まちづくりやイベントは大人だけで企画・運営されることが多いですが、まちは大人だけのものではありません。大人の視点だけでなく、子どもの視点も取り入れたほうが良いものになる場合もあります。
NPO法人ミニシティ・プラスが運営する「特命子ども地域アクター」は、大人が抱える地域課題に子どもが一緒に取り組む活動です。
今回はミニシティ・プラス事務局長の岩室 晶子さんに活動内容について詳しくお話を伺いました。
子どもに地域の大人たちと関わりながら成長してほしいと考えている保護者の方は、ぜひご覧ください。
大人と一緒にまちの課題に取り組む
ー本日はよろしくお願いします。まずは「特命子ども地域アクター」の概要について教えてください。
岩室 晶子さん(以下、岩室):「特命子ども地域アクター」は、地域アクターと呼ばれる子どもたちが課題を抱えた地域団体に出向き、大人と一緒にまちの課題に取り組むという活動です。
大人には選挙権があり、誰でもある程度まちづくりに関わることができますが、子どもには選挙権がなく、なかなかまちづくりに大人と一緒に関わる場も与えられません。
しかし、まちは大人だけのものではなく子どもたちも暮らしており、本来は子どもを含めたすべての人が関わって作るものだと私たちは考えています。
子どもの頃からまちづくりに関わることで、将来的にそのまちのことを好きになり、まちを大切にしてくれる人が増えるとも考えています。
地域の小さなイベントなども、子どもの視点のほ視点を取り入れると、より良い内容になることも多く、子どもが一緒に課題に取り組むことは大人にとってもメリットがあります。
地域アクターとして参加できる子どもは、概ね小学5年生から高校3年生までです。活動の進め方としては、課題を抱えている大人の団体から子どもたちに、「ぜひ一緒にやってほしい」とプレゼンしてもらいます。
子どもたちはそのプレゼンを聞いて、質問をし、自分がその課題に役に立てそうか考えてもらい、大人の団体と子どもたちをマッチングします。
1つの大人の団体に派遣する子どもは、だいたい3名から5名くらいです。
ーこれまでにおこなった活動を具体的に教えてください。
岩室:たとえば、神奈川フィルハーモニー管弦楽団からの依頼で、子どもの聴衆を増やすためのPR方法を一緒に検討してほしいという依頼がありました。
この活動ではLINEスタンプをデザイナーさんと一緒に作り、実際に発売して収益が神奈川フィルに入るところまで実施したり、子どもの関心を高めるために神奈川フィルハーモニー楽器総選挙というユニークな企画をおこなったりしました。
また、地域の商店街からの依頼も多く、「子ども向けのイベントをやりたいけれど、スタッフが高齢者の方ばかりで、何をすれば子どもが喜ぶかわからない」とご相談を受けたりすることがあります。
商店街のイベントは予算が限られていることが多いのですが、子どもが考えるイベントって消しゴムを飛ばして競ったりとか、どんぐりを使うとか、空き店舗のなかでお化け屋敷をしたりとか、そんなにお金や人を必要としないものなのに、たくさんの子どもたちに人気になります。
商店街の方々も最初は子どもたちに何ができるの?と半信半疑で依頼をしてくるのですが、地域アクターの子どもたちに手伝ってもらうことで、地域の子どもたちがたくさんイベントに訪れ、地域の子どもたちもイベントを手伝い、次からは地元の子どもたちが手伝って、といったように良い循環が生まれるんです。
活動を通して「商店街には子どもが必要」だと痛感された方が、その話をほかの商店街にしていただくなどしてクチコミで広がり、いろいろな商店街からオファーが来ています。
ほかにも、環境教育をおこなっているNPOから、「自分たちが作った教育プログラムがどの年齢の子どもならどの程度理解できるか、検証を手伝ってほしい」という依頼などもありました。
子どもがたくさん来てくれる施設にするために、どのようなものを置いたら良いか、どんな雰囲気だったら来やすいか、ということを検討するコンサルティング的なものもありました。民間だけでなく行政からの依頼も多いですね。
自らの活動経験を大学受験に活かす
ー活動を通して、子どもたちが得るものがたくさんありますね。
岩室:そうですね、特命子ども地域アクターの活動を通して、子どもたちが感じる達成感は高いと思います。
子どもたち向けのボランティア活動はほかにもあると思いますが、イベントの受付やテント張りとか単なるお手伝いが多いんですよね。
特命子ども地域アクターの場合は、企画の段階から参加するので、やり遂げたときの達成感が全然違います。
もちろん活動は成功するばかりではなく、入念に準備したのにイベント当日に大雨で人が来なかったということもありますし、すべてうまくいくとは限りません。
ただ、子どもは大人から褒められるのはうれしいですし、成果が上がらなくても達成感を感じ、活動をボランティア活動というよりも、自らの「仕事」として捉えている子どもも多いです。
地域アクターとしての活動は子どもの将来にとっても非常に有意義です。子どもは親など、身近な人の職業以外はよくわからないことが多いですが、さまざまな大人と関わることで、いろいろな仕事の内容を垣間見ることができます。「将来、まちづくり関係の仕事に就きたい」という子どももいますよ。
特命子ども地域アクターでの経験を、大学の総合型選抜でアピールする材料として活用する子どももいて、実際にそれで合格した子も多くいます。
特命子ども地域アクターの活動は、たとえば学校ではあまり活躍の場がない子どもでも、この活動をしたことで総合型選抜で頑張って合格できたという子どももいます。
特命子ども地域アクターの活動は子ども自身の負担がないように配慮しています。原則、交通費とお弁当などは支給しますが、その都度、スケジュールなども含め、条件を提示しながら派遣先に行く人を募集します。
派遣された先でたくさんお土産をもらったり、商店街の人たちが「自分たちのお店で食べていって!」と声をかけてくれることが多いですし、先述の神奈川フィルハーモニー管弦楽団は、その後コンサートに何回か招待してくれました。そういった大人との温かい交流も子どもの一生の財産になると思っています。
年に1回、活動の成果発表をおこなう
ー特命子ども地域アクターに参加したい場合はどうすれば良いでしょうか?
岩室:ホームページに連絡先のメールアドレスがありますので、そちらに「特命子ども地域アクター希望」と書いてご連絡ください。
不明点など詳しいことは、Zoomなどで説明会の開催が可能です。
この1年以上コロナ禍の影響で市外移動ができないなど制限を受け、なかなか活動ができませんでしたが、ようやく最近になって動き出し、すでにいくつかの商店街から依頼が来ています。
ぜひ多くの子どもに参加してほしいですね。
ー今後開催予定のイベントについて教えてください。
岩室:少し先の話ですが、来年の1月か2月に1年間の成果を子どもが発表する機会があります。
特命子ども地域アクターの1年間のさまざまな活動がどのようにおこなわれたかを、大人と子どもの両方から発表してもらう興味深いイベントです。ぜひご参加ください。
会場での実施に加えてオンラインの配信もおこなう予定ですので、お気軽にご参加ください。
ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
岩室:大人が思っている以上に、子どもたちはまちづくりの活動に対して一生懸命考え、全力でやろうとします。
それを私たち大人のコーディネーターやNPOの人間が実現可能な形に近づけるようにサポートしますので、子どもたちと何かやりたいと考えている方はお気軽にご連絡ください。
さまざまな事例をホームページに掲載していますので、そちらをご覧いただくとどのようなことができるのかイメージしやすいと思います。
また、この活動に興味がある、概ね小学5年生以上高校生までの方は、途中からでも入って活動できますので、いつでも声をかけてください。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■ 取材協力:特命子ども地域アクター