子どもにとっての学びの場は、家庭や学校、習い事だけではありません。自分が住んでいる地域の人々との交流も、子どもに大きな影響を与えられる学びの場ではないでしょうか。
そこで今回は、群馬県前橋市に拠点を置き、地域の社会教育活動を推進するNPO法人「教育支援協会北関東」代表理事の井熊ひとみさん、スタッフの小林佳織さんにお話を伺いました。
多様化が進むこれからの時代は、さまざまな年代の地域の人々と積極的に接点を持ち、地域ぐるみで子どもの成長を見守る取り組みが重要になってくるといいます。
地域と関わる機会を親子で持ち保護者の方、子どもの生きぬく力を育みたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
地域の子どもたちに平等な学びと体験の機会を提供
ー本日はよろしくお願いします。まず「教育支援協会北関東」はどのような団体なのか教えてください。
井熊 ひとみさん(以下、井熊):「教育支援協会北関東」は、日本の将来を担う子どもたちの健全育成と、そのために必要な教育改革の実現を目的に活動しているNPO法人です。
もともと全国に「教育支援協会」というNPO法人があり、私はその活動をたびたび見学に行っていました。
そこで社会教育活動の必要性を実感し、2007年に教育支援協会の群馬支部として当団体を立ち上げたんです。
その翌年、教育支援協会の北関東支部として活動の場を栃木県まで拡大したあと、2013年10月に群馬県よりNPO法人認証を受け独立し、現在まで活動を続けています。
まず私たちが始めたのは、“地域子ども教室”の事業です。
これは、子どもたちの誰でもが健康的な学びと体験の機会を平等につくれるよう、近所の公共施設などを使って教室を開く取り組みですね。
当初は、私自身が公共施設の予約、講師役、広報をおこなっていたのですが、SNSやインターネットが今ほど発達していなかったので、特に広報には苦労しました。
今では24教室まで拡大しましたが、最初のうちは道路に立って案内を手配りするなど、地道な広報活動からスタートしたんですよ。
ー地域子ども教室には無料で参加できるのでしょうか?
井熊:教室に参加される際は、少額の参加活動費のお支払をお願いしております。ただし、その性質はNPOの活動ですので、いわゆる習い事や学習塾とはまったく異なります。
というのも地域子ども教室は、地域の大人の方々に対し、活躍の場を提供する役目も担っているからです。
たとえば、教員免許を持っているけどフルタイムの仕事ができない方など、さまざまな事情で今は活躍の場がないというケースは珍しくありません。
そこで私たちは、そういった方々にボランティア講師として地域子ども教室の事業に参画いただけるようにしたんです。
そもそもボランティアとは無償奉仕ではなく、自ら手を挙げることが本来の意味だと私たちは考えます。
講師の方のスキルに対しきちんと謝金を払いたいですし、講師をやるからにはプロフェッショナルとしての責任を持っていただきたいという想いもあって、有償ボランティアの仕組みこそが、社会教育活動として意義があると考えています。
その資金をまかなうために、参加者の方から参加費をいただいているのです。
学びの最初の一歩に適した「地域子ども教室」
ー地域子ども教室のプログラムや、参加費について詳しく教えてください。
小林 佳織さん(以下、小林):地域子ども教室は、“子どもたちの学びの最初の一歩にしてほしい”という想いでやっているので、どのような方でも取り組みやすいプログラムを考案しております。
まず「放課後イングリッシュ」は、子どもたちにとって英語が勉強という意識をもたずに、できることから始めてみようというコンセプトの教室です。
この教室では、英語は気持ちを伝えるためのコミュニケーションツールのひとつと捉えて、子どもたちの「言いたい」「わかった」を引き出す内容で指導しています。
「放課後てらこや」は、子どもたちの日本語の語彙力を増やすための教室で、古典など日本独特の文化を大事にしつつ、子どもたちがさまざまな言葉を吸収し、それらを使って自分の考えを自分の言葉で表現できるよう、考える力を養います。
「放課後おもしろサイエンス」は、日常に起こる不思議や子どもたちの疑問を引き出し、好奇心を育てる実験プログラムです。
たとえば色の三原色を知るために、実際に子どもたちの手で絵の具の混色の実験をするなど、なぜそうなるのか理由を知りたい、と思うことから子どもたちの向学心を育てられる活動になります。
いずれも対象は小学生がメインの教室ですが、放課後イングリッシュに関しては幼稚園生からでも参加できるプログラムもご用意しています。
参加費は、月3回の活動で2,200円です。子どもたちにも保護者の方にも、気軽に参加していただきやすい金額に設定しています。
未来に希望を!地域全体で子どもたちを見守りたい
ー今後開催予定のイベントについて教えてください。
井熊:数年前から地域子ども教室でやっていることを学童クラブに融合させる試みを始めているので、今後もその取り組みを続けていきたいと考えています。
たとえば過去には、学童クラブで英語の活動をやってみようと考え、地域の大学生の協力を得ながら、親子で参加できるハロウィン仮装パーティーを開催しました。
子どもたちは大学構内でキャンディをもらったり、写真を撮ったりと楽しく過ごしていましたね。大学生のお兄さん、お姉さんとの交流もできて、有意義なイベントになったと思います。
それから、だがしや楽校というイベントもおこないました。子どもたちは肩もみ屋さんやゲームコーナー、健康的な食事についての発表など、お店や催しを自分たちで考えます。
そして商品やサービスの対価として、保護者の方、地域の方々からお金代わりのチケットをもらい、最終的にはチケットを駄菓子と交換できるようになっているんです。
だがしや楽校のイベントは、どのようにして社会がまわっているのか、お金を使うとはどういうことなのか、大きくなったら何になりたいのかを子どもたちが考えるきっかけになると考えています。
そのほか、経済的な問題を抱える高校生に、学びの場やインターンシップの機会を提供する学習支援事業、自然体験と図書館での学びを結び付ける取り組みなども進めていく予定です。
また、地域子ども教室やイベントに参加していた子どもたちが、高校生・大学生・社会人になったときに、リーダーとして事業へ参画できるようにしていきたいですね。
先生と子ども以外のななめの関係が希薄になっているこの世の中で、こういった地域のつながりは子どもたちにいい影響を与えると思っています。
ー最後に、読者の方へ一言メッセージをお願いします。
小林:子どもたちが成長するうえで、将来を見せてあげられるような教育に携わっていきたいと強く思っています。
子どもたちが見る近い将来とは、高校生や大学生、そして私を含めた地域の大人の姿ではないでしょうか。
子どもたちが身近にいる大人を見て、「またここに来たいな」「明日も楽しいだろうな」「大人になるのって楽しそうだな」と未来に希望を持てる社会をみんなでつくっていきたいですね。
そのために私は、子どもたちに見せる姿はいつも輝いていたいなと思っています。
井熊:予測不能な社会の今、有名大学を卒業したから立派という価値観はなくなってきています。
そしてそういった時代のなかを、子どもたちは生きていかなければなりません。
でも子どもたちの社会を生きぬく力を育もうにも、学校や家庭だけでまかなうのはもう難しいと思うんです。
そのため私たちは、地域という社会全体で子どもたちの成長を見守るような教育スタイルが、今の世の中には必要だと考えます。
私たちが目指すのは、与えるだけの教育ではなく、子どもたちが自分で気づいて自分で育つような教育。この趣旨をご理解いただける方には、年齢や性別に関係なく、ぜひ私たちの仲間として事業に参画いただきたいと思っています。
置き去りにされがちな社会教育ですが、実はとても大事なことです。地域に生まれて地域に育ち、地域で学んでいく子どもたちのために、私たちはこれからも新しいことをどんどん考え出して世の中に発信していきます。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:NPO法人 教育支援協会北関東