「周囲の子どもたちと馴染めない」「行動や感情が不安定なときがある」そのような個性をもった子どもは少なくありません。
しかし子どもなら誰でも大きな才能や可能性を秘めているもの。自分自身のことをより知ってもらう、気づいてもらうためにも大人によるサポートが必要です。
今回は障がいのある子どもとその家族に対して、支援をおこなっているNPO法人「生涯発達ケアセンター さんれんぷ」代表の中林 亜衣さんにお話を伺いました。
福祉に興味がある方は、ぜひご一読ください!
“さんれんぷ”という名前に込めた想い
ー本日はよろしくお願いします。早速ですが、「生涯発達支援センター さんれんぷ」は、どのような活動をおこなっている団体なのでしょうか?
中林 亜衣さん(以下、中林):私たちは障がいのあるお子さんと、そのご家族をサポートしているNPO法人です。
具体的な活動内容の一例として、音楽を使ってセラピーをおこなう「音楽療法」、障がいのあるお子さんが通う施設を提供する「障害児通所支援事業」、お子さんの成長とご家族の生活をサポートする「障害児相談支援事業」などがあります。
私自身、幼い頃から将来は福祉の世界で仕事をしたいと思っていたんです。
中学生のときには吹奏楽部に入っていたこともあって、「音楽と福祉の両方を続けたい」と考えていました。それで、音楽療法士になるために音楽大学に入ったという経緯があります。
そしてある日、実習で障がいのあるお子さんが通うセンターに行きました。
それまでは高齢者に対する福祉の分野で働こうと思っていたのですが、子どもたちの成長を促すことのできる仕事に強く興味を抱きまして、当時の実習先に就職することになります。
それから6年間、いろいろな気づきや経験を積み、結果的に自分ができること・やりたいことを活動として始めてみようと思い、団体設立に至りました。
「生涯発達ケアセンター さんれんぷ」の“さんれんぷ”とは、連続する3つの音をあらわす三連符を指しています。楽器で三連符を奏でることは簡単ではなく、正しく演奏するためには練習が必要です。
そこから、「みんなで練習していけばできるようになる」「3つの音符が揃わないと1個の三連符にならない」という意味を込めて名づけました。
“音楽”の持つ作用を生かしておこなう音楽療法
ー音楽療法について、具体的にどのようなかたちで実施するのでしょうか?
中林:法人の音楽療法教室に通っていただき、楽器や音・音楽を使ったオーダーメードのセッションを提供しています。
スタイルとするとピアノ教室のような感じですが、「音楽が上手にできるようになること」が目的ではなく、目的は一人ひとりによって異なります。
先生と一緒に音を鳴らしてみたらひとりで鳴らすよりもきれいだったとか、順番に楽器を鳴らすルールや順番を守るとか。
お友だちみんなと一緒に楽器を鳴らしてみたら楽しかったなど。
音楽が手段となって、音楽療法を受ける人にとってプラスの時間になるように活動を組み立てています。
地域の児童館に伺って、子育て教室のイベントに参加することもありますね。
楽器をたくさん持って行って、楽器を見ること・触ること・音を鳴らしてみることなどを通して興味の幅をひろげてほしいなと思っています。
また、音楽療法は子どもだけでなく、高齢者の方にもおこなっています。音楽療法は、認知症予防・介護予防にも有効だという研究結果がたくさん出ていますので。
音楽は、過去の記憶と結びつきやすかったり、音楽があると自然と体を動かせたり、「つらい訓練」としてではなく、楽しみながら介護予防となる手法のひとつです。
それぞれのニーズを理解し、支援することが大切
ー運営方針のなかに「一人ひとりのニーズを把握」という言葉がありますが、この“ニーズ”について、どのように考えているのでしょうか?
中林:“福祉”という言葉を聞くと、「弱い人に支援してあげる仕事」といったイメージをもつ方が少なくありません。
なかには「支援が必要な人は、自分より下」とイメージしている人もいます。
ですが、実際にはそんなことはありません。私自身も目が悪くて、コンタクトがないと普通に生活ができないんですね。車の運転も、買い物もできません。コンタクトという補助があって、はじめてまともな生活が送れる。
そういう意味では、障がいをもっていると世間的にみなされている人たちと、なんら変わりないんですよ。そしてそれこそが、ニーズの違いです。
「もっと目が見えるようになりたい」という、私自身が抱いている願望にこそニーズがあるわけですね。そして、ニーズがない場所に支援をするのは、お節介というものです。
本人からしっかり話を聞いて、ニーズを理解して、必要な支援をおこなう。これこそが、福祉のあるべき姿だと思います。
私は決して、お節介を仕事にしたいわけではありませんから。
それと、団体名にある「生涯発達」という言葉は、「ずっと支援していきます」という意味ではありません。「人は死ぬまで発達する」という意味をもつ、心理学に関する言葉です。
つまりこれは、子どもだけに限った話ではありません。人は何歳になっても成長し続けるという概念です。高齢者の老化を含む、あらゆる変化を指しています。
その考え方をもとにすると、支援が必要な状態というのは誰にでも起こるものですし、かならずしもネガティブなものではないんですね。
障がいの有無に関わらず、一緒に助けあって生きようとする人たちの一員として、私ができることをしていきたいと思っています。
みんなで助けあいながら生きる「地域共生社会」を目指す
ー最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
中林:障がいのある・なし関係なく、子どもたちは誰でも最初から「成長する力」をもっています。
大切なのは、私たち大人がその力を引き出せるかどうかだと思うんです。
「子どもが成長しない」ということであれば、それは成長する力を発揮できる場を与えることができなかった大人の責任です。
私自身は、もともと好きだった音楽の分野を生かし、楽しみながら活動しています。ですから「社会貢献しています。支援しています」といった気持ちは一切ありません。
読者の方におかれましても、子育てをする上で、いろいろと苦労している面もあるかと思います。ですが、まずは自分自身が楽しく過ごしている姿を見せることが大切です。
そのためにも、“悩みを共有できる存在”が必要になります。私たちのような団体に相談してくださってもいいですし、身近な人に相談してもいいでしょう。
いつでも話を聞いてもらえる繋がりをもっていることが、自分自身のストレスの解消、ひいては子どもの成長のためにもなります。
そして、私がおこなっている活動の最終目的は、「地域共生社会」をつくることです。
障がいの有無だとか、性別だとか、年齢だとかで区別せず、みんなで助けあいながら楽しく暮らせる社会。それが地域共生社会です。
そのなかで、生涯発達を目指す人たちと一緒に頑張りたい。それが私の目的であり、願いです。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:生涯発達ケアセンターさんれんぷ