ひとり親家庭のなかには、サポートが必要であってもなかなかSOSを発信できなかったり、相談意欲がないまま支援から取り残されてしまう場合も少なくありません。
栃木県の宇都宮市と日光市で活動するNPO法人「ぱんだのしっぽ」では、ひとり親家庭に積極的に出向いて、必要な人に必要な支援と情報を届けるアウトリーチ活動をおこなっています。
今回は「ぱんだのしっぽ」代表の小川 達也さんに活動内容についてお話を伺いました。
栃木県にお住いの方、ひとり親家庭で悩みを抱えている方はぜひご一読ください。
必要な情報や物資を届けるアウトリーチ(訪問)支援をおこなう
ー本日はよろしくお願いします。まずNPO法人「ぱんだのしっぽ」の概要からお聞かせください。
小川 達也さん(以下、小川):NPO法人「ぱんだのしっぽ」は、2018年頃から、近所の民生委員さんから「あの家困っているみたいだから」という話を聞いて、「じゃあ食料品でも持っていってあげようか」という本当に気軽な、小さなサポートから始めました。
2020年10月にもう少し規模を広げて組織的にしっかりとひとり親家庭に支援していこうということで法人化しました。
ーひとり親家庭への支援の活動内容について詳しく教えてください。
小川:ひとり親家庭とつながることをきっかけに関係性を築きながら、その家庭が抱える問題や悩みを聞いて、ワンストップで解決していくという活動をおこなっております。
生活状況がかなり厳しかったり社会から孤立をしているようなひとり親家庭を対象に、SNSやチラシ、市の広報誌や行政の紹介などから応募をしてきた方に対して、LINE公式アカウントでつながって、支援・サポートをさせていただくというかたちをとっております。
現在、宇都宮市・日光市合わせて約50世帯のひとり親家庭とつながり、それぞれの家庭に対して「食の支援」と、その家庭が抱える問題をワンストップで解決して次の支援につなげるとアウトリーチの活動を実施しております。
我々は24時間365日対応のLINE相談もおこなっているのですが、栃木県内のみならず全国各地からSOSのLINEがきます。その方々ともLINEでやりとりをしながら必要であれば食料を届けたり、その方がお住まいの地域の支援団体を紹介したりというところのサポートもしています。
基本的に我々は受動的な活動ではなく、「アウトリーチ」という手法をとっておりますので、こちらから手を差し伸べる支援活動がメインになります。
実際に食をきっかけに定期的につながる中で関係性を築いていきますが、我々のコンセプトとして「気づく」ということがあります。
日常生活の中で見た感じは生活に困っている、生活が厳しい、という状況がわからないのですが、やはりその家庭を直接訪問してその方と顔の見える支援をすることで、家の中や玄関先がちょっと乱れているなとか、お子さんの状況であるとか、そういうところに気づくことが大切だと思っています。
そこで気づいたこと対して逆にこちらから時間をかけて相手の悩みであるとか問題点を引き出すときもあります。
相手が申告してきた悩みや問題とかは、状況を聞いて適切な支援を届けるために具体的な提案をします。
たとえば「この家庭はコロナの影響なので、生活を立て直して自立するまでの間は社会福祉協議会の緊急小口資金がいいのではないか」とか、「総合支援資金で貸し付けを受けながら仕事を見つけながら自立に向けて一緒にやっていこう」、「生活保護の申請をしたほうがいい」など各ご家庭の事情に沿った支援方法はさまざまです。
また、申請書を書くのが煩雑で、申請すること自体にアレルギーがあるような方もいるので、我々スタッフが一緒に書いてあげたり教えながら書いたりしています。
特に生活保護というのは未だにあまりよいイメージがなく、厳しいというイメージがあるので、行きたくない、
ひとりで申請しに行くのが不安、心配だという方もいます。そういった場合は我々が同行支援をしております。
それから、まだ離婚が成立していない実質ひとり親家庭の親御さんには調停に同行したり、教育の問題の話であるとか、それぞれのニーズにあわせて、我々がLINE上だけではなく、直接その方と一緒に問題を解決するために行動するというところを大切にしています。
制服を実際に購入できないご家庭が何軒かありましたが、地域の「制服バンク」という活動をしている自治会があるので、そういうところを紹介して一緒に行ってあげたり、事前に連絡をして対応をしてあげたりとか、そのような対応も図っていますね。
また、不登校のことで困っているということがあれば、我々が連携しているフリースクールを紹介するなどしています。
逆に他の団体から「うちに来ているご家庭で、厳しい状況で手に負えないから、ぱんだのしっぽでなんとかできないか」と連絡をもらって、私たちでサポートしたりするなど、地域の団体と連携して、より適切な支援先を選定してやっています。
やはり我々単独では解決できないことももちろんあるので、民間団体との連携は大切ですね。逆に行政とは個人情報の件もあって情報が共有されないのですが、粘り強く行政とも連携を図っています。
LINEやメール、電話でいつでも相談を
ー実際に支援を受けた方の感想や反応はいかがですか?
小川:我々がLINE相談を24時間やっている理由として、相談者、シングルマザーの方は昼間は仕事に家事に子育てと忙しいですし、やることが終わって夜遅くに相談されるとか、いろいろ考えて八方ふさがりで行先もないと悩み抜いて夜中にLINEを送るということがあるからです。
その方にとってはいっぱいいっぱいの状態で我々のところにLINEが来るのですが、それに対する回答や寄り添いを次の日の朝であるとか日中だけにすると、相談者にとって良くないことだと思っています。ですからオンタイムで回答するのがベストだと思ってLINE相談をやっています。
相談が長時間に及ぶこともありますし、相談者が話されることに傾聴に徹して共感してあげるだけでも「すっきりできた」「明日から頑張れそうだ」ということもあります。
直接のアウトリーチに関していえば、正直月1回2回の食品の提供というのは、充分に満足できるものではないと思います。それでも「非常に助かっている」「本当にありがとうございます」と言ってくださる家庭もあります。
我々の支援というのは食の提供をゴールにしている活動ではなく、アウトリーチをおこなっている中で、各家庭が抱えている悩みや相談事を心理カウンセラーや看護師など資格を持った女性スタッフが寄り添って解決していくことを主としています。
支援を受けたご家庭から「これからがんばってみる」、「一歩踏み出せた、ありがとうございます」というような感謝の言葉はいただきますが、そこで終わりではなくて、問題解決後も引き続き24時間LINE公式アカウントでその家庭に寄り添っていきます。
常に見守っていくというところで、特にシングルマザーの方々には「安心感が持てる」といった感想をいただくことがあります。
ーひとり親家庭の方が相談にいたるまで、支援に結びつくまでにはどのような問題が潜んでいますか?
小川:ひとり親家庭の方、特にシングルマザーの方はふたつの問題があって、なかなか支援にたどり着かなくて孤立を深めて行くというケースがあります。
そのひとつに「心理的な障壁」というところがあって、もともと行政にアレルギーがある方、周囲に知られたくない、相談に行って誰かに見られるかもしれないから行きたくない、市役所に知っている人がいるとか、自分の厳しい状況を誰かに知られたくない、話したくない、以前相談に行ったが嫌な思いをした、というところですね。
大きくは周囲に見られたくないという外部的な要因ですね、そういうところが心理的に働いて、なかなか相談窓口であるとか、市役所などに行けないことがあります。
もうひとつは「物理的な要因」もあるのですが、そもそも市役所の相談窓口は日中しか開いていませんし、フードバンクに食料を取りに行くとか、どうしても日中行かなくてはいけないので、平日の昼間に仕事をしていたら行けるわけないと。そういうところから諦めてしまうところもありますね。そうした中でだんだんと厳しい状態が深まって孤立していく状況があります。
そういう問題があってなかなか支援を受けに行くというところが厳しい状態で、最終的にはSOSをどこに出したらいいのか手も上げられない状況になっている。そこで我々のようなオンラインでつながった24時間の相談窓口にくるというケースが多いように感じます。
みなさんスマホを持っていると思うのですが、そうではない家庭も実際にあります。そういった方向けにも支援が届くようにメールでの相談窓口もありますし、専用の電話でホットラインを設けています。
あらゆる手段で連絡をとれるようにしていますので、悩んでいる方は、ぜひこちらからご連絡いただけたら幸いです。
孤立している家庭にリーチしていくことが急務
ー今後の展望などありましたらお聞かせください。
小川:我々の活動エリアである宇都宮市と日光市内だけでも、孤立しているご家庭というのはまだまだ山ほどある、潜在していると思います。
その方々にいかにSOSを躊躇せず手を挙げてもらえるか、SOSを発信してくれるか、我々に届けてくれるか、逆に言えば我々はいかにそのような家庭にリーチするか、どのような方法でアプローチしていくかというところが課題になっています。
そこをもっと深く考えて、孤立しているご家庭にリーチしていくことが急務だと思います。
行政との連携も必要になりますが、行政側も個人情報の面で難しいところもありますが、民間からアプローチしても行政がブロックしてしまうというところがあるので、官民の連携をしっかりとっていけたらと思います。
また、我々が行政と連携してやっていることも未だに縦割りなところがありまして、あるご家庭の包括的支援について、子ども関連は子ども家庭課、教育関連は学校教育課、生活のことは福祉課となっていて、一つのご家庭の事案に対しての情報が共有されていないことがかなり多いです。
包括的に家庭を支援できるような官民連携したまちづくりというか、体制づくりが構築できればと考えます。
ー最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします。
小川:我々はひとり親家庭を対象に支援活動をおこなっていますが、我々のビジョンは、誰もが躊躇なくSOSを発信できるような社会づくり、親子のSOSを見逃さない社会づくりです。
このふたつが実践されれば、孤立している厳しい状況の家庭も躊躇せず手を挙げることができ、そのSOSを見逃さない社会があれば、「こういう支援団体があるよ」「こういう支援があるみたいよ」と教えてあげることによって、我々のような団体とつながって必要な支援を受けることができます。
このようなまちづくりの考えが浸透していくことを願いますし、「つながる」「つなげる」支援が気軽にできる社会になっていったらと思います。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力: NPO法人ぱんだのしっぽ