学校から帰ると母親が食事の支度をしていて、家族みんなで一緒に夕飯を食べる。そんな光景は時代とともに減っていますが、孤食が子どもに与える影響を気にしている保護者も多いのではないでしょうか。
今回は、横浜市磯子区で「子ども食堂 250にこまる+プラス」を運営している、NPO法人「コロンブスアカデミー」理事長の渡辺 克美さんに取り組み内容についてお話を伺いました。
横浜市にお住いの方、家庭で子どもが孤食環境にある方、子どものことで悩みを抱える保護者の方は、ぜひご一読ください。
どの子も気軽に利用できる週1回の子ども食堂
ー本日はよろしくお願いします。まずは「子ども食堂 250にこまる+プラス」の概要を教えてください。
渡辺 克美さん(以下、渡辺):「子ども食堂 250にこまる+プラス」は、若者支援団体「K2インターナショナルグループ」に属するNPO法人「コロンブスアカデミー」が運営している子ども食堂です。
当グループが若者自立就労支援事業として営業している横浜市磯子区にある「250にこまる食堂根岸本店」を、毎週金曜日の16〜19時の間貸し切りにし、子どもたちのために開放しています。
(※「250にこまる食堂根岸本店」は、土日祝祭日以外の平日11時から19時まで営業している食堂です。実は、ケースによっては、子ども食堂以外の利用も可能で、個別のスペシャル対応をおこなうこともあります。)
近年、ダブルワークやシングルペアレントの家庭が多く、子どもひとりで、あるいは兄弟だけで夕食を食べる「孤食」や、親の帰宅を待って遅い時間に食事をする子どもが増えています。
またコロナ禍を機にそうなった家庭もありますよね。そういった背景を受けて、2020年6月から「子ども食堂 250にこまる+プラス」をはじめました。
対象は小中高生で、登録用紙に記入すれば誰でも無料で利用できます。オープン以来、口コミで多くの子どもたちが利用してくれています。
ー「子ども食堂 250にこまる+プラス」ならではの特徴があれば教えてください。
渡辺:ほかの子ども食堂と異なる点は、大人と一緒にではなく、子どもたちだけでの利用をお願いしていることです。そこには、子どもに学校や家庭以外で関われる大人がいる場所をつくりたい、という想いがあるからです。
兄弟や友達同士で来る子もいれば、ひとりで来る子もいます。孤食を心配しているひとりっ子家庭の保護者にも喜ばれています。
ここに来ると子どもたちは、ただ食べるだけではなく、食事を作るところから片付けまで、すべて自分たちでします。
作るといっても盛り付けくらいですが、家で食事の支度のお手伝いをしているようなイメージの空間をつくっています。
また、食堂で食べる時間のない子や、家で自分で食事をつくっている子には、寄付でいただいたレトルト食や惣菜用調味料などを配ったりもしています。
2022年3月からは「出張子ども食堂」を始めました。場所は当グループが運営している「磯子区青少年の地域活動拠点 イソカツ」と、磯子区岡村中学校の先にある畑の2か所です。どちらも月に1回の開催で、近隣の子どもたちが集まっています。
「今日、学校でさ…」と、その日あったことを気軽に話せるという点でも、食事の時間はとても大切です。
それができる場所を提供しながら、子どもを家庭や学校とつないだり、必要なサポートにつなげたりすることが、私たち子ども食堂の役割だと思っています。
不登校でもここには来てくれる子、ここで情報交換をしたり、友達同士になる子たちもいます。彼らにとってこの子ども食堂が、いつでも気軽に立ち寄ることのできる、安心できる場所になっているとうれしいです。
ファームで収穫祭のほか学習支援の導入も企画中
ー今後、開催予定のイベントなどがあれば教えてください。
渡辺:当グループの恒例イベント「収穫祭」として、芋ほりを6月と11月に予定しています。
当グループで管理している「にこまるソーシャルファーム」に、子ども食堂やイソカツの利用者が集まり、100名近くが参加するにぎやかなイベントです。
最近では情報が豊富にあることもあって、子どもが実際に野菜を収穫したりといった自然体験をする機会が減っています。
ですから、さつま芋やじゃがいもを収穫し、一緒に食べる喜びを、ぜひ子どもたちに体験してほしいですね。
また、横浜市金沢区で同法人が受託している学習支援事業の塾に通ってくる中3生の生徒たちに「受験応援弁当」として令和3年度の11月から3月まで毎週金曜日にお弁当を配達しました。これは昨年度の受験シーズンにもおこなった取り組みです。
受験応援弁当でつながった生徒たちを根岸の子ども食堂へ招待することもあり、子ども同士が校区を超えた交流を深めたり、また支援をつないだりする機会にもなっています。
そのほか、現在まだ企画段階なのですが、子ども食堂での食事の時間に、学習支援をおこなうことも考えています。
当グループの若者支援事業には、子どもに勉強を教えられる、一緒に勉強できるという若者もたくさんいるんです。
彼らの特性を活かし、交流も広がる取り組みができると思うので、これは近いうちにぜひ実現したいですね。
つながる支援で子どもの孤立をなくす
ー最後に読者へメッセージをお願いします。
渡辺:当子ども食堂のテーマは「つなぐ・つなげる・つながる」です。家、学校…どこでもいいんです。つながっている場所があれば、子どもは孤立しません。
これまでの支援活動を通して、引きこもりの若者たちを見て感じることは、何かをしたい、おいしいものを食べたい、誰かと話したいといった欲がすべて落ちてしまっていること。
生きていくうえでのエネルギーレベルを上げるために、まずとっかかりになるのは「食べること」だと思います。
ですから、食事を通して子どもたちが社会からの孤立をどう回避できるかが、テーマの根底にある課題でもあります。
子ども食堂の取り組みについては、まだ手さぐりの部分もありますが、「つなぐ・つなげる・つながる」場所として、多くの方々に知ってもらいたいですね。
そして子どもたちには、多様な年代の人と関わることで、「こっちがだめならほかのところがある」と思えるくらいのメンタルの強さをもって欲しいです。
彼らがそうなれるよう、子ども食堂でも、いろいろな体験や視点を変えるきっかけを提供していきたいと思っています。
私たちは自分たちの活動をつい「支援」といいがちですが、子どもたちにも自身が支援者になる喜びを知って欲しい、というのもひとつの願いです。
私たちの活動もみなさんの善意のおかげで継続できているので、これからも恩送りがつながるような活動に取り組んでいきます。
将来的に子ども食堂に通っていた子どもたちが、ボランティアやサポーターとして帰ってきてくれるといった“支援の循環”がどんどん生まれることを期待しています。
みなさんにも、こういった取り組みがあることを、まわりの方にシェアしていただけるとうれしいです。近くに来られる機会があれば、ぜひ当子ども食堂にお立ち寄りください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。