長く続くコロナ禍で、子どもたちの多くが制限のある生活を強いられています。
そんななかでも、子どもを「たまには自然のなかで思い切り遊ばせてあげたい」「自然の楽しさや大切さを実感させたい」と考えている保護者の方は多いのではないでしょうか?
今回は、環境保全体験や里山での遊び体験をおこなうNPO法人「トチギ環境未来基地」理事長の塚本 竜也さんにお話を伺いました
子どもに自然のなかで外遊びをさせたいという方や、環境問題に関心がある方は、ぜひご一読ください!
今ある自然を未来につなぐための地盤づくり
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、 NPO法人「トチギ環境未来基地」がどのような団体なのか教えてください。
塚本 竜也さん(以下、塚本):私たちが暮らしている日本は国土の7割が森林ですが、残念ながら手入れが行き届かず、荒れ放題になってしまっているところが少なくありません。
私たちが活動する栃木県内にも荒れた里山が増えています。
「トチギ環境未来基地」は、危機的状況にある貴重な里山を未来につなぐため、保全活動をおこなっている団体です。
その保護活動の一貫として、自然の大切さを実感していただくべく、ボランティアでの環境保全体験の参加者を随時募集中です。
特に若い人たちにはボランティア活動にぜひ来ていただいて、実際に体を動かし、保護の大切さから大変さまで理解してもらいたいと考えています。
ボランティア活動中には、地域の人たちにも里山のことを教えてもらう機会があるので、そういった世代間交流の場を持つことも活動の大切なことです。
ーどのようなボランティア活動があるのでしょうか?
塚本:さまざまあるのですが、まずはのこぎりで木を切ったり、鎌で草を刈ったりといった整備活動です。
ボランティアに参加される方のなかには、初めてのこぎりを持つという方も多くいます。でも、初めてでもみんなで力をあわせることで、少しずつ前に進めるんですね。
そうしてついには、藪になってしまった里山や竹林に、昔ながらのきれいな姿を取り戻すことができます。
自分たちの手で整地を終えられたそのときには、かなりの達成感を味わえるはずです。
また、自然の大切さや守ることの大変さをその身で感じてもらえるのではないでしょうか。
それこそ里山をきれいにするということだけに焦点をあてるなら、森林組合や林業事業者の方に頼んだほうが上手だし、早いんですよ。
でもそれ以上に、「自分たちの暮らす地域をよく知り、自然を大切にする気持ちや未来につなげるための価値観をつくり上げる」ことが大切だと私たちは考えています。
なお、刃物を使うことに不安を感じる方には、切ったものを運んで片づける活動や、遊歩道づくりといった活動もありますよ。
参加者それぞれの得意なことやできることを基に役割分担して、みんなで力をあわせて進めていくといった形です。
実際に参加される方も、小さな子ども連れのご家族から、お友だち同士など、さまざまですのでぜひ気軽に体験いただければと思います。
参加方法も、気軽に参加しやすい「日帰りボランティア」もあれば、1泊2日や3か月間という長期間に渡る「合宿型ボランティア」もあります。
長期間のボランティアでは、当団体が所有する一軒家の「明在庵」に泊まり込んで、共同生活をしながら森づくりに取り組んでもらう形です。
現在はコロナの影響から長期ボランティアの募集自体を休止しているのですが、過去には日本の若者だけでなく、アジアからのボランティア参加者も受け入れてきました。
日本の若者に関しても、栃木県内だけでなく各地から参加してくれていましたね。
ですので、日本語と英語が飛び交うような、さまざまな文化が体感できる空間で生活できるというのもひとつの魅力ではないでしょうか。
参加者の参加目的としては、「大学休学中にいろいろな経験をして、自分が何をやりたいのかを明確にしてから勉強に本腰を入れたい」といった子がいたり…。
「将来、農業や中山間地で働いてみたい気持ちはあるけど経験がないから、3か月間ここでボランティアをしてみて、自分に向いているか試してみたい」といった子もいました。
こういった長期型のプログラムというのは日本ではあまりないんですが、やはりじっくり取り組むことで見えてくることはありますよね。
やはり短期よりも目に見えて心身ともに成長することもあり、参加前と後では顔つきまで変わる子もたくさんいます。
ーボランティア以外の活動内容についても、教えてください。
塚本:直近では、新しい里山の使い方として考えた「子どもの里山プロジェクト」というものに取り組んでいます。
ボランティアの皆さんの手できれいにしてもらっている里山ですが、それをずっと維持していくことはかなり大変なこと。
当たり前のことですが、草はいくらでも伸びてきます…。そこで、どうにかしてよい状態の里山を維持する仕組みができないかと考えました。
そうして、子どもたちが里山に自然と遊びに来られる環境を作ろうと「子どもの里山プロジェクト」が誕生したんです。
子どもたちが気軽に里山に来られるというのは、自然体験や成長の機会として、子どもたちにとってももちろんよいことです。
でもそれだけではなく、子どもたちがよく来てくれる里山になることは、「また子どもたちが来るからきれいにしておこう」といった具合に、整備する動機が生まれることも重要。
このように、里山の社会的価値を再定義することと整備はセットで考えていくことが、未来につなげるためには大切だと考えています。
特にコロナ禍の今は、自然に近い状態の森のなかで過ごせる場の必要性が一段と高まっているように感じます。
実際、私たちは県内で子どもの居場所を提供している団体と連携し、イベントを開催していますが、コロナ禍に入ってから特定の悩みをよく聞くようになりました。
その悩みというのが、「学校が休校になるたびに子どもを家でひとり留守番させているのが心配」または「申し訳ない」といったものです。
その声を聞いて、私たちは「森でリフレッシュプログラム」という子どもたちを森で預かって一緒に遊ぶという活動をおこなってきました。
5~6人ほどの子どもたちと一緒に森に行って遊び倒すというだけの活動なんですが、家にずっと閉じこもってばかりいるストレスを思いっきり解放できると評判です。
親御さんからも、「精神的にリフレッシュできたみたいだ」とか「子どもたちの笑顔が増えました」といったアンケート報告をもらっています。
週末は家族や友だちそろって“環境保全体験 ”へ!
ー今後、開催予定のイベントがあれば教えてください。
塚本:当団体では、毎月6回程度、週末を使ったボランティア活動を実施しています。
活動場所は栃木県内の各地になります。日時や活動内容などの詳細は、公式ホームページの「ボランティア募集情報」ページを見ていただければと思います。
初めての方でも、小さいお子さん連れでも大歓迎です。興味を持っていただけたなら、ぜひご都合のいい日や場所にあわせて、ぜひお気軽にご参加ください。
また子どもの里山プロジェクトの一貫である「森でリフレッシュプログラム」は、準備の関係から7月以降に毎月1~2回ほどの頻度で開催する予定です。
こちらもまたホームページで募集情報を随時アップするので、ぜひチェックしてください。
どの活動に関しても、栃木県内にお住まいの方はもちろん、全国各地どちらの方でもご参加可能です。
また、こうした私たちの活動は皆さまからのご寄付を財源として取り組んでおります。
活動には参加できないけど、子どもたちが里山で遊ぶ機会を増やすことや、里山の保護に協力したいなど、当団体の活動にご共感いただけた場合には、ぜひご寄付をお願いできればと思います。
寄付もまたホームページからできるほか、説明資料などが必要ということであれば、お気軽に団体までお問いあわせいただけると大変ありがたいです。
自然を通じて、かけがえのない価値観や感受性を育む
ー今後の展望について、お聞かせください。
塚本:より多くの方にボランティアとして参加してもらうためにはどうしたらよいのか、日々模索しています。
たとえば、なかなか引きこもり経験があり、外出することが難しくなっている若者たちにもぜひ参加してもらいたいと思うのですが、ただ「参加してね」と呼びかけても、難しいですよね。
「どうせ自分にはできることはないだろう」と思われて、こちらの声が届かないといったこともあります。
でも、実際に来ていただければ、ほかの人たちと力をあわせて何かをするということの楽しさや、自分がやったことで起こる変化に対して、身につく自信があるでしょう。
現在、私たちは県内の若者支援団体の皆さんと一緒に「なかなか社会につながれないが何かに参加したい、ひきこもりなどの若者」に、活躍の場を提供するためのプログラムを作成しています。
ほかにも、障がいのあるを方にも来ていただきやすい環境づくりやプログラムづくりなど。
「みんなで里山をよくしていこう」というときの「みんな」の範囲を限定しない、むしろ拡張していけるように、今後も活動に取り組んでいきたいと考えています。
ー最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いします。
塚本:子どもが自然の中で遊ぶことが好きかどうかは、試してみないことにはわかりません。
だからこそ当団体のボランティア活動やプログラムを含め、ぜひ子どもたちを自然体験に連れて行ってあげてください。
自然のなかで遊ぶということは、それこそ特定の習いごとのように「これができるようになります」といった明確なものはありません。
でも、いろいろなものを観察したり、森や自然の気配、空気を感じたり…。
ときには虫に刺されて嫌な気持ちになることもあるかもしれません。しかし、楽しい経験もちょっとつらい経験も、すべての体験のなかで子どもならではの自然観が生まれます。
また、生きものを大切にする心や、自然のなかに生かされているという感謝の気持ちや感受性の芽生えや育みにもつながるでしょう。
年に一度でもいいので、子どもたちが思いっきり遊べる日をプレゼントしてもらえたら、私たちとしては嬉しい限りです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:NPO法人 トチギ環境未来基地