「テラスがあったらオシャレかも」「吹き抜けのある家がいいな」など、念願のマイホームを建てる際は、いろいろと想像がふくらみます。
ですが、使用する木材について考えたことはありますか?
栃木県の那須町には、栃木県産の木材の魅力を伝えようと尽力している団体があります。それが「NPO法人 森と家を結ぶ会」。
今回は理事長を務める益子 重具さんに、具体的な活動内容や、小さな子どもから参加できるイベントなどについてもお話を伺いました。
子どもたちに木材づくりの奥深さを学ばせたいという方だけではなく、栃木県内で家を建てたいと考えている方、マイホームは木材からこだわりたいという方まで、ぜひご覧ください。
「植林体験会」と「伐採見学会」で木材の価値を伝える
ー本日はよろしくお願いします。まず「森と家を結ぶ会」の概要を教えてください。
益子 重具さん(以下、益子):私たち「森と家を結ぶ会」は、2009年6月に発足したNPO法人です。現在は会員数25名で活動しております。
活動の目的は、主に2つあります。1つ目は、マイホームを建てたいと思う人と山林の距離を近づけることにより、栃木県産材の利用をうながし、栃木県の山林の活性化に寄与すること。
そして2つ目は、長期にわたって住んでいただくために、価値のある良質な住宅を提供することです。
具体的な活動内容の一部として、私たちは年に3つのイベントを開催しています。
5月におこなう八溝杉(ヤミゾスギ)の「植林体験会」、11月の「伐採見学会」、そして2月には児童養護施設での「作業ボランティア」。
これらのうち「作業ボランティア」は会員限定のイベントなので、オープンイベントは「植林体験会」と「伐採見学会」の2つです。
先ほど当団体の目的として、栃木県産材を多く使って家を建てていただきたいということをお伝えしましたが、家に住むのは大人だけではありません。子どもがいる世帯も多いわけです。
長期にわたって住んでいただくということは、当然その子どもたちが大人になって、さらに次の世代へも受け継がれます。
そう考えた場合、やはりイベントには、ご家族みんなで参加してもらうのが理想です。
山林の環境に対する役割ですとか、木が育っていく過程ですとか、そういったことを、大人だけでなく子どもにもわかりやすくご説明します。
私たちの目的はあくまでも、山林の活性化や、良質な住宅の提供です。しかし結果として、子どもたちに貴重な体験や学びを提供できる場になっていますね。
また、イベントには年齢制限を設けておりません。保護者の方が目を離さずきちんと面倒を見てあげられるのであれば、自分で歩けないような子どもでも参加できます。
あくまでも保護者に判断をゆだねる、ということになりますね。
ー実際に体験会や見学会をおこなう際は、どのような流れで進行するのでしょうか?
益子:イベント当日の午前9時頃に指定場所へ集合していただき、そこからマイクロバスで現地までお送りします。
イベントをおこなう場所は山ですから、参加者全員がマイカーで行くわけにもいきませんからね。
現地に到着してイベントがスタートしたら、「植林体験会」の場合はクワを片手に苗木を植えていきます。
いっぽう「伐採見学会」の場合は、森林組合の方々がチェーンソーを持って、大木を伐倒するところを見学していただきます。
それが終わりましたら、お楽しみのランチタイムです。
スタッフが豚汁をつくったり、からあげをつくったり、ときにはバーベキューをやったりと、お昼を楽しく過ごしていただきます。
そしてランチタイムのあとは製材工場の見学に移り、杉や檜(ひのき)がどのような過程で製材されていくのかを見ていただきます。
それらすべての体験・見学が終わり、解散するのが午後3時頃。およそ6時間にわたってお楽しみいただきます。
ー「植林体験会」や「伐採見学会」で使われる木は、種類が決まっているのですか?
益子:たまに檜も植えたり切ったりしますが、ほぼ杉ですね。
私たちが着目している山林というのは“植林木”、つまり天然ではなく、人の手によって植えられた木が生育している場所です。
そして植林木の役割として期待されているのが、二酸化炭素の吸収なんです。
木というのは育っていく過程において、二酸化炭素をいったん吸収して、炭素を自分のなかに固定化しつつ酸素を放出します。
このはたらきによって温室効果ガスである二酸化炭素の減少に役立っていますし、今後のはたらきにも期待されているわけです。
そしてなぜ植林木が二酸化炭素の減少に大きく貢献しているのかというと、“循環する”からなんですね。
そもそも杉や檜というのは、樹齢60年ぐらいをピークに、光合成の効果がどんどんと低下していきます。
ですから約60年を節目に木を伐採して、それを有効に利用していくということが、二酸化炭素の吸収には大切なんです。
木の利用目的としてもっとも大きなものが、やはり住宅をはじめとした建築物です。
住宅の材料として使われている間は、炭素が木のなかに固定化されています。
そのあいだに新たな苗木を植林して、その木がたくさんの二酸化炭素を吸収し、炭素を固定化して、60年が経過した時点で伐採する。
この循環が、二酸化炭素の吸収量をキープするのに効果的というわけですね。
イベント情報をホームページにて随時更新中
ー実際に参加した方からは、どのような感想が寄せられていますか?
益子:「植林体験会」へ参加された方からは特に、「こんなに大変だと思わなかった」という声をいただいております。
私たちとしてはかなりなだらかな場所を選んでいるのですが、それでも「想像以上に斜面が急だった」とおっしゃる方が多いですね。
実際に植林を仕事にしている方は、もっと急な斜面で作業します。そういうこともあり、「木を植えることの大変さを体感した」というような感想もよくいただいております。
ですが、植林はあくまで最初の段階でしかありません。そこから60年をかけて立派な木に成長するまで、大変な作業がまだまだ続きます。
そういったことを参加者の方たちに説明すると、感動を覚えることもあるようですね。
ただの切り倒した木にしか見えなくても、じつは60年前に植えられた木だったんだ…と。
当然、植えた方々のほとんどは、すでにこの世にいないわけですよね。
ですから参加者のなかには「先人たちが植えて育ててくれたことに対する、感謝の気持ちが芽生えた」という方もいれば、「そんな大切な木を使ってマイホームを建てるのだから、やっぱり大切に使っていきたいよね」と言ってくださる方もいましたよ。
ー今後、開催予定のイベントはありますか?
益子:今年2022年は、11月5日に「八溝杉伐採見学会」というイベントを開催します。
イベントの情報はホームページにて告知しておりますので、参加を希望される場合はそちらからお申し込みいただければと思います。
栃木県産材を選ぶ意味とは
ー最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
益子:栃木県産材というのは、品質的にも量的にも、全国的に良材として認められています。
私たちのように栃木県に住んでいる人は当たり前のように使っておりますので、意外と知られていないんですよね。
ですがじつは、よその地域の方がうらやむほどの良材です。
それがせっかく近くで手に入るのですから、栃木県でマイホームを建てる際、栃木県産材を使わない手はないと思います。
私たちがこの十数年間にわたる活動のなかで意識してきたことは、win-winの関係、つまり両者に利益がある状態が成り立たないと、何事も長く継続はできないということです。
私たちが「できるだけ栃木県産材を使ってください」と訴えているのは、決して自分達のエゴではありません。
栃木県産材を使って家を建てることで、その家に住む方にも大きなメリットがあるからです。
ですからご自身やご家族のためにも、栃木県産材をたくさん使っていただければと思います。
それが結局は、地球環境の保全や、山林の活性化に貢献することにもつながりますからね。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:NPO法人 森と家を結ぶ会