学校に通えない小中学生の子ども、いわゆる不登校の子どもが令和2年度においては19万人を超えたという文部科学省調査結果が発表されました。
不登校になった子どもは学びの保障や将来のひきこもりリスクという観点に置いて課題があり、年々増加しているこの状況は問題視される傾向にあるといえるのではないでしょうか。
しかしながら、「フリースクールこらんだむ」の事業責任者である足立 崇さんは、「不登校となる子どもは家庭環境や人間関係、学力などさまざまな理由によるものである一方、1人ひとりに魅力的な個性があり、居場所や教育機会を提供することにより1人ひとりの可能性を開かせることができる」と断言します。
そんな不登校の子どもたちにとって安心安全な居場所を提供し、1つの選択肢となる学び場を目指す「フリースクールこらんだむ」の活動について聞いてみました。
不登校の子どもを持つ保護者の方はもちろん、ボランティアなどで活動に貢献したい方もぜひご覧ください。
子どもの主体性を重要視した活動
ー本日はよろしくお願いいたします。まずは「フリースクールこらんだむ」の概要について教えてください。
足立 崇さん(以下、足立):「フリースクールこらんだむ」は不登校になった子どもを対象に、安心安全な居場所と学び繋がる機会を提供しているフリースクールです。
こらんだむが設立されたきっかけは、代表理事の市村の弟や妹が不登校になり、高校を中退した経験にあります。不登校状態になった弟や妹は当然自宅で過ごすことが多くなり、学びや繋がりと切り離された状態になっていたそうです。
そんな原体験があった中で、たまたまテレビでフリースクールという存在を知り、そこで活動する子どもたちの様子を見てこのような場所を必要としている子どもはきっとたくさんいるのではないかと思い、フリースクールこらんだむは設立されました。当時から不登校児童数は年々増加しており、群馬県内ではフリースクールが1ヶ所もありませんでした。
現在こらんだむが対象としているのは小学校1年生~高校3年生まで、年齢としては最高で20歳まで受け入れています。
こらんだむに通うメリットは大きく分けて以下の3つです。
1つ目としては、友達ができます。こらんだむには年齢や性別にかかわらずお互いを認めあう環境があります。それは子ども同士だけではなく、老若男女の多くのボランティアも在籍しておりますので、年齢や世代を超えた新しいつながりが生まれます。
2つ目は勉強です。不登校になると学習面が気になると思いますが、こらんだむでは子ども1人ひとりに適した学習支援計画や参考書を提案する、対面あるいはオンラインによる個別学習指導も実施中です。
学校復帰や高卒認定試験に向けた対策もおこなっていますので、しっかりと勉強することができるんです。
3つ目は体験です。こらんだむではスタッフやボランティアスタッフ、あるいは地元企業や団体と連携し、子どもにさまざまな体験活動をおこなっています。
その内容は編み物、紅茶、理科実験、切り絵、手品、プログラミング、あるいはは地元企業と連携した就業体験や、前橋社会福祉協議会と連携した社会貢献活動も実施していますね。
さまざまな体験をすることは、将来自分がやりたいことを見つけることに役立つと考えています。
こらんだむの活動全般のなかで重視しているのは「主体性」です。こらんだむに通うといってもやることをスタッフが押しつけるわけではなく、子どもたちが自分で過ごし方を決めるシステムになっています。
その成果は徐々に出てきており、さまざまなイベント企画に運営側として関わってくれる子どもも増えていますよ。
子どもは日々色々なことを考え、成長していくものと考えています。何かをするタイミングもそれぞれ違いますし、強制的に何かをさせるのではなく、本人がしたいと思った時を見逃さず、ワークショップやプログラムを通して興味関心に応えてあげられる環境を整備することが大きな役割だと感じます。
その為にコミュニケーションを通して関係構築をおこない、子どもたちが楽しく安心して過ごすことができる居場所を確保することが大事になります。
コミュニケーションには信頼関係が重要なのですが、信頼関係の構築には時間がかかります。
それでも100回ボールを投げて1回返してくれれば良いという気持ちであきらめずに働きかけたり、大人が汗をかいて頑張っている姿を見せたりすることで徐々に信頼関係を構築できると信じながら子どもに接している毎日ですね。
ー保護者の方にはどのようなケアをおこなっていますか。
足立:1つ目は「出席報告書」や「こらんだむ通信」と呼ばれる書類の提出です。
出席報告書は子どもが来た日の様子や状況に加え、1ヶ月単位の所感を記載したものであり、主に学校との連携や出席認定許可をいただくために作成していますが、保護者にもお渡ししています。
こらんだむ通信は毎月発行している活動記録のレポートであり、フリースクールこらんだむの日々の様子を伝えるために発行しており、保護者の方が子どもを安心してフリースクールこらんだむに通わせることができるように努めています。
2つ目は「こらんだむベース(親の会)」の開催です。
これは2ヶ月に1度開催されるもので、こらんだむを利用する保護者はもちろん、まだ利用していない保護者の方も参加できます。不登校という同じ悩みを持つ保護者同士が交流する機会は子ども同様重要と考えています。
こらんだむを利用している保護者については、この機会に面談を実施し、家庭の様子を伺ったり、こちらが子どもの様子を伝えたりする場にしているんです。
3つ目は個別での相談です。子どもが不登校になったとき、子どももそうですがそれ以上に保護者は思い悩むことが少なくありません。その結果、保護者自身も子どものために“本当に大切なことは何か”を見失ってしまうこともあります。
まずはお話を聞かせていただき、具体的にどうしていけばいいのかを一緒に考えるなど、寄り添った相談をおこなっています。
やりたいことを考える気持ちが生まれた
ーボランティアはどのような基準で採用しているのですか。
足立:子どものことを考えて活動してくれる方なら、基本的にどんな方でも受け入れています。
たとえばこれまで子どもと関わったことがないとか、子どもとのコミュニケーションの取り方がわからない方でも、気持ちがあれば問題ありません。
今では登録されているボランティアの数は70人ほどで、大学生の方や主婦の方、定年退職された70代の方までさまざまです。
ただ、子どもとの関わり方について戸惑う方もいらっしゃいますので、スタッフによる内部研修や専門家を招いた専門研修も随時おこなっています。
ー子どもや保護者からの感想について教えてください。
足立:子どもからは「多様な人との交流があり視野が広がった」「毎日が楽しく感じられるようになった」また中には「色々なことに挑戦しようと思えるようになった」「やりたいことを少しずつ考えられるようになった」という感想があります。
先ほどご説明した体験活動の効果もありますが、同じようにこらんだむに通っている子ども同士が影響を与えあっていることも大きいのでしょう。
ほかには自由度が高く、やりたいことをやらせてもらえるのがうれしいという声がありました。
保護者からは学校に行くか行かないかの2択しか考えられなかったのが、「第3の選択肢ができて不安が軽くなった」という感想や、子どもの気持ちがだんだんほぐれていき、今では毎日楽しそうに通っているという声が寄せられています。
ー今後開催予定のイベントはありますか。
足立:毎年8月夏休みの期間中に、赤城青少年交流の家で不登校の親子をつなげるイベント「セイムボート」を開催しています。
これまで10回開催しており、延べ300組以上の保護者と子どもたちが参加しました。
当事者間のつながりをつくることを目的としていて、野外散策やこちらで用意したアトラクションに挑戦してもらい、同じ境遇や状況にあるのは自分たちだけじゃないことを実感してもらいたいと考えています。
参加費は無料ですのでぜひ積極的に参加してください。
また、こらんだむの見学は随時受け付けています。保護者のみのご相談も1回30分無料でおこなっていますので、お気軽にお問い合わせください。
フリースクールを多くの人に知ってほしい
ー最後に読者の方へメッセージをお願いします。
足立:文部科学省によると2020年度に小中学生のなかで不登校になった子どもは19万人以上に上り、自殺した子どもも400人いるといいます。
さらに、不登校にならなくても学校に行きづらさを感じている子は多く存在し、19万人の何倍もいるというデータも存在しているのです。
これは子どもや学校が悪いということではなく、子どもには多様性あり必ずしも全員が学校に適応できるわけではないことが理由ではないでしょうか。
不登校の子どもにはネガティブなイメージがつきまといますが、子どもたちの個性であり決して悪いことではないこと、そして学校ではなく別の場所であっても頑張っていることは素晴らしいということを認めていくべきです。
その意味で、フリースクールの存在をもっと多くの方に知ってもらい、維持や活動の充実についてもご協力いただけると幸いです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■ 取材協力:フリースクールこらんだむ