これからの社会はますます人々の考え方が多様化し、子どもが大人になるころには一体どうなるのか。不安に感じている方もいるのではないでしょうか?
そのようななかで、子どもたちには、自ら自分の生きる道を切り開く「創造していく力」が求められます。
今回は、「NPO法人 Design Net-works Association」代表理事の沼田翔二朗さんにお話を伺いました。
先が見えないこれからの社会を、子どもに自分の力で切り開いていってほしいと考えている保護者の方は、ぜひご一読ください。
これからの社会に必要な「創造していく力」
ー本日はよろしくお願いいたします。まずは「NPO法人 Design Net-works Association」の概要について教えてください。
沼田 翔二朗さん(以下、沼田):「NPO法人 Design Net-works Association(以下、NPO DNA)」は、群馬の10代が本来持つ力を活かしながら、 「与えられる学び」を越えて「自ら創り出す学び」を手にしていき、一人ひとりが 自らの価値と可能性を信じながら歩める社会の実現を目指して設立されたNPO法人です。
主に中学生や高校生をターゲットに、私たち自身が学校で授業や講演をすることもありますが、どちらかというとコーディネーターという立場で学校での授業をおこなうためのさまざまな調整をし、先生たちが授業をしていくサポートを担っています。
NPO DNAは元々2004年に設立されたのですが、その当時は大学生を対象に活動していました。
しかし、社会とのつながりや豊かな対話を軸として学んでいく教育環境は10代にこそ必要だと考え、2013年からは対象年齢を引き下げて活動をおこなっています。
もっとも多感と言われる時期に、多様な価値観に触れあって欲しい。いろいろな仕事、いろいろな生き方があり、そして多くの挑戦の仕方があることを学んで欲しいと思っています。
このため、こちらから伝えるだけでなく、友達や地域社会や企業の大人との対話を通し自ら探究しながら学んでいくようなカリキュラムを提供しています。
そもそも「学ぶ」とは、自ら考え、自ら発見し、自ら取り組んでいけるようになるという、主体的な行為です。しかし、10代自身は「学ぶ」ことを、「教えられるもの」「教わるもの」と認識しがちな状況です。
さらに、10代の子どもたちの半数以上が「得意なことがない」、自分のことを「価値がない人間だ」「社会は変わらない」と考えている現状で、この自己肯定感が低いことが教育課題として存在しています。
ただ、10代自身の心の中では「いつかは挑戦したい」とポジティブな思いを抱える子どもも少なくありません。
学校ではもちろん、ときには学校を飛び出して「学ぶ」ことで自分の価値や可能性に気づいていけるような教育環境を創りたいと思って、先生方とともに仕事をしています。
ーNPO DNAの活動を通して子どもたちはどのようなことを学べるのでしょうか。
沼田:さまざまなことが学べますが、一番重要なのは「創造していく力」を学べることでしょう。
NPO DNAの活動でおこなわれるのは受け身の授業ではなく、自ら課題を設定し、それについて探究し、さらにその結果から新たな考えや課題が生まれ繰り返されるという「探究学習」というものです。
これまでにはたとえば、「野球の試合の流れはどこでつくられるのか?」という疑問に対して先頭打者出塁と得点について分析したり、「群馬には、戦争を感じさせるものはあるか?」という疑問に対して祖父に話を聞いてみたり。
「"とりついていない時期の細菌"は、どうやって生き延びるのか?」という疑問に対して調べた高校生もいましたね。
このように、それぞれが疑問に思ったことに対して、仮説を立て、発見し…と繰り返しながら学びを深めていきます。
今は「答えのない時代」とよくいわれ、社会では「答えのない課題」に向き合う毎日ですし、大学入試でも「答えのない問題」を問い始めています。
もちろん、決して大学受験だけがすべてではありません。しかし、「学力」の定義が、いわゆるペーパーテストで測る狭い意味での「学力」から、①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③学びに向かう力・人間性の3つの要素と定義されました。
加えて、大学の入試選別では真剣にその3つを評価し、入学者を募り始めています。
学校でも18歳までの段階で育むべき資質・能力は、従来の「学力」だけではなくなっています。そんな時代だからこそ自ら学び続け、自分で答えを創り出していくことができる教育環境を実現することを、私たち大人が真剣に考えるべきではないでしょうか。
そのなかで、「創造していく力」は自分が目指したい理想に向けて必要なスキルや知識を獲得したり、世の中になければ自分で創り出したりしていくことにつながり、自己肯定感を育むとともに自己実現に必要です。
自分の可能性に気づく10代が多数
ー実際に授業を体験した子どもたちはどのような感想を持っていますか。
沼田:これまで15,000名を超える10代の子どもに出会ってきましたが、「私って今からでも変われるんですね」など、自分の可能性に気づいた10代が多くいました。
また、「自分が、先生と友達と一緒に授業を創っていくことができてよかった」と振り返った10代がいて、大人から教えるだけでは得ることが難しい、大切な学びを自ら創り出しています。
ー今後開催予定のイベントなどありましたら教えてください。
沼田:教育コーディネーターの研修育成講座を開催予定です。
文部科学省が出した新しい学習指導要領に「社会に開かれた教育課程」という理念があり、学校の教育活動は地域社会に開かれ、かつ地域社会が学校に関わることが求められています。
ただ、学校の先生は忙しく、かつノウハウや地域の人とのつながりがないのが現実です。
また、地域社会も学校や生徒と一緒に何か取り組みたいと思っても、学校が現在どのようになっているのか内情は知りづらいですし、どのような授業にすれば良いか考えるのも難しいでしょう。
そんな学校と社会をつなぐための役割を担うのが教育コーディネーターです。
全7回で7月10日から育成講座が始まりますので興味がある方はぜひ参加してください。ホームページから、ご確認ください。
子どもが持つ疑問を一緒に楽しんでほしい
ー最後に読者の方へメッセージをお願いします。
沼田:子どもは好奇心が強く、さまざまな疑問を持ちますが、ぜひ保護者の方は子どもの疑問を大切にして関わるのはいかがでしょうか。
創造するための力の原点は子どもの不思議だな、気になるな、どうなっているのかなといった好奇心や疑問の気持ちです。
多種多様な考え方が認められる一方で万人に通用する答えがないこれからの世の中で、より良い人生を送るためには自ら道を創り、切り開いていくことが求められるでしょう。
また、今の子どもたちは現在存在しない仕事に就く可能性が50%以上という話もあり、これから子どもたちにとって創造していく力はますます重要になることは間違いありません。
ぜひ、小さな子どものうちから子どもの創造するための力を育んであげてほしいと思います。
具体的な子どもとの関わり方としては、たとえば子どもが疑問に思ったことに対してすぐに答えを教えるのではなく、自分自身はどう思っているか問いかけるなどしながら、子どもが答えにたどり着くまでの歩み、過程を一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか。
とはいっても、保護者のみなさんも日々忙しく、そんな時間を持てないことも現実はあると思います。日々、本当に多忙ながらも、お子さんに向き合っていることに敬意を抱きます。
そんなときには、クラブ活動や公園などで、年齢の異なるお兄さんやお姉さんと出会う環境を用意するなど、保護者のみなさんが抱えすぎることなく、ときには手放しで色々な方との関わりを提供してあげてもよいと思います。
そのことによって保護者の負担も楽になり、忙しい子育てのなかに余白の時間を持つことにもつながっていくはずです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■ 取材協力:NPO法人 Design Net-works Associations