勉強に活用できたり、遠くにいる人とつながれたりと、子どもの生活に大きな変化をもたらしたスマートフォン。
しかしその反面、誹謗中傷やネットいじめ、ニセ情報の拡散など、これまでなかった問題が起きていることも周知の事実です。
今回は群馬県前橋市に本拠を構える、「NPO法人 青少年メディア研究協会」の代表・下田 太一さんにインタビュー。
子どもにスマートフォンを与えることが、どういう意味をもつのか。スマートフォンと、どのようにつきあっていくべきなのか知りたいという方は、ぜひご一読ください!
子どもがスマートフォンを使うことの意味を問う
ー本日はよろしくお願いします。まず「青少年メディア研究協会」がどういった団体なのか、概要を教えてください。
下田 太一さん(以下、下田):私たちは、子どものスマートフォンやインターネットの利用に関しての啓発活動をおこなっているNPO団体です。
小・中学校を対象とした講演、教育委員会などの組織を相手にしたコンサルティング、地域・学校における指導のための支援。以上がおもな仕事の内容です。
啓発活動のなかでは、「そもそもインターネットってどんなもの?」ですとか、「なぜ子どもに使わせたいの?」といったお話からしています。
親が子どもにスマートフォンを与える際の理由というのは、親や友だちと連絡をとるためといった限定的な場面を想定されて与えていることが大半でしょう。
しかしそれだと、インターネットの可能性について、理解が不十分なんですね。
そのために「知らない人と関わるなんて想像していなかった」など、思いがけない出来事をトラブルとしてとらえられるのだと思います。
子どもがインターネットを利用するというのは、たとえるならば、ひとりで街に出かけるようなものです。
ゲームセンターに行くかもしれないし、知らない人から声を掛けられるかもしれません。SNSなどは、まさにそのような場。
実際には自宅から出ていなくとも、実質的にやっていることは、現実もインターネットも同じはずなんです。
インターネットに対する大人の理解が進まないと、子どもがどこで何をしているのかがわからなくなる。だからこそ、そこにいろいろな問題が発生します。
このような話を、普段の活動のなかでお伝えしています。
使い方を間違えさえしなければ、有益な情報を得られるという面もあります。
ですが問題は、その“よいこと”“悪いこと”や“間違い”が、どのような状態を指しているのかわかっていないことです。
たとえば、包丁の使い方を間違うと怪我をしますよね。そのような物理的なものなら、子どもからしても間違いに気づきやすいんです。
ですがインターネットのように精神的な要素が多いものになると、事情が異なります。正しい使い方というものが見えにくいために、なんとなくでも使えてしまうんですよ。
そこで頼りにするべきなのが判断力なのですが、大人と子どもでは、この肝心な判断力に大きな差があるんですね。そしてこれが、盲点でもあります。
大人からすれば当たり前の判断が、子どもにとってはわからない。ですからインターネットの使い方に関して、的確な説明や教育ができません。
「その状態で指導しても意味がないでしょ」というのが、私たちの考え方ですね。
昔でしたら、通話をするだけのものが電話機、位置情報を知るための道具がGPS装置といったように、道具が目的別に細かくわかれていました。
ゲーム・テレビ・漫画などもそうですよね。それらの機能が全部一緒に入っているのが、スマートフォンです。
分別のある大人であれば便利に使いこなせるでしょうが、子どもからすれば、誘惑の塊ですよ。
そういう意味でも、スマートフォンはとても扱いにくい道具になっていると感じます。
子どもが直面している“2つの課題”
ー御社のホームページに「必要な情報が簡単に手に入る現代社会では、子どもの成長過程に2つの課題が発生します」と書かれていますね。こちらについて説明していただけますか?
下田:2つの課題のうちの1つ目が、「利便性や娯楽性の高いスマートフォンに頼ることで、本来身につけるべき社会性が学習不足におちいる」というものです。
何かあれば、親に連絡をするのが当たり前。わからないことは、その場で調べるのが当たり前。
そうやって生活していくうちに、自分で考える機会がどんどん減っていきます。
少し話が変わりますが、「幼稚園児が幼稚園のトイレで水を流さない」という話題が近年になって生まれました。
なぜかというと、最近の家庭のトイレは、自動的に水を流すようにできているからですね。
その環境に慣れた子どもたちは、水を流す行為がわからないまま育ってしまうという話です。
便利なツールは、これまでは普通におこなわれてきた何かしらの行為を省略してくれます。
これが将来的にどう影響するのかは、客観的に見ていかないとわからない部分が多いんですよね。
2つ目の課題は、「膨大な情報を統合して、新たな価値を生み出す高度な思考力を養う教育が遅れている」という点です。
そもそもの話、思考力があるからこそ、インターネットを使いこなせるはずなんですよ。
もちろんインターネットをきっかけに生まれる思考もあるとは思いますが、結局は実体験から思考力が育っていくことが多いでしょう。
週末にゲームをする、家の近所で遊ぶ、どこかの山へ行く。そういったいろいろな体験から得た知識が、何かしらの化学反応を起こして思考力が育まれるんです。
ですが今の社会では、わざわざ自分で思考や行動をしなくてもいい状態が進んでいます。
自ら考える機会を意図的に作らなければ、考えないためにメディアを使う習慣がどんどん身についていきます。これは問題ですよね。
先ほど「思考力があるからこそ、インターネットを使いこなせる」とお話ししましたが、その思考力を育てるためには生活習慣の作り方が大切になってきます。
スマートフォンやインターネットを正しく使うための思考力が、しっかり成長しているか。そこが指導のポイントになると考えています。
YouTubeでも啓発活動の一部を実施
ー現在、一般の方が利用できるサービスなどはありますか?
下田:一般向けのサービスについては、正直なところ、あまり手が回っていません。
現時点では、動画配信くらいですね。YouTubeに「NPO法人青少年メディア研究協会」の名前でチャンネルをもっています。
スマートフォンの利用によって生じる問題点、スマートフォンとの上手なつきあい方など、私たちが伝えたいことを5分程度の動画にまとめています。
私たちの活動の多くが、学校での講演ですとか、地方自治体でのイベントなど、組織を対象としたものです。
その場で私たちがどのような話をしているのか、動画を観ていただければ、ある程度わかるかと思います。
ー最後に、読者の方へ向けてメッセージをお願いします。
下田:子どもにスマートフォンやインターネットの正しい使い方を教えるためには、まず自分がお手本になるような使い方を示してあげることが大切です。
自分がいま何をしているのか、どんなふうに使っているのかといった話をしてあげてください。
専門的なことは説明できないかもしれませんが、実際に使いながら話をすることで、子どもがもつイメージが少しずつ形成されていくでしょう。
そしてやはり、SNSとのつきあい方について考えさせることも重要です。
コミュニティーの形成によって同質化をはかろうとする文化が、日本には根づいています。さまざまな人とつながれるSNSは、そもそも日本の文化と相性が悪いんです。
ですからSNSを使ったいじめが起きやすくて、対応も難しいという現実があります。排他的な考えを持ち込む人も多いですよね。
SNSというのはオープンマインド、つまり、いろいろな価値観や意見を取り入れる姿勢が求められます。
自分が当たり前だと思っていたものが、かならずしもほかの人には当てはまらないという考え方が必要なんです。
子どもにSNSを使わせる前に、多様な意見を受け入れられるか、自分を守る力が備わっているか。
まずはそういった面で、子どもの成長を観察してみてほしいと思います。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました!
■取材協力:青少年メディア研究協会