子どもがひきこもりになったとき、孤独に陥るのはひきこもる本人だけではありません。
子どもを支えるご家族の方々もまた、「相談できる人がいない」と、ひとりで苦しみを抱え込んでしまうケースが多くあります。
そこで今回は、家族の苦悩を含め、ひきこもり問題の本質に着目した活動をおこなう「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」を取材。
本部事務局のソーシャルワーカーであり、社会福祉士の深谷 守貞さんにお話を伺いました。
もしもあなたが子どものことで悩み、自分を責める日々を送っているのなら、まずは「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の活動を知ってみてください。
ひきこもる本人と家族の支援に真剣に取り組む「ひきこもり家族会」
ー本日はよろしくお願いします。はじめに、「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の設立経緯や概要について教えてください。
深谷 守貞さん(以下、深谷):当会は、現時点において国内で唯一、全国組織として活動している「ひきこもり家族会」です。
現在は39都道府県に56の支部があり、3,200人という多くの方に会員としてご参加いただいております。
1999年に設立した当会ですが、発足当初は特に、ひきこもりに対する世間の目は厳しいものでした。
どうしても、「本人の甘えだ」「親の育て方が悪い」など、個人や家庭のなかの問題にされてしまっていたんですね。
このような社会的偏見は、今もまだ根強くありますが、当会が発足した当初はまともに相談ができる場所がまったくないような状況でした。
ひきこもりをどのように解決したらよいのかというノウハウを誰も持っていなかった時代だったんです。
だから、支援機関に家族が相談に行っても、支援者が話を聞くだけで終わってしまうことが多かったんですよ。
本人が外に出られないからこそ、家族が相談に行ってるにも関わらず、「本人を連れてきてもらえないことにはなんともいえない」と門前払いされてしまうこともよくありました。
ひきこもりは、緊急性が高いと見なされにくいのも難点です。
実際、ひきこもりはあまり目立った問題を起こしません。
一日中部屋にいるだけで、第三者に対し、いわゆる社会的な逸脱行為に走ることは、ほとんどないんです。
そのようなこともあり、ひきこもり支援の場面では「そっとしておきましょう」「見守りましょう」という言葉がよくかけられます。
しかし、結果として今では「8050問題」がニュースでも取り沙汰されています。
8050問題は、ひきこもりのまま10年、20年と時間が経ち、80代の親が50代の子どもを支えなくてはいけなくなっていく社会問題です。
ひきこもりの原因やきっかけは、人それぞれ。だけど、なによりも問題なのは、本人や家族含めて、社会から孤立してしまうことだと私たちは考えています。
だからこそ、私たちはまず、ひきこもりの子どもを持つ家族の支援をおこないます。
ひきこもりの子どもがいる家庭には、どうしても独特な緊張感が漂い、ひきこもり当事者だけでなく、その家族もまた、先行きの不安もあって常にどこか安心感を失ってしまっていることが多いのです。
当会は、まず家族の安心感を促し、その緊張感を軽減したいと考えています。
なぜなら、家族の誰もが安心してくつろげる家庭であること、それがひきこもる本人の生きていく力につながるためです。
また、家庭がいくら安全の場になったとしても、地域社会のなかに安心して出かけられる場所がないと、ひきこもりの方はなかなか外に出られません。
そこで当会では、誰もがともに暮らしやすい社会を目指した地域づくりにも取り組み続けています。
活動の根幹は“ひきこもりの子どもを持つ家族の居場所をつくること”
ー活動内容について具体的に教えてください。
深谷:当家族会では、ひきこもりに関する学習会や、同じ立場ゆえの気持ちの吐き出し、分かち合いを通じて、参加者が孤立しないよう安心して集える場と機会を造っています。
地域と連携して実施することも多く、具体的な内容は支部によって異なります。
たとえば、東京の巣鴨で活動している支部「楽の会リーラ」や、石川県の南加賀で活動している支部「いまここ親の会」では、活動の一貫としてカフェを開催しています。
スタッフ含め、ひきこもる本人たちが集まるカフェになっていて、ひきこもり経験のあるスタッフが世話人として関わるので、対人関係に不安のある方でも安心して集い、お茶をしやすい空間です。
また、大阪支部「大阪虹の会」では、お弁当屋さんを経営していて、こちらではひきこもりの方にお手伝いしてもらっています。
ほかにも農場の畑仕事をお手伝いしてもらっている支部など、少しずつ社会とのつながりを取り戻していける仕組みをつくっている支部も多いですね。
ただ、どの支部であっても、活動の根幹にあるのは、「ひきこもる本人を持つ家族の居場所をつくる」という理念です。
親御さんは、自分の育て方に負い目を感じていたり、ひきこもりは家族の問題という社会的偏見の影響から、どうしても自分を責めたり、悩みを抱え込んだりして、追い詰められていきます。
すると、本当は言いたくないのに本人の先行きを案ずる余り、「いつまでひきこもるんだ!」「親が死んだらどうするんだ!」などと、どうしても本人を追い詰めるような言動をしてしまうんですよね。
その結果、本人もさらに追い詰められて緊張関係が生じていってしまう……という悪循環が起こります。
だから、家族会を利用して、まずはご家族に楽になってほしいのです。
実際、当会の家族会を利用されている会員の方のうち、9割以上は「家族会では本音を話せる」と言ってくださっています。
ほかにも、「苦しんでいるのが自分だけじゃないとわかって安心した」「ひとりで抱え込まなくていいのだと思えた」といった声をいただきます。
このように情報交換の場にもなり、さらに親自身が心のゆとりを得られることが、家族会の一番大きな役割といえるでしょう。
ただ、参加者間で分かちあっているだけでは、どこかのタイミングで疲弊してしまう。したがって、各支部では有識者の方をお招きして、ひきこもりに関する学習会もおこなっています。
たとえば、ひきこもりに関して詳しい支援実践者をお招きすることもありますし、今後の資産形成や福祉制度の活用方法に詳しいファイナンシャルプランナーの先生を呼ぶこともあります。
このように、気持ちを吐き出すだけに終わらない支援と活動も、当会では大切にしておりますね。
ー広報活動や政党へのはたらきかけについても教えてください。
深谷:まず広報ですが、KHJジャーナル「たびだち」という広報誌を年4回発行しています。
こちらには、ひきこもる本人や家族、ひきこもり経験者の生の声や思い、またひきこもり施策の動向、社会的な課題などについて、有識者や行政などに取材をした内容がまとめられているので、ほかではなかなか読めない情報も多いと思います。
ひきこもりる本人を持つご家族によい情報が届けられるように、さらにひきこもりに対する社会の理解と支援を得るための広報誌としてもつくっております。
各自治体へのはたらきかけとしては、議会や行政にひきこもり施策の推進を求めるロビー活動をおこなうこともありますね。
ひきこもりの現場でどのようなことが実際に問題になっているのか、また望ましい支援策についてを行政や議員に伝えています。
ときには議員連盟や政党から招かれて、ご家族の声やひきこもり経験者の声を直接お伝えすることもあります。
イベントを開催予定!各方面からひきこもり支援をフォローアップ
深谷:支部ごとに趣向を凝らしたイベントを開催していますが、本部としては、「全国実践交流研修会」と銘打った全国大会を年に一回開催しています。
全国大会は、ご家族のほか、ひきこもりに関する有識者の方や行政の方、支援実践者などが一堂に会するイベントです。
そのときどきのひきこもりに関するテーマを掲げて、課題整理や啓発を促すシンポジウムを開催したり、ひきこもりを取り巻く諸課題を多角的に掘り下げる分科会を実施しています。
2022年度の大会はコロナ禍の状況を見据えてですが、秋ごろに富山県の支部が中心となって開催する予定です。
それから、イベントとはまた異なるのですが、ピアサポート活動を推進していくために、「ピアサポーター養成研修」を毎年おこなっています。
ピアサポートとは、「同じ悩みを持つ者同士の助けあい」のことで、そのために活動している人のことをピアサポーターといいます。
当会では、ひきこもり当事者や経験者のピアサポーターによる支援活動を積極的にバックアップしているんです。
また、相談機関に所属し、ひきこもり支援に携わる支援者を対象に、「ひきこもりの理解促進と支援力の向上を促す研修会」を2017年から開催しています。
今年度は12月から2月にかけて、コロナ禍の影響もありZOOMを活用して研修会を実施しました。
今年度の受講者数は延べ400人近くにのぼり、アンケート結果もほとんどが「大変よかった」「よかった」と回答していて、非常に好評な様子がうかがえました。
「支援をしたい」という気持ちがあっても、支援者ひとりの力だけではどうしても行き詰ってしまうので、その気持ちを手助けするためのノウハウを研修でお届けしています。
ひきこもることは悪ではない!ひきこもりながら生きる選択肢も
ー最後に、読者にひと言メッセージをお願いします。
深谷:まず、ひきこもりは決して本人の甘えではありません。
そして親が甘やかしているせいでもありません。
むしろ社会的状況の歪みによる影響も非常に大きいということが、最近では明らかになってきています。
それこそ2018年度の国の内閣府による調査でも、40代以上のひきこもりのうち、9割は就労経験があり、そのうち7割は正社員雇用の経験があると発表されました。
残念ながら今の社会には、さまざまな生きづらさがあって、いつでも誰でも何かのきっかけで自ら引きこもらざるを得ないよう追い込まれてしまう社会なのです。
それを自己責任という言葉で片づけてほしくない、と私は考えております。
そもそも、ひきこもりは別に悪いことでもなんでもありません。むしろ、ひきこもりながら生きるという選択肢だってあります。
今の時代は、ひきこもりながらでも在宅でできる仕事だってたくさんあるんです。
たとえば、当会が発行している冊子のレイアウトや構成作成も、ひきこもりの方が担当しています。
つまり、ひきこもりの問題点は、ひきこもっていることそのものではないので、そこに着目するのではなく、たった今ひきこもることで生じている困りごとに着目してほしいのです。
ひきこもりを善悪という観点で見るのではなく、どんなことに不安を抱えて苦しんでいるのかを見立てて、安心感を促していっていただきたいと思います。
ひきこもっている本人が、家にいながらでも自分らしく生きていくにはどうしたらよいのでしょうか。
あるひきこもり経験者の言葉を借りると、“ひきこもりは、ガソリンが入っていない車のようなもの”。
ガソリンが入っていない車を無理やり動かそうとしても、動かないですよね。まずはガソリンを満たす必要があるんです。
ここでいう“ガソリンを満たす”ことは、生きる意欲を蓄えるということ。
そして、本人のガソリンを満たすためには、周囲の人間、ご家族が安心してガソリンを充たす環境を用意することが大切です。
そのためには、ご家族も同じように安心感に満たされていなくては始まりません。
ひきこもりの子どもを抱えて、「もうどうしたらよいのかわからない」と、自分やお子さんをつい責めてしまう日々が続いているのなら、まずはご家族がケアを受けて楽になることからはじめてほしいと思っています。
そのための居場所として、ぜひ「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」および各支部の家族会をぜひご利用いただきたいと思います。
ー本日は貴重なお話をありがとうございました。
■取材協力:KHJ全国ひきこもり家族会連合会