「母親だったら育児をするのは当たり前」と思われがちです。でも、母親だってひとりの人間。疲れきって休みたいときもありますよね。誰かに相談したり、誰かを頼ったりしたいこともあるでしょう。
今回は埼玉県さいたま市と上尾市を拠点に、子育て支援活動をおこなっているNPO法人「彩の子ネットワーク」代表の関 昌美さん(さいたま市子育て支援センター「みぬま」施設長)、共同代表の鈴木 玲子さん(上尾市つどいの広場「あそぼうよ」施設長)、「みぬま」スタッフの加勇田 久美子さん、「あそぼうよ」スタッフの山口 直さんにお話を伺いました。
子育て中の方、子育てや子育て支援に関心のある方は、ぜひご一読ください!
子どもたちの「自ら育っていく力」を知って欲しい
―本日はよろしくお願いいたします。まず、子育て支援センター「みぬま」についてお聞かせください。
関 昌美さん(以下、関):さいたま市では全10区それぞれに単独型の支援センターがあり、子育て支援センター「みぬま」は、見沼区の単独型の支援センターになります。さいたま市の委託を受け、NPO法人彩の子ネットワークが運営しています。
対象は主に0歳から3歳未満の子どもとその保護者の方。月曜日から日曜日まで開室しており、親子でおもちゃを使って遊んだり、手遊びや絵本などをスタッフと一緒に楽しんだりしながら交流しています。
子育てに関する相談を受けることもありますし、地域のいろいろな子育てに関する情報の提供もしています。
加勇田 久美子さん(以下、加勇田):毎月、さまざまなプログラムを開催しているのですが、そのなかに、月に1回開催している「空飛ぶ教室✈子育てセミナー『みぬまっく』」があります。子育て支援センターへの来室でも、ご自宅などからZoomでも参加ができます。
セミナーといっても一方的に講師が講義をするのではありません。
日々、子育て支援センターみぬまに遊びに来てくれている赤ちゃんや子どもたちの様子を見ていると、「今こんな表情をしているけれど、どんなことを思っているのかな?」と思う瞬間がたくさんあるんです。
そういった実際の事例を2つ、3つ挙げて、こんな様子がみられたけれど、どんな気持ちなのかなというところを一緒に考えています。
基本的に3か月ごとに大きなテーマをひとつ立てますが、テーマは子どもたちの様子を見て決めています。
子育てしていると、とくに子どもが小さいうちは、こうしてあげなきゃとか、これを教えなくてはなど、常に肩ひじを張っている状態です。
ところが、赤ちゃんや子どもはじつは「自ら育っていく力」や「自ら発信する力」をもっています。
子どもが、小さいころからそういった力をもっていることが実感できると、「子どもの育ちたを見ながら対応していけばいいんだな」「赤ちゃんや子どもたちとも、相談しながらやっていけばいいんだな」と、少し力を抜いて子育てができるでしょう。そうすることで、子どもも、よりのびのびと育っていけるのではないかと思います。
みんなで、子どもの「自ら育っていく力」を一緒に知っていくことができる、そんなセミナーになっています。
また、このセミナーでは、毎回事前に、子どもたちの写真を寄せていただいています。
“今のこの子らしいな”という写真、“これはどんなことを思っている表情なのか知りたいな”という写真、あるいは毎回テーマがあるので、そのテーマに添った写真などですね。
セミナーの後半には、その写真を大きく映して、みんなで見る時間をもちます。写真を撮った保護者の方と講師がやりとりをしながら、子どもたちの気持ちを知っていく時間は、その写真の親子だけではなく、ほかの親子にとってもいい時間になっています。
赤ちゃん・子どもたちの力を、セミナー出席者だけではなく、いろいろな方に広く知っていただきたいと思い、どなたでもアクセスできるブログ「空飛ぶ教室」に、セミナーの内容や、子どもたちの写真とセミナーでの講師と母親とのやりとりを掲載しているので、ぜひご覧ください。
なお、「空飛ぶ教室✈子育てセミナー『みぬまっく』」は、毎月第4火曜日に開催しているのですが、第2日曜日には、父親たちにも子育てを一緒に楽しんでもらえたらと「あそんでマナブパパサンデー ママもどうぞ♪みんなおいで♬」を開催しています。
大人も子どもも一緒に遊びながら、赤ちゃん・子どもたちのことを知っていけるプログラムです。
家にいるのとは違った子どもの姿を見ることができて嬉しい、とパパたちからの声をいただいています。
子育ての嬉しいことも大変なことも共有
―上尾市つどいの広場「あそぼうよ」についてお聞かせください。
鈴木 玲子さん(以下、鈴木):上尾市つどいの広場「あそぼうよ」は上尾市の補助を受け、彩の子ネットワークが運営しています。
「みぬま」と同じように、主に生後1か月くらいから3歳未満の子どもと保護者が来て交流したり、情報を得たり、相談ができたり、学んだりすることができる施設です。
子育てしている母親たちが、こんな場所がほしいと願い、実現させたのが、この「あそぼうよ」です。保護者の方たちが、子育ての嬉しいことも大変なことも、安心してそのまま話すことができる「子育てサロン」を毎月開いています。
「子育てサロン」は、参加される方と一緒に、3つの約束をしてから話し始めます。
1つ目は、ここで話したことはその方が大事に思っていることなので批判や助言は控えましょう。
2つ目は、話したい気持ちも話したくない気持ちもどちらも大切にしたいのでパスもOK。
3つ目は、ここで話したことは外には持ち出さない。
この3つを約束したうえで、みんなで自分たちの話を聴き合う時間を毎月1回もっています。
山口 直さん(以下、山口):今はコロナ禍ということもあって、他の人にまったく会っていないお母さんたちが本当に多くいます。
でも、みなさん人と会いたかったり、交流したかったり、赤ちゃんのことも他の人に会わせたりしたいんですよね。そういった気持ちをもっているのに、それがなかなか難しい…。
そういったなかで、この場所が赤ちゃんを連れてきてくれた母親たちにとって、「赤ちゃんが生まれてきてくれて本当によかった」と実感してもらえる場所になればと思っています。
毎月第2土曜日と月1回平日に開催している「べビべビとーく」は、赤ちゃんがお腹のなかにいるときから、そして生まれたばかりから、身体をつかっていっぱいおしゃべりしている、伝えてくれているので、今このときの子どもたちの状況を話してみることで、赤ちゃんのことがよくわかるようになると評判です。
こちらはオンラインでの参加も可能なので、ぜひ参加して、赤ちゃんが育っている姿を一緒に実感できたらと思います。
鈴木:赤ちゃんはまだ言葉にはなっていないかもしれませんが、仕草や表情から赤ちゃんの気持ちをキャッチできるといいなと、私たちもつきあってみています。
「あそぼうよ」は長年地域のなかで活動をおこなってきました。いろいろな人と繋がりがあるなかで運営してきましたので、地域の病院、大学、中学や高校など、さまざまな機関との繋がりでのプログラムもセミナーとして企画することもありますよ。
人との繋がりを感じられるイベント
―今後開催予定のイベントなどの告知があれば教えてください。
関:NPO法人彩の子ネットワークは発足から22年ほどになりますが、2000年から毎年1回、伊奈町の埼玉県県民活動総合センターで、「こども☆夢☆未来フェスティバル」を開催しています。
子育てをみんなで一緒に考えていこう、老若男女、国籍や障害のあるなしに関係なく、やりたいことを実現する日にしようと、地域の個人の方、団体の方、企業の方々が実行委員となり、協力してフェスティバルを開催していて、コロナ前には1万人ぐらいの来場者がある規模になっていたんですよ。
昨年は緊急事態宣言が延長されたなかでしたが、フェスティバルの灯を消さずに灯していこうという実行委員の方々の声が多く、「つながることを、あきらめない。」をテーマに掲げ、オンラインで開催することができました。
今年は、3月12日(土)と13日(日)にオンラインだけではなく、感染予防をしっかりとし、予約制で定員を設けるという形で会場とのハイブリッド開催を予定しています。
今年のテーマは「いま、あなたに会いたい ~したい!楽しい!をあきらめない」。コロナ禍になってから、人と会えない日々が続いています。私たちの施設でも、子どもたちや保護者の方が来てくださるということが本当に嬉しいことです。
「こども☆夢☆未来フェスティバル2022」では、みなさんの「会いたい」というお互いの気持ちを繋ぐことができたらと思っています。
それから、コロナ禍でいろいろなことを諦めてしまっている方も少なくないでしょう。大人も子どももこれがしたい、こうやったら楽しいんじゃないかということを諦めずにやろうよと呼びかけたいですね。
例年は「子どもゆめ基金」から助成をいただき、「わいがやハラドキ子どものまち」を開催し、子どもたちが、お店をひらいたり、ダンボール迷路、お化け屋敷などをつくっています。
みんな本当に生き生きと楽しそう。今年はオンラインでのクイズ大会や、会場でできれば巨大迷路を予定しています。どんなふうにできるか、一緒に考えていきたいと思っています。
鈴木:ほかにも、「おおきくなったね!×おおきくなってね!こども服交歓会」を3月13日の「子ども☆夢☆未来フェスティバル」のときにオンラインで開催する予定です。
子どもが成長して着られなくなった服を「子どもから子どもへ」渡していくプロジェクトです。市内の保育施設や小学校全校に呼び掛けて、子ども服を寄付してもらっています。
それを無料で「コウカン」できる場所を開催しているんです。
関:コウカンといっても物の交換ではなくて、みんなで喜び合うの「交歓」なので、もらって帰るだけでも大丈夫。
親が服を買うと、どうしても親が決定権を握ってしまうので、親の好みに合わないとなかなか買ってもらうことができません。
ところが、これは無料の交歓会なので、子どもたちが本当に着たいと思うものを選ぶことができるんですね。みんなすごく嬉しそうにしてくれています。
ボランティアの方の協力があってはじめて成り立つイベントです。本当に大勢の方にご協力いただいていますので、地域のなかで人が繋がっていくことにも役に立っているのかなと思いますね。
地域と関わって子育てする
―最後に読者の方へ向けてメッセージをお願いいたします。
関:彩の子ネットワークは、ひとりぼっちで子育てするのではなく、地域のなかでいろいろな人と繋がりながら子育てをしていきたいという母親たちの願いからはじまっています。
今も地域の方々と繋がりながら生きていきたいという気持ちは変わりません。そんな想いで活動している団体ですので、ぜひたくさんの方に繋がっていただき、一緒に子育てをしていきたいと思っています。
加勇田:センターにいらっしゃるお母さんたちに、ご自身の好きなことや得意なことを聞くことがあります。
そうすると、「私は〇〇をやっていました」とか、「本当はこれが好きですが、今はなかなか時間がなくて…」と答える方が多くいます。子育てをしていると、子どものことばかりで自分のことが後回しになってしまうんですよね。
でも、お母さん自身もひとりの人間。子育て中でもやりたいことができるよう、やりたいことが見つけられるよう、彩の子ネットワークは応援しています!
山口:私自身は出産をして「あそぼうよ」に通うなかで、子どもと関わってみたいという気持ちが芽生え、スタッフになり今があります。
自分の子育てが終わると、すべてが終わったように感じるかもしれませんが、そうではなくて、自分の子ども以外の子どもたちの成長もみんなで一緒に見守っていくことができたらいいなと思っています。
ぜひ彩の子ネットワークのホームページやブログも見ていただきたいです。
鈴木:生まれてきた子どもたち、大人たちも、一人ひとりが可能性いっぱいに成長することを願って、いろいろな活動をおこなっていますので、私たちの活動に触れていただけたら嬉しいです。
―本日は貴重なお話をありがとうございました。
取材協力:認定NPO法人 彩の子ネットワーク