや引き継ぎ事項があり、帰るときも同じ。今の働き方とはあっていないと感じています。
また、保育園の数も十分とはいえないのではないでしょうか。
保護者のなかには保育園まで30分歩いたり、電車を乗り継いで20分かけて通ったりという方が多くいます。
それに、仕事をしているとどうしても打ち合わせが延びるなどして残業が発生するものです。お迎え時間に間に合わないと、切羽詰まっている保護者の方が多くいらっしゃいます。
収入によって入る/入れないが決まったり、定員によって希望の園に入れなかったりというところも、保護者にとっては使いづらい点ですね。
より柔軟に利用できるベビーシッターという形態もあるのですが、マンツーマンという形態だけにシッターの数が多く必要であり、なり手が圧倒的に少ないのが問題です。
ベビーシッターは人件費が高く、利用するための費用が高いのも多くの保護者にとって選択しづらいといえるでしょう。
コンビニのように誰もが必要なときに気軽に利用できることが本当の支援ではないかと考え、認可外というあり方で一時預かりに特化した24時間というスタイルの一時保育のクレッシュを作りました。
ー「認可外」であるところに不安を覚える保護者の方はいないでしょうか。
宮武:「認可外」というと世の中のイメージはあまりよくなく、実際、届け出さえ出せば作れることから専門性のない方も参入しています。
東京では認可よりも認可外のほうが事故やヒヤリ・ハットが多いのも事実です。
そこで当保育所では、私の10年の経験に加え、理事になっていただいている石川幸夫先生に教育の部分を監修していただき、保育内容を作っています。
保育と教育はあまり関係がなさそうに感じるかもしれませんが、「保育」の語源をたどっていくと養護と教育があわさったものが起源なのです。
このため、保育だから教育をしないというのは理にかなっていないのではないでしょうか。
また、幼児期や乳幼児期の教育はメソッドとして確立されておらず、特に3歳未満の乳児期においては科学的あるいは発達心理学的にどのようなアプローチが重要かということは、意外と明らかになっていません。
石川先生は40年以上この分野で研究と指導の実績があり、さまざまな成果をあげられています。
その成果をどうすれば、遊びや活動に取り入れられるかを私が考え、展開しているのです。
非認知能力と認知能力の両輪を育てたい
ー一時保育のクレッシュの保育方針について教えてください。
宮武:子どもたちの主体性を引き出すような保育をおこなうのが運営方針です。
「見守り保育」というと単に見ているだけと思われがちですが、私は子どもにちょっとだけきっかけをあげたり、提案をしたりすることで主体性を引き出す保育のあり方を見守り保育と呼んでいます。
たとえば何か活動をする前に片付けなさいとか、こうしなさいとか頭ごなしに命令するのは見守り保育ではありません。
その代わり、こんな楽しいことをやるけど一緒にやらない?と呼びかけるなどして、子どものほうからやりたいとかやるという言葉を出すことで主体性が引き出されるのです。
それによって子どもたちが能動的になりますし、やる気も全然違いますよ。
主体性を引き出すことはこれからの社会で必要とされる、非認知能力の向上につながります。
非認知能力とは、テストの点数では評価できない、コミュニケーション能力や忍耐力といったもの。自己肯定感も非認知能力に含まれるでしょう。
ただ、非認知能力は認知能力とセットで育つものであり、認知能力をないがしろにはできません。
そこで、たとえばフラッシュカードを使うなど、一時保育のクレッシュでは両方を育てる工夫をしています。
子どもの行動や表情に対して、なぜそうしているのかを理論的に判断しているのも一時保育のクレッシュの特徴といえるでしょう。
保育士の方々は経験に頼り自然とおこなっていることなのですが、一時保育のクレッシュでは両親の勤務体制など、子ども一人ひとりの背景を組み合わせて理論的に答えを出しています。
子育てへの不満や意見の発信は社会貢献
ー今後開催予定のイベントや告知があれば教えてください。
宮武:残念ながら一時保育のクレッシュは現在、新型コロナウイルス流行の影響で休園中です。
しかしながら、だんだんとウイルスに対しての対策や、感染した場合の対応方法などが確立されてきており、夏頃をめどに再開することを考えています。
正式に決まりましたらホームページでお知らせしますのでぜひチェックしてください。
また、一時保育のクレッシュの利用には登録が必要なのですが、再開後を見据えて登録の受け付けはすでに開始していますよ。
ー最後に読者の方へメッセージをお願いします。
宮武:各事業者や国、自治体の方々は本当に努力されていますが、子育て中の保護者の状況にそぐわない部分があるのも事実です。
不満に思っていること、改善してほしいところ、ほしいサービスなどがあればSNSなどで声をあげてください。声をあげなければ社会はなかなか動きません。
社会全体で子どもを育てることが重要といわれていますが、このような意見の発信も立派な社会貢献です。
私も実際、そのような意見をヒントにさせていただいており、貴重な意見だと感じていますよ。
一時保育のクレッシュはこれからも、保育を利用したいときに誰でもいつでも利用できることを目指していきます。
仕事で忙しい方々だけでなく、特に用事はないけど子どもを預けて一休みしたいというような場合でも利用できるようにしたいです。
また、保育園事業以外の幼児教室や子育て支援イベントなどもおこなっているのですが、毎回内容を開催前日まで考え抜いて開催しています。
本当に親子に寄り添う保育の形になっているかを考え続けて運営していますので、ぜひご利用ください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:一時保育のクレッシュ