近年、楽しんで学べるコンテンツとして、教育系YouTuberの配信動画が人気を集めています。
今回は実験系YouTuberとして活躍する「GENKI LABO」の市岡 元気さんに、初級編の実験書から夢がかなった科学漫画まで、「科学や実験が大好きになった本」について寄稿していただきました。
はじめに
はじめまして。「サイエンスアーティスト」という肩書きで活動している市岡 元気(いちおか げんき)と申します。
私のメインの活動は「GENKI LABO」というYouTubeチャンネルで、毎週2本以上の実験動画を公開しています。
2022年2月現在の登録者は45万人超、総再生回数は1億9,000万回。とてもたくさんの方に実験に興味をもってもらい、試聴いただいております。
また、サイエンスアーティストというのは、王道の実験でのテレビ出演 (「天才てれびくん」など)にとどまりません。「科学×◯◯」という掛け算で、科学や実験を交えた活動を幅広く展開しています。
たとえば、皆さんが知っているテレビ番組ですと、「アメトーーク!」や「笑ってはいけないシリーズ」などで罰ゲームを科学と絡めて展開したり、「ポケモンの家あつまる?」や「沼にハマってきいてみた」などで、ゲームや漫画の世界の技や現象を科学の力で再現したりしています。
私がこのような活動をしている理由は、「たくさんの方に科学に興味をもってもらいたい」と思っているからです。
研究分野に進む方が増えれば、将来、日本の科学技術が発展し、日本が再成長するための礎(いしずえ)となるのではないかと考えています。
そんな私の目標は「科学の遊園地」をつくること。遊びに行ったら科学が好きになっていた―。そんな場所をいつかつくれるように頑張っていきたいですね。
私自身、科学を楽しみまくって今があります。今回はそのベースとなった「科学や実験が大好きになった本」4冊をご紹介したいと思います。
1冊目:実験好きになったきっかけの本『子どもにウケる科学手品77』
▲『子どもにウケる科学手品77』(著:後藤道夫、講談社)
まず1冊目は『子どもにウケる科学手品77』。小さいころに読んで実験してみて、実験や理科が好きになったきっかけの本です。
家にあるもので簡単にでき、そして手品のように自分でも驚く不思議な実験が77個も載っています。
実験をマスターすれば友達を驚かせることができますし、理科クラブなどの文化祭で見せる実験にはぴったりの本です。
私の「科学マジック本」好きはこれにとどまらず、小学校低学年のころからいろいろ読んで、そして実際に実験をして楽しんできました。
科学実験を勉強と思わず、おもちゃや遊びのような感覚で楽しんできたので、その後も理科に抵抗がなく、好きでのめり込んでいったのだと思います。
この本で学んだポイントは、どの実験にもやはりコツがあるということです。1回でできる実験もありますが、何度もやって失敗を繰り返し、どうやったらうまくいくのか考えて試行錯誤することがいちばんの面白さでした。
本書を読んだらぜひ挑戦してみて、実験の失敗と成功の面白さを感じてみてください。
2冊目:科学の道を進む人にとっての定番『ロウソクの科学』
▲『ロウソクの科学』(著:ファラデー、訳:三石巌、KADOKAWA/角川文庫)
2冊目は『ロウソクの科学』。科学の道を進んでいる人であれば皆、聞いたことがあるであろう定番の書です。
日本でも過去にノーベル賞を受賞した先生方から毎回話題が出るほど。たくさんの方が科学を好きになるきっかけになったという超有名な本です。
私も東京学芸大学教育学部の在学中に先生に薦められて読みましたが、当時は内容を完全に理解するには少しはやく、何度も読み返しました。
本棚を整理しようと気付いたときには、なぜか家に4冊もありました…。不思議と理科教育にたずさわる人の心を惹きつける本だと思います。
内容は、1860年にマイケル・ファラデーというイギリスの科学者がイギリスの王立研究所でおこなった、子どもたち向けのクリスマス・レクチャー(今でいうサイエンスライブ)の内容をまとめたものです。
ロウソクの炎は何が燃えているのか、なぜ明るく輝くのか―。たったひとつのロウソクに数えきれないほどの科学が詰まっていて、「科学的に考えることの面白さ」、そして「科学をわかりやすく伝えることの面白さ」を感じられます。
ロウソクと同じようにひとつの題材から科学についてたくさんの方に考えてもらう、サイエンスアーティストという道を目指したひとつのきっかけでもある本です。
今でも読み返したり、実験の題材にしたりしています。
3冊目:正直これは教えたくなかった…『ときめき化学実験』
科学は大きく「物化生地(ぶっかせいち)」と呼ばれる「物理」「化学」「生物」「地学」の4つの学問に分けられます。
「科学」と「化学」が同じ呼び名のため、「化学」のほうは「ばけがく」と呼んだりもしますね。
▲『ときめき化学実験』(林良重編、裳華房)
3冊目として紹介する『ときめき化学実験』は、「化学」のビジュアル的に魅力ある実験がたくさん詰め込まれた本です。
正直これは教えたくなかった本でもあるのですが…。まだきれいに映像化されていない実験が大量に載っており、YouTube動画のアイデアに困ったときに読むだけでネタがどんどん出てくる魔法の書です。
最初に紹介した『子どもにウケる科学手品77』が誰でもできる初級編の実験書だとしたら、この『ときめき化学実験』は中級編。
まったく知識がない人には難しかったり、危険を伴う薬品を使ったりすることもあるのですが、大学で化学を学んだ人であれば簡単に美しい実験ができる本です。
「化学実験って面白い! 楽しい!」と思える魅力的な1冊です。
残念ながら現在は品切れとのこと。興味のある方は図書館などで探してみてください。
4冊目:エンタメと教育が共存した最強の科学漫画『Dr.STONE』
▲『Dr.STONE』19巻((c)米スタジオ・Boichi/集英社)
最後に紹介するのは、漫画『Dr.STONE(ドクターストーン)』(著者:Boichi、原作:稲垣理一郎、集英社)。
繰り返し読んでいる本として紹介するのに「漫画」というジャンルはふさわしくないかとも思いましたが、よくよく考えてみると、小さいころ漫画やアニメに励まされ、勇気をもらい、その考え方が大人になった今の自分の一部になっているという方も多いと思います。
僕も小さいころに、アニメ『ドラゴンボールZ』のオープニング曲「WE GOTTA POWER」の歌詞のように、漫画やアニメでドキドキして、夢中になれるものを見つけ出し、今の仕事をしています。
漫画やアニメのなかにはエンタメと教育が共存した素晴らしい作品がいくつもあります。この『Dr.STONE』もそんな漫画のひとつ。
物語は全人類が石化して3700年後に、科学に詳しい主人公「千空(せんくう)」がひとり石化から復活し、何もない自然のなかから文明をつくり出していきます。
ブドウからエタノールをつくったり、石からガラスをつくったり、電気を発電したりというところから始まり、のちのち携帯電話やドローンをつくっていきます。
私たちの生活を取り巻くすべてのものが、地球の資源から科学の力で生み出されたものだとわかるストーリーです。
とはいえ「週刊少年ジャンプ」らしくエンタメやバトル要素も押さえ、勉強しているような感覚はなく、ワクワクしながら科学を知れる最強の科学漫画です。
私はこの漫画が好きで、YouTubeを本格的に始める前から読んでいました。独立して初めのころ、漫画で出てきた実験を実際にやってみたところ、漫画で書かれていたことが本当にできるということで、たくさんの視聴者が興味をもってくれました。
その後もほかの実験動画とともに、漫画の再現実験もしていたのですが、2021年1月発売の「週刊少年ジャンプ」に、なんと逆に私が『Dr.STONE』の科学監修をするという機会が訪れました。
『Dr.STONE』で科学監修をしているくられ先生から声をかけられ、作者の稲垣理一郎先生が私のラボへ来てくださり、私の実験が漫画で取り上げられたのです!
ジャンプ本誌と単行本の19巻にその実験を載せていただきました(19巻カバーの内側にはラボの写真も掲載)。
自分が好きだった漫画の科学監修をするという、ある意味、夢のようなことがかなった記念の作品でもあります。
おわりに
そのほか、科学に関係ない分野だと、ビジネス書や癒し系の本なども読んでいます。
幅広く読む理由としては、科学の深いところにハマってしまうと、科学や実験に興味ない方の気持ちがわからなくなってしまい、たくさんの方に科学の面白さが届かなくなってしまうと思うからです。
ですので、常に「広く浅く」さまざまなことにアンテナを張って、科学の目でものごとを見るようにしています。
そして活動を通して、皆さんに「科学だと思っていないところにも科学がある」と気付いてもらい、科学的な考え方を身に付けてもらいたいと思っています。
科学は物語のなかの魔法のように、私たちの生活をより豊かに便利にするもの。ぜひ興味をもって、今回紹介したような科学本に触れてもらえれば幸いです。
編集:はてな編集部